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マレー沖海戦後の「大ボケ」を信じたフェイクニュース

2018-03-01 14:28:32 | 歴史談話

 1941年12月10日にマレー沖で、戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスが日本海軍航空機によって撃沈された。レパルスがすでに沈みプリンス・オブ・ウェールズが一時間後に沈没しかかっている上空に、シンガポールから飛来したオーストラリア人パイロットの乗るバッファロー戦闘機10機が到着したのである。その飛行中隊の隊長であったティム・ヴィガーズ空軍大尉は感動的な光景を目撃した。海上を漂流している多数の英国海軍将兵達が、味方である自分達に手を振りながら歓声を上げているのである。これほどの不幸な状況にありながら陽気に手を振り自分達を迎えるその姿に

「英国海軍の負けじ魂を見た!」
とヴィガーズ大尉は語っている。これは前々回のブログで述べた「シンガポール」という本に載っていたし、サンケイ出版の「シンガポール」アーサー・スウィンソン著にも述べられている逸話である。
 ところが、これが大笑いのとんでもない勘違いなのであった。海軍将兵達は味方の戦闘機を見て喜んだのではなく、遅れてやって来たのに激怒したのである。手を振ったのではなく拳を振り上げていたのだ。そして歓声を上げるどころか、ありとあらゆる罵声や罵詈雑言を戦闘機パイロット達に叩きつけていたのである。それを聞いた人々の話によると、その悪口雑言は凄まじいものであったという。英国の船乗りの歴史は古いから、その悪口も長年の積み重ねで数多くレベル(酷いという意味で)も高い。とんでもない勘違いであったのである。それだけ多数の人々から罵られながら、自分達を歓迎しているのだと思い込んだヴィガーズ大尉は、本人の意思とは関係なく「大ボケ」をかましているとしか言いようがない。これほど滑稽な場面は第二次世界大戦中にも他にはそうないだろう。

 私はこの事実を「戦艦 マレー沖海戦」Ḿ・ミドルブルック P・マーニー 内藤一郎訳 早川書房を読んで始めて知った。あらゆる資料を調べずに何かを信じ込むのは危険だとつくづく感じさせられた。 

 



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