言語表現論課題「思い出のご馳走」
  十九の真夏、札幌で高卒認定を受けた。
  前日に散財したせいで、試験当日の昼ご飯を買う金がなかった。500mlのお茶一本で昼を過ごす、いや、そもそも僕は「社会」の試験さえ受ければよかったのだが、その試験が昼時後だと会場前で初めて知った。どちらにしても、チェックアウトの時間を考えれば、会場隣のベンチで休まざるを得なかったわけだが。
  一二時間も日向のベンチに座っていると、いつの間にかお茶がなくなっているのも容易に想像できるだろう。乾きすぎると吐き気を催すのは、きっと、口内を吐しゃ物でも良いから潤したいからだろうか? さすがに吐きはしなかったが、試験前の状態としては最悪だろう。
  そんな様子の僕だったわけだが、傍から見れば暇そうに休んでいる西郷どんに見えるわけだ。男女一組のアジア人が片言で話しかけてきた。
「すみません。ちょっと、このカメラの映像を見てもらえませんか?」
  僕はとてもそんなものを見ていられる状態じゃなかった。今思えば、この方々は何が目的だったのか分からなかったが、疲れている僕は勝手にそれを宗教勧誘だと思い込んだ。僕は生粋のカトリックだ! モルモンか何か知らないが、まあずけずけと勧誘できるもんだな! と今でこそ言ってのける自信はあるが(そのくせ、無神論者なのだからキリストも気の毒だ)疲れ果てていた僕は「ああ、結構です」と試験会場へ逃げ込んだ。
  試験の話はしなくても良いだろう。おかげで今は院生です。
  終えた後、母から連絡が来る。モルツのビアガーデンにいるから来いとのこと。僕の重いんだか軽いんだが、いまいち覚えていない足取りは、やかましい人々の群れを抜け大通り公園を進んでいった。札幌のビアガーデンと言えば、テレビ塔から資料館の前まで一直線にビール会社が出店している。たくさんの疲れ切った人々がそこで喉を潤すわけだ。僕だって、十九とはいえ、もしかすれば飲めるんじゃないか? と期待したものだが、ここは法に触れてはいけないから、僕の思い違いということで、二十歳ということにしておこう。
  美味い!  ジョッキを一気飲みした時のあの快感は今後また味わえるかどうか分からないぐらいには、本当に美味い。あの熱気、疲れ果てた神経、そんなものが一気に極楽浄土へと変わってしまうのだから、本当に不思議なものだ。周りの人々の騒ぎ声なんか、このたかだか一杯でクリスマスの聖歌隊みたいになっちまうんだからさ。もう一杯。もう一杯。確か三杯以上は飲んだっけな? 今もそうだけど、他人の金で飲む酒はまあ美味いもんだ。いくら飲んでも金に困らないんだから、いくらでも飲んじまうよなあ。ああ、それと僕が改めて伝えたいことは、次の一文に集約しておこうと思う。本当に大切なことだからね。
「お酒は二十歳になってから」ああ、飲みたくなってきた。
  十九の真夏、札幌で高卒認定を受けた。
  前日に散財したせいで、試験当日の昼ご飯を買う金がなかった。500mlのお茶一本で昼を過ごす、いや、そもそも僕は「社会」の試験さえ受ければよかったのだが、その試験が昼時後だと会場前で初めて知った。どちらにしても、チェックアウトの時間を考えれば、会場隣のベンチで休まざるを得なかったわけだが。
  一二時間も日向のベンチに座っていると、いつの間にかお茶がなくなっているのも容易に想像できるだろう。乾きすぎると吐き気を催すのは、きっと、口内を吐しゃ物でも良いから潤したいからだろうか? さすがに吐きはしなかったが、試験前の状態としては最悪だろう。
  そんな様子の僕だったわけだが、傍から見れば暇そうに休んでいる西郷どんに見えるわけだ。男女一組のアジア人が片言で話しかけてきた。
「すみません。ちょっと、このカメラの映像を見てもらえませんか?」
  僕はとてもそんなものを見ていられる状態じゃなかった。今思えば、この方々は何が目的だったのか分からなかったが、疲れている僕は勝手にそれを宗教勧誘だと思い込んだ。僕は生粋のカトリックだ! モルモンか何か知らないが、まあずけずけと勧誘できるもんだな! と今でこそ言ってのける自信はあるが(そのくせ、無神論者なのだからキリストも気の毒だ)疲れ果てていた僕は「ああ、結構です」と試験会場へ逃げ込んだ。
  試験の話はしなくても良いだろう。おかげで今は院生です。
  終えた後、母から連絡が来る。モルツのビアガーデンにいるから来いとのこと。僕の重いんだか軽いんだが、いまいち覚えていない足取りは、やかましい人々の群れを抜け大通り公園を進んでいった。札幌のビアガーデンと言えば、テレビ塔から資料館の前まで一直線にビール会社が出店している。たくさんの疲れ切った人々がそこで喉を潤すわけだ。僕だって、十九とはいえ、もしかすれば飲めるんじゃないか? と期待したものだが、ここは法に触れてはいけないから、僕の思い違いということで、二十歳ということにしておこう。
  美味い!  ジョッキを一気飲みした時のあの快感は今後また味わえるかどうか分からないぐらいには、本当に美味い。あの熱気、疲れ果てた神経、そんなものが一気に極楽浄土へと変わってしまうのだから、本当に不思議なものだ。周りの人々の騒ぎ声なんか、このたかだか一杯でクリスマスの聖歌隊みたいになっちまうんだからさ。もう一杯。もう一杯。確か三杯以上は飲んだっけな? 今もそうだけど、他人の金で飲む酒はまあ美味いもんだ。いくら飲んでも金に困らないんだから、いくらでも飲んじまうよなあ。ああ、それと僕が改めて伝えたいことは、次の一文に集約しておこうと思う。本当に大切なことだからね。
「お酒は二十歳になってから」ああ、飲みたくなってきた。