【冬木立】

【冬木立】

最近は夜更かししないので今でもそうかは知らないけれど、かつて東京の民放では深夜になると『箱根彫刻の森美術館』の宣伝が頻繁に流されていた。
「……とヘンリー・ムーアが深い箱根の森で語り合う」
という言葉が印象的であり、ふと、急に思い出したら気になって仕方なく、家内に
「ねえ、箱根の森でヘンリー・ムーアと語り合ってるのは誰だっけ?」
と聞いてみた。
「ロダンじゃないの?」
「ロダンとヘンリー・ムーアが語り合ったら面白い?」
「うーん、誰だっけ、ジャコメッティ?」
「ジャコメッティとヘンリー・ムーアが深い箱根の森で語り合う……違うなぁ」
 
ジャコメッティ( Alberto Giacometti )は 1901 年生まれであり、若い頃キュビスムとシュールレアリスムの洗礼を受けている。キュビズムで思い出した、箱根の深い森でヘンリー・ムーアと語り合っているのはピカソだった。
「そうだそうだ、『ピカソとヘンリー・ムーアが深い箱根の森で語り合う』だった」
と思い出したら宿便が体外に出たように気持ちがいい。

ヘンリー・ムーア( Henry Moore )は 1898 年生まれであり、1881 年生まれのピカソ( Pablo Ruiz Picasso )より 17 歳も年下であり、よく知らないけれど彼もまたピカソの影響を受けていたらしい。

冬空の台紙と冷気の透明フィルムに挟んでとめられた切り紙細工のように、木々の陰影が美しい。
自然の造形の美しさほど人の胸を打つものはない。

ヘンリー・ムーアの業績をあえて語れば、彼は記念像や装飾物から、そして自然の模倣から彫刻を解放したのだということになっている。

深い箱根の森で語り合うピカソとヘンリー・ムーアからも、美しい日本の冬木立が見えているだろうか。そして広大な敷地に並べられた互いの作品を眺めながら、冬空の下でどんな話しをしているのだろうか。

ヘンリー・ムーアにこんな言葉がある。
「太陽を浴び、雨に打たれ、雲の移り行きを感じるとき……彫刻は自然の営みと共にある」

写真:ピカソとヘンリー・ムーアに見せたい六義園の冬木立。
[Data:MINOLTA DiMAGE F100]

(閉鎖した電脳六義園通信所 2003 年 12 月 26 日、18 年前の今日の日記に加筆のうえ再掲載。)

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