なぎら健壱さんの文藝春秋2月号のエッセイを読んでいると、随所に自分を「あたし」と表現されている。だふん江戸弁らしき表現なのだろうと思われる。ぼくの母も自分のことを言う時には「あたし」と表現する。何か強く言いたい時には「あたしゃーね」と言う。母は東京生れではない。生っ粋の熊本人。熊本の風土とか習慣は東京に似ているところがある。盆は7月に行うし、食べ物の味つけも東京風に似たものがある。たぶん江戸時代から明治時代にあっての熊本は政治的にも繋がりがある土地柄があるからかなと思う。遠い昔の映画で『一心太助』シリーズがあって、中村錦之助さんがセリフで「あっし」と言っていた。『たいへん』というセリフことばを「てーへんだ」と言っていたのを真似て、子どものころ友だちと遊ぶ時「てーへんだ、てーへんだ」とふざけていたことを思い出す。情報過多の今、なぎらさんの語り調の個性あることば使いが、明るく直球で気持ちよく伝えてくれる。