【いとこいろいろ】

【いとこいろいろ】
 
 

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2005 年 9 月 24 日の日記再掲

母は 10 人以上も兄弟姉妹のいる人だったのでその子どもたちである「いとこ」まで出席する冠婚葬祭はたいそう賑やかだった。

母が他界し、兄弟姉妹も 6 人を残すだけになってちょっと寂しい。それでもちょっとだけ寂しさの慰めになるのは、「いとこ」の子どもたちが成人して冠婚葬祭の席に現れるようになったことである。

「ねぇ、いとこの子どもって僕たちから見て何と呼ぶんだっけ」
と従姉(じゅうし)に聞いたら
「いとこの子どもは【はとこ】だよ」
と言い、それは違うのだけれど年上の女性が言うことなので一応聞き流す。

【はとこ】というのは【またいとこ】のことであり親同士がいとこである子ども同士の関係のことであって【いやいとこ】とか【ふたいとこ】とも言う。東北地方で言う【はいとこ(再従兄弟)】がつづまったものかもしれない。

僕のいとこの子どものことは【いとこちがい】と言う。【いとこちがい】は僕からいとこの子どもを見る場合も、いとこの子どもから僕を見る場合にも用い、なんとなくわかったようでわからない言葉である。

もっとしっくり来る言葉がないかと広辞苑を引いたら、【いとこおじ・いとこおば】という言葉があって、父母のいとこのことをそう呼ぶとある。いとこの子どもにとって僕は【いとこおじ】であり、ということは僕のいとこの子どもは僕から見たら【いとこおい・いとこめい】であり、これは広辞苑に載っていないがなかなかしっくり来るように思える。

いとこの子どもたちは僕のことを「おじさん」と呼ぶのであり、厳密には【おじ】ではないけれど【おい・めい】からそう呼ばれたように嬉しいので、いとこの子どもたちを【いとこおい・いとこめい】と呼ぶことに決めた。

写真上:おしばさん(小芝八幡社)境内で話しをする人々。わけもなくこういう光景が好き。


写真下:法事を終えて帰って行く伯母たち。静鉄入江岡駅にて。母がいなってみると「伯母」が「母によく似た女性」という見方に変わってきたのが不思議だ。

Data:RICOH Caplio R1 

母の葬儀に来てくれた【はとこ】同士を見ていたら「(あの子たちの子ども同士は何と呼ぶのだろう、呼び名がなくなった頃には親戚関係も希薄になって忘れ去られていくんだろうな)」と思ったりする。

【いとこ】で広辞苑を引くと【いとこおおおじ・いとこおおおば】などという呼び名もあって祖父母のいとこのことである。祖母のいとこに接する機会が多かったのでこれはピンと来る。祖母の従妹(じゅうまい)や従弟(じゅうてい)はとても祖母に似ていた。祖母の旧姓は【松井】であり、野球選手の松井秀喜に骨格も容貌もひどく似ていたので、松井秀喜が年老いたらきっと【いとこおおおじ】そっくりになるだろうな、と思う。

さらに広辞苑を引くと【さしわたしのいとこ(差渡しの従兄弟)】とか【かけむかいのいとこ(掛向の従兄弟)】などという言葉があり、それは直接血の繋がりのあるいとこに限定した呼び名である。濃い関係の世界ではそういうことにも厳密なのだろう。

【いとこ】というのは微妙な関係なので言葉のいとこたちも面白い。
広辞苑によれば、埼玉地方では母方のいとこを【むぎのいとこ】、父方のいとこを【こめのいとこ】と呼んだという。なんとなくわかる気がする。

そういえば祖母から【みいとこ(三従兄弟)】という言葉を聞いたことがあるような気がし、兄弟姉妹の子ども同士が【いとこ】、その子ども同士が【はとこ】であり、その子ども同士(兄弟姉妹の曾孫同士)を【そのまたいとこ(其の又従兄弟)=みいとこ(三従兄弟)】と呼ぶのだそうだ。広辞苑には「(三河地方でいう)」とただし書きがあるので、叔父がいう「うちの先祖は三河の瓦職人」という説は正しいのかもしれない。

【とこぶし】

向田邦子の作品に、卓袱台上の皿にのせられたメザシを兄弟姉妹枕を並べて討ち死にの光景と見る話しが出てきたと思うけれど、そういう見方をする人間が清水にいると「生ジラス」や「ゆでジラス」、「生サクラエビ」や「ゆでサクラエビ」などは食べられないし、サクラエビのかき揚げなんて凄惨をきわめた災害現場のようであり、魚のすり身なんて猟奇事件そのものである。

写真:清水巴町『新生丸』にて。
DATA:Panasonic LUMIX DMC-FX8

だから清水っ子はそういうことを考えないことにするのだが、
「とこぶしのバター焼きをちょうだい」
と言って二つ並んで出て来たりすると、「(このふたつのトコブシはどういう間柄なのだろう)」としみじみ見入ってしまう。岩棚の隙間に貼り付いている姿が床に伏しているようなので【床伏】と書く、などと聞くともっと切ない。切ないなぁ……などと思いながら食べるとグッと酒が弾んだりするのが人間の業の深さである。

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