▼一富士二鷹三茄子

 


 初夢に見て縁起のよいものをあげたとされる「一富士(いちふじ)二鷹(にたか)三茄子(さんなすび)」という言葉がある。
 昔読んだ本で、駿府に隠居するという家康が、引き止めようとした者に
「富士山は見えるし、鷹狩りはできるし、茄子がうまい駿河の国ほど良いところはない」
と言ったという話を読み、うまい茄子の産地が郷里静岡県清水の駒越だったと聞いて、悪い気がしなくて、それいらい一富士二鷹三茄子にかこつけて故郷自慢に持ち出したりする。江戸時代から油紙張り温室による茄子の促成栽培をして高値で売っていたらしく、同じく駒越名物の枝豆「駒豆ちゃん」と発想が良く似ている。




左から上富士バス停、神明町、動坂下。



 現在住んでいる文京区本駒込に駒込富士神社があり、江戸庶民の信仰を集めた都内有数の富士塚が現存することで名高い。その境内に、本駒込が一富士二鷹三茄子発祥の地だという解説板があり、富士は駒込のお富士さま、鷹は富士神社近くの鷹匠屋敷、茄子は当時名産だった駒込茄子のことだという。生まれ故郷静岡のお株をとられたわけだけれど、駒込もまた永年暮らして愛着のある土地なので、悪い気がしなくて、一富士二鷹三茄子にかこつけて我が町自慢に持ち出したりする。
 そもそも土地柄自慢に一富士二鷹三茄子を持ち出すのが間違いのような気もして、一富士(いちふじ)、二鷹(にたか)、三茄子(さんなすび)に続いてさらに、四扇(しおうぎ)、五煙草(ごたばこ)、六座頭(ろくざとう)と続け、富士と扇は末広がりの子孫繁栄商売繁盛、鷹と煙草の煙は空にのぼるので運気上昇、茄子と座頭は毛がないから怪我がないと、目出度いものを言い立てた言葉遊びというのが、いかにも初夢に相応しい正解のような気がする。




浅草寺境内にて。



 仕事で上富士前バス停からバスに乗って出かけようとしたらバスに乗り遅れ、健康のため不忍通りを根津まで歩いたら、動坂下の商店街に一富士二鷹三茄子の発祥の地が動坂であると書かれた旗飾りがたなびいていてびっくりした。一富士二鷹三茄子を土地柄自慢になど持ち出すものじゃない、などと思いつつ思わずムッとしている自分が可笑しい。

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