かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 315

2016年07月08日 | 短歌一首鑑賞

 渡辺松男研究38(2016年5月)
    【虚空のズボン】『寒気氾濫』(1997年)128頁
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、Y・N、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:石井 彩子
     司会と記録:鹿取 未放

315 乾燥機キコキコと鳴りおおきなるわれのパンツは回りているも

     (レポート)
 男物の大きなパンツが生き物のように、のたうち乾燥機の中で回っている。キコキコという音は物理的には乾燥機の軋む音かもしれないが、まるで回っているパンツが声をあげたかのようだ。「も」という詠嘆の終助詞は効果的で、一首がペーソスを交えたユーモラスな歌として仕上がっている。解釈は以上だが、渡辺氏のことばは、そのような現実の有り様とは異なった現存在の深いところから下りてきているように思える。この連作ではワイシャツ、ズボンがこころを表象するモノとして詠われていたが、それらのモノは作者から遊離した抜け殻ではなく、いわば作者のこころが形象化されたもので、あらゆる場所に偏在する作者自身でもあった。とすると、キコキコというつましい音は、生の根源から聞こえてくるなにか哀愁を帯びた声のようにも思える。(石井)


     (後日意見)
 「キコキコというつましい音は、生の根源から聞こえてくるなにか哀愁を帯びた声のようにも思える」とレポートにあるが、〈われ〉のいじらしい声なのだろう。(鹿取)