8月26日(金)22時~
相居飛車の一戦。
互いに角道を止め相矢倉・・と思いきや、
独特の感覚を必要とされる駒組みに進めます。
中盤のねじり合い、先手の鋭い攻めに注目です。
先手 あしひきのやまさん
後手 たくぞーさん
▲76歩△34歩▲26歩△44歩▲48銀△42銀▲56歩
△62銀▲68銀△84歩▲78金△32金(図)
▲69玉△64歩▲58金△63銀▲77銀
△43銀▲25歩△33角▲79角△74歩▲66歩(図)
先手は自然に矢倉を目指します。
対する後手、△63銀・△43銀と配置、
力戦の雰囲気を漂わせています。
この後の進行で、後手の作戦が明かされます。
△52金▲67金右△73桂▲68角△94歩
▲96歩△62玉▲79玉△81飛(図)
後手の作戦は「右玉」。
通常では角交換のちで用いられる作戦ですが、
矢倉と見せかけてこのように構えるのも
プロアマ問わず愛用されています。
ここで先手がやってはいけないのが
▲88玉(図)と入城する一手。
矢倉の完成形ですが、右玉には相性最悪。
というのも、ここから
△85桂~△54銀左~△45歩(図)
このような攻撃態勢を築かれてしまいます。
本譜はそれを踏まえた上で、
右玉に耐性の強い囲いに進展させます。
▲88銀(図)
目指すは、▲77桂~▲89玉の
「菊水矢倉」。
65の地点を桂馬でカバーし
仕掛けづらくさせるとともに、
深く囲えることで終盤戦で大いに活きる。
余談ですが、私も対右玉にはこれを用いています。
しばらくはお互いに動きづらい局面。
当面、駒組みの進展やけん制が続きます。
△72玉▲86歩(図)
△45歩▲77桂△54銀左▲57銀△62金▲89玉(図)
△14歩▲16歩△42金(図)
右玉において、「1筋の端」は大きな価値がある。
というのも、将来的な△13角の反撃、
△15歩から歩を入手し6筋方面で活用できるなど、
戦線拡大につながる心強い味方なのです。
一方先手は、本来の目標通りに囲いを組み換え
満足な展開だが、現在は角が守備的な位置。
攻防ともに利きの強い地点に移動させます。
▲36歩△52金左▲59角△42金▲37角
△52金左▲87銀△41飛(図)
対する後手も飛車を最大限に活用させるべく
△41飛、4筋の開戦に備えます。
後手番なので、仮にも千日手になるのは成功。
一方先手はさらに囲いの強度を高め、じっと待機。
互いに本格的な開戦に備えています。
▲68銀△43銀▲79銀△54歩▲26角
△44銀▲88玉△53銀▲37角(図)
△81飛▲89玉△44銀▲26角△53銀
▲48飛△41飛▲68銀△22角(図)
▲57銀△44銀▲98玉△31飛(図)
手数にして75手目。
長い駒組み・けん制を経て、いよいよ開戦。
先手によって戦いの火ぶたが切って落とされます!
▲46歩(図)
ここで△同歩は先手の勢いがついてしまう。
△41飛(図)
▲37桂△33桂(図)
ここから五手一組で先手が技をかけます。
▲45歩△同桂▲同桂△同銀▲44桂(図)
4筋の歩を切り、最後の▲44桂が好手。
どう応じても金・銀のいずれかを
桂馬を犠牲に獲得することができます。
この仕掛けがあるならば、
先手に▲46歩と突かれる前の段階で
△31飛ではなく△41飛と構えるべきだったか。
機敏に動いた先手が攻勢に立ちました。
後手は辛抱の展開が続きます。
△44同角▲45飛△43歩▲37角△53角(図)
▲49飛△44歩▲29飛△21飛▲46銀(図)
いったんは駒得を果たした先手ですが、
後手の大崩れしない慎重な指し回しにより
互角に引き戻されつつあります。
次の一手が先手の迷いを誘います。
△45桂▲28角△25歩(図)
このタイミングの△45桂が好手。
▲59角と引くのは将来性に欠けるので
▲28角と引きますが、△25歩と圧力をかけます。
しかし、最後の△25歩の瞬間、自陣に
スキが生じていました。
▲55歩(図)
角頭めがける▲55歩が厳しい一手。
一見は△同歩~△54歩で追い返せますが・・
△55同歩▲54歩△同銀▲55銀△同銀▲54歩(図)
取れる銀を後回しにして、拠点をつくる
▲54歩が好手。これにより
▲55角の直後に追い返されるのを防いでいる。
図まで進むと、いかに▲55歩と突いた効果の
大きさがうかがえます。
もどって、先ほど
ここで、△45桂▲28角に△25歩ではなく
△43桂(図)
桂馬をすべて手放すのでもったいないですが、
これならば本譜の仕掛けを防ぐとともに、
次に確実に△25歩~△26歩を狙えます。
一旦受けるのならば有力な一手です。
本譜に戻します。
△42角▲55角△63銀(図)
4筋に角の進出を許す代わりに、
▲65歩を防ぐべく6筋を徹底的に守ります。
先手はここで収まるわけにはいかない。
なおも厳しく迫り、いよいよ終盤戦に突入します。
▲44角△43歩▲62角成△同玉▲32金(図)
△81飛▲42金△同金▲25飛△52歩
▲22飛成△32金打(図)
△52歩~△32金打が、自陣の被害を
最小限にとどめる辛抱強い一手。
ここで▲82銀もありますが、
△同飛▲11竜△41桂と防ぎ、
△44角の応援もあるので容易ではない。
一旦は引き下がり、後手の出方をうかがいます。
▲25竜(図)
長期に渡って先手のターンが続いていましたが、
ここでようやく後手の手番。
満を持して先手陣にアヤをつけます。
△85歩▲同桂△同桂▲45竜(図)
△33桂(図)
手順を駆使して先手陣に迫り、竜に
働きかけますが、△33桂が
次の先手の踏み込みを与えてしまいます。
▲85竜(図)
桂馬を奪いながら飛車交換を迫る▲85竜が
強手。陣形の差、駒の損得を考えると
ここで飛車交換に応じる事が難しい。
もどって、先ほど
△95歩(図)
このタイミングで端を突くのはどうか。
本譜と同じく▲85竜には△84歩と追い返し、
つぎに△96歩と取り込めると良し。
問題は▲95同歩ですが、
△69角や△96歩のたらしなど、
端を活用した反撃が可能になります。
本譜に戻ります。
△84歩▲55竜△37角(図)
角を先手陣に放ち、攻防ともに利かし
容易には崩れません。
馬を作られてはまだまだ大変な形勢。
それを許さず、かつ冷静に狙いを封じます。
▲46角△同角成▲同竜△28角(図)
▲49竜△37角成▲46角△同角成▲同竜
△28角▲57竜△19角成(図)
後手は手順を尽くして馬の成り込みに成功しましたが、
ここで先手からの厳しい反撃があります。
▲55桂(図)
この桂打ちが後手陣を揺るがす急所の一手。
金の二枚の連結にはいったん相手にせず、
銀一枚の守りの弱点を的確に突いた攻めになっています。
これまで一生懸命に辛抱をつづけた後手、
耐えがたきを耐え、チャンスを待ちます。
△51桂(図)
▲63桂成△同桂▲65歩△45桂▲58竜(図)
△85歩▲同歩△65歩(図)
ここで、後手の馬を完全に封じめる
手堅い一手がありました。
▲28歩(図)
先手にとっての脅威は、のちの△64馬引き。
この引きを防ぐとともに、64の地点に
攻めの拠点を作ることが可能になりました。
一歩一歩、先手がゴールに進んでいます。
△66桂▲同金△同歩▲64銀(図)
▲28歩を生かした▲64銀が
決め手の第一歩。
後手にとってはここが最大の急所であり、
これまでつないだ粘りと受けを、
幾度とない技・手数をかけて、先手が食い破りました。
△72金▲73銀△51玉▲72銀成△85飛
▲86歩△65飛(図)
▲53歩成△57香▲62成銀△41玉
▲52成銀△同金▲同と△31玉▲42金
△同金▲同と△同玉▲51角(図)
図の局面で終局となりました。
手数にして177手。
両者の持ち味と情熱が存分に発揮されたであろう
本局。総括するまでもなく、大熱戦かつ名局でした。
特に70手付近まで続いた駒組みとけん制、
一手一手腰を落として考えると、両者ともに
慎重をきわめ、最善の形を保っているのが
お分かりになると思います。
あしひきのやまさん、たくぞーさん、対局お疲れ様でした!