アニキ番の1人語り

デイリースポーツのトラ番記者

真実。

2009-09-01 22:22:19 | 日記
 9月です。ついこのあいだまで、沖縄キャンプで泡盛を飲んでいたと思ったら、もう紅葉の季節…。あっと言う間に今シーズンも終わり、また秋季キャンプで安芸へ向かう。1年は本当に早い。歳を重ねるごとに、1年が早く感じるのは僕だけでしょうか。

 この仕事をして14年になりますが、スポーツに関わっていても、人の生死に直面することがあります。先月27日(木曜日)の横浜スタジアム。バックネット裏の記者席からマウンド上、三浦大輔投手の好投をため息混じりに見ていたさなか…まさかの惨事が起こってしまった。8回。代打桧山選手が二塁打を打った直後。ライトスタンドから1人の男性が5メートル下のグラウンドに転落。心肺停止状態で記者席裏の医務室に運ばれ、救急車で搬送されました。医務室の前で泣きながら父親の回復を待つお子さんを見て、胸が締め付けられました。僕と同年代(36歳)。他人事ではなかった。試合後、阪神ナインも皆、悲痛な表情で球場をあとにした。金本選手、新井選手も「その後、どう?脈は?意識は戻った?」と翌日の巨人戦前もずっと男性の容体を案じていました。

 本当に残念でなりませんが、2日後の8月29日、男性は横浜市内の病院で亡くなられました。野球場で、あってはならない悲劇。気持ちの持っていきどころがありません。


 先日の横浜遠征。僕は新井選手と一緒にいることが多かった。2戦目の夜、馴染みのお寿司屋さんへ行ったんですが、そこで、新井選手が、携帯で僕のブログを見ながら、読者の方のコメントに共感していたことをお知らせしておきます。食事の合間、皆さんのコメントを目に通していましたが、とりわけ、〈川西のアニキファンさん〉の意見には「この方の言うとおりだと思う」と強く反応していましたよ。

 ここで、新井選手とお寿司屋さんで交わした会話の中身を少し紹介しましょう。前回のブログでも書いたことですが、タイガースの選手は、観客動員日本一(8月28日にセ・パが今季の観客動員数を発表。両リーグトップは今年も阪神タイガース=1試合平均4万1200人=でした)のファンと、“世界一多い”マスコミ陣に囲まれ、常にそのプレッシャーの中でプレーしている。新井選手は「阪神は、本当にすごいところ」とファンの存在に感謝すると同時に、改めて“雑音”の多さに苦笑していました。そして、新井選手が真剣な表情で、僕に意見を求めたことがあります。金本選手のことです。以下、新井選手の言葉をそのまま書きます。

 「最近、金本さんのタイガースへの貢献度を忘れてしまったかのような論調がありますが、それだけは本当に許せない。誰のおかげでこのチームは強くなったのか。02年のオフに星野さんが金本さんをタイガースへ引っ張ってこられて、明らかにチームが生まれ変わった。岡田監督も本当に金本さんを信頼されて、一度も4番を外さなかった。2度の優勝は、金本さんなくしてあり得ましたか?そんなこと当たり前過ぎて、誰も疑わないはずですよね。多くのタイガースファンの方が夢を見ることができたのも、金本さんの加入なくしてあり得なかった。それを、少し調子が上がらないと、手のひらを返したように、急にたたき始めたりするマスコミがあったり、心ないヤジを飛ばす人がいたりする。新聞でも放送でも、金本さんのことを何も分かってない人ほど、無責任なこと書いたり、言ったりしてますよね。選手は皆、記事やブログ、読んでますから。それ、目の前で言ってくれます?と言いたくなることもある。公平に見て、風さんのブログにコメントされている方は、本当のタイガースファンだと思いますよ。言葉に愛情がある。プロである以上、結果で判断されることは、やっている選手たちも重々理解しています。皆、生活をかけてやってます。自分も、本当のファンの人たちに何度助けられたことか。また、そういう人たちがいるから頑張れるし、そういう人たちがいるからこそ、結果が出なかったときは、『申し訳ない』と思う。金本さんだって、きっとそうです。それと、ファンの方に知っていていただきたいことは、一緒にプレーしている選手がどれほど金本さんを尊敬し、慕っているかということ。僕だけじゃない。皆です。金本さんがタイガースを強くしたことを忘れないで欲しいし、もちろん、今も、金本さんの野球に対する姿勢から、選手が学ぶべきことは多い。風さん、どう思います?僕の言ってること、間違ってますか?」

 僕は箸をとめ、新井選手の言うことをジッと聞いていました。それから、「全然、間違ってないよ」と返しました。新井選手との私的な会話をブログに載せちゃっても大丈夫なんですか?と心配される方もいらっしゃるかな。大丈夫です。偉そうに言う訳ではありませんが、新井選手と僕には「信頼関係」があります。その上で、今回は、僕自身の判断で新井選手の言葉を載せることにしました。

 さて、ここからは少し僕の意見を書きます。コメントを下さった〈だいさん〉が心配されていたこと「一体いまアニキに何が起きているのですか?」についてです。

 金本選手が22日の広島戦(京セラドーム大阪)の8回に併殺に倒れ、悔しさから、自らバットをたたき折りました。僕は記者席から一部始終を見ていました。もちろん、記事も書きました。

 阪神関連のサイト等でも、賛否両方の書き込みを目にしました。
 否の方は、だいたいこういう意見。
 ◎道具を大切にして欲しい。
 ◎バットの職人さんに謝って欲しい。
 ◎子どもも見ているんだから、夢を壊さないで欲しい。
 など。

 あとは僕への批判。
 ◎美談として伝えるのはおかしい。
 ◎ヒーローはサヨナラ安打の桧山選手だろう。
 ◎なぜ、1面にするのか。
 など。

 あの日の試合後、これから“色んな声が出てくるんだろうな”と思いながら、京セラドームの記者席で「1面」を執筆していました。

 先にも触れましたが、あの行為を批判する人はいます。報道関係者の中でも批判する人がいると伝え聞きました。

 ま、吉田風記者は金本選手の“味方”だから擁護するんでしょう―と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。繰り返しになりますが、色んな意見はあっていいと思います。でも(これは、本日付のデイリースポーツのコラム「アニキ徹底追跡」でも書きましたが)、
 《物事を表面だけで見ると、真実を見誤る》
ということだけは言いたい。
 おそらく皆さんよりは少しだけ金本選手のことを長く近くで見てきた僕には、やはり僕なりの意見があります。それを他の人に押しつけるつもりはありませんが、真のタイガースファンの方には、あまり短絡的な思考をして欲しくないというのが、僕の本音です。

 まず。金本選手は道具を大切にしない人だから、バットを折ったんでしょうか。「道具を大切にして!」という意見の方は、“結果的に折ったんだから、大切にしてないということ”と言われるでしょうね。

 本来、金本選手には“バットをたたきつけることができない”深い理由があります。東北福祉大時代。金本選手は、4年の秋に、球審の判定を不服として、グラウンドにバットをたたきつけたことがあります。野球用具に当たったことは、あとにも先にもこの一度だけだったんですが、これが当時の伊藤義博監督(故人)の逆鱗に触れ、「ユニホームを脱げ」と即刻、退場を命じられました。金本選手は黙ってベンチへ下がった。ユニホームを脱ぎ、1人、球場をあとにした。もちろん金本選手は中心選手。91年の全日本大学選手権の決勝戦(神宮球場)で決勝タイムリーを放ち、福祉大を悲願の初優勝に導いた主砲です。その中心選手に対して、伊藤監督は相当な覚悟を持って「ユニホームを脱げ」と言った。

 毎年、交流戦(楽天戦)で仙台へ行くたびに、金本選手は仙台市内にある伊藤監督のお墓を参ります。僕もここ数年、金本選手に同行して、お墓を参っています。
金本選手が学生生活を振り返るとき、高校時代より、圧倒的に多く大学時代の話をしてくれるんです。「自分のことを信頼し続けてくれた」という伊藤監督への恩義は、金本選手の心の中で、おそらく野球を辞めても、薄れることはないでしょう。一番の恩師からの「教え」が金本選手にとって、軽薄でないことは、想像に難くない。「恩義」を人一倍重んじる人ですから。

 相手に対する礼儀もそう。選手生命を脅かす頭部死球を受けようが、どれだけ危険な球を向けられようが、相手投手を恫喝したことは一度もない。それどころか、逆に恐縮する相手投手を気遣い「次からもどんどん投げてこいよ」と声をかける。“ええ格好”だけで言えることでしょうか。

 何を言いたいか。「用具を大切にする」とか、「子どもが見てるから」とか…言わしていただけるなら、そんなことは、金本選手が普段から「何よりも重んじていること」なんです。金本選手の行動を間近で見て、言葉を間近で聞いているから、分かります。“ひいき目”でも何でもないですよ(笑)。金本選手が、簡単に信念を曲げる人に映りますか。

 ファンの方には、テレビ画面を通して、よく金本選手の野球用具を見て欲しいと思います。グリップの太さを0・1ミリ単位までこだわるほど、1本のバットを慈しむ選手です。かつて、あるメーカー担当者も「そんな選手には会ったことがない」と言っていました。革手袋の赤い染料が、幾十にもバットに染みこんでいるのが分かります。試合後のスイングルーム。遠征先のホテル。自宅…。鏡の前で、金本選手はバットを握り、人の倍、いや3倍、相棒を振り込んでいる。グラブを見て下さい。広島時代から使い込み、疲弊しているのが画面でもはっきり分かります。メーカーさんが「新しいものを」と打診しても、シーズン後にメンテナンス(継ぎ接ぎ)を依頼し、愛着を持って、ずっと変えずに大切に使用しています。

 《用具は、金本選手の肉体の一部》なんです。

 そんな金本選手がヘルメットを投げつけ、バットを折った。

 金本選手は、自らの手で、自らの体を殴ったんです。

 それが僕の見解。

 もちろん、そこには僕も正確には推し量れない金本選手の感情があったと思う。ただ1つ言えることは、あの併殺打だけが悔しくて、あの行為に出たという見方は違うということ。今年のシーズン、100数試合の中で、鬱積した感情が一気に吹き出したものだと思います。正直、僕の知る範囲でも、あまり詳しく言えない部分もありますが、金本選手は今季にかけていましたから。半端なく、かけてましたから。自らの選手生命を全てかけるぐらいの気持ちで今季の開幕を迎えましたから。

 巨人に最大13ゲーム差を跳ね返された昨年の屈辱を胸にスタートした09年。

 「今年は、なにがなんでも勝ちたい。阪神ファンを喜ばせなあかん」

 開幕前、一緒にお酒を飲んだときに金本選手はそう言っていました。

 4月。4割近い打率を残し、本塁打も3日で6本という離れ業。他の選手が出遅れる中、孤軍奮闘でチームを引っ張った。オフには2度目の左ひざ手術。1月後半に発症した右足内転筋の痛みが癒えず、オープン戦で一度も守備機会を得ないまま「ぶっつけ本番」で開幕に臨んだ。それでも、「絶対に優勝してやる」と、気力で体の痛みを振り払っていたことも知っています。


 当日、京セラドームの内野席で親子で観戦していた方があるサイトに投稿されていました。
 「私の子どもがとても怖がっていた。二度とあんなことはやって欲しくない」と。
 申し訳ないですが、このお父さんに対しては、1つ提案があります。
 子どもと一緒にあのシーンに遭遇した父親としての役割は「金本選手って乱暴な選手だね。怖かったね。かわいそうに」とだけ語りかけることでしょうか。僕は、違うと思います。どうして金本選手はあんなに悔しがってるのか。どうして、大切な道具を投げつけてまで、自分自身に怒りをぶつけているのか。答えはでなくていい。でも、子どもさんと一緒に考えていただきたいんです。「バットを折る=悪い」なんて、誰でも教えることができます。お子さんの年齢は分かりません。今、理解できなければ、もう少し大きくなってからでもいいと思う。実際に親子で球場に足を運ぶ方ですから、野球に関心のある方だと想像します。実績のない若い選手が自暴自棄になってバットを折ったのとは訳が違います。長いプロ野球の歴史においてその名を後世に残し、どんな痛みにも耐えタイガースを支え続けた選手が、プロ人生で初めて見せた激情の意味を、あの一場面(表面)だけをとって、大切なお子さんに語り継ぐのは、本当にもったいないことだと思います。

 話は少し違うんですが、昔、南海のバナザードや近鉄のブライアントといった外国人選手が、三振したあとに、よく自分の太ももでバットを真っ二つにへし折っていましたが、そんなシーンを見て「道具は大切にするもの。けしからん」なんて云う人は、僕の周囲にはいなかったような気がします。プロスポーツは、ときに子どもにとっては残酷なシーンに出くわすものです。僕も小学生のころ連れて行ってもらった日生球場での近鉄対ロッテ戦で、乱闘騒ぎがあり、もの凄く怖い思いをした。ごっついカラダの大人たちが、殴り合っているシーンは、今でも瞼の裏に焼き付いています。だからと言って、その後の人生、運動部などの活動で、乱闘を正当化しようと思ったことなんてありません。

 プロスポーツの舞台がときに“戦場”と化すということは、成長過程の子どもに、色んな意味ですごくいい勉強になると思う。僕の経験したサッカーでも、プロの世界で、衝撃的なシーンを何度も見せられた。
 例えば、1994年1月16日。当時大学3年の僕は、Jリーグチャンピオンシップ(野球でいう日本シリーズ)ヴェルディ川崎-鹿島アントラーズの第2戦をテレビ観戦していた。そこで、あのジーコ選手が、信じられない行動に出た。後半36分、鹿島のDF賀谷選手のプレーに主審がPK(反則で与えられる相手へのアドバンテージ)を宣告。川崎の三浦カズ選手がPKを蹴ろうとしたそのとき、ジーコ選手はボールに歩み寄り、ツバを吐いた。びっくりした。サッカー経験者にとって、ジーコは神様。でも、僕はその行為に対して、一切嫌悪感を覚えなかった。“子どもたちが真似するからやめて”とか、“汚い行為”だなんて、思わなかった。それよりも、ああ、ジーコは本気なんだと思った。神様ジーコにとっては、めちゃくちゃ格下の日本サッカーの舞台。それでも、ジーコにとって、グランドはどこも、生きるか死ぬかの“戦場”なんだと、思った。実際、ツバを吐く行為そのものが、褒められたものではないことくらい、僕も分かっている。でも、僕なら、あのシーンを子どもに伝えるとき、「ジーコは最低な人間。あんな人間になっちゃダメだ」とは、伝えない。

 ジーコはレッドカードを受け、退場になった。腕に着けたキャプテンマークを外し、ピッチをあとにした。そして鹿島は負けた。これはのちに関係者に聞いた話ですが、ジーコはロッカールームで泣いていたという。優勝したときの為に、自ら準備していたシャンパンを、泣きながらチームメートについだという。

 金本選手は、阪神タイガースでもう一度優勝したいと強く思っています。身体は満身創痍です。日々、痛む身体との戦いでもあると思う。こんなこと、僕が言うと、おそらく金本選手から怒られる。“余計なことは言わなくていい”と。
 でも、真のタイガースファンには、知っておいてもらいたい「真実」もありますから。

                      2009年9月1日  吉田 風

お知らせ。

2009-08-31 21:43:06 | 日記
 皆さん、ご無沙汰しています。
 デイリースポーツの月イチ企画「アニキの1人語り」が、高校野球決勝戦の日と重なり、掲載が1週間、遅れました。会社にも沢山のお問い合わせをいただき、ご迷惑をおかけしました。お詫び申し上げますとともに、皆さんのご厚意にも深く感謝致します。ありがとうございました。
 
 明日、9月1日(火曜日)のデイリースポーツで「アニキの1人語り」を掲載致します。テーマは…まだ言えません(笑)が、非常に興味深いものです。駅売店、コンビニでお求めください。すいません、宣伝で(苦笑)。
 
 そして、このブログも明日の朝、更新致します。新井選手も真剣に“参加”してくれます。どうぞ、お楽しみに。

                     2009年8月31日  吉田 風

信頼関係。

2009-08-13 01:23:12 | 日記
 名古屋、広島と1週間の遠征から帰ってきました。7泊8日もすると、洗濯物が多くて大変。遠征帰りの翌日が快晴だと結構嬉しかったりします。ところで皆さん、夏休みはとられました?僕はまだ。例年は冬に夏休みをとるんですが、今年は夏に夏休みをとろうかな…。もともと山より海が好きなんで、小学生のころから「夏=海」。大学1年の夏から沖縄にハマって、いまだに抜けだせないでいます。もう確実に20回以上行ってる。ここ数年は離島ばっかりですけどね。03年、阪神が沖縄キャンプをスタートさせたときはラッキー!って思いましたよ。キャンプ取材は決して「遊び」じゃないんですけど(当たり前か)、たとえ2週間とはいえ、大好きな地で仕事ができるのは心地いいものです。今年の夏は、沖縄へ行きたいなぁ。

 つくづく阪神タイガースの選手やスタッフは大変だと思う。今季のように低迷すると、半端なく“外野”がうるさくなる。他球団では考えられないくらいね。監督の采配、起用法にはじまって、敗因なんかも徹底的に解析される。あの場面の走塁は…。あそこで右打ちができないようでは…。コラムを担当するベテラン記者の切り口は鋭いし、各新聞社の評論家が試合を斬り、ある選手が打撃不振に陥れば打撃フォームを図解する社もある。敗戦投手にはあの回の初球の入り方が…と指摘される。やっているほうからすればたまらないだろう。ただ、それが阪神タイガースに在籍する選手の「宿命」とも言える。
 
 ヤンキースの井川慶投手が「世界一シビア」と云われるニューヨークのメディアを前に「阪神に比べれば全然マシ。阪神では、球場(通路)の角を曲がる度に記者が立っている」と明かした。国内ではさすがに巨人のほうが凄いのでは?と想像される方も多いと思いますが、これが違う。今季、交流戦で西武ドームへ行ったときのこと。記者席を担当する女性スタッフから「阪神担当の記者さんは一体何人いらっしゃるんですか?毎年、阪神戦は忙し過ぎるんです(苦笑)」と嘆き節を聞かされた。西武ドームの記者席はグラウンドレベル(バッターボックスの後ろ)とスタンドレベル(バックネット裏の上段)の2箇所にあるんですが、そこに収まりきらないのは阪神戦だけだそうです。溢れた記者陣には、スタンドレベルの奥にあるプレスルーム(室内)が増席され、そこでテレビ中継を見る。そのプレスルームでさえ、溢水の余地もない。「巨人戦では基本的にこの部屋使いませんから。もちろん、パリーグではこんなことあり得ません」とスタッフさん。毎年阪神戦が終わると「祭りのあとのよう」とおっしゃっています。
 
 僕もそのうるさい“外野”の一端です。世界一多い(うるさい?)阪神担当の一員として、チームに帯同しているんですが、負けがこんでくると、やっぱり辛い。うちの新聞はご存じのとおり「負けても虎1面」が基本的なスタンス。僕個人的には「打てない」「守れない」を文字にすると、ドッと疲れます。勝って欲しい。毎日強くそう願っています。よく色んな方に聞かれます。「やっぱり風さんも阪神ファンなんですか?」。僕は「ファン」じゃありませんよ。面白くない答えですが、「ファン」になってはいけない立場です。

 読者の方から僕宛に手紙が届きました。デイリースポーツ記者に対するお怒り。内容はかなり辛らつでした。実は、同じ内容のハガキや手紙を以前にも何通かいただいたことがあります。具体的に書くと少々問題が生じますので避けますが、簡単に紹介しますと「根拠のないことを、軽々しく書かないで欲しい。私は~と思うのですが、吉田記者はどう思われまますか?」というもの。阪神を取り巻く記者の数だけ報道に対する考え方はありますし、選手との付き合い方も違います。それを互いにどうこう言うことはありません。ただひとつ、僕には報道する側の姿勢として、譲れないことがあります。「取材しない記者に、書く資格はない」ということ。これは尊敬する先輩記者に教わったことでもありますし、自分の価値観もそうなので、ずっと肝に銘じていることです。僕ら記者は、選手を批評することがある。ただ、その選手を「取材せずに」批評することは、記者であるなら、恥ずべきこと。

 これは前にもこのブログで書いたかな。僕ら「記者を職業にする人間」が、公に、選手を批評するためには、最低限のルールがあると思います。普段からその選手と向き合うこと。どんなことを考え野球をやっているのか。グラウンドに立つためにどんな準備をしているのか。体調はどうなのか。どんな精神状態で取り組んでいるのか―。書くなら「取材する」。じゃなきゃ、恥ずかしくて書けない。
 
 もちろん、プロである以上、最後は「結果」です。選手は「結果」でモノを言われても仕方ない。ただ、それも、まずこちらがプロであるべき。僕が、取材なしに皆さんに言葉を発していたとしたらどうでしょう。取材しない記者の記事、読みたいですか。僕ら記者の言葉は、多くの人に多大な影響を及ぼします。記者というだけで“この人の言うことは信憑性がある”と思う方もいらっしゃるでしょうから、僕らには、それだけ「責任」があるということです。

 ファンは許されると思う。なんで打てないんだ!なんで抑えられないんだ!タイガースを愛するからこそ、こぼれる愚痴。全然構わないですよね。スタンドに座って…。テレビを見ながら…。ファンの愉しみを否定するつもりは、まったくありません。(球場で酔っぱらって、品のないヤジを飛ばすのだけは、やめたほうがいいと思いますが…苦笑)。
 
 選手の生の声を1つ紹介します。「グラウンドで練習を見ない記者なんて信頼できないでしょ」。主力選手数人から聞いた言葉です。当然ですよね。嫌なことを書かれれば、当然、選手も気分が悪い。でも僕らはまた翌日、その選手と顔を合わせて仕事をする。ときには、関係が悪化することもある。選手は皆、生活をかけてやっている。家族もいる。そんな選手たちと真剣に向き合わずして、“一方的に”批判することは、選手に対して「失礼」ではないでしょうか。今、“一方的に”と、書いた意味はお分かりになりますよね。選手サイドは、僕らを批評する場がないということです(今は個人ブログなどがあるとはいえ)。

 僕らデイリースポーツの阪神担当は、遊軍含め8人いますが、8人をもってしても、残念ながら選手の状態を100㌫網羅することはできません。偉そうなことを言ってもできてないじゃん!って突っこみが入るかもしれません。でも、これは“手前みそ”かもしれませんが、担当8人とも選手(スタッフ)と真剣に向き合い、「取材」をしていると思います。読者にも選手にも「信頼」される媒体を目指します(僕が代表して言うのも変ですね)。僕のもとへ届けられた手紙は、デイリースポーツ全体への警笛だと受け止めています。
 
 さて、愛さんの質問にお答えします。新井選手のことです。
 先週新井選手が自身のブログで、一部報道について不信感を綴りました。1つ言えることは、新井選手がここまで声を大にして、一部記事に不快感を示したことはかつてないということ。今回の件に関して、僕も新井選手と話をしましたが、新井選手が最も残念に思っていることは、「信頼関係」が裏切られたことにあります。

 去年、新井選手と各スポーツ新聞社の阪神担当記者が、周辺取材について1つだけ「約束」を交わしました。それは新井選手からの切な「お願い」でもあったので、各記者も納得の上で、承諾しました。このお願いが無理難題であれば「それはちょっと…」となるところですが、新井選手の言い分が真っ当でしたから、僕らも全く違和感なく受け入れることができました。今回、この「約束」が破られたことを、周囲がどう判断するか。規定でも法律でもない。単なる口約束なんだから、少しくらい、いいんじゃないの―そんな思考で記事が書かれたどうかは知り得ませんが、僕個人的には、「約束」したなら、絶対に守るべきだという考えです。じゃないと、お互いの「信頼関係」は成り立たなくなりますよね。一定の距離をとることが本来、選手と記者の“いい関係”と言われますが、そうは言っても、ほぼ毎日顔を合わせていれば、建前が通用しないこともあります。新聞社のほうから選手に無理を言って、取材をお願いすることも多々あります。選手の要望(約束)は聞かずに、こちらの要望だけ「聞いてよ」というのも、虫のいい話だと思う。そこは選手と新聞社というより、人と人の「信頼関係」ですから。ただ、ここで他媒体の報道内容をとやかく言うつもりはありません。各新聞社、それぞれに“責任”を持って紙面を作っていますから。今回、僕が一番気になったのは、例の記事が、新井選手との「約束」(お願い)を承知の上で書かれたことです…。
 
 そして、ミスター虎さんのご質問「金本選手の連続試合フルイニング出場についての見解」です。最近、この論調、大流行ですよね(笑)。何か、怒ってる方も、いらっしゃいますもんね(苦笑)。いや、本当によく耳にします。僕の答えは基本的に、以前にブログで書いた通りですよ。では、今回は分かりやすく、僕が阪神タイガースの監督ならどうするか―これ新しいでしょ―をテーマにしましょう(笑)。
 
 僕が監督なら?ノー文句で、フルイニング出場は続けてもらいます。なぜか。当然、勝ちたいからですよ。
 
 「1試合1試合が真剣勝負であるならです。僅差で勝っている試合の終盤、このままなら金本選手に打席が回ってこないという展開のとき、出塁した金本選手に代走を送ることは“あり”でしょう。その後の守りで守備固めを出すことも“あり”でしょう。(中略)先発出場を続けることには全く異論はありませんが、フルイニングはもう…という考えです」―。これが、ミスター虎さんのご意見ですね。
 
 (この方がどういう方か、分かるんですけどね。ま、いいです…笑)。
 代走を送らない理由ですか?金本選手の「走塁」が超一流だからです。「足が速い」と「走塁の技術」はまったく別物です。走者はただ単に走っているわけではありません。打球判断(これは本当に難しい)やベースランニング。その投手の癖。捕手の配球を読むことも、求められます。現状、「走者」として金本選手を上回るのは、赤星選手1人―というのが僕の結論です。野球初心者の方にも分かりやすいのは、盗塁の数(走塁と盗塁も違いますが)かもしれませんね。赤星選手がダントツであることは言うまでもありません。では金本選手はどうか。現在、5盗塁(このうち三盗が2つ)。これは鳥谷選手と並び、チーム3位の数(2位の狩野選手が9盗塁)。他チームの4番には代走が出されるじゃないか!というご意見があれば、どうでしょう。金本選手は12球団で最も盗塁数の多い4番打者です。首脳陣だって勝ちたいんです。金本選手が、走塁技術にも乏しく、鈍足で、怠慢走塁をする選手なら、代えますよ。巨人坂本勇人選手の盗塁の数、ご存じですか?3盗塁です。それだけ「走る技術」は簡単ではないということ。(ま、原監督は、例え3盗塁でも坂本選手に代走は送らないですけどね…笑)。

 守備固めについて。まず、皆さんが監督の立場なら、「4番」の打順を誰に任せ、金本選手をベンチへ下げますか?仮に、外野のスタメンが金本選手、平野選手、桜井選手だったとします。交代可能なベンチ入りの外野手は、桧山選手、葛城選手、林選手、浅井選手、水田選手(は元来内野手)の5選手。どうされますか?吉田風監督なら、代えません(笑)。5選手が、守備が下手だと言ってるんじゃありません。総合的な判断、そして比較論です。まず、金本選手に打席が回ってこない保証なんてないんですよ。僅差なら、同点に追い着かれることを頭に入れて戦わない監督なんていない。延長戦になったとする。4番に金本選手の居ない打線が、どれほど相手を楽にさせるか。
 
 例えば、中日落合監督は今季、僅差の勝ち試合で全試合出場中の森野選手(11日現在で盗塁は3。失策はリーグワーストの20個)に代走や守備固めを送ったことは一度もありません。延長戦で、76打点(11日現在でリーグ3位)の森野選手が抜けた中日打線、どうですか?落合監督は「総合評価」で森野を代えない。相手ディフェンスを楽にするタクトは絶対に振るわない。落合さんは、監督として無能な方でしょうか?

 以上が僕の見解です。他にも、他球団の首脳陣がどれだけ金本選手を嫌がっているか―とか、色々書きたいことはあるんですが、今回はこれくらいにしておきます。以前も言いましたが、色んな意見があっていいと思います。僕の意見が「絶対正解」だなんて、言うつもりはありませんよ(笑)。見解を聞かせて!と言われれば、「現段階ではこう答えますよ」というだけです。

 12日の中日戦。僕は金本選手のプレーを批判しますよ(笑)。センターへ飛んだフェンス直撃の2点タイムリー二塁打。金本選手なら、相手の本塁送球間に三塁へ到達しなくてはいけません。二塁ベース上、金本選手の悔しがっている表情、ご覧になりましたか?打った瞬間、手応え抜群の当たり。僕も行ったと思いました。感触もよかったはずだし、金本選手は半ばスタンドインを確信して、打った直後、走力を緩めています。金本選手は、本塁打にならなかったことを悔やんでいたんじゃない。三塁へ行かなかったことを悔やんでいた。走塁に対する超一流の意識が、自らの判断ミスを許せなかったはずです。
 
 僕はこれからも、金本知憲選手と真剣に向き合って取材をしていきます。

                    2009年8月13日   吉田 風

リーダー。

2009-07-31 21:00:00 | 日記
 球宴後、負けなしの4連勝です。きのうの相手は内海投手。簡単な相手じゃなかったけど、紙一重の差で、タイガースが勝った。それにしても能見投手は、本当にいい投手。ここだけの話(笑)、他球団の関係者(スコアラーさんら)と話しても、タイガースの投手陣の中で能見投手の評価は抜けている。今年の話じゃない。以前からずっと。相手球団も、その能力を羨望の眼差しで見つめていました。勝敗だけ見ると、まだ負けが先行(5勝7敗)しているけど、奪三振はリーグナンバー1。後半戦のマウンドが本当に楽しみですよね。ちなみに能見投手のお母さんは、金本選手の大ファン!!キャンプ見学に行けば、背番号14より、背番号6を追い掛けるそうですよ(笑)。7月の東京ドームで、9回無失点の好投。10回に金本選手がクルーン投手から決勝打を放った試合は、皆さんの記憶にも新しいでしょ。そのときにヒーローインタビューで、能見投手と金本選手の2ショットが実現。能見投手のお母さんにとっては、これほどの喜びはないでしょうね。

 さて、前回下さったポチさんの意見「チームが低迷する現状、戦力をつくっているはずの阪神フロントがこれまで批判されずにきたのは、関西マスコミのタブーだから?」について。全くタブーじゃありませんよ。本紙を含め、在阪の媒体はこれまでも旧態依然の体勢に批判の目を向けてきました。「最近になってやっとオーナーがフロント刷新を示唆した」との指摘もありましたが、前オーナーの宮崎さんも常々おっしゃってましたしね。ただ、補強に関して、しかるべき立場の人が長年の失敗に目を瞑り、責任追及を怠ってきた歴史があることも事実です。現オーナーの坂井さんも、諸悪の根源がどこにあるのか認識されているはずです。ですから、今オフの動向には、僕も、色んな意味で注目しているんです。
 
 僕の通う美容室のお姉さんが「真弓監督の笑顔が気になる」と言っていた話は、以前にこのブログで紹介しましたよね。う~ん。確かに、気になりましたね。特にきのうは。2点リードの最終回。藤川投手が先頭打者ラミレス選手に本塁打を浴びた。1点差。さらに亀井、谷、阿部、イ・スンヨプ…と続く気の抜けない打線。それでも、真弓監督は笑っていた。ベンチでどういう会話があったのか。どういう理由で見せた笑顔なのか、分からない。強がりなのか、余裕なのか、苦笑いなのか。テレビ解説の佐々木恭介さん(元近鉄監督)は「私が監督なら、引きつっている」とおっしゃっていた。言うまでもなくその心は、“ここで、よく笑えますね”だ。このブログで僕は「真弓監督の笑顔は、場合によっては“あり”だと思う」と書いた。でも、但し書きとして「選手が“笑わないで欲しい”と思っていなければ」と付け加えた。皆さんが選手の立場なら、どうでしょう。きのうに限って言えば、僕なら「ノー」ですね。
 
 思い出すことがあるんです。93年の秋(もう16年も前になる。僕は大学3年)。ハンス・オフト監督率いるサッカー日本代表は、翌年のアメリカワールドカップ出場を目指し、アジア最終予選を戦っていた。小学校から大学までひたすらサッカーを続けてきた僕にとって、日本のワールドカップ初出場は、まさに悲願。冗談ではなく、テレビの前で正座をして代表の試合を観た。1次予選を1位通過した日本は、続く最終予選では、初戦のサウジアラビア戦に引き分け、第2戦のイラン戦を落として、一時は最下位まで転落。絶体絶命。しかし、ここから、まず北朝鮮に完勝。第4戦の韓国戦では、三浦知良選手がまさに起死回生のゴールを決め、1ー0で勝利、一気に「王手」をかけた。残るイラク戦に勝てば文句なし。仮に引き分けても、韓国(対北朝鮮)、サウジアラビア(対イラン)が共に勝利しなければ、W杯出場決定という、有利な条件がついた。韓国戦に勝利したあと、国際映像は、ミックスゾーンで取材を受ける日本代表の選手たちを映し出していた。笑顔で抱き合うイレブン。目が充血している選手もいた。そんな中、ただ1人、怒っている選手がいた。チーム最年長のラモス瑠偉選手。「冗談じゃないよ。笑ってる場合か。ここから。ここからが本当の戦いなんだよ!」。眉間にシワを寄せ、強い口調でそう吐き捨てながら、試合会場をあとにした37歳(当時)。その言葉が、印象的だった。そして迎えた10月28日、中東のカタールで行われたイラクとの最終戦。2ー1で突入した後半ロスタイムに、まさかの同点ゴールを許した日本代表は、そのまま試合終了のホイッスルを聞いた。決勝ゴールとなるはずの2点目を決め、既に退いていた中山雅史選手はベンチで頭を抱えたまま崩れ落ちた。グラウンドで座り込んでしまった三浦知良選手が、「ダメ?ダメなの?」とベンチに向かって他会場の結果を確認していたことは、放心状態の僕でも判った。先に試合を終えた韓国とサウジアラビアはともに勝利。日本は、残りわずか10数秒で悲願を逃した。いわゆる「ドーハの悲劇」だ。

 勝負は下駄を履くまで分からないという。勝負事は最後の最後まで何が起こるか分からないー。一瞬でもスキを見せれば、女神はそっぽを向く。真剣勝負の中に身を置いた方なら、そんな苦い経験をお持ちかも知れない。
 
 真弓監督が“最後を大切にしていない”と言うつもりはない。何年もプロの世界で勝負の厳しさを経験された方です。あの笑顔には、我々が憂うような意味はないとは、思う。ただ、戦場に身を置く選手が、それを見てどう思うか。大切なことは、「笑う」という行為の是非よりも、監督が“自分自身を客観視”できているかどうかではないでしょうか。リーダーである自分がこの状況で笑えば、それを見たグラウンドの“兵隊”たちは、どう感じるんだろう―。真弓監督が、その思考作業を踏んだ上で笑っているのか、皆目そんなことを考えずに笑っているのか。この差は大きいと思う。

 皆さんのコミュニティでもリーダー的な立場の人(会社なら社長や部長、現場主任…。運動部なら監督や主将…など)は、必ず存在すると思う。何が正解かは、成果や結果によって大きく捉え方が変わってくる。ただ、リーダーには“周りを見る目”が絶対必要だと思う。部下にこびを売るのとは、違う。優柔不断で、大事なところで決定権を他に委ねてしまうのも問題外。求められるのは、自身の行為、発言が周囲にもたらす影響、もしくは結果を、立ち止まって考察できるかどうか。「いちいちそんなこと考えてたら前に進めない」…などなど、リーダーによって考え方は色々あるんでしょうけど、きのうの真弓監督の「笑顔」には、そういう観点から、あまりいい印象を持てなかったのが、僕の正直な思い。あの状況で、“いいよ。笑ってくれていたほうがプレーしやすいから”と思う選手が、果たして何人いるのか。抑え捕手で9回からマスクをかぶった矢野捕手の厳しい表情と、指揮官の笑顔が、実に対照的だった。

 中日落合監督はオールスターゲームの際、国歌斉唱した松山千春さんに「今年はけが人が多いから」と阪神の低迷理由を話しました。確かに、矢野捕手、赤星選手、岩田投手、ウィリアムス投手、久保田投手…藤川投手も一時的に登録を抹消されましたし、金本選手や関本選手も故障を抱えている。新井選手もまだ腰に痛みがある。落合監督のおっしゃる通り、勝つための「条件」で言えば、タイガースは「不利」なんです。でも“悪条件だから仕方ない”とはならないですよね。ディスアドバンテージを背負うチームにとって、例年以上に、「勝つ」ために必要な要素って何なんでしょう。練習や体調管理など「準備」を整えることは大前提(選手たちは皆、準備を怠っていません)。月並みですけど、それは、チーム全体のベクトルを同じ方向へ向けることだと思う。難しいことです。100㌫は無理かもしれない。ただ、可能な限り、そこに近づけるのがリーダーの役目だと思う。チームをまとめるのはリーダーであり、その行動、その発言が、選手のモチベーションに直結する。別にプロ野球チームに限らずそうですよね。リーダー的な立場の人間が、ネガティブな発言をしていたり、影で部下を批判する―そんな人間にリーダーの資質はありません。僕はこれまでのサッカー経験で、主将を2度、務めました。振り返れば、未熟だったなと、今でも反省することは多くあります。上に立って大切なことって、皆さんは、何だと思いますか?僕は、“自分を観る”ことだと思います。空の上から自分を眺めてみる。周囲から自分はどう映っているのか(八方美人になれという意味では決してありません。八方美人ではリーダーは務まらない。決断力は絶対条件でしょう)。
  
 果たしてタイガースはここから巻き返せるのか。選手たちは、4連勝を「励み」にはしても、「喜び」には感じていない。きのうのヒーローインタビュー見られましたか?能見投手はニコリともしなかった。一度も、ですよ。それどころか、声のトーンは消え入るように暗かった。選手はまだ誰も、笑えないんです。

                     2009年8月1日  吉田 風


 

球宴。

2009-07-26 20:08:19 | 日記
  札幌、広島とオールスターゲームの取材に行ってきました。僕の率直な感想を言えば、いわゆる「大御所」と呼ばれる人たちが、年々少なくなってきてるのかな、と。話題の中心は、ダルビッシュ投手(22歳)であり、マー君(20歳)であり、坂本勇人選手(20歳)であり、由規投手(19歳→今回は登板回避しましたが)であり…ひと昔前に比べたら「スター選手」が本当に若返ってますよね。おかわり中村選手(25歳)や中島裕之選手(26)、青木宣親選手(27)はもう中堅どころ。札幌から広島まで、オールスター選手を乗せたJALのチャーター便に同乗したのですが、座席に座る両軍選手の面々を眺めながら、そんなことを思っていました。
 
 日本球界にイチロー選手、松井秀喜選手、松坂大輔投手らメジャー移籍組が残っていれば、日本のオールスターゲームもまた違った“構図”になるんでしょうけどね。僕が子どもの頃に見ていたオールスターというのは、それこそ、若手選手たちが「大御所」の存在感に圧倒され、同じベンチ内で緊張しまくっていたイメージがあるもので、そういう意味では、随分変わったなぁと感じる気持ちも半分…。でも、だから現状がどうだとか、そういうことを言うつもりはないんですけどね。
  
 それとは全く違う次元の話なんですが、今回、広島のマツダスタジアムの記者席で、僕の隣に座られたのが、なんと清原和博さん。席1つ挟んで…とかじゃないですよ。真となり、ですよ!(笑)新聞社の評論家の仕事で来られてたんですけど、それこそ、こっちは緊張しますよ(苦笑)。僕ら昭和の人間からすれば、清原さんと言えば、もうマジでやばいくらい!スーパースター。僕にとっては、巨人時代よりも、西武時代のインパクトが強烈でね。清原さんがルーキーのとき、僕は高校1年生だったんですけど、部活でサッカーに明け暮れながらも、夜はプロ野球ニュース(現すぽると)で清原さんの活躍を見るのが楽しみだった。新人で31本塁打って…。日本シリーズで4番を務めて、いきなり西武の日本一に貢献って…。今じゃ、あり得ないでしょ。それこそ、その年のオールスターにも当然のように出場して、第2戦、大阪球場で大洋の遠藤投手から本塁打を放ってMVP。誕生日は8月だから、7月末の球宴はまだ18歳ですよ。日本ハムの中田翔選手(僕も少し面識があって応援してるんです)は、将来もの凄い打者になるんでしょうけど、彼が2年目でフレッシュオールスター(MVPでしたね)に出場していることを考えれば、清原さんの若い時代を知らない方も、その偉大さがわかると思います。

 話がそれました。そんな清原さんのオーラを右隣に感じながら、球宴記事を書いていたのですが、それにしても惜しかったですね、金本選手の第1打席。先発涌井投手の直球をとらえた瞬間は、間違いなく行ったと思いました。清原さんも「これはホームランやろ!」と。で、打球が上がった次の瞬間、僕と清原さんは、まったく同じ行動をとりました。バックネット裏の4階に位置する記者席は、位置的にセンターバックスクリーンが見えづらく、僕と清原さんは、立ち上がって、スコアボードの上のフラッグを確認しました。風です。追い風か、逆風か。無風なら、完全にフェンスオーバーの打球。清原さんも「ホームランやろ!」と言いながら、
反射的に、最後の「条件」を確認されたんです。僕も、特に甲子園では、金本選手が本塁打性の打球を打ち上げたときは、必ず、スコアボード上のフラッグが、どの方向に揺れているか、反射的に確認してしまいます。きのう、マツダスタジアムの上空は、右翼から左翼への強風。右中間へ飛ぶ打球には強烈な逆風になる。左打者にとって「条件」は悪かった。逆に、右打者にとってはフォロー。おかわり中村選手が2回に放った打球は、左翼席上段を越えるマツダスタジアム最長の155メートル弾。宮本選手、サブロー選手の本塁打も左翼席上段まで飛んでいき、清原さんも「よう飛ぶなぁ」と。ちなみに左打者の松中選手も2本の本塁打を放ちMVPに輝きましたが、1本目は左翼へ。2本目は右翼への1発でしたが、ポール際(ここは甲子園でも逆風に左右されない)。風と戦った金本選手だけ損?しちゃいましたね。試合後、金本選手に「清原さんが『風がなければ』とおっしゃってましたよ」と伝えると、「(風が)ちょっと強かったな」と苦笑いを浮かべてロッカールームへ引きあげてきました。
  
 皆さんからのコメント。いつも真剣に読ませていただいています。だいさん、あらかねマニアさんはじめ、最近、金本選手の連続フルイニング出場の存続を、すごく心配されている方が多くいらっしゃることが分かります。記者として、僕には取材に基づいた客観的は記事が求められます。そして、だからこそ、言えることがあります。(ポチさんのご質問は、次回僕なりの意見を書きたいと思います)。

 世代交代は必ず必要です。金本選手も「永遠」ではありません。そして、色んな意見が出てきて当然です。チームが低迷していると、世代交代どうこうでなくとも、選手への風当たりが強くなるのが人気チームの宿命ですから。では、ここからは僕の意見。あくまで客観的なね。たとえば、今すぐ「代役」を左翼に据えることが、これからのタイガースのためになるのか。例えば、それは誰でしょう?あくまで世代交代の話なんで、まずはチームがこんな状況であることを抜きにして考えましょうか。優勝を狙うチームとして、真弓監督がその選択をすれば、チームは崩壊しますよね、間違いなく。「年齢」じゃない。「力」の話です。金本選手より打てる打者かどうかの選択になりますから。シンプルな話です。では次に、自力優勝のなくなった現状を考えた場合はどうか。間違えてはいけないことは、前にもこのブログで書きましたけど、レギュラー争いもせずに「世代交代が必要だからどうぞ」なんて言われて、そのポジションにはめこまれても、大成なんてできないということ。真弓監督は4日前、(球宴出場のため)札幌へ向かう神戸空港のロビーでおっしゃってました。「タイガースの中だけのレギュラーなんて意味がないんだ」と。僕は今季の戦いを見てきて、真弓監督のタクトを全面支持はしてきませんでしたけど、今回の発言には納得できましたよ。都合よくではなく、本当にそうだと思う。低迷していても、1試合1試合は真剣勝負。その中でレギュラーを争う。まずは少ないチャンスで結果を残す(ここが難しい)。そこから、スタメンを勝ち取って、その次はレギュラーに。それを1年続け、3年続け…。当たり前過ぎて、書くのもどうかと思いますけど(苦笑)。このプロセスを否定される方はいないと思う。一番は、代役の選手の“ためにならない”ということ。金本選手や赤星選手ら不動のレギュラーを「力」で越えていかないと、それこそタイガースの将来は危ぶまれます。(若手にチャンスを与えるな、なんて決して思いません)

 僕は去年12月に名球会の取材でハワイに行ってきました。そこで王貞治さんと初めて話をする機会に恵まれました。緊張しまくりです(苦笑)。王さんの言葉、重かったですよ。「(金本選手の)左ひざの故障は勲章みたいなものだよ。普通にやってれば痛めない。人の何倍も練習するから、その代償がきたのだと思うし、だからこそ、この歳になっても成績が伸びてくる。フルイニング出場?続けて欲しいね。僕は1500試合までいって欲しい」。王さんは監督をされているときに、よくホークスの選手に言っていたそうです。「金本を見習え」と。
  
 球宴第2戦の試合途中、坂本勇人選手がテレビのインタビューに登場したのをご覧になられましたか?記者席にもモニターがあるので、マイクの声に耳を傾けると、何やら金本選手のことを話している。「やっぱり、オーラが違いますよ」「何が凄いって、とにかく勝負強い」。坂本選手は、僕の友達の弟の親友で、何度か話をしたことがあるんですけど、内面もすごくしっかりている印象。もちろん、タイガースにとっては「敵」になるんですが、若手で一番注目している選手なんです。金本選手のことを尊敬しているという話は聞いたことがあるので、今回の発言も、その延長なんでしょう。坂本選手曰く「プロにとって、試合に出ることが一番価値のあることだと思う。僕も金本さんのように試合に出続けたい」と。今の世代、フルイニング出場の価値が薄れているという論調(※160試合あるメジャーと単純比較するとおかしくなります)が一部であるようですが、「本物」の選手は、試合に出続ける「価値」を追求します。坂本選手のコメントがその証し。巨人時代の松井秀喜選手もそうであったようにね。タイガースで言えば、鳥谷選手もそうです。

 坂本勇人選手のような思いを持っている選手が、タイガースの若手にも本当に沢山います。金本選手のようになりたい。けがをしても、体調が思わしくなくても試合に出続ける姿は、彼らにとって何事にも代え難い「お手本」であり「励み」なんです。今月のはじめ、仕事休みを利用して、鳴尾浜(2軍施設)へ行ってきました。矢野捕手に会いたかったことが一番の理由(かなり長い時間、話せて良かった)だったんですが、若い選手とも話をしてきました。金本選手の話は、彼らの間からもよく出てくるんです。なぜか?皆、本当に金本選手のことを「尊敬」しているからです。いつかあんなふうになりたい―と、皆真剣に思っています。
 
 金本選手の連続試合フルイニング出場は、金本選手だけのものではないということ。若手にチャンスを?現状では、発想が逆です。タイガースの若手にとって必要な「生きた目標」になっている。それは外からじゃ見えないでしょうから、僕が言いますよ。選手の名前を挙げるとキリがないですけど、取材したからこそ言えることです。さっきも言いましたけど、色んな意見があっていい。ただ、軽々しく論じられるのは、ちょっと違うかな。阪神タイガースというチームにとって、それは、かけがいのないものだから。
※あっ、皆さん。明日は「アニキの1人語り」ですよ。デイリー買ってくださいね(笑)。
                     2009年7月27日 吉田 風