大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第9回

2016年09月19日 21時56分04秒 | 小説
- 映ゆ -  ~Shinoha~  第9回




「ラワン、煙が見えてきたぞ。 きっとあそこがタムシル婆様(ばばさま)の居られる村だ。 盗賊から逃げてばかりで疲れただろう、あと少し頑張ってくれ」 肩まではかからない長さの後黒髪を揺らせながら言うと、オーンとラワンが返事をした。

ずっと先には森のようなものが見える。 そこから煙が上がっていた。

太陽が空に上がっている時間だというのに、先の空には橡色(つるばみいろ)の雲がかかっていてどんよりとしていた。

「気味の悪い雲だな・・・」 目の先に見える空を見て眉をしかめたが、一方でやっと着いたのか、という思いで数日前を振り返った。

「それにしても何だってあれほど盗賊に遭わなくちゃいけなかったんだ。 トワハからそんな話は聞いてなかったのにな」


シノハの村では他の村に用を伝える、何かを持っていく等のときに出向くのには、行く先の村によって割り当てがあった。 

最初に20代の若者がその役を仰せ付かり、40の歳になる頃には選ばれた次の若者に、行く先の村への顔合わせも兼ねて道を教え、注意しなければならない場所などを教えながら何度か同道する。


タムシル婆の村へ出向くのは、シノハの兄のトワハと決まっていたのだが、トワハが馬から落ち、肩と肘を骨折してしまいズークの手綱を持つことが出来なくなっていた。 

他の村では俊足な馬に乗るが、シノハの村では馬に乗らない。 ラワンの種(しゅ)となるズークに乗る。 ズークとは羚羊(れいよう)の中の一つのような種である。

よって、シノハの村には馬がいないのだが、数日前若い衆が薪を割っている時、どこかで馬の嘶く声が聞こえた。 顔を上げ、みんなで目を合わせていると、次に鼻をならす音が聞こえてきた。 

その時、その場に居た一番年上のトワハが斧を置き後ろを振り返り歩き出すと、村の薪小屋の後ろに馬が1頭居るではないか。 手綱(たづな)がこれから割ろうとする積み上げられた木に引っ掛かって身動きが取れないようだった。

手綱を木から解いてやり、その手綱を持ち、皆の方に連れて行くと「鞍がついているから迷い馬のようだ」 と言い、そしてそのまま薪を割っているように告げると、馬を連れて長(おさ)の元に向かった。

トワハはチャンスと思っていた。
この村も馬に乗るべきだと考えていたからだ。 

だが、長の元に連れて行くと「この村に馬はいらぬ」 と一蹴された。

「何故ですか? どこの村でも馬に乗っております」

「我らは祖代々、ズークと共にいる。 それにこの土地に馬は向いておらぬ」

言い切られて、何とか馬の良い所を見せようと馬に乗ったとき振り落とされ骨折をした。


よって、常ならトワハがタムシル婆の居る村へ出向くのだが、それが叶わない。

そこで村の“才ある者” セナ婆(ばば)が、

「姉さま(タムシル婆)ならシノハをよく知っている。 あの村は疑り深い村が故、下手に知らないものが行くと槍を突いてくるかもしれん。 
シノハなら、姉さまが証明してくれよう。 トワハの代わりに行ってくれるか?」 と問われた。

シノハはタムシル婆の村へ行ったことはなかったが、タムシル婆がまだ元気に身体の動く頃、タムシル婆の妹であり、我が村の“才ある者”、セナ婆の家を訪れては、セナ婆に懐いているシノハを可愛がってくれていた。

タムシル婆が年老いてからはそれが叶う事はなかったが、シノハはタムシル婆に逢いたいという気持ちがあった。 

だからこの事を聞いたときには心が躍った。

「だが、姉さまの村に行くとシノハの知らぬことがある。 それを聞いても驚くなよ」 と言われた。

それが何なのかは言ってもらえなかった。


セナ婆はトワハの代わりにシノハをトンデン村へ行かせるようにしておくれ、と長に言った。

セナ婆から託された“薬草の村”と呼ばれるに恥じない沢山の薬草を間違いなくタムシル婆に届けたい。 

トワハにはしつこい程、危ない所はないかと尋ねていた。 

万が一にも薬草を落としたり、盗られたりすることがないように。 

トワハからは岩山には盗賊がいる事を聞いていたが、それ以外は聞いていなかった。



「タムシル婆様に逢えるのは久しぶりだ。 少しでも傷が治まっておられるといいのだがな」 ラワンの首の後ろに話しかけるが返事がない。


風の噂に聞いた。 タムシル婆の居る村の地が大きく揺れ歪み、タムシル婆が大きな傷を負ったと。 だから、タムシル婆の妹であり、シノハの村の“才ある者”であるセナ婆が薬草を持っていくようにシノハに託したのだ。


「なぁ、ラワンもタムシル婆様に逢いたいだろう? なんてったって、タムシル婆様が居られなかったら、ラワンはこの世に居なかったかもしれないんだからな」 

そう言ってもラワンの返事がない。



母ズークのお産が始まってもラワンはその腹からなかなか出てこなかった。 
そして夜中、少しの明かりの中、母ズークが倒れてもがき苦しみ空を蹴りだしたのを見て、三日三晩見守っていたシノハが慌ててセナ婆の家に飛び込んだ。

だが、運悪くセナ婆は今までにない高熱を出して寝込んでいた。 が、丁度セナ婆の元にタムシル婆が来たところだった。 

話を聞き、急ぎ産小屋へ行くと母ズークの中に腕を入れ、何かを確かめるように手を動かしていたかと思うと、素早く引っ掛かっていた足を解き引き出した。 その上、蹄の向きを見ると逆子であった。 
タムシル婆が「手伝え!」 と叫ぶと、丁度様子を見に来たシノハの父親が慌ててその足を持った。 タムシル婆、シノハとシノハの父親の三人でその足を掴みグイグイと引っ張り、お腹の中の仔をようやく出した。

生まれ出てきたのは、生まれたばかりの赤仔とは思えないほど肉付きがよくその上、骨組みも大きかった。

「まぁ、まぁ、なんと大きな仔じゃ。 これでは普通でも簡単には出てこんわなぁ」 ラワンが生まれて最初に声をそそいだのはタムシル婆だった。
そう言って薄明りの中、その場を歩き出すと

「婆様ありがとうございました」 シノハの父親がその後ろ姿に声をかけ、すぐに母ズークと赤仔を見やった。

薄明りの中である。 父親は背丈も肉付きも声もよく似たタムシル婆を、セナ婆だと思い込んでいた。

当時14歳だったシノハは、父親がタムシル婆に気付かないかと、ドキリとしたものだった。



「なぁ、さっきからどうしたんだよ。 返事ぐらいしてくれよ」 

ラワンが何故か無視を決め込み黙々と歩いていると、村の様子が段々とシノハの目に見えてきた。

「あれは・・・」 頭巾を下ろす。

煙が立っていた森の手前、そこに見える村らしからぬ姿に寸の間息が止まった。 

「ラワン、すまない、疲れているだろうが最後の力で走ってくれ」 そして一つゴクリと唾を飲むとラワンの横腹を踵で蹴った。

ラワンがオーンと嘶くと一直線に走り出した。


ラワンから下りると地を踏みしめた。 風が黒いマントを揺らすたび、織機で作った生成り色の衣が見える。 上衣は筒袖に裾が膝の少し上まであり、その上には茶色の袖のない尻の下までの長さの合わせ襟を着ている。 
編み上げのある靴の中に上衣と同じ生成りの下衣を入れている。

手綱を持ち目の前の光景に慄然とした。

木が根から掘り起こされたように倒れている。 地が盛り上がっている所もあれば、割れている所もある。 
きっと家が建っていたのだろう、無造作に積みあがった幾つもの木の塊がある。 あの下には女達が編んだ敷物があるに違いない。

家の中の誰かを探そうと思ったのだろうか、崩れた家を掘り返したようなあとがある。 
元は家であったのであろうか、織機なのだろうか、血の付いた木が散乱し、その間に木の椀が転り、引き裂かれたような布も見える。

上手い具合に火は上がらなかったようで、焼け焦げた跡はないが、何もかもがなくなってしまっている。
厩にあったであろう藁が風に舞い、砂埃が立つ。

ゆっくりと辺りを見回した。

「あれは?」 先に目をやると足早に歩いたが、それまでの地にべっとりと血がついていた。 

目にしたのは多分薬草小屋だったのだろう。 乾燥した薬草が粉々になっている。

「薬草が使えていないのか・・・」 もう一度辺りの惨状を見渡した。

「・・・なんてことだ」 あまりの惨憺(さんたん)たる光景にどうしていいのか分からない。 暫し立ちすくんでいたが、やっと我に返った。

「婆様は? タムシル婆様!」 思わず叫びかけた。

「そうだ、煙!」 遠くから見ていた煙を見つけるとそちらに歩を向けた。
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