思考ダダ漏れ

なんとなく書こう

昔の作品1

2017-04-16 08:55:14 | 断片・詩・構想・屑
  これはまだ書き方を知らなかった頃の作品だ。昔の文章を読むというのは、なんだか恥ずかしいものだが、随分変化したものだと思う。この頃はまだ大正文学かぶれだったな。とはいえ、案外、やりたいことはそう変わっていないのかもしれない。


  休学中のことである。その日は寒い冬の日だった。朝から朝と呼べるような輝かしい日差しも無く、曇よりとした空に大粒の雪が降っていた。
  何もすることがなかった。何をするとて、それが何によいのか、まるで検討もつかない。終いには何かをすれば叱りを受ける始末である。かといって動かなければ、それはそれとして叱られる。しかし、この寒さとあっては布団から出たくないもので、正午の三十分前に母に叱られて起き上がった。起き上がっても、読書をする気にも、絵を描く気にもならない。どこか遠くへ行きたいだとか、美味い飯を食べたいだとか、何か趣向品の一つを手に入れたいだとか、それらをするにも金がいる。金が無ければ、自由もない。
 「散歩でもしてきなさい」
  母は私に言った。優しく言ったつもりらしいが、疎ましいから家に居るなと思えてならなかった。それも妄想でしか無いのだが、一度そう思うとそうなのだとしか受け取ることができない性格で、怒りっぽく「散歩してくる」と伝えて、長靴を穿いて家を出た。
  寒さが染みた。これでも散歩している分は親孝行をしているつもりだが、彼らにとって最も喜ばしいことは、私が居ないことだ。それも慢性的に居ないことだ。私を孕んで生み出したくせに、私を疎ましく思うのだから、元々孕まないで欲しかった。
  雑貨屋で燐寸と煙草と、一口で飲める酒の缶を買った。しばらく歩いて、海沿いに面した公園の長座椅子に腰をかけ、酒を食らって、煙草を吸った。雪が止み、空は青みがかってきた。だからと云って気分が晴れるわけでもなく、寒さが抜けるわけでもない。海を歩けば何か気晴らしがあるかもしれないと、歩くことにした。
  海は荒れていた。その方が動きがあって楽しいものだが、どうにも気が落ち着かない。波の音をしばらく聞くと、無性に腹が立って、海を蹴りつけようと浜へ近づくと、急に勢いが増して、脛まで濡らしてしまった。今度は愚かな自分に腹を立てて、どうにかこうにかしてやろうと、海へ片足を突っ込んだが、膝まで濡れてくると虚しくなって、砂浜へ戻った。項垂れながら、消波積み木に腰をかけた。
  足が痛むほど冷たく、その冷気が上半身を覆うような心地がした。何処にも宛が無い。それこそ実家へ戻れるはずもない。勝手にそう思い込み、地団駄を踏んだとき、消波積み木の溝に足を滑らせそうになった。実家へ帰ることを決めた。
  花屋へ寄った。花屋へ行くとき私は、絵を描く材料を探したり、植物を育てて何か意欲でも沸かないものかと、そう考えていることが多いのだが、この日は何も考えてはいなかった。
  店主は私を見て、規定の挨拶で出迎えると、花の手入れの続きを始めた。大方、私が普段何も買わず店を出る客なものだから、また金にならない客が来たとうんざりしていたに違いない。私は花を見て回った。色とりどりだが、あまり面白くはなかった。どれを見ても、何が美しいのか、何が良いのか、まるで分からなくなっていた。いつしか私は、ここがどこなのかも分からず、何を見ているのかも分からなくなった。これが何色だとか、どんな形だとか、それが気になると、それを私は触り始めた。店主は嫌そうな顔で私を睨みつけたが、構わずに続けた。何か甘い匂いがして、鼻を近づけてみたが、匂いが強くならなかった。別のものだと気付いて、どれもこれも形や質感を手触りで感じながら、鼻を近づけて匂いを嗅ぎ回った。いよいよ店主も注意を促さないばかりの剣幕を晒そうとしたとき、その匂いのものが見つかった。私は感激して、これを買った。店主と互いに微笑んで挨拶を交えたあと、実家へ帰った。
  私が帰ることは吉報ではないので、できる限り帰ったことを伝えないよう自室に閉じ籠った。散らかった用紙や、油絵具を払い除けて、机の上にそれを置いてみた。これが事の他美しく思えたので、私は自分が描いた絵と云う絵を破り捨てた。次に何か光が足りないので、本を積んでその上にそれを置くと、いよいよ神々しく見えて堪らなくなり、部屋の電球を放り投げた。軽い炸裂音と共に散らばった音がした。得体の知れない幸福に満たされて、それをあらゆる角度から眺めた。それはどの角度からでも神々しさを残すのであった。
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