【別れられない理由】

【別れられない理由】

静岡県清水市で 34 年間もの間、母はちいさな飲み屋を営んでいた。長いこと飲み屋の母さんとしてカウンターの中に立って客と接していると、客の深い事情に立ち入って相談相手にならなければならないことも多く、そもそもそういう世話焼きが好きな人だったように思う。
 
そんな母は何でも捨てずにとっておく人だった。
実家の片付けをしていると相談に乗った客たちから届いた手紙が出てきて、それは意外にも達筆で、巻紙に切々と身の上相談が綴られていたりする。

相談に乗った客の話を息子に聞かせることが多く、手紙を見ただけで「(ああ、あの人のあの件か)」とおおよその事情もわかり、そんな手紙が残っていると知ったら書いた本人は死んでしまいたいほど嫌に違いないので、人目に触れないよう小袋に入れてから静岡市推奨ゴミ袋に入れて捨てている。


DATA:OLYMPUS C755UZ

「あんな男と一緒にいたら苦労するだけだ、そんなに辛いならこれを機会に別れちゃいな」
そう言って癖の悪い男と別れさせた女性が何年振りかで店に立ち寄り、別れたはずの男と復縁してまた同じ苦労をしていると知り、
「あれほど辛い思いをさせられた男とまたくっついておなじ苦労をしてる。バカだね。でもああいうのが好きなんだからしょうがない、結局苦労したいってことだ……」
と溜息混じりに苦笑いしていた。

典型的な共依存であり、母は共依存を知らなかった。港まちには共依存の男女が多かったのかもしれない。

( 2009 年 3 月に閉鎖した電脳六義園通信所 2004 年 6 月 26 日、18 年前の日記に加筆のうえ再掲載。)

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