ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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チャン・ヨンヒ教授が母へ宛てた最後の手紙

2009-12-18 20:18:14 | 韓国の小説・詩・エッセイ
 1つ前の記事で、5月に亡くなった西江大学のチャン・ヨンヒ教授のことを紹介しました。小児麻痺という障害を負った上、癌に侵されながらも、最後まで人々に希望のメッセージを随筆等で送り続けた人です。

 その記事で、「世を去る直前の3日間に母に宛てて書いた100字の短い手紙が人々の心を動かし、<オンマ・シンドローム>につながりました」と記しました。
 この「 」内の文章は「出版ジャーナル」の文章をそのまま訳したものですが、その後上記の手紙がある韓国サイトで見つかったので紹介します。

"엄마 미안해. 이렇게 엄마를 먼저 떠나게 돼서. 내가 먼저 가서 아버지 찾아서 기다리고 있을게. 엄마 딸로 태어나서 지지리 속도 썩였는데 그래도 난 엄마 딸이라 참 좋았어. 엄마, 엄마는 이 아름다운 세상 더 보고 오래오래 더 기다리면서 나중에 다시 만나."

(訳)「オンマ、ごめんね、こんなに先にオンマのところから去ることになって。私が先に行ってお父さんを見つけて待ってるからね。オンマの娘として生まれて、とても心も痛んだけど、それでも私はオモニの娘で本当によかった。オンマ、オンマはこの美しい世の中をもっと見て、長く長く待って、後でまた会おうね。」

 ・・・コメントは、なんとも書きようがありません・・・。

2009年の韓国出版界をふり返る(1)  ★韓国誌「出版ジャーナル」より

2009-12-18 19:38:35 | 韓国の文化・芸能・スポーツ関係の情報
 先週ソウルで仕入れてきた本の1つに月刊「出版ジャーナル(출판저널.チュルパンジョノル)」12月号があります。

 内容はもちろん本の話題いろいろ。12月号とあって、この1年の総括的な記事が中心になっています。
 とくに<キーワードでみる2009年出版界ホット・イシュー>という特集では、次の10つのキーワードから1年をふり返っています。
 このサイトでこれまでに取り上げた記事と関連する内容もそれなりにあり、フムフムとうなずきながら目を通しました。

 私ヌルボ自身が関心を持っているネタでもあるので、2回に分けてちょっと詳しめに紹介します。

①追慕
 月16日の金寿煥(キム・スファン)枢機卿等、今年亡くなった有名人は多く、また関連書もよく読まれました。
 盧武鉉前大統領や金大中元大統領について書かれた本はいろいろ出ましたが、とくに金大中元大統領の箴言集「学び(ペウム.배움)」に対する読者の関心は<爆発的>だったそうです。
 小児麻痺によるハンディと障害者に対する偏見、さらに癌に侵されながらも、最後まで希望と生命の大切さを随筆に綴った英文学者で西江大学のチャン・ヨンヒ(장영희.張英嬉)教授は5月に亡くなりました。その遺作が「生きてきた奇蹟 生きてゆく奇蹟」です。

②母性
 申京淑「オンマをお願い」が刊行されたのが2008年11月。以後10ヵ月で100万部を突破する大ベストセラーとなりました。
 このブログの最初の記事でとりあげた本なので、ヌルボとしても感慨深いです。

 また、上述のチャン・ヨンヒ教授が世を去る直前の3日間に母にあてて書いた100字の短い手紙が人々の心を動かし、<オンマ・シンドローム>につながりました。

※<オンマ・シンドローム>については、7月頃の新聞報道等で私ヌルボも読んだ覚えがあります。

 本から始まった<オンマ・シンドローム>ですが、カン・プジャが犠牲的なオモニを演じた演劇「実家のオンマと2泊3日」、ソン・スクの演劇「オモニ」と続き、息子の殺人の汚名を晴らすため凄絶な死闘をくり広げるオモニを描いた映画「マザー」は封切り前から人々の関心を集めました。

 <オンマ・シンドローム>について、ある評論家は、人々の心理が委縮して、過去をふり返るようになっているから、と指摘しています。しかし、今後は主流コースになることはないだろうともみています。家族への思慕を持続的に維持していくのは無理がある」とのことです。

③女性パワー
 今年話題の本の中で、「オンマをお願い」「るつぼ」「それは愛だったね」「ミシル」の共通点は著者が女性ということ。
 申京淑の「オンマをお願い」、ネチズンの選んだ2009年韓国の代表作家・孔枝泳の「るつぼ」、挑戦を恐れない肯定的な心で愛を伝えるハン・ビヤの「それは愛だったね」、第1回世界文学賞を受けて2005年以後再び注目されたキム・ビョラの「ミシル」まで、女性著者がベストセラーを掌握しました。

④スターたちの本
 ペ・ヨンジュンの「韓国の美しさを訪ねて出かける旅行」とチェ・ガンヒのフォト・エッセイ「小さな子どものささやかな幸せ」が刊行後急激な勢いでベストセラーとなり、注目されました。
 1月に刊行されたBIG BANの「世界に君を叫べ」はアイドル歌手のエッセイとして注目を受け始めました。特定ファン対象の「金かせぎ」だろうとの見方が支配的でしたが、そんな反応をあとにタブロの「あなたの彫刻」、ク・ヘソンの「タンゴ」、キム・ジュニの「ビキニよ、ごめん」、イ・ヘヨンの「ファッションバイブル」等タレント本の刊行が続きました。

     
    【チェ・ガンヒのエッセイ「小さな子どものささやかな幸せ」】

 ある評論家は「タレントの本は、消費者がいれば本を出すことは当然正しい。趣向の問題でどうこう言えない。ただ、これからマネージメントが文化産業に大きな影響を及ぼすこと、出版界が主導権を奪われるかもしれないというリスクに留意しなければならない」とコメントいています。

⑤OSMU(One Source Multi Use)
 最近の人気ドラマ「善徳女王」と「アイリス」。それぞれ作家リュ・ウンギョンとチェ・ウドの小説が原作です。また11月に封切られた映画「白夜行」は東野圭吾の本を原作としています。
 以前から本を映像化する例は多くありますが、1年を通して人気を集めたドラマ等が本を原作としている点に大きな意味があります。そこに本に対する関心とともに出版界にも大きな影響が及びました。
 「善徳女王」の場合、第1回世界文学賞を受けたキム・ビョラの「ミシル」(←コ・ヒョンジョンが演じる主要登場人物)との相乗効果で話題となり、以前に刊行されていた関連本の販売量も急増しました。
 反対に本が有名で、ミュージカルや映画になった例もたくさんあります。先に挙げた「オンマをお願い」の場合、本の有名税を背に受けて、映画やミュージカルのファンにも接近をはかる予定だそうです。

 このように「1つのテクストを多様なメディアに変換する」、<One Source Multi Use>がもう社会の全般的なトレンドとなっています。ある評論家は、「小説は他のメディアに活用しやすい。最近は初めからOSMUを意識して企画される小説が多い。今後さらに拡張し、確固たるものとなるのは自明のこと」と語っています。
(・・・日本はもうだいぶ前からそうなっていますね。伊坂幸太郎とか、映画で初めて知った作家も何人かいますよ。)