D.D.のたわごと

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「なぜ人を殺してはいけないのか」◆入門編◆[後]

2006-08-20 15:12:09 | ニュース
小学校のホームルーム形式で人類の一大テーマを語る[前編]はこちら

もともと最初の記事「なぜ人を殺してはいけないのか」(06/02/16)はこちら。



■殺されたくないから「いけない」ことにした?
橋崎「そろそろ,結論になっちゃうと思うんですけどいいですか?
  つまり,昔の人たちが,殺されるのがいやだからお互い殺さないようにしましょう,
  守らなかったら死刑にしたり刑務所に入れたり追放しますよ
  って決めただけの話だと思うんですよ。
  むずかしく考える必要なんてないんじゃないのかなぁ。」
水戸光千代(以下水戸
 「ちょっと待てよ。殺されるのがイヤだから殺しちゃいけないと決めたとか
  殺さないほうが罰を受けずにすむから殺さないとか
  そんなせこい計算で物事を考えるお前みたいなやつといっしょにするなよ。
  世の中の人は,みな心の中に正義をもっているんだよ。
  おれだって,人を殺す必要があったとしてもその気持ちをおさえる
  ことが正しいという信念をもっている。だから殺さないんだよ。」
「??? 水戸くん?世の中のほとんどの人が
  人を殺しちゃいけないと思ってるのはわかってるよ。
  それがなぜなのかってのを話し合ってるんじゃないの?
  たとえば,君の信念って,どうして持つようになったの?」
「そんなこともわかんないのかよ?
  自分で考えてそう決めたんだよ。正義だよ正義!」
田嶋「…水戸くん,ちょっといい?
  君にとって,お母さんは大事?」
「?…ああ,当たり前だろ。何聞くんだよ,いきなり。」
「お父さんは?おじいちゃん,おばあちゃんは?」
「大事に決まってるだろ。」
「その大事なお母さん,お父さんが,家にやってきた
  ドロボウに殺されたとしたら水戸君はどうする?
  警察につかまってもそいつは死刑にならないとしたら?」
「そうだったら,警察よりも早く見つけて殺してやるって思うな。」
「それは水戸君にとって正義なの?」
「当たり前じゃないか。そいつ,人を殺しても死刑にならないんだろ?
  そりゃ,犯罪になるからがまんしないといけないのは知ってるけど。」
「あなた,必要にせまられて人を殺しそうになっても
  殺さない信念があるって,さっき言ったじゃないの!
  さっきの鮫田君でさえ,大事な人を傷つけようと思わないように
  いためつけるって言ってたのよ。あなた,犯人を殺しても殺された人は
  生き返らないのよ。殺す必要なんてどこにもないじゃないの。
  それなのに,警察より先に見つけて殺すって,何言ってるのよ!
  自分が警察につかまらないなら仕返しに殺すわけ?
  私は,たとえ今,自分が殺されそうになっても相手を殺そうとは思わないわよ。
  そういうのが信念じゃないの?なにを気軽に信念って言葉を使ってるのよ!
  そういうことを考えてる男が戦争を起こすのよ!
  マッチョぶってる(強さや勇敢ゆうかんさを自慢じまんする)男が
  世の中をダメにするのよ!」
先生「まあまあ,田嶋さん,話が飛びすぎ…」



■本能なのか?
先生「橋崎くんは,殺されるのがいやだからお互い殺さないように
  殺してはいけないと決めたって意見だけど,水戸くんみたいに,
  最初から殺すのがダメだと思っているというのはどう思う?」
五輪鷹鷹氏)「人が人を殺さないというのは本能だからだと思います。野生の動物だって仲間とケンカしても殺すまでは絶対に戦わないし,動物をつかまえて食べるときも必要な分しか殺さないから,そういうふうにDNA(遺伝子=いでんし)にインプットされているんだと思います」
チンパンジーは子ザル殺すで。
 オスのチンパンジーが子連れのメスを自分のものにするときには,
 その,他のオスとの間にできた子を殺すんやて。で,
 子どもがいなくなったらメスは新しい子どもをつくるために
 新しいオスを受け入れるらしいで。
 …って,引くなワレ!
 おれの話やないて言うとるやろが!!」
「う~ん,むずかしいわね。
 人が人を殺さないのが本能で決まっているとしたら,
 殺人はいいも悪いもなくて,事故以外は最初から起こらないことになるわよね。
 実際に世の中で起こっていることはどう考えればいいかしら」
橋崎「こう考えたらどうかな。
 人が物を食べたいと思うのも本能だし,寝るのも本能。
 正確に言えば生理的な要求ってことになるんだろうけど。
 人が人を殺さないのも本能で,これを破るのはすごく苦痛なことだとする。
 けれど,拒(きょ)食症(しょう)や不眠(みん)症ってのが実際にあるように
 人が文明社会をもつようになってだんだん本能を忘れてしまうようになった。
 生まれたばかりの赤ちゃんはだれにも教わらないのにおっぱいを吸うことが
 できるのに,大きくなるとほ乳びんではうまく飲めなくなってしまうみたいにね」
小鉄「橋崎,大きくなってからほ乳びん吸ったことあるのか-?!」
「うるさいなぁ。(真っ赤)
 なかには,本能を忘れて人殺しをするようなやつも出てきた。
 それに対して,ほかの多くの人たちは本能的に不快であるとか危険だと感じて
 外敵と同じようにそれを排(はい)除しようとする。
 そういったことをあらかじめ防ぐために,法律とかルールといった形で
 “人を殺してはいけない”と,わざわざとりきめをした,と」
「考えただけでも人を殺すなんて,こわくて気もち悪いから,
  生まれつきそう思うようにできているって思いたいな」
藤原「逆に,人間って生まれつき残酷(ざんこく)だったりするよね。
  小さい子どもなんて,いけないことだと教わらなかったら
  トンボのはねむしったりアリンコふみつぶしたり平気でするし。」
「お言葉ですが,
  どんな動物だって,ほかの生き物を殺さず,つまり食べずに
  生きてはいけないから,草食動物以外は,ほかの動物を殺す本能を
  もっているのは当然だよね。
  問題なのは,人を殺さないという本能が人にあるかどうか。
  たとえば虫の死がいを見ても別に何とも思わないけど,
  人間に近い動物の死体を見たら気もち悪かったりこわかったりする。
  それは,さっきぼくが“本能的に不快であるとか危険だと感じる”と
  言ったこととつながるけど,
  自分の死を連想するからじゃないかなと思う。」

■教育?
沙真子「前に,ニュースで見たんだけど,赤ちゃんとその母親を
  殺した犯人がいて,その父親がインタビューに答えてたのね。
  その父親は,事件の当日,自分の住んでいる団地で事件が起こったことを
  知って息子に『お前がやったんじゃないだろうな?』って
  冗談で言ったんだって。
  そのしゃべり方とか,被害者(ひがいしゃ)への
  おわびとか思いやりより犯人である息子や自分の都合のことばかり
  話してるようすを聞いてたら,このお父さんは
  人を殺したり弱い人を傷つけたりすることが悪いことだって
  ぜんぜん息子に教えてこなかったんだな,残酷な事件とか
  悲惨なニュースも冗談にしか思えないような親に育てられたら
  人を殺すことに罪悪感をもたない人間になってしまうかもしれないって思った。
  だから,親の教育とかしつけとか,育つ環境って大事なんじゃないかな。
  人のことを思いやる気持ちがあったら絶対起こらないような事件なのに。」
橋崎「けど,それは,そういう親の子だから遺伝でそうなった
  という見かたもできるよね」
「『なぜ殺してはいけないのか』じゃなくて『どんな人が人を殺すのか』
  っていう話になりかけてるけど,『殺してはいけない』ことを
  生まれつき知っているのか,生まれてから教わるものなのか
  少なくともここまでの話では,どっちが絶対正しいとか絶対まちがってるとか
  絶対ってことはどっちもいえないわね。
※教員ですから。
   先生は,教育やしつけは大事だと思ってるけどね。」

「で…さっきから,何,みんなこっち見んねん?」
小鉄「サメダの父ちゃんすげぇよな~。
  “表出ろコラァ!!”って,すぐ怒(いか)るよな。」
「うちの親はたしかにアホなとこあるし言葉も汚いけど
  “人様に迷惑だけはかけるな”っていつも言われてるし
  おれなりにいい悪いの区別はつくって…たのむから構わんといてくれ
  うちの親のことは…」
田嶋「ってことはよ,鮫田くんは,本能的には怒りっぽいけど
  『人を殺してはいけない』と教えられているから人は殺さない。
  やっぱり,遺伝より教育なのよ!」
先生「理屈は通ってるように思えるけど,そこまで単純かな?
  ほかにもいろいろな要素がないかもっと考えて,
  かんたんに決めつけないほうがいいわね。
  それに,鮫田くんがどうだからという話は彼に失礼よ。

■社会状況?
「いろいろ(意見が)出てきたけど,逆に,殺してもいいんだと
  犯人が自分を正当化する理由を考えてみた。
  3番の『殺したかったから』は身もフタもないけど,
  1番だったら『お金をうばわないと自分がうえ死にするから』
  2番は『そいつを絶対にゆるせなかったから』
  ってところだろうね。そんな自分勝手な理由で人を殺すなんて
  ゆるせないって,みな思うよね。」
「思うね。」
「それはつまり,みんなが安心してくらせなくなるから。
  みんなが,安心してくらせる社会を大事だと思っているから
  『殺してはいけない』というルールを決めた
  ってことでどうだろう?
  有名な剣の達人の宮本武蔵(むさし)がいた,あの時代,
  戦国時代が終わって平和な江戸時代になると,
  戦いに自信のある人たちは戦(いくさ)で手柄を立てられなくなって
  困っちゃったんだよね。
  彼らは,平和な世の中では逆に役立たずになっちゃうんだ。
  そういうふうに,平和じゃない,殺すのも殺されるのも自己責任って
  世の中のほうがいいって人も,実際いるわけだから,
  今の日本でそうなっていないってことは,
  みんなが殺してもいい自由よりも安心を望んでいる
  ってことなんだと考えていいんじゃないかな」
「だから,それってさっき言ってた『殺されたくないから』って話だろ?
  そういうせこい次元で考えてどうするんだよ?!」
「君はさっき,自分で考えて人を殺すのはいけないって
  信念を持った,みんなもそうだって言ったけど,
  そうじゃない国や地域は今も存在するって,
  最初に話があったじゃないか。
  君が赤ん坊で生まれて大きくなるまでに,だれにも何も教わらずに,
  親や学校や日本の社会のえいきょうを受けずに自分だけで
  自然にそんな信念を持つなんてありえないんじゃないの?」
鷹氏「ぼくは,人が人を殺さないというのは本能だからだって
  さっき言ったけど,今でも別にまちがいじゃないと思うよ。
  だって,世の中の人のほとんどは平和にくらしてるわけだし,
  人を殺すようなやつはほんの少数のおかしなやつっつーか,
  なんかキレちゃってるようなやつだと思うんだよね。
  戦争をしたり殺人の多い国とかも,みんな苦しい生活してるとか
  いつ自分が殺されるかわからないようなくらしをしてるせいで,
  本当は殺しちゃいけないとあたりまえに思ってるんだよ。」
沙真子「戦争に行った兵士の話なんかを本で読んでも,
  上官の命令で捕虜(ほりょ)を殺したときすごく苦しくてはきそうになって
  まわりの兵士に,みんな最初はそうだ,そのうちなれると言われたとか
  ベトナム戦争とかでは人を殺しても平気になる薬を使ったとか
  書いてありました。
  イラク戦争に行ったアメリカ兵の人たちも心の病(やまい)になる人が多いとか
  ニュースや新聞でよく見ます。」
「戦争の場合は,殺されるストレスもあるから
  いちがいに人を殺すことが心の病の原因のすべてとはいえないけど
  確かに,実際に人を殺せと言われたら殺せないよな…
  本能でってのは,ぼくも否定してないし。」
「戦争とか震災とかで難民となっている子どもの写真って,
  本当は苦しいんだろうけどすごく明るい顔をしてたりするし
  住むところや食べ物にも困っているのに難民キャンプで殺人事件があるって
  書いてあるのを読んだこともない。
  貧しければ悪いことをするわけじゃなくて,
  何か心の問題があるんじゃないかな。」
先生「自分が読んでいないからないというのは正しい考え方とはいえないけど,
  貧しくても悪いことをしないで正しくくらしている人は
  本当に,日本にも世界にもいっぱいいるよね。」


■あなたの結論は?
先生「そろそろ時間だし,いろいろな意見が出ましたので,
   ここまでの意見をまとめてみましょう。」

なぜ人を殺してはいけないのか
 ・人にはもともと仲間を殺さない本能がある。 
    ※ふつうは人を殺すというのはこわくてできない。
    ※自分の死を想像するから人の死もこわい。
    ※むりやり殺人をやらされると心の病になる。
    ※しかし他の生き物や敵を殺すのは同じではない。
 ・けれど,世の中には殺人が起こっている。 
    ※文明が発達して本能がうすれた。
    ※社会で生活して損得や感情など他の人と対立することが増えた。
 ・それでは安心してくらせないので,あらためて
  殺してはいけないことをルールで決めた。
 
    ※みんなが殺人をしない・したくないということと,
     人を殺すことをゆるさないということは別。
 ・親が悪いと子どもも悪くなる可能性がある。 
    ※教育?
    ※遺伝?
 ・法律で決まっているから。 
    ※法律を決めるのは人。
 ・社会環境で命の重さは変わる。 
    ※貧しいから命の価値が軽くなるということではない。
 ・ダメなものはダメ。    


先生「こんなところでいいかな?
  それでは,最後に,みんな,これらのポイントの中で
  今,『人を殺してはいけない』世の中であるのはなぜか,
  その理由として一番重要だと思うのはどれか,手を上げてください。」

 A.生き物としての本能
 B.教育やしつけ
 C.安心なくらしを求める思い
   (戦争やすさんだ社会はいやだ)  
 D.人に対する思いやり
 E.ひとりひとりがもつ信念


「…はい。こういう結果になりました。(黒板に書く)
  今日は,こういうことで終わりますけれど,
  まだここで出なかった,みんなが知らなかった話とかもあるかもしれないし
  この後,ちがった考え方が思いつくかもしれないね。
  それでは,プリントの(1)と(2)(3)に記入して提出してください。
  (1)は『いけない理由』の割合を円グラフでかきこんでください。
   さっき手を上げた理由が100%だったらそうかけばいいし,
   A~E以外の理由があるならグラフの外にはみ出てもいいから書いてね。
  (2)は,今日のホームルームで印象に残った意見があったら書いてね。
   誰が言ったかとかも覚えていたら書いてね。
  (3)は,今日の感想。なんでもいいから書いてください。
  いつもと同じように,今日のホームルームのことは学級新聞に書いて
  家に持って帰ってもらって,お父さんお母さんに見てもらいますからね。」



と,いうことで,最後までお読みいただきありがとうございました。
今回は長いだけで,目新しい視点も特にないし,
そもそも「なぜ人を殺してはいけないのか」に対してどう答えるのか
という記事になっていない,どうなんだこれは?という感もありますが,
要するに,元記事では「『人を殺してはいけない』ルールがきちんと守られている
世の中だからこそ自分が無事に生きていられている
。そのことがわかっていれば
自分の勝手な思いでこのルールに疑問を持ったり否定するなどできないはず」
ということが言いたかったので,
「入門編」というコンセプトのもとに,
愚かな意図でこの質問をするような人間にならないよう,
小学生~中学生くらいの子が読んで,
『人を殺してはいけない』のが当たり前に守られているのは
今のこの時代,この場所に生まれ育ったからこそであること,
人々の思いや人の命が軽かった歴史やその反省があって
このくらしが成立していることをわかってもらえるエントリーを
目指して書いてみました。

あとは,話し合いの手順として,できるだけ論点を整理する手間とか
全員が共通した話の前提で意見を出し合えるようにすることの
必要性もわかってもらえるよう,
かなり先生に出しゃばってもらう形にしました。

これらの意図,実現してるでしょうか?
TB・コメント欄にてご意見いただけると嬉しいです。

********************
※最後までお読みいただいて本当にありがとうございました。
 「ご苦労さま,つか,こんなの読まされて苦労したのはこっちだ」と思った人も
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 (8/20現在,テレビラジオ部門37位ですが,今は?
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「人を殺してはいけない」と子どもに教えるには―次世代に伝えたい10の“ルール”
ヘンリー クラウド, ジョン タウンゼント, 飯塚 真奈美
花風社
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なぜ人を殺してはいけないのか◆入門編[前]

2006-08-20 14:50:42 | ニュース
いや~,7月中どころか,お盆を過ぎてようやくのUpになってしまいました

2月16日にUpしたなぜ人を殺してはいけないのか
挑発的な表現ながら自分ではとても穏当で常識的な話を書いたつもりだったのですが
これに対して批判コメント&誹謗ブログ記事をいただきまして
冒頭の表現で読む人をカチンと怒らせてしまうと,
文章全体の意図が正しく(思惑通りに)伝わらないことがあること,そして,
「なぜ人を殺してはいけないのか(殺してもいいじゃないか)」と聞かれた際に
「じゃあ今お前を殺してもいいんだな」と切り返すのは
相手に理解力・想像力を要求する論法だということを知ることができました。

というわけで,先日予告させていただいたとおり
「なぜ人を殺してはいけないのか・入門編」を構想していたのですが
いちおう,できるだけ小学生でもわかる形と言うことで考えてみましたのでUpいたします。
今読み返しても,最初の記事で既に完結してますので
あちらを読まれた方にとっては蛇足に感じられるかもしれませんが
改めてこちらのほうもお読みいただき,ご意見・ご感想いただけると幸いです。

※ちょっと読んでいただいて
長くて説教臭くて既知の情報ばかりでまどろっこしい!
という人は,→[後編]の結論まで飛んでいただければと。


※小学校のホームルームという設定で読んでください。漢字や言葉も小学6年までの範囲を意識して書きました。また,登場人物は実在の人物あるいは既存著作物の登場人物とは全く関係ありません。
真市町子先生(以下先生
 「みなさ~ん,先週のホームルームで予告しておいたように,
  今日は『なぜ人を殺してはいけないのか』というテーマで話し合います。
  みんないろいろ考えたり,本を読んだり,大人の人に聞いたりしてみたかな?」

(一同)は~い。

「ちゃんと意見を出さないと,
  『水野晴郎がいけないと言ったから』という結論になったって
  学級新聞に書いちゃうぞぉ!」

(一同,えも言われぬモヤッと感)


「…,気を取り直して,
  では,提案者の池野さんに,このテーマについて説明してもらいましょう。」
池野沙真子(以下沙真子
  「私は,人を殺しちゃいけないのは当たり前なんだけど,
   いけない事なのに殺人事件がいくつも起こって,
   殺人が世の中からなくならないのは
   殺してもいいと思ってる人がいるのかなって,じゃあ
   『殺人はいけない』って,だれが決めたことなんだろうって…
   …わけわかんなくなっちゃってごめんなさい。
   とにかく,不思議に思ったのでみんなの意見を聞きたいと思いました。」

浜岡小鉄(以下小鉄
  「そんな当たり前のこと,なぜかなんて考えたって
   わかりっこねーじゃん。そんなことより,プール行こうぜー!!」
 ≡


■本当に絶対「人を殺すことはいけないこと」なのか?
先生「このことを話し合う前に,『人を殺してはいけない』というのが
   本当に正しいのか,これがもしまちがいだったら話にならないわよね。
   まずみんなで確認しましょう。これは,いつでも,どんな場合でも,
   世界のどこへ行っても絶対正しいとみんな思ってる?
   そうでないという場合とかあるかしら?」
藤原一長(愛称「組長」。以下藤原)「戦争してる国って,平気で人を殺してるよね。」
橋崎徹也(以下橋崎)「1人殺せば殺人だが,100人殺せば英雄(えいゆう)だ
   って言葉があるけど,戦争になったらほんと何でもありになっちゃう。
   戦争以外でも,むかしの中国なんかでは皇帝に人の肉を食べたいと
   言われた家来が自分の子を食肉にして差し出す話なんてのもあるし,
   名作といわれる小説にも人を解体して肉とかあぶら身にしちゃう話は
   意外と出てくる。『水滸伝(すいこでん)』とか,もしかしたら
   『西遊記』にもあったんじゃないかな?どの話もいろんなバージョンがあるし,
   子ども用の本ではカットしてる場合が多いけどね。」
「あと,インカだかアステカだかのむかしの中南米の王国では
   太陽の神さまへのいけにえとして健康な男の人が心臓をささげる
   のが名誉(めいよ)な話だったって本に書いてありました。」
「日本でも,江戸時代なんかは“切り捨て御免(ごめん)”とか
   あったわけで,むかしは人の命が今より相当軽かったと
   いえるでしょうね。
   まあ,どんな世の中でも,原則として殺人はいけない事だったはずですけど。」
今,わたしたちがあたり前の事として考えている話が
   世界のほかの国やむかしの世の中を見てみると,
   必ずしも絶対に守られているわけじゃない
ってことね。
   じゃあ,どういう条件がそろった国で『人を殺してはいけない』ことが
   守られているのかを考えるのも1つの手かもしれないわね。」

■殺人はみな一緒(いっしょ)?
「次に,もう1つ確認しておかないといけないのが,
   殺人はみな同じなのかってこと。
   『なぜいけないのか』って話なのに,人によって
   “これは殺人のうちに入らない”と考えているものとか
   “これはしかたない”と思うようなことが混ざっていたら,
   話し合いにならなくなっちゃうよね。
   みんなが思っている“殺人”って,どういうものがあるかしら?」   

「交通事故って,相手が死んじゃったら刑務所に行かされちゃうけど
   殺人とはちがうと思います。もちろん,やってはいけないことだけど。」
「医者が手術を失敗するのも,どうしてもさけられない場合があるわけだけど
   勉強不足・経験不足・練習不足でなんとかなるかといいかげんな
   気持ちでやられたら,これは犯罪だよね。場合によっては殺人。」

鮫田鍾馗(以下)「基本はドロボウやろ。金をとるために殺す,顔を見られたから殺す…
   いわゆる強盗やな。」
「マーダーケースブックにのってる連続殺人犯なんて,
   殺すことが目的でやってるとしか思えないやつばっかり。」
「なんだ?マーダーなんとかって。」

「あと,自分が殺されそうになったとき,自分の命を守るために
   戦うのはしゃーないやろ。正当防衛(せいとうぼうえい)ってやつやな。
   あと,自分の大切な女を守る場合もおれは命を張るね
   …オカンやでオカン(←ここ笑うとこや)。」
「自分の身を守る,必要以上に相手を傷つけたら過剰防衛
   (かじょうぼうえい)になるから,何でもやっていいってわけにはいかないね。」
「まぁ,実際,死なすいうことはないやろな。
   2度と悪さできないていどには痛めつけとかなあかん思うけど。
   あと,男なら,自分の名誉を守るために命を張らなあかん場合もあるやろな」
「具体的にどういう場合があるかな…?
   わたしたちの生活で,自分の名誉を守るために人を傷つけるって,
   悪口を言われたりして相手に腹が立ったから,っていうような
   ことしか思い浮かばないけど…」
「ん~…まぁ,正味,そういうことになるかな。
   別におれがそれで,人,殺すわけちゃうで。
   ほこりを大切にするちう,気持ちや気持ち。」

「人が殺されるというとまず戦争が思い浮かぶけど,
   戦争中もそうだけど,
   “自分に逆らったら殺すぞ”って,人を無理やり従わせるために
   メンバーの中から,自分に従わないとかルールを破った者を
   処刑したり,同じメンバーの人間に殺させるってのがあるね。
   オウム(オウム真理教)といい,
   幕末(ばくまつ)の新撰組(しんせんぐみ)でもあったし,
   赤軍(せきぐん)の内ゲバ(うちげば)なんかもそうだよね。」


「いろいろな意見が出たけれど,まとめてみるとこうかしら。」

殺人の種類・理由
 1.お金や物などをうばうため,その後つかまらないため 
 2.いかり・にくしみやうらみを晴らすため
 3.殺すことそのものが楽しい
 4.自分や家族などの身を守る必要があるとき
 5.仕事として殺す(殺し屋)
 6.自殺
 7.自殺の手助け
 8.死刑(けい)
 9.戦争
 10.恐怖(きょうふ)で人を支配するため
 11.気をつけないと人の命があぶなくなる仕事で手を抜く
※小学生のホームルームということで,尊厳死・移植目的の脳死生命維持中断・人工妊娠中絶などは今回含めません。
先生「…先生,書いてて気分が悪くなってきちゃったけど,みんな大丈夫?
  さて,みんなはこれら全部,どんな場合でも絶対いけないということで
  いいかな?ちょっとビミョウってものとかある?」
沙真子「4番は,本当にそうしないと命が危ないというのなら,
  いけないとかいいとか言ってられないよね…。」
橋崎「ただ,アメリカは自分の身は自分で守るってことで
  ふつうの人がみな銃やピストルを持つことができて
  それで銃を使った殺人がいっぱい起きているから
  しかたないと認めすぎても問題があるよね。
  6番も,話が別という気がします。7番は,ほんとビミョー。」
「それじゃ,今回は,4番はしかたないから話し合いに含めない,
  6番も話がややこしくなるので今回は考えない。これでいいかしら?」
「8番も,人を殺すのはいけないから,それをした犯人を殺すのが
 一番重い罰(ばつ)になるってことだよね…
 別格っていうか,人を殺すのがいけなくても,実際に殺人をおかすやつが
 いる以上,これはありなのかも。」
ヨーコ・ゼッタイアイランド(以下田嶋
 「なに言ってるのよ!えん罪で死刑判決を受けた人が何人もいるのよ!
 それに,本当に殺人をおかした人だって,みな同じ人間なんだから
 死刑にしなくたって,きっと反省して,社会復帰できるんだから!
 その人の気もちになって考えたことあるの?!」
「ねぇわ!だいいち,だれの気もち言うてんねや。」
「まあまあまあ。これも難しい話になっちゃうから,ふつうの人が
 ほかの人を殺す場合に限定しましょう。
 だから,9番の戦争も,いけないに決まってるけど,なぜかという
 ことについては今回は考えないことにします。」

■法律に書いてあるから?
小鉄「けどさー,こんな話し合いなんかわざわざしなくても
   殺人はだめって法律に書いてあるんじゃねーの?!」
博物士 - 刑法には「人を殺してはいけない」とは書かれていない
「刑法には『殺人はこれを禁ずる』とは書いてないらしいで。
  『殺人をおかした者は何年以上の懲役(ちょうえき)あるいは死刑』と書いてあるそうや。つまり,
  死刑になる覚悟(かくご)のあるやつは,やってもかめへんてことやな
  …って,引くなや!
  おれがそうする言うてへんやろ!」
橋崎「刑法って,もともといけないことをした者に対する
   罰則(ばっそく)を定めたものだから,
   いちいち『これはいけない』ってかかなくても,
   罰則が書いてある時点で全部やっちゃいけないことなんだよ。」

「そんくらいおれかてわかるって。ジョークやジョーク」
「そもそも,法律って,人が決めたものだからね。
   『法律に書いてあるからいけない』んじゃなくて,
   もともとみんながくらしていく上で不都合がないように
   法律のほうが決めてあるんだ」
「けど,『コーランに書いてあるから』
   で全部カタが付く国もある言うやん」
「うわ!すごいとこ突いてくるなぁ」
〈NHK連続人形劇〉プリンプリン物語
主人公たちがおとずれた「アクタ共和国」は,選挙に立候補しても投票してもいいけど,知能指数1300の偉大なるルチ将軍以外に投票したら死刑という国でした…
先生「そうね,世界のいろいろな国を見てみたり歴史を振り返ったりすると“神様が決めたから”とか“えらい将軍様”のつごうのいいように決められた法律やルールにみんなが従わなければいけないという社会はけっこうあるのよね。
日本の場合は,法律は選挙で選ばれた議員,政治家たちが国会で決めるから,よくない法律があったら変えたりやめさせるように私たち1人1人がいつも気をつけないといけないね」
「センセー!おれたちまだ選挙権ないぞー!!」
「1人だと無理だけど,小鉄くんの考えることがおおぜいの人たちを納得させることができて,みんなではたらきかけることができたら年は関係ないと思うわ。それに今は無理でも20歳なんてホントあっと言う間だから,今のうちからいっぱい勉強して,世の中のことをよく考えておくといいわ。」
「先生は,二十歳(はたち)になるのはあっという間でしたか?」



ダメなものはダメ?!
小鉄「そういや,組長の父ちゃん,大学教授だったよな。
 なんか言ってた?」
国家の品格
藤原 正彦
藤原「う…うん。聞いてみたんだけどね。
 『殺していけない理由なら,50は言える』って」

(うんうん。それで?)
「『殺していい理由も,50は言える』って」

(え?!それで?!)
「『要するに』…」

(要するに?)
『ダメなものはダメ』だって。」

(一同,これ以上ないズッコケ
小鉄「うしゃしゃしゃしゃしゃしゃーーーーー!!!
   お前の父ちゃん,バカでー!!
「小鉄くんだって,さっき同じこと言ってたじゃないかー!!」
橋崎「じゃあ,君のお父さん,小鉄くんと同レベルってこと?
 大学教授なのにね」
「・・・・・」

先生「親が子どもにいいことや悪いことを教えるときって,
  そういうふうに言うもんだけどね…。それはそれでいいんだけど…
  お父さん,忙しかったのかもしれないね。」


ここまでの長きにわたって
ようやくイントロ終了って感じですが…。
ご安心下さい。このあたりでちょうど半分くらいです。
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つづいて→後編の記事をお読み下さい。
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