高橋絵里「コンサート情報」

高橋の詳しいプロフィールなどHPはこちら http://www.eri-sop.net/

「歌とフォルテピアノのコンサート仙台公演評」

2006-03-24 | コンサート終了報告
18世紀のサロンに憩う

ソプラノとフォルテピアノによりコンサートで心地よい一夜を過ごした。
ソプラノの高橋絵里は仙台出身、宮城学院女子大学音楽科を卒業後オランダのアムステルダム音楽院の古楽科でルネサンス、バロック期を中心に声楽を学んだ。彼女の声は留学前から充実感があり安定感も抜群であったが留学を機にさらに輝きを増し、この夜の全ての歌を魅力的にしていた。そしてその歌をさらに引き立てたのが現在のピアノのルーツと言われているフォルテピアノ(ウィーン式)であった。18世紀の初めに登場しその名の通りそれまでのチェンバロにはできなかった音の強弱(フォルテとピアノ)のでる楽器としてヨーロッパに広まった。18世紀末にはより機能性に優れたイギリス式が登場し鍵盤楽器として多く用いられるようになった。この楽器は19世紀末に完成した現在のピアノに比べ、軽やかで音量も大きすぎず温かみのある響きで私たちを18世紀のサロンへと誘ってくれた。プログラムは、F.J.ハイドンの「人魚の歌」「おお素晴らしい声よ」「忠実な愛」で始まった。ビブラートをおさえた瑞々しい歌声は、乙女心の切ないほどの思いや喜びを表現していた。同じくハイドンの「同じようなもの」「人生は夢のごとく」で彼女は、まるで物語を語るかのように情緒豊かに私達に語りかけてくれた。モーツァルトの「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時」「別れの歌」で今度は、つややかで厚みのある声で恋人との別れのドラマを切々と歌い上げた。
 後半のモーツァルトの「暗く寂しい森で」「鳥たちよ、毎年」はフランス語の歌詞で歌われた。フランス語の明るい響きは、彼女の声をより華やかにし二曲目はフランス人と思われる人たちから「トレ・ビアン」の声が掛かる程であった。ゲーテの詩による「すみれ」は、乙女の清楚さが美しく歌われ「ラウラに寄せる夕べの想い」では、人生の最後を暗く沈んだ声で表現しようとしていた。この歌は何年か後に年輪を経た彼女の歌でまた聴いてみたいと思う。プログラムの最後で彼女は、愛する人への思いを素直に「クローエに寄せて」で告白し聴く者の心を幸せにしてくれた。この夜を支えたフォルテピアノは、岩村の明瞭なタッチとそのビルトーゾ(職人芸)によって常に生き生きとその真価を発揮していた。岩村は、モーツァルトの幻想曲ニ短調とC.P.E.バッハのロンドハ短調の好演でその音楽性の豊かさを十分に示していた。
 前途あるこの二人の演奏をまた聴いてみたいと思いつつ家路についた。
アカデミー学院長
佐藤佳樹

出典(仙台市市民文化事業団情報誌「アルセン」2006.1月号vol.31)
写真:大宮司勇 

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