かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 247

2015年08月30日 | 短歌一首鑑賞

 渡辺松男研究30(2015年8月)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)104頁
                参加者:石井彩子、M・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
                レポーター:石井 彩子
                司会と記録:鹿取 未放

247 水平線一本あれば慄然と線の向こうに日は落ちてゆく

       (レポート)
かなたには筆で描いたようなまっすぐな水平線が伸びて、その向こうに太陽が沈むさまは、戦慄を覚えるほどである。水平線を一本という数詞を用いて、自然現象の在り方を日常とは違った視点で描写している。(石井)


       (当日意見)
★私はこの上句に驚きました。すごいと思います。(慧子)
★レポートにある通り「水平線一本」って特異な言い方ですし、日常の落日風景を詠
 みたいのではないですよね。向こう側というものに作者はとても興味があって、向こ
 う側の歌をいろんなバリエーションで詠っています。いろいろ「向こう」について考え
 ている人なんだけど、その「向こう」が「補陀落(ふだらく)」だったり冥界だったり
 するのと違う「向こう」なんですね。(鹿取)


       (後日意見)
 「向こう側」の歌のバリエーション。

  真空へそよろそよろと切られたるひかりの髪は落ちてゆくなり
                    『寒気氾濫』
  法師蝉づくづくと気が遠くなり いやだわ 天の深みへ落ちる
         ※歌集で「蝉」の字は、旧字体。

  伸びるだけわが影伸びてゆきたれば頭が夕の屋上より落つ
                   『泡宇宙の蛙』
  崖上の冬木の影がさかしまに崖下の家へ届こうとする

くしゃみをすればまっしぐらに飛びてゆくものあり一休禅師はいま月の裏
                   『歩く仏像』
友が空へ落ちてしまいてその深き青を見あげて靴履くわれは