崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

再び「船沈没事故」(東洋経済日報へ寄稿文2014,5,16)

2014年05月21日 05時12分41秒 | エッセイ
 先週韓国ソウル行きの飛行機はガラガラで、それもほぼ若い女性が目立ち、私の世代の人は私一人でその場にふさわしくない客になったようであった。日本最大のゴールデンウィークに韓国行きの客が少ないのはなぜだろう。日韓関係が如何に悪いか、あるいは不幸な船の沈没事故の国への観光を自粛し控えているのだろうか。
 私は科学研究費による現地調査と出版関係の仕事のための出張であった。出版社の社長らが迎えに来てくれて昼食をごちそうになった。メニューはもっとも庶民的な食事のチョングチャン(청국장)であり、「器より味」、最高の味であった。日本の納豆に似ているもので私の古里の味であった。値段は決して日本より安くはない。日本人にとっては買い物の魅力はなくなるだろう。
 翌日は雨の中を歩きながら『月刊朝鮮』の元編集局長の趙甲済氏を訪ねた。突然の電話連絡にも関わらず、快く時間を割いて下さった。昼食をご馳走になりながら、朴正煕研究家である彼とセマウル運動と日韓関係について談話した。彼は伊藤博文の孫にインタビューしたことや山口県萩の吉田松陰について幅広く知っており、やはり知名度の高い日本通の言論人であった。
 自然の景観が美しい国立劇場を初めて訪ねた。劇場にはほとんど人がおらず静かな公園のようであった。劇場でありながら公演などが一切中止になっている。船の沈没事故で、特に予定している劇は笑いと海の場面があって自粛せざるを得なかったという。韓国内が悲痛、危機感などが混合している。話題も「船の沈没事故」の話が多く、国を挙げて自粛反省しているということであった。その話の多くは主にテレビによる情報であり、日本側の情報は共有されていないようであった。遅すぎる救助活動が広く話題にされている。しかし日本から事故直後救助を申し入れたことは韓国ではあまり報道されず、一部韓国軍がアフリカで自衛隊(軍)から銃弾を借りたことや朝鮮出兵や日清戦争と植民地まで連想して自衛隊の脅威感を持たせる報道であったという。
 日本に帰国前黒田勝弘氏とホテルで会った。彼は有名な記者であり、論客、著述家であり、私とは数年間「東洋経済日報」の本欄に一緒にエッセーを連載しており、親しく話は広がった。朴裕河氏と和田春樹氏も同席した。当日は残念ながら私が先に仁川空港へ向かわなければならなかった。空港内のロビー街はそれほど変わっていないが客の質が変わった。以前は国際的マナーを守る紳士淑女の通りのようなところだったが今では田舎の市場化していく感がした。
 韓国は世界的に注目される先進国化している国であるが、大きい社会問題を露出してしまったのは残念である。船主の非道徳的な面が大きくクローズアップされているが、不正組織が支えてきたことは反省すべきであろう。先進国化には時間がかかるという警告でもあろう。悔い改めて社会改革が行われ、名実共に先進国化へ向かう良き機会としてほしい。





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