泰西古典絵画紀行

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マノアの燔祭 旧約聖書 士師記13章

2012-08-13 10:32:29 | バロック期迄の絵画


レンブラント派(ヘリット・ホルスト?) 1630年代末  板 71×55cm
 この物語は,旧約聖書「士師記」13章にある.カナンの地を奪回後も,執拗なペリシテ人たちとの戦いは続いていた.そこにあって,マノアという男の妻は子に恵まれず年老いていた.ある日,主の使いが彼女の夢に現れて,彼女がみごもること,生まれる子は特別な存在で,その頭にかみそりを入れてはならぬ(髪を切ってはいけない)ことを告げる.これを聞いたマノアは自身で神の奇跡を確かめたいと,使いの再度の来訪を祈り,これは神に聞き届けられる.マノアは現れた使いに名を尋ね,これを饗応しようとするが,使いの男はこれを断り,かわりに子山羊と穀物を神にささげるよう命じる.そして名を告げる代わりに,男は祭壇から立ち上る煙の中で天に昇り去るという奇跡を見せた.そののち生まれた男子が,剛力の英雄サムソンである.



レンブラント(派?)「マノアの燔祭」(画布242x283cm;1641年?;ドレスデン絵画館蔵)

 この主題作品でレンブラント作とされていたのはドレスデン絵画館の名品であるが,これについては以前からも弟子の作品ではないかという意見があり,古参のSumowskiや故Gersonらはヤン・フィクトルスの作としており,近年ヴィレム・ドロスト作とする説も挙がったが,近年のレンブラント派研究の最先鋒であるJ.Bikkerは自著のドロストに関するモノグラフでこれを否定している.小生も老夫妻の顔立ちにおける細やかな表現はフィクトルスを連想させると思う.


 この主題は,レンブラント派がよく取り上げており,師であるピーテル・ラストマンの作品はその後のプロトタイプとなり,レンブラントの弟子の中ではとくにホーファールト・フリンクが反復して描いている.これは同時代のほかのオランダの画家も比較的よく取れ上げたテーマで,信仰に対するその教訓性が好まれたのではないかと考えられる.ここではハーレム派のデ・ブライの作品を提示する.


サロモン・デ・ブライ 1661年?  板 82×128cm
 ここで描かれているマノアの妻は高齢には見えないし,マノアは好々爺,天使は切れ長の目をした青年として描かれるが,それぞれのポースは劇中の一場面のようであり,とくに宙に向かう天使は神の言葉を残してまさに向きを変えようとする姿勢である.その指差すところは神への信仰であろうか.マノアやその妻の姿勢を通じて,驚き・畏怖と崇拝のいずれをより表現するかで,バリエーションがあることも興味深い.


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