雑記帳

日常の出来事や、読んだ本のあらすじや感想など書いています。

人生教習所

2012-04-13 20:01:58 | 
垣根 涼介
中央公論新社
発売日:2011-09-30

垣根涼介著"人生教習所"を読みました。
垣根さんの本はハードボイルドなものが多いです。
この本はまったく違います。
小笠原で開校して途中の試験に合格して最期まで残った
人には就職を斡旋してくれるという塾の募集がありました。
12日間で50万円です。

朝川太郎19歳。東大生です。
今は大学へ行きたくなく引きこもり中です。
親に勧められて参加しました。

柏木真一38歳。元やくざです。
会社を任せられていましたがやくざの世界が嫌になって
逐電しました。
ブラジルで1年過ごした後日本へ帰ってきました。
普通の生活をしたいと思っています。

森川由香29歳。フリーライターです。
太っていて自分に自信がありません。
仕事も先細りです。

竹崎貞徳 6?歳。元大手バイクメーカー勤務。
外国で工場長を勤めたこともある定年退職者です。

26時間かけて船は父島を目指します。
父島では講義があります。
最初は"確率"です。
成功する確率をあげるためにはどうするかです。
講義後はレポートを提出します。
次は人生の着地点を何に置くかです。
次は認知、自意識です。
この間に島内めぐりがあります。
自由時間には散策もできます。
この後中間試験で残る人と、帰る人と振り分けられます。

上の4人は残りました。
徐々に打ち解けていきます。
柏木は新聞や本をよく読んでおり世情には明るいです。
竹崎は人懐こくて誰にでも気軽に言葉をかけています。
太郎は理解力があります。
竹崎はどこかで見たことあるひとだなあと思っていました。
"ゆりかごで眠れ"に登場した人でした。
彼はお金はあるし講義を受けて人間を改造する必要が
ある人ではありません。
たぶん興味本位での参加でしょう。

この後母島へ移動します。
4人は同じグループになります。
最初のうちは柏木が由香を嫌っています。
母島での講義は地元民が小笠原の歴史について自分の
経験、人生を踏まえて語ります。
何人もの人が話してくれます。
小笠原が60年代に返還されるまでアメリカ的な生活が
営まれていた島だったなんて知りませんでした。
とても住みやすく楽しい島だったようです。
返還時には島民は日本かアメリカを選ぶことができた
そうです。
それまで英語で話し英語の教育を受けていたのが
まったく違う教育方法で学校がはじまりとても苦労
したようです。
楽しみはなくなり収入は低下しかなりつらい生活
になってしまったそうです。
現在島には臨時島民といわれる住民票を移さないで
しばらく住み着く人がかなりいます。
島や海に魅せられた人たちです。
この人たちは流動的です。

イルカと泳いだりフォエールウォチングをしたりと
講義の間には楽しみも含まれています。
同じグループの4人はしだいに仲良くなっていきます。

仕事を求めている人、何かを見出したい人たちが
すごした小笠原での生活を書いた本です。
4人の人物像がはっきりしていて読んでいて段々
彼らがわかってきます。
この講習内容で人生ががらっと変ることはありえない
と思います。
でもなにかのきっかけはつかめるかもしれません。
50万円は高いと思いますが今はちょっと何かを
始めようとすればこのぐらいは出さなくてはいけない
のでしょう。
お金がある人はなんでもやってみればいいのです。
お金がなくて、でもせっぱつまっている人はこういう
塾に行くこともができません。

読んでいて楽しいです。
登場人物も好きです。
でもなんか物足りない気分にもさせられます。
柏木、由香は就職を斡旋してもらい働き始めます。
真一は沖縄でアルバイト生活を始めます。
次の年は大学に戻るつもりです。
竹崎は海外で暮していました。

受講者と開催側の交流がほとんどありません。
志があってこういうことをしているのだからもっと
深く交流するのかと思いました。