だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

太陽光発電について

2018-12-12 19:40:49 | Weblog

 今、全国各地で森林を大規模に伐採して太陽光発電所を作る事業が計画されており、それに対して住民の反対運動などもあちこちで起きている。数十haの森林を伐採する計画も多い。まったくの自然破壊、生態系破壊である。自然エネルギーの開発と普及について研究し実践してきた身としては本当に残念で悲しいことである。

 なぜこういうとんでもないことが起きるかというと、再生可能エネルギー利用を進める立場からの理由と、森林を活用する側からの理由とがある。

 こういう事態が発生したのは、2012年から施行された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」のおかげである。これは固定買取制度、FIT(Feed-in Tariff)と呼ばれる制度で、ドイツなどヨーロッパで先行していたものを参考に日本でも取り入れられたものである。発電事業者から見ると、投資を回収して確実に利益が出る買取単価と買取期間を政府が定める制度なので、利益が確実に計算できる投資案件として非常に魅力的である。再生可能エネルギーの中で、立ち上げるのが一番簡単なのが太陽光発電である。広い土地が必要なのが特徴で、土地さえ確保できれば、あとはそれほど特別な技術は必要ない。架台を立てソーラーパネルを固定し、パワーコンディショナーを介して送電網に接続する。運転は自動的に行われる。メンテナンスは点検と草の管理くらいである。それに対して風力発電、バイオマス発電、水力発電などは立地に制約があり、特別の知識、ノウハウとそれを持った人材が必要である。そのおかげで、FITが始まって以来、太陽光発電が爆発的に普及した。

 まずは平地の空き地から設置がはじまった。そしてそれはすぐに枯渇した。そもそも山岳国の日本に平らで広大な空き地というのは少ない。平地で広い面積を占めているのは農地であるが、農地は農地法で守られており、専業農家が営農しているような優良農地は他用途への転用が基本的に認められない。

 そこで、発電事業者は一方で山に向かった。もう一方ではソーラーシェアリングという農地にソーラーパネルを設置しその下で営農しながら太陽光発電をする方向に進みつつある。

 さて、山はというと、半世紀以上前に行われた拡大造林政策によってスギ・ヒノキなどの針葉樹の森が広がっている。そして木材価格の下落とともに山の価値は激減し、今では山の土地は上に木材となる木が生えていても非常に安い値段で買える。山の土地の値段は基本的にそこからどれほどの利益が見込めるかによって左右されるからだ。今は針葉樹の森を持っていても、むしろ管理にコストがかかるだけで利益が見込めないので、二束三文と言ってよい。そして、今では面積あたりの利益が最も見込めるのが太陽光発電なのである。山主にとってみれば、おカネになると思って植えた針葉樹が当て外れだったわけで、ならばその木を伐って、確実にオカネになる太陽光発電をやった方がよいという判断になる。そもそも山主は高齢で、息子・娘たちは山に何の関心もないので、買いたいという業者が現れれば売ってしまうことにもなる。

 日本の制度では事業を計画する際の環境配慮が抜け落ちている。なぜかというと、この制度は日本では環境省ではなく経済産業省の制度であり、その目的は新たな産業を創出して経済成長の新しいパターンを作り出すということにあるからだ。そこに環境面からのチェックが入るべきなのであるが、環境省と経済産業省の力関係のゆえなのか、残念ながら制度上、生態系などへの配慮は努力項目でしかない(資源エネルギー庁「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」2017年参照)。

 また、日本の制度では地域住民の理解と同意も努力項目である。大規模な太陽光発電施設は景観を一変させる。土地は所有者のものであるが、景観は地域の人やそこに訪れる人々の共有財産である。また、森林を大規模に伐採するとなると、水源としての機能が低下し、土砂災害の危険が増す。また太陽光発電所は草を生やさないためにたいていは除草剤を大量に散布する。それが下流に影響しかねない。つまり土地の所有者が何でも勝手にやって良いということにはならない。地域住民の理解と同意があってこその再生可能エネルギーだと思うのだが、制度上事業者は住民の理解を得る努力さえすれば、その結果として住民からの同意が得られなくても事業は許されることになっている。

 このような事業を住民が知るのは、もう事業者が必要な土地を確保し、電力会社との接続契約を終え、経済産業省から事業計画の認定を得た後である。事業者としてはここまでで相当なコストをかけているので、何が何でも事業を進めようとする。

 これを止めるのは困難な政治的な取り組みとなる。一番効果的なのは地域住民の総意として事業に反対するということだ。ある地域では自治会連合で太陽光発電反対を決め、看板を設置した。そうすると地域の山主に事業者が土地を買い付けに来ても「判は押せない」ということになった。それで事業者が自治会役員に「営業妨害だ」とクレームをつけに来たという話を聞いた。

 市町村で条例を定めているところも出てきた。この場合には事業者は行政と協議を行い、事業を進めるには最終的に首長の同意が必要ということになる。国の制度が住民の同意を必要としていないので限界はあるが、首長が住民の意見を反映して簡単に同意せず、協議を長引かせることで事業者に追加のコストがかかることになり、結果として事業者の「やる気を削ぐ」という効果がある。

 国は2017年の制度変更で、事業計画の認定を受けてから3年以内に発電が開始されなければ、そこから遅れた分だけ買取期間を短縮するという「罰則」規定を設けた。さらについ先日、12月5日に資源エネルギー庁から発表された「既認定案件による国民負担の抑制に向けた対応」によれば、2014年までに認定をとった事業者には着工と運転開始の期限が設定された。2MW以上の案件であれば、系統連系工事着工申込みの受領期限が2019年9月31日、運転開始期限が2020年9月31日に設定され、これに遅れるならば「運転開始準備段階に入った時点の2年前の調達価格」となり、例えば40円/kWhで認定されたものが21円/kWhになるということで、事業者にとっては事業継続が困難になるかうまみがなくなり、事業への意欲が失せるだろう。とにかく時間を稼ぐことが重要である。

 例えば岐阜県恵那市の「太陽光発電設備設置に関する条例」によれば、地元自治会員の住民に対する説明会を3回やり、そのことを地元の代表者が認定し、その議事録を提出すれば、住民の同意がなくても手続きを進めることができる。説明会に住民こぞって参加して反対意見を述べるとともに、詳しい資料の提出を求めるなど、簡単に終わらせない、議事録を住民側が作る、などの対応が必要だ。

 また住民の総意として反対しているとすると、投資元・融資元への働きかけが有効ではないかと思う。発電事業者は、ソーラーパネルを設置するにあたって多額の資金が必要である。たいていは金融機関からの投資・融資を受けることになる。金融機関としては、住民が総意を持って反対している事業に投資・融資をすることは、企業イメージに打撃を受けるために慎重にならざるをえない。問題はたいてい融資元は秘密にされるので、その情報を得て働きかけをするためにはやはり政治的な動きが必要となる。

 留意すべきなのは、外部からの関わり方である。この問題は基本的に地域の土地をどう共通の財産として利用したら良いかという、地域自治の根幹に関わる問題だ。基本的には住民の自治的な動きとして解決すべき問題である。外部の人間が運動の主体になるようなことは本末転倒で、決して成功しないだろう。

 問題をチャンスに変えるという地域づくりの基本からすれば、この問題を機に地域の山をどうすれば良いかをみんなで考え、森林を放置するのではなく健全な森として管理し活用するような方向に進んでほしいと切に思う。

 事業者は取得した山できちんと林業を行うことで利益を出すようにしてもらいたい。林業はまとまった面積が確保できれば、国や県の補助金を得て十分利益を出すことができる。国は森林環境税の導入を決めており、今後とも補助金が受けられることは確実である。林業従事者の若返りも進み、各地の土場は丸太が山積みになっている。日本は林業に関しては底を打ち成長段階に入ったともいえるだろう。事業者に対しては住民側から対案として林業をやるよう提案してほしい。山を管理し美しく保つことで地域から尊敬され信頼される企業に生まれ変わってほしいものである。

 

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