崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

『上海より上海へ』

2015年08月31日 05時04分27秒 | 旅行
 秋は「読書三昧」の季節、私の読書後の感想を一つを紹介する。三昧とは仏教で一心不乱、煩悩を捨て去って神秘的な境地に至る精神的な修養を意味する。私は麻生徹男(1910~1989)の『上海より上海へ──兵站病院の産婦人科医』(1993、福岡:石風社)を一単語も漏らさず読了した。読書というよりは麻生氏と長く神秘的霊的中国旅行をしてきたような気分であった。彼は九州帝国大学医学部卒の産婦人科専攻者として1937年11月陸軍衛生部見習士官として上海、南京、九江、漢口、武昌、上海へ移動しながら兵站病院などで勤務した。さらにラバウルへ、1946年4月に応召解除された。彼の生い立ち、学歴、キリスト教などを基礎にして戦場の軍医としての生き方が平易な文章で綴っている。
 この本が広く世界的に注目されるようになったのは何だろう。それは兵站病院で慰安婦たちを診療したこととその写真であろう。私もその資料として読み始めたが民間慰安所の貴重な写真の資料的価値を知ってからであった。しかし私はより他の面において強く魅了されたのである。慰安婦問題を韓国が政治的にしながら彼の戦線女人、慰安婦、慰安所、性病などは一気にメディアなどに注目されたことは十分解る。それらについて彼の次女の天児都氏は「父の資料を無断使用した人達に共通していることは、どの人も民族間の対立をあおるような使い方をしていたことである」と指摘した。彼らは本を読むというよりは物探し捜索的な資料の利用の仕方であったと思われる。私は別の意味で面白いと感じる。高校時代にルソーの『告白』を読んで感動した以来の初めての感動であった。