木全賢のデザイン相談室

デザインコンサルタント木全賢(きまたけん)のブログ

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中小企業の「かっこいい物語」

2020年09月05日 | 生きのびるための中小企業デザイン
サイクロン掃除機( DC36)/ダイソン(イギリス)/2011年




◆中小企業の「かっこいい物語」
 【生きのびるための中小企業デザイン】


 こんにちは!中小企業のデザインコンサルタントの木全(キマタ)です。
 中小企業の方々に向けて工業デザインのエッセンスについてお知らせしています。

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 2014年から2年間、日経BP社サイト「小さな組織の未来学」で「生きのびるための中小企業デザイン」というコラムを担当していました。

 そのサイトは閉鎖されてしまいましたが、サイト編集の方と相談しながら考えた、中小企業の方々に役立つデザイン情報は今でも有効だと考えています。

 そのコラムの内容を、これからまた隔週で発信していきたいと思います。今回は「中小企業のかっこいい物語」です。




 前回まで、「デザイン思考」は「色・形」「物語」「技術力」の3要素で構成されるとお伝えしました。自社の「技術力」を注ぎ込んで「色・形」(=商品)にするというのはイメージしやすいかと思いますが、「物語」はピンとこないかもしれません。

 今回はダイソンの掃除機を例に、「物語」について考えてみようと思います。「物語」のポイントは「かっこよさ」です。



ダイソンの「かっこいい物語」

 ダイソン社の掃除機は他社の家電と違い、なんとなく凄い。

 「サイクロン方式」「紙パック不要」「吸引力の変わらない、ただ一つの掃除機」。ダイソンは1985年以来、常に同じコンセプトで商品開発に取り組んでいます。透明なゴミケースの傾き・車輪の軸方向・走行方向という三つの動きを、球と円筒と円錐の組合せでダイナミックに構成した形には、強い説得力があります。機能を形で表現する電動工具のデザイン手法です。

 掃除を面倒な作業と考える他社は「楽で簡単」をテーマに据え、掃除機から工具らしさを払拭してきました。それに対してダイソンは、掃除を積極的に楽しむDIY感覚で捉え、電動工具的な造形にしたのだと思います。透明なケースに貯まったゴミを見ながら「今日は頑張ったから、こんなにゴミがたまった」と考えるのは、いかにもDIY的です。

 つまり、ダイソンは「掃除を積極的に楽しむ」「吸引力が衰えないサイクロン方式」などのライフスタイルや性能という目に見えない「物語」を、目に見える「色・形」にして提示し、その「物語」を20年以上貫き通してきたのです。

 ダイソンは商品開発に取り組む姿勢がかっこいい。人で例えれば「生き方がかっこいい」のです。



かっこいい生き方

 「かっこいい生き方」と言っても、難しくはありません。メーカーの「かっこよさ」とは、信念を持ってものづくりにこだわり、それを気に入ったユーザーだけが買ってくれればよいと考える「潔さ」のことだと思います。

 「誰にでも売りたい」という八方美人の商品より、「私にはこれしかできないが、それを好きなあなたにだけ売りたい」という商品のほうが潔い。そして、潔いほうがユーザーの共感を得られます。重要な場面で潔い決断をする「物語」の主人公は、常にかっこいいのです。

 中小企業が「物語」を作るとき、初めにすることは「私にはこれしかできないが、それを好きなあなたにだけ売りたい」という「物語」を決めることです。



中小企業だからできる「私はこれが得意だ」という物語

 「フューチャリスト宣言」(ちくま新書・茂木健一郎、梅田望夫共著)の中に「これからの社会が求めているものはコミュニケーションと創造性だ」と書かれています。

 自分が何者で、何を伝えたいかを確立して発信しない限りコミュニケーションは始まらないし、未来への明るい希望がなければ創造性も生まれません。売り上げ向上を目指すことも重要ですが、それはユーザーには何の関係もありません。ユーザーが共感するのは、秘めた思いと未来への希望なのです。

 製造業が自社開発するとき、「私はこれが得意だ」というコミュニケーションの核になる思いと、その商品が作り出す明るい未来を提示できなければ、ユーザーの共感は得られません。

 実は、こうした潔い物語は中小企業だからこそできるものです。大企業は、様々なユーザーに対応するために様々な商品を製造し、販売しています。洗濯機も冷蔵庫もオーディオもパソコンも作っている大企業が、「私にはこれしかできない」とは言えません。「私はこれが得意だ」と宣伝してしまうと、他の分野は得意でないものを作っていることになってしまい、ユーザーにちぐはぐな印象を与えてしまいます。

 でも中小製造業なら、掃除機や扇風機しか作らないダイソンのように、「私にはこれしかできない」「私はこれが得意だ」と言い切ることができます。そして、そのように潔く宣言した時、中小企業の「かっこいい物語」が始まるのです。



 そう言われても、B2Bの下請受注もしていれば「これしかできない」とは宣言できないとお考えかもしれません。しかし、「私にはこれしかできない」というB2C自社開発と、B2B下請受注は両立できるのです。次回はそんなお話をしましょう。


著作のご紹介

 「デザインにひそむ<美しさ>の法則」(ソフトバンククリエイティブ新書)
 「売れる商品デザインの法則」(日本能率協会)
 「中小企業のデザイン戦略 」(PHPビジネス新書)
 「売れるデザインの発想法」(ソフトバンククリエイティブ新書)
 「マインドマップ デザイン思考の仕事術」(PHP新書)
 「デザイン家電は、なぜ『四角くて、モノトーン』なのか?」(エムディエヌコーポレーション)




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