その日は雨が降っていた。
珍しく大雨だった。
その雨の中を一人の少年が走る。
この村には珍しい色の少年だった。
濃い水色の髪に紫がかった青い瞳。
「はぁっ、はぁっ…!」
雨の音以上に煩い声の原因を突き止めるべく走った。
否。
煩い声が発する内容を確認するために。
…嘘だと言ってほしいために。
“アアーン、アアーン”
“ヒック、グスッ、グスッ”
“ウワーーン”
水の精霊が泣いている。
「お兄ちゃん待って…!」
後ろから妹が走ってついてくる。
けれども、振り返ることもできない。
いや、振り返って止めるべきだろうか。
二人とも外見は10に満たない。
ボワン
「?!」
そこを走り抜けると、妙な感覚が一瞬全身を駆け抜けた。
それでも走り続けようとすると…
「キャッ」
妹の声が聞こえた。
やっと立ち止まり、振り返る。
先ほど妙な感覚を感じたあたりで妹が転んでいた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
とりあえず、呼吸を落ち着けてから妹に声を掛けようと思う。
沸き上がる不安感。
「お兄ちゃん、進めないよ!」
妹は見えない壁のようなものに阻まれているようで、見えない壁をドンドンと叩いていた。
「幻華…!」
妹の名前を呼ぶ。
すると、妹の後方からよく知った人影が走って追いついてきた。
「仁雷、進みなさい!」
幻華の肩を抱いて、熬龠が声で背中を押す。
仁雷は頷くと、精霊の声が最も大きな場所へ向かって再度走り始めた。
たどり着いた場所は、村のはずれにある泉のほとりだった。
「……っ」
雨が泉の水面に打ち付ける音がうるさい。
しかし、仁雷はそんな音も聞こえなかった。
自分の息切れの音も遠い。
ほとりに倒れる、人影。
精霊が泣いている。
精霊の声がうるさい。
“……が、死んじゃった!”
“私たちの子が!”
嘘だと言ってほしかった。
長い髪が広がり、長い前髪がバラバラになって顔を隠している。
そっと近づき、精霊が言ってることが本当なのか確認する。
ゴクリ
唾を飲み込む。
手が震える。
そっと、頬に触れる。
「……」
冷たかった。
いや、冷たいだけならば雨に触れて冷やされたという可能性も…は、無いこともわかっている。
精霊に同化しそうになっているのでは…という考えもあるが、触れればこの肉体がどの程度人間でどの程度精霊に近いのかもわかる。
「……」
絶望に大きな目を益々見ひらく。
「仁雷!」
バシャバシャと音を立てて、熬龠が走ってやってくる。
呼ばれても、目の前の人から目を離すことが出来なかった。
「……っ」
熬龠も倒れる人影をはっきりとらえた。
熬龠は走るのをやめて、ゆっくりとした足取りで仁雷に歩み寄る。
「……と…さん…」
いつの間にか涙が頬を伝っていた。
雨に打たれて分かり辛かったが、熬龠ははっきりと仁雷が涙を流しているのが分かった。
「仁雷、泣きたいなら泣きなさい」
「と…うさん…父さん…父さん……っ!」
精霊に負けないくらい大きな声を出して泣いた。
その姿に、悲しそうな表情をしながらも熬龠はほっとした気持ちもあった。
「ご苦労様。…淼斗君」
水の精霊の悲し気な悲鳴と泣き声に仁雷の声が混ざって、淼斗の死に響き渡った。
珍しく大雨だった。
その雨の中を一人の少年が走る。
この村には珍しい色の少年だった。
濃い水色の髪に紫がかった青い瞳。
「はぁっ、はぁっ…!」
雨の音以上に煩い声の原因を突き止めるべく走った。
否。
煩い声が発する内容を確認するために。
…嘘だと言ってほしいために。
“アアーン、アアーン”
“ヒック、グスッ、グスッ”
“ウワーーン”
水の精霊が泣いている。
「お兄ちゃん待って…!」
後ろから妹が走ってついてくる。
けれども、振り返ることもできない。
いや、振り返って止めるべきだろうか。
二人とも外見は10に満たない。
ボワン
「?!」
そこを走り抜けると、妙な感覚が一瞬全身を駆け抜けた。
それでも走り続けようとすると…
「キャッ」
妹の声が聞こえた。
やっと立ち止まり、振り返る。
先ほど妙な感覚を感じたあたりで妹が転んでいた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
とりあえず、呼吸を落ち着けてから妹に声を掛けようと思う。
沸き上がる不安感。
「お兄ちゃん、進めないよ!」
妹は見えない壁のようなものに阻まれているようで、見えない壁をドンドンと叩いていた。
「幻華…!」
妹の名前を呼ぶ。
すると、妹の後方からよく知った人影が走って追いついてきた。
「仁雷、進みなさい!」
幻華の肩を抱いて、熬龠が声で背中を押す。
仁雷は頷くと、精霊の声が最も大きな場所へ向かって再度走り始めた。
たどり着いた場所は、村のはずれにある泉のほとりだった。
「……っ」
雨が泉の水面に打ち付ける音がうるさい。
しかし、仁雷はそんな音も聞こえなかった。
自分の息切れの音も遠い。
ほとりに倒れる、人影。
精霊が泣いている。
精霊の声がうるさい。
“……が、死んじゃった!”
“私たちの子が!”
嘘だと言ってほしかった。
長い髪が広がり、長い前髪がバラバラになって顔を隠している。
そっと近づき、精霊が言ってることが本当なのか確認する。
ゴクリ
唾を飲み込む。
手が震える。
そっと、頬に触れる。
「……」
冷たかった。
いや、冷たいだけならば雨に触れて冷やされたという可能性も…は、無いこともわかっている。
精霊に同化しそうになっているのでは…という考えもあるが、触れればこの肉体がどの程度人間でどの程度精霊に近いのかもわかる。
「……」
絶望に大きな目を益々見ひらく。
「仁雷!」
バシャバシャと音を立てて、熬龠が走ってやってくる。
呼ばれても、目の前の人から目を離すことが出来なかった。
「……っ」
熬龠も倒れる人影をはっきりとらえた。
熬龠は走るのをやめて、ゆっくりとした足取りで仁雷に歩み寄る。
「……と…さん…」
いつの間にか涙が頬を伝っていた。
雨に打たれて分かり辛かったが、熬龠ははっきりと仁雷が涙を流しているのが分かった。
「仁雷、泣きたいなら泣きなさい」
「と…うさん…父さん…父さん……っ!」
精霊に負けないくらい大きな声を出して泣いた。
その姿に、悲しそうな表情をしながらも熬龠はほっとした気持ちもあった。
「ご苦労様。…淼斗君」
水の精霊の悲し気な悲鳴と泣き声に仁雷の声が混ざって、淼斗の死に響き渡った。