◉丸子ととろろ汁

2018年5月18日
僕の寄り道――◉丸子ととろろ汁

朝日新聞の朝刊を読んでいたら丸子の丁子屋が写真入りで記事になっており、あの歴史的ランドマークとも言える茅葺き屋根がこの春葺き替えられたという。葺き替えというのはかなりの費用がかかるもので、クラウド・ファンディングにより 404 名から 1,122 万円が集まったという。インターネット時代ならでは、さもありなんと思える話題だけれど、意外だったのは、その茅葺き屋根は先代が 1970 年に古民家を移築したものだという。

他地域からの客を静岡に迎えると、昼食は東海道丸子宿の名物とろろ汁をご馳走したりする。丁子屋の前で茅葺き屋根を指さしながら、
「これが有名な広重の版画に描かれたあの茅葺き屋根です」
などと得意げに説明したものだが、戦国末期と伝えられる創業当時のまま茅葺き屋根が残っているわけではない。さらにとろろ汁店は何軒もあるので、広重が描いたとろろ汁の店が丁子屋である確証もないわけだけれど、やはり広重の版画を思い浮かべて丁子屋の前に立つと、「(ああ間違いなくここだ)」と思ってしまうのは面白い現象である。

とろろ汁の店は何軒もあって、味の好みで言えば好き好きは人によって違う。1970 年といえば東名高速道路全線開通の翌年であり、徒歩でも乗合バスでも行ける場所であるとはいえ、やはり丸子宿とろろ汁の丁子屋がここまで人気店になったのはモータリゼーションの時代になったからである。そういう意味で茅葺民家の移築をした先代は先見の明があったのだろう。

歴史の風情がある〇〇〇が好き、味が良いのは〇〇〇がいちばん、などと郷里の友人たちはとろろ汁店にうるさいけれど、そのうちのひとりが言う
「いつも駐車場が観光バスやマイカーでいっぱい、予約満席で入れないことの多い店より、たいがい空いてて座れる〇〇〇が好き。味もぜんぜん変わらないよ」
と言う意見に同意している。すい臓がんになって食欲がなくなり、とろろ汁なら食べられると言う痩せ衰えた母を連れて行ったのが丸子に行った最後で 13 年前になる。その時もゆったり座れる〇〇〇だった。人生にはそういう旅の途中のニーズもある。(2018/05/18)


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