小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

天国入試試験(小説)

2008-04-14 02:48:33 | Weblog
天国入試試験
ある男が死んだ。交通事故だった。人間は死んだら、神の裁きを受けねばならない。それで、天国行きか、地獄行きに決まるのである。
男が気づくと、男の前には神がいた。両側には天子が控えていた。神は大理石で出来た肘掛け椅子に座って、しばし、おもむろに男を眺めていた。が、閻魔帳らしきものを取り出して、しばし、黙っていた。が、おもむろに口を開いた。
「宇多よ。お前は生前、親にも牧師にも、さんざん、洗礼を受け、キリスト教に入信するよう言われたが、しなかったな。なぜだ」
男は、神をにらみつけて、言った。
「俺はてめえが嫌いだからだ」
「こいつ。主に向かって、何たる言葉づかいだ。土下座して詫びろ」
両側の天使の一人が怒鳴りつけた。
「よい。宇田よ。お前は、なぜ、私が嫌いなのだ。その理由を言ってみよ」
男はフンとせせら笑った。
「手前のえばった態度が嫌いだからよ。天国だの地獄だのをつくって、手前に従わなかった人間を地獄へ落とす、などとぬかして人間をおどして、支配しようとする手前のような野郎が俺は反吐が出るほど嫌いだからだ」
「ぬぬぬー。小癪な。主よ。こいつは当然、地獄行きですね」
天使の一人が額に青筋を立てながら主に向かって言った。神も怒って、閻魔帳をパラパラめくった。
「宇田よ。お前は、神を冒涜した。今の不敬罪で、減点10じゃ。お前は、悔い改めもせず、教会にも通わなかった。しかし、お前は生前、精神科医として真面目に働き、とりたてて、人を不幸にする行いは、何もしていない。さらに、お前は、誰も声をかけようともしない乞食や孤独な人間に、何度もあたたかい言葉をかけている。お前は、天国入試試験にギリギリのボーダーラインで合格じゃ。さあ、天使について行って天国へ行くがよい」
天使が、宇田の手を掴もうとした。
「待て。天国行きは拒否する」
男は怒鳴るように言って、天使の手を振り払った。
「な、なんと。そんな事を言った者は、はじめてじゃ。理由を言え」
「俺の高校時代のダチの山賀は、どうなった」
「あいつか。あいつは、万引き、暴走族、シンナーの悪で、バイクの暴走で死んで、当然、地獄にいる」
「そうだろうと思ったぜ。あいつが天国に入れる道理がない。しかし、あいつは高校時代、一人ぼっちでいた俺に声を掛けてくれた俺にとって、かけがえのない友達だ。あいつが地獄で苦しんでるのに、俺一人のうのうと天国で、ぐうたら寝てられるか」
男はつづけて言った。
「おい。神とやら。手前は、偉そうに、人を裁いてるが、人間で一番大切なものは友情なんだぞ。わかったか。天国行きは、意地でも拒否する」
そう言って男は、ペッと神に向かって唾を吐いた。
ぬぬぬー。神は額に青筋を立てて、唾を拭った。
男はつづけて言った。
「おい。神とやら。それにな、何も山賀だけじゃない。どんなに悪いヤツでも地獄で、永遠に苦しんでいる人がいるのに、のうのうと天国で安楽に過ごす何て事、とてもじゃないが、俺の神経じゃ耐えられん。これで十分わかったろ。俺を地獄へ落とせ」
そう言って男はペッと神に唾を吐いた。
「主よ。この男の不敬罪は、もう十分過ぎます。それにこの男も望んでる事です。この男は地獄へ落としましょう」
「駄目じゃ。このような心を持った人間は、ますます地獄へおとす事などできぬ。しかし、この男の神を冒涜する心は許せぬ。この男に最もふさわしい罰は、この男を天国へ入れる事じゃ。さあ、早く連れて行け」
「やめろー」
男は叫びながらも、天使二人に連れられて、天国(それは男にとっての地獄)へと連れられて行った。
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