小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

誇り高いのら猫

2009-02-05 21:10:57 | Weblog
今朝、仕事に行く時、コンビニの前でビニール袋のゴミをあさっている、のら猫をみた。なんとも、その仕草がかわいい。のら猫には眉間に三日月形の傷があった。まるで、「愛と誠」の太賀誠の眉間の傷のようで、どうしたんだろうと思った。
「のら猫も大変だな。職が無く、毎日の餌をああして、探さなきゃならないんだから」
私は可愛そうに思い、コンビニで買った鰹のおにぎりを、ちぎって、のら猫の前に放り投げた。
「ほら。食べな」
だが、のら猫は私をじっと見てから、さっと身を引いた。
「どうした。鰹のおにぎりだぞ。なぜ食べない」
私は疑問に思って言った。かわいくないやつだ、と少々、不愉快になった。
私はさらに、もっと鮭のおにぎりを投げてやった。だが、のら猫は食べようとしない。
「おい。どうして食わないんだ。理由を言え」
私は、イライラして、怒鳴りつけた。
その時、のら猫は、ニヤリと笑って喋り出した。
「ふふ。言わせてえか。無理もねえ。それはおめえの無くしちまったもんだからな」
「俺のなくしたものだと?」
「そうよ。子供の時は、あるいは、おめえもオレと同じだったかもしれねえ。しかし大学に入った時、おめえは誇りを捨てた」
「ば、はかな。お前の言う事は、さかさま、じゃねえか。俺は公立の医学部に入った時、誇りを手に入れたんだ。親戚も友人も俺を見直したんだ」
「さかさまはおめえよ。その時、おめえは誇りを捨てちまった。おめえは学費と生活費を親に出してもらった。食い物も、住処も何不自由ない豚になっちまった。与えられた金で肥え太った」
のら猫はニヤリと笑ってつづけた。
「少なくともオレは一匹のら猫よ。理由のねえ借りをつくったり何かの力に一度でも無理じいに頭を下げてしまったが最期、オレみてえな、のら猫はオシマイだからよ」
ああ。私は、胸を打たれたような衝撃を受けた。私は、これほど誇り高い、のら猫の言葉を生涯、聞く事はないだろう、と大地が裂けるような熱い衝撃に打ちのめされた。
のら猫は餌と棲家がないもの。
ましてや人間はのら猫撲滅のため餌を与えないようにしているもの。
それすら、この、のら猫は拒否した。
私は、恥じ入って急いでその場を去った。
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