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内閣書記官長・星野直樹

2015-05-09 | 石川健治「7月クーデター説」の論理
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 5月 9日(土)10時00分0秒

今日は岸信介・矢次一夫・伊藤隆『岸信介の回想』(文藝春秋、1981)を読み始めたのですが、この本は伊藤隆氏の「はしがき」によると「岸元総理のインタビュー」であって、「私が聴き手になり、岸氏に語っていただき、矢次氏が補充してくださる」ものであるのに対し、矢次一夫氏の「あとがき」では「岸氏と私との対談を行うに当り、対談の進行や記録の整理等全般に亙って、伊藤教授のご協力を得た」のだそうで、伊藤氏と矢次氏の認識の違いが微妙に可笑しいですね。
また、雑誌『中央公論』で連載されていたにも拘らず出版は文藝春秋というのは変則的ですが、「あとがき」によれば、「文藝春秋社の故池島信平君は、戦後私の畏友として、とくに酒友として親しんだ人物であるが、安保騒動のころ、このときの政治的実情を記録しておくべきだとし、岸氏との対談記事を求めることには甚だ熱心だった。私も彼の希望に応じ、岸氏を説いたのであるが」、このときは時期尚早だとして行われなかったそうです。
そして『中央公論』での連載が十回で完結した後、「出版するということであれば、私として故池島君との約束を忘れるわけにはいけない」と考えた矢次氏が「中央公論社の諒解を得た上で、東大の伊藤隆教授を煩わして交渉の結果、文藝春秋社から出版の快諾を得た」のだそうで、矢次一夫氏の豪腕の現われのようですね。
原彬久氏の単独インタビューとして行われた『岸信介証言録』と比較すると、矢次一夫氏が加わっていることにより、『岸信介回想録』の方が情報の密度が濃く、会話の緊張感が高いように思われます。

矢次一夫(1899-1983)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2%E6%AC%A1%E4%B8%80%E5%A4%AB

『岸信介の回想』はまだ読み始めたばかりですが、情報通の矢次一夫氏の発言の中に一つ、誤りを見つけました。
ま、特に重要な箇所ではありませんが。(p49以下)

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 軍務局長のところで作った組閣名簿のなかでは、岸さんは内閣書記官長になっていた。それをもって東條さんのところへ行ったけれども、軍務局長は陸軍大臣の幕僚長ではあるが、内閣総理大臣の幕僚ではないという東條流の理屈で、おまえは黙っていろということで、握ったまま追い出されたという経緯があります。満州国の星野を書記官長、組閣参謀長にするという。その時に武藤が東條のところにねじこんで、陸軍省としては絶対に星野には反対だと言ったんです。これが後に武藤が追い出される一つの原因になっているんだけれども、東條さんは、お前の言うように星野が書記官長としてだめだということがわかったら、その時はお前の言ったとおり入れ替える。それまではいったん決めたことだから、俺にまかせろ、ということだった。それで結局星野を書記官長にした。しかし星野書記官長反対論が各方面から起こったんです。その最大の反対者として出てくるのは徳富蘇峰なんです。
 徳富蘇峰の家の隣に偶然、星野のお父さんが住んでいて、少年星野直樹は蘇峰におんぶしてもらったことがあるそうです。ところが星野のお父さんはクリスチャンで、混血でしょう。星野家は日本人ではない。そこで、この民族大変のときに、血純血ならざるものをこの衝に当てるべからず、という激しい手紙を蘇峰さんが東條に出したということがある。
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「星野のお父さんはクリスチャンで、混血でしょう」とありますが、星野直樹の父、光多は群馬県沼田の豪農・星野家に生まれた人で、この人自身は「混血」ではありません。
ただ、光多がフェリス和英女学校に勤めていたときに知り合った妻の長谷川みねの父親は英国籍の貿易商だったそうなので、星野直樹の母親はハーフ、直樹はクオーターですね。
それにしても、徳富蘇峰は自身が若い頃は熱烈なクリスチャンだったくせに、ずいぶんな言いがかりをつけたものです。
ちなみに南原繁の最初の妻、星野百合子は光多の姪で、星野直樹の従姉妹に当たりますね。
星野百合子の兄、即ち直樹の従兄弟である星野鉄男と南原繁は共に内村鑑三門下で仲が良く、その縁で百合子と南原繁は結婚したそうです。

星野光多(1860-1932)
http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/H/hoshino_mi.html
星野直樹(1892-1978)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%9F%E9%87%8E%E7%9B%B4%E6%A8%B9
星野鉄男(1890-1931)
http://www8.ocn.ne.jp/~kunio/hosino.htm

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