崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

「哭」

2015年04月16日 04時22分44秒 | 旅行
 芥川賞受賞作家李恢成氏が送ってくださった「哭」(1979)を読んだ。新潮文庫に収録された短編小説である。済州島の海女の娘の景南と結婚した「わたし」が生活したことを描いている。景南の母の元海女が亡くなり「大哭」の時

 兄嫁の哭き声は今は何はばからぬものになり、とうとう「アイゴォー。アイゴォー」という哭き女の堂々としたリズムにかわっていった。景南は顔を伏せたまま、何かをこらえていた。

 韓国の哭文化の変化を表す断面の短編小説である。作家の「わたし」は悲しさと哭の関係があるのか、問うのである。私の『哭きの文化人類学』『恨の人類学』のテーマであり自分の文を読むような気持ちになった。しかしこの小説は本が出るはるか前の1979年の作であり、彼の作家意識に驚かざるを得ない。
 韓国の大哭文化は今では地下に収まっていく。マンションなどで哭は自制するようになり、病院の葬儀場も地下階になっている。地下室で哭き放大になっている。悲しさは哭、涙、騒音、静かさなど多様である。レニングラードの墓にある大きい涙壺は悲しさの表現である。写真は10年ほど前私が撮ったものであり、二人の石像が涙壺を抱えている。印象深い。