朝のパラグラフ

朝のパラグラフ

小さなコンピュータの小さなアプリは、物質としての実態がない小さな文房具である。文章を手書きした時代の筆墨紙硯(ひつぼくしけん)が、コンピュータの時代では、あれこれ好みに合わせて使われるアプリの集合ということになる。

自分に合った文房具が勉強の助けとなったように、自分に合ったアプリと出会うことによる学びが、大人になった今でもある。文房具も小さなアプリも、使うことで使い手が変わり得る道具であり、その道具を使うこと自体を喜びと感じる時、道具は使い手に対するアフォーダンスを持つという。

iOS 用の小さなアプリ LessMemo がとても気に入っている。新しいメモを作って文章を入力し、書き終えて閉じると一つのカードのように表示される。それを繰り返すとたくさんのカードが増えて行き、そのカードの集合が、自分が書きたかったことの全体像となる。

カードには書き始めと書き終わりがある。書き始めには書こうと思うことの概要があり、書き終わりには書いたことによる結果があり、その始めと終わりに経過としての説明がある。そういう構造で書かれたカードをパラグラフと言い、日本語で言い換えればカードの一つひとつが意味段落になっている。意味段落を連ねて書くことをパラグラフライティングという。

パラグラフライティングという言葉を聞いたことはあったけれど、それがどういう構造をしていて、それのどこが優れているのかを、実はこの小さな文房具を使うことで、初めて理解できたように思う。書いているうちに貯まっていくカードを見ていると、自分が言いたいことの整理に役立ち、そうか、こういうことだったのかと、文房具に教えられる格好になっている。

夜中に目が覚めて布団の中で書く日記は、この LessMemo を使っている。痒いところに手が届かない潔さが売り物のアプリなので、並び替えも連結書き出しもできない。だがバラバラのカードのどれを読んでも一応意味が通るようになっていればこそのパラグラフライティングなので、十分に用は足りていると思う。

カードを眺めながら気になる箇所に手を入れ、これで良しと思ったところで一枚ずつコピーし、エディタにペーストして段落間一行あきの文章にする。それを Dropbox というネット上の置き場所に保存すると小さな iPhone や iPod Touch での作業はおしまい。夜が明けたらそれをパソコンの大きな画面で表示し、全体が見渡せる大きな視点で校正し、ブログにアップしたところで、電子文房具を講師にお迎えして開かれる朝の綴り方教室が終了する。

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