大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第49回

2017年02月09日 23時03分43秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shinoha~  第49回





「自分の信念を持って言ったんだろ?」

「えっと・・・今はファブアが出てくる話じゃないと思ったから・・・」

「それが自分の信念だ。 その自分の思いを信じて言ったんだ。 とても勇気あることだぞ」 

今までと違う意味でタイリンが下を向くのを見てシノハが両の口の端を上げた。 

「怪我は治ったか?」

「えっと・・・怪我っていっても、たんこぶだから」

「こぶはひいたのか?」

「・・・はい」

「そうか。 良かった」 

その様子を見ていたジャンム。 タイリンは勿論の事、ジャンムがまたシノハに魅せられたようだった。 ふと、その後ろでカサカサと音がした。

「わっ! ラワン何やってるんだ!」

シノハが作ったものを、ラワンが今にも食べようとしていた。 

「ラワンの物じゃないからな!」 一瞥するとすぐに取り上げた。

「それ何?」

木の皮で丁寧に編まれた円錐の形をした物が5つ重ねてあった。

「ああ、水作りの手織物をいつまでもザワミドさんに借りていられないだろ? 村が落ち着けば薬草も増えるだろうしな」

「あ! じゃあ、これを使って水を作るの?」

「ああ、次からはこれを使おう。 前の石をここへ入れて準備をしておくといいな」 前に使っていた小石や砂利はきれいに洗って干してあった。

「これってシノハさんが編んだんですか?」

「ああ、そうだ」

「木の皮も自分でめくって?」

「ああ、沼に出る前のあの鬱蒼としてるところがあるだろ? あそこだったら木も沢山あって、同じ木から剥がなくてすむから、あの場所を教えてもらっててよかったよ。 それにこの木の皮は手織物のように水を通さないだろう」

竹と似た質の木。 鬱蒼としたところには木が沢山生えているが、それだけではなく、色んな木の種類が生えていた。

「すごく上手に出来てる・・・」 タイリンがまじまじと見る。

「あ、恥ずかしいからあんまり見ないでくれよ。 それに一度試さないと水が漏れてくるようだったら、葉を敷かなくちゃいけないからな」 言ったかと思うと後ろで声がした。

「シノハ」 振向くとザワミドがこちらに歩いてきた。

「婆様がお呼びだよ」

「はい」 返事をするとまた向き直り、タイリンとジャンムに作ったものを渡した。

「これ、ラワンの届かない所に置いといてくれないか?」 その言葉にラワンがブフンと鼻を鳴らした。


タム婆の小屋に行くと、椅子に腰掛けるタム婆の前にトデナミが膝をついていた。 シノハが戸を開けるとすぐにトデナミが振り返り、場所を譲ろうと立ち上がりかけた。

「よい。 そのままで」 タム婆の顔を見ると、また膝をついた。

あれから・・・シノハにこの小屋に入れられてからは一度も話をしていない。 顔を合わせにくい。 シノハもトデナミと同じく酷い態度であったと思いながらもまだ謝れていない。

「シノハ、ここへ」 トデナミの隣に来るよう言った。

一度下を向き、息を吐くと歩を進めトデナミの横に膝を着いた。 トデナミは下を向いている。 シノハは前を見据えている。
タム婆が二人を見遣ると溜息をついた。

「二人ともいつまでそうしておる気じゃ?」 どちらも口を開こうとはしない。

「まるで子供のケンカじゃのう」 溜息をつく。

暫くすると下を向いていたトデナミが顔を上げタム婆を見た。 タム婆がコクリと頷くと、目で促した。
一つ息をのむとトデナミが口を開いた。

「あの・・・シノハさん・・・シノハさんに注意されていたのに、軽率な事をしてしまいました。 すみません」 少し頭を垂れてからシノハを見た。

前を見据えていたシノハが視線を落とすと次いで頭を垂れた。 息を吐くと、横に居るトデナミを見る。

「我の方こそ、大きな声で酷い言い方をしてしまって・・・すみません」

眉を上げてタム婆が二人を見遣った。

「二人ともそれでいいか?」 困った大きな赤子たちだといった様子で聞く。 二人が頷いた。

ガタン。 ザワミドが入ってきた。

「おや? ちゃんと仲直りできたのかい?」 昼飯を持って入ってきた。

「仲直りって・・・そんな子供みたいに・・・」 振向いたシノハが、立ち上がりながら言う。

「子供じゃないか」 4人分の昼飯であった。 シノハが手伝う。

「ああ、そうじゃ、ザワミドの言うとおりじゃ。 それと・・・トデナミは気付いておったか?」 大きな赤子への仲直りの念押し。

「あ・・・何のことでしょうか?」

「シノハが夜にはこの小屋の番をしておった」 トデナミが目を丸くして聞き返した。

「私の居た小屋で寝ていたのではないのですか? 外で寝ていらしたということですか?」

「婆様・・・」 シノハが言わないでくれという目を送る。

シノハを見て両の眉を上げると、トデナミに答える。

「ああ。 その後、トデナミの朝の行の間は周りを見張っておったようじゃな。 のぅ、シノハ」 意地悪な目をシノハに向ける。

「・・・婆様」 肩を落とし、溜息をつく。

「へぇー、シノハはそんな事をしてたのかい?」

「シノハさん・・・私、全然知らなくて・・・有難うございます」 タム婆の前から立ち上がりシノハの前に立つと、両の手を胸の前で握り、顔を下げ深く膝を曲げて身を低くした。

「あ・・・そんな、我が勝手にしていたことですから、どうぞ顔を上げてください」

二人のやり取りをタム婆とザワミドがホッとした様子で見守った。
そしてタム婆が椅子から降り板間に座ると、みなで昼飯を食べ始めた。

「婆様、今までの間に考えたのですが」 齧っていた鳥の肉を器に置いた。

「なんじゃ?」

「一度オロンガへ帰ろうと思います」 皆の手が止まった。 シノハが続ける。

「我がここに居るのは、婆様がお元気になられるまでです。 婆様はもう充分お元気になられました。 いつまでもただ飯を食ってばかりもいられません。 それにオロンガへ帰り、セナ婆様にタム婆様がお元気になられたとお伝えし、その後ゴンドュー村へトンデンの村長の伝令者として行ってきたいと思います」

トデナミとザワミドがタム婆を見る。

「ふうむ・・・」 タム婆が顎を触る。

「ただ飯という所はさて置き、確かにセナシルに安心してほしいのは山々じゃ。 それにゴンドューへの礼も言わねばならん」

「・・・婆様」 ザワミドが口の中で言う。

「トデナミのこと、長に協力したい事が中途半端になってしまいますが、用を終わらせてもう一度トンデンへ来たいと思っています。 その時までにはいい考えを出せるよう、セナ婆様にも相談をしたいと思っています」

「考えるところじゃなぁ・・・」

何を考えなければいけないのかが分からない。

「シノハが我が村の男じゃったらなぁ・・・」

「そうですよ。 この村のフヌケの男たちじゃ、どうにもならないんですから、今はシノハに頼るしかありませんよ」 

「いや、シノハはオロンガの男。 この村の男ではない・・・」 

シノハは二人の会話の筋が全然読めない。 トデナミを見てみると眉根を寄せ目線を下げている。 仕方なく聞いた。

「婆様もザワミドさんもいったい何のことを言ってるんですか?」 

タム婆が大きく息を吐くと頭をもたげた。 そのタム婆の様子を見て痺れを切らせたザワミドがシノハを見て重い口を開いた。

「長が殴られたんだよ」 

「え?!」 目を見開く。

「長が男たちをまとめようと動いていたんだよ。 そしたら夜、男たちの小屋から長の小屋に帰ってくるとき、暗がりで誰かに体中殴られてさ・・・木で」

「っと、待ってください。 誰かにって・・・男たちは誰か知っているんでしょう?!」

「それが分からないんだ。 本当に・・・ドンダダ側だろうとは思うよ。 でもね、そのとき長はドンダダについていない者っていうか、どっちつかずの男たちの小屋からの帰りだったんだ。 朝になって女が倒れている長を見つけたんだけど、夜中の間に誰が小屋から出て行ったかなんて分からないからね。 
ドンダダも驚いてたけど、それが本当かどうかも分からないしさ」 腕を組んだ。

「長の傷は?」

「良くない。 と言っても治らないとか、この先どうなるか分からないって言うんじゃないよ。 ただ、シノハも言ってただろ? 落ち着いたら長がゴンドュー村へ礼に行く話。 あれは出来ないね。 完治するまで暫くかかる」

「何てことだ・・・」

「今のフヌケの男たちじゃ、この村はどうにもいかないよ。 せっかく女たちが頑張って一人でも長側に付かせるようにしてたのに全部オジャンだよ」 組んでた腕をはずし、片手で頭を掻く。

「で、我に何が出来るんですか? 我は村の者ではありません。 村のことに何の口出しも出来ません」

「分かってるさ。 分かってるけど、シノハの存在があのフヌケの男たちにどれほど大きいか。 シノハが居てくれるだけで男たちが変わっていくかもしれないんだよ」

「そんな、買い被りです」 

「シノハはオロンガの者。 無理は言えん。 じゃが、オロンガへ帰るのにあと少しはいいじゃろう?」

「はい。 長の様子も心配ですから」

(それにしても・・・ドンダダではないんじゃないか? ドンダダは黙っていてもゴンドューのことで、今の長を長の座から落とす事が出来ると考えているはずだ。 それじゃあ誰だ? ドンダダにいい顔をしようとしているヤツか? ・・・いや、そんな事は無駄と分かっているはずだ・・・)

「シノハさん?」 名を呼ばれハッとした。 トデナミがこっちを見ていた。

「食べないんですか?」

「あ、ああ。 いただきます」 

「シノハ、悪いねぇ」 ザワミドが言う。

「何がですか?」

「森の中の実や鳥・・・いつも同じものばかりだろ? それに沢山とれないから腹が減ってるだろう」

「何を言ってるんですか。 さっきも言いました。 ただ飯ばかり食ってて申し訳ないだけです」

「ただ飯じゃないさ。 シノハがどれだけ婆様を元気付けてくれたか。 それにトデナミ一人では全てをやり通せなかったよ。 シノハが居なくちゃ婆様もろともトデナミも倒れていたよ」

「トデナミは働きすぎですからね」 

「そんな事はないです。 私の要領が悪くて時を取ってしまうだけなんです」

「・・・そうじゃなぁ・・・。 トデナミが疲れているのはよくわかる。 じゃから、シノハが小屋の外にいたのに気付かんかった事は分かる。 じゃが、行の時にシノハが居た事に気付かんかったというのは、考え物じゃな」

「はい・・・申し訳ありません」

「婆様、食べている時に説教は止めてくださいよ。 せっかく作ったのに不味くなりますよ」 ザワミドに言われタム婆が肩をすくめた。

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