goo blog サービス終了のお知らせ 

××は一日にしてならず(にさんかまんがんα)

オリジ文章もどきデス。自己満足…満足できてませんが。BL中心、ファンタジー中心っぽいですが…?誤字脱字誤変換多数注意。

炎水水晶 外伝-渺茫たる残夢(序の序)

2019-03-09 18:21:09 | 炎水/ゴウヤク
 その日は雨が降っていた。
 珍しく大雨だった。
 その雨の中を一人の少年が走る。
 この村には珍しい色の少年だった。
 濃い水色の髪に紫がかった青い瞳。
「はぁっ、はぁっ…!」
 雨の音以上に煩い声の原因を突き止めるべく走った。
 否。
 煩い声が発する内容を確認するために。
 …嘘だと言ってほしいために。

“アアーン、アアーン”
“ヒック、グスッ、グスッ”
“ウワーーン”

 水の精霊が泣いている。
「お兄ちゃん待って…!」
 後ろから妹が走ってついてくる。
 けれども、振り返ることもできない。
 いや、振り返って止めるべきだろうか。
 二人とも外見は10に満たない。

 ボワン

「?!」
 そこを走り抜けると、妙な感覚が一瞬全身を駆け抜けた。
 それでも走り続けようとすると…
「キャッ」
 妹の声が聞こえた。
 やっと立ち止まり、振り返る。
 先ほど妙な感覚を感じたあたりで妹が転んでいた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
 とりあえず、呼吸を落ち着けてから妹に声を掛けようと思う。
 沸き上がる不安感。
「お兄ちゃん、進めないよ!」
 妹は見えない壁のようなものに阻まれているようで、見えない壁をドンドンと叩いていた。
「幻華…!」
 妹の名前を呼ぶ。
 すると、妹の後方からよく知った人影が走って追いついてきた。
「仁雷、進みなさい!」
 幻華の肩を抱いて、熬龠が声で背中を押す。
 仁雷は頷くと、精霊の声が最も大きな場所へ向かって再度走り始めた。



 たどり着いた場所は、村のはずれにある泉のほとりだった。
「……っ」
 雨が泉の水面に打ち付ける音がうるさい。
 しかし、仁雷はそんな音も聞こえなかった。
 自分の息切れの音も遠い。
 ほとりに倒れる、人影。
 精霊が泣いている。
 精霊の声がうるさい。

“……が、死んじゃった!”
“私たちの子が!”

 嘘だと言ってほしかった。
 長い髪が広がり、長い前髪がバラバラになって顔を隠している。
 そっと近づき、精霊が言ってることが本当なのか確認する。

 ゴクリ

 唾を飲み込む。
 手が震える。
 そっと、頬に触れる。
「……」
 冷たかった。
 いや、冷たいだけならば雨に触れて冷やされたという可能性も…は、無いこともわかっている。
 精霊に同化しそうになっているのでは…という考えもあるが、触れればこの肉体がどの程度人間でどの程度精霊に近いのかもわかる。
「……」
 絶望に大きな目を益々見ひらく。
「仁雷!」
 バシャバシャと音を立てて、熬龠が走ってやってくる。
 呼ばれても、目の前の人から目を離すことが出来なかった。
「……っ」
 熬龠も倒れる人影をはっきりとらえた。
 熬龠は走るのをやめて、ゆっくりとした足取りで仁雷に歩み寄る。
「……と…さん…」
 いつの間にか涙が頬を伝っていた。
 雨に打たれて分かり辛かったが、熬龠ははっきりと仁雷が涙を流しているのが分かった。
「仁雷、泣きたいなら泣きなさい」
「と…うさん…父さん…父さん……っ!」
 精霊に負けないくらい大きな声を出して泣いた。
 その姿に、悲しそうな表情をしながらも熬龠はほっとした気持ちもあった。
「ご苦労様。…淼斗君」
 水の精霊の悲し気な悲鳴と泣き声に仁雷の声が混ざって、淼斗の死に響き渡った。

タ・ブレースの場合。

2018-10-31 00:17:00 | Let's go to the...
ト・スプライスに導かれるままにやってきた港町。
山間部だと思っていたのに急に現れた。
坂の多い街だった。
だからこそ見えた。
遠く桟橋にたたずむ大きく変わった形の船の姿が。
それを見てスプライスの様子が変わったのは隣にいてすぐにわかった。
あの船なのだろう。
スプライスの思い人が乗船しているというのは。
とりあえず、どんな言語でも解する人物だと聞いていたのでブレースも安心して会うのを楽しみにできた。
旅の中で、ここ『混沌たる大陸』の言語も多少習得したが元々別の地の人間だ。
自分の国の言葉がつかえればそれに越したことはない。

遠くに、三人の青年の姿が見えた。
…たぶん、少年ではなく青年だと思う。
店を窓から覗いている。
なぜ遠目からも目に付いたかと言えば、三人のうち二人の輝かんばかりに明るい金髪がこの地では目立ったからだ。
もう一人の青年も明るい髪の色をしているが、バンダナで大半を覆ってしまっていてわからなかった。
「……っ!」
その三人組を見て、思わずスプライスが早足になる。
ブレースもついてゆく。
金髪のうち片方の青年がこちらに気づいたのか振り向いた。
…ちょっと幼い顔立ちをしていたから、もしかしたら少年なのかもしれないとも思った。
「バーカンティン!」
スプライスが叫ぶように呼び、金髪の青年は破顔する。
益々幼く見えた。
それで気づいたのか、他の二人もこちらを見る。
そして破顔する青年の後で視線を合わせ、何事か言葉を交わす。
「バーカンティン!」
近づいたところでもう一度呼ぶ。
「スプライス」
そして、バーカンティンと呼ばれた青年はスプライスの足を見る。
「あ、あ、あぁ……」
スプライスは大きく腕を広げてバーカンティンを抱きしめようとしたのだが、バーカンティンは大きな荷物を手に抱えていて(それは他の二人も同じだった)抱き着くことはかなわなかった。
「スプライス。目的を果たしたんだな」
ブレースは話でしか聞いていない、足にあったという【枷】。
呪いのかかったアンクレットがはまっていたらしい。
スプライスはそれをとるために一度は離れたこの地にやってきたのだと言っていた。
今はそれがない。
『スプライス、お帰り』
『お帰り、スプライス』
後の二人がそれぞれ声をかける。
その言語をブレースは知らなかった。
ただ、『スプライス』という名詞がわかっただけだ。
『スプライス、そちらの方は?』
バーカンティンではない…ではない?金髪の青年が問う。
なぜクエスチョンを付けたのかと言えば、同じ外見をしていたからだ。
(そういえば、双子なんだっけ)
とブレースは思い出す。
道中スプライスに聞いた話を思い出す。
『ああ、えっと…タ・ブレースっていうんだけど…なんて説明していいか…』
『天空の神官だろ』
これはバーカンティン。
『そう。』
言いながらも、スプライスはバーカンティンに抱き着きたくて仕方がないようだった。
「ハジメマシテ、ヨロシクオネガイシマス」
片言で、そのバーカンティンの双子の弟が(そう聞いていた)ブレースに微笑みかけてきた。
(!!!)
目が合った。
瞬間。
心臓が跳ねた。
「は、初めまして…」
思わず胸に手を当ててしまう。
頬が上気している気がする。
「こちらが、ブリガンティン。バーカンティンの双子の弟だよ」
そして、もう一人がラガーという名前だともスプライスは教えてくれる。
『ごめんなさい、今の一言しか知らなくて』
ブリガンティンが告げた言葉をスプライスが訳す。
「いや、いや、いやっ、いいよ!」
頭の中まで沸いたようで、自分が何を言っているのかわからなかった。
それをみて、聞いて、スプライスとバーカンティンが顔を見合わせてニヤリと笑う。
視界に入っていながらそれを認識することはブレースにはできなかった。
ブリガンティンはニコニコ笑っている。
バーカンティンと同じ姿をしているはずなのに。
何が違うのか今はわからないはずなのに。
バーカンティンには感じない感覚、感情を覚える。
当然ラガーには感じない。
「スプライス、恩人なんだろ?一緒に歓迎しないとな」
と、バーカンティンは今しがた三人で覗いていたウィンドウを見る。
祝い事の時に食べる菓子を売っている店のようだった。
「スプライスの帰還と、ブレースとの出会いを祝そうか」
同じ内容を後の二人にもわかる言語でもう一度告げる。
「当然荷物はお前がもてよ」
『お給料も持ってきておいてよかったね』
ブリガンティンが後ろからバーカンティンにささやきかける。
本来買い出しに来ただけだから使いの費用だけで良かったのだが、何か予感がして自分たちの給料も持ってきていたのだ。
『いつだって俺の予感は当たるんだ』
バーカンティンも嬉しそうだった。

ブレースはやまぬ動悸に混乱しているばかりだった。

Let's~断章 SPLICE!に至る前

2018-03-25 23:04:25 | Let's go to the...
「ああ、マストちょうどよかった」
 マストが廊下を歩いていると、向かっていた場所からひょっこり一人の人物が現れた。
 祭壇の間だ。
「此処広いから、お前がどこにいるのかわからなくてとりあえずここに来たんだけどいなくて帰ろうと思っていたところだったんだ」
「スプライスは居心地が悪いと言っていたが、お前は平気なのか?」
(まぁ平気なんだろうな)
 白目の殆どない動物めいた目でバーカンティンを見る。
「俺は何とも。むしろ神気に満ちていて居心地が良いとさえ思うが……本当はアイツもそう感じてもいるはずだ」
「お前たちのような神性生物ではないものでそのあたりはよくわからないな」
「ハハ、俺たちのことを『人間』と言ってみたり『神性生物』と言ってみたり、どちらだかわからないな?」
「……確かにそうだな」
 マストも今は人の姿をしてこの神殿で過ごしているが、本来の姿は人間ではないことを思うと、バーカンティンたちは『人間』なのだ。
 ただ、神の血を引く、力を与えられている一族の出身だと考えると『神性生物』と言えなくない。
 スプライスとバーカンティンの出自は全く異なるものだが。
「んでな」
 と特に声を潜めるわけでもなく会話を続ける。
 ここには二人しかいない。
 耳をそばだてるものなどいないのだ。
「マストのいうところの『人間』的な問題で、明日の朝食俺の分はいらないから」
「…?」
「あー…いや、もしくはスプライスが取りに行くかもしれない」
「あぁ」
 なんとなくわかった気がした。
 初めて会った時から今まで、スプライスはどこか気落ちしているような感じがした。
 それがスプライスという人物なのかとも思ったが、バーカンティンが言うにはそうでもないらしい。
 初めて会ったのも昨日、一昨日のことだが。
「王子様に目覚めのキスでもしてやるのか」
 その言い方に眉を顰める。
「その言い回し、どこで教わったんだ?」
「さぁ、お前の記憶が戻ったらわかるんじゃないか?」
 そう、バーカンティンは記憶を失っている。
 記憶を失って行き倒れているところをスプライスに拾われて、たまたまこの神殿までやってきた。
 その神殿にはバーカンティンの旧知の友人がいた…というのが今のところの流れだ。
 バーカンティンは記憶を失っていることを気に留めてもいないし、マストが『いつもと違う姿(人間の姿)』でいることも気に留めていない…記憶がないのだから、人間以外の姿がどういったものかも覚えていないのだが。
「本物の『王子様』の守護者が言うにはおかしな言い回しだと思ってな。スプライスはただの神官だ」
「それを言うなら、本来はお前も『神官』なのだが」
「そう、全く記憶にないんだが」
「『この世の全てを知る者』でありながら、自分についてだけ記憶がないとは本当に都合がいいな?」
「な?」
 ハハハとバーカンティンは笑う。
「……その笑いも、違和感がある」
「うん?そうなのか」
 バーカンティンが首をかしげる。
 記憶をなくして性格も変わったようだ。
 いや、そもそも変わる性格など持ち合わせていないはずなのだが……
 そう、そう思うとバーカンティンがこれからスプライスになそうとしている行いもどうなのだろうか?
「ブリガンティンへの手紙に記しておこう。お前の性格が変わったことを」
 半分冗談だ。
 バーカンテインの半身でもある双子の弟ブリガンティンに会えば、バーカンティンは記憶を取り戻すだろう。
 バーカンティンには双子の弟がいることを伝えたが、あまり驚いていなかった。
「まぁ、うん、そういうわけで、明日の朝食は食べられるかわからないから」
 と、ヒラヒラと手を振ってすれ違いながら去ろうとする。
 真っ白い神殿の中で、バーカンティンの金髪は輝いて見える。
「疲れているだろうから、食べたほうがいいんじゃないのか?」
 本当に、これからバーカンティンがなそうとしていることをわかっている。
「そこまで言うなら、動けないだろうからスプライスに取りに行かせるわ」
「スプライスはお前の思う通りにいくか?」
「フフフ」
 とバーカンティンは笑顔を置いて去る。
「…性格は変わったようで変わっていないのか?」
 何せマストとスプライス以外対する人物がいないのでつかみづらい。
 …つかみづらい性格だっただろうか?
 いや、今回はスプライスの件が大きく絡んでいるから何とも言えない。
 スプライスと何があったのかははっきりとは聞いていないが、なんとなく察した。
 それがどこまであってるかはわからない。
 ただわかるのは、スプライスがバーカンティンに恋をしていることくらいだろう。
 バーカンティンの記憶が戻ったらどうなってしまうのだろうか?
「とりあえず、明日の朝食は食べやすいものでも用意するか」
 食事の必要のないマストにとって、バーカンティンたちが来てから増えた仕事の一つだった。
 暇を持て余しいたから(否、やることはあるのだが)、やることが増えて楽しい。
 

  ***

 コンコンッ

「スプライス、入るぞ」
 ぼんやりとバーカンティンのことを考えているときに急にバーカンティンの声がして、スプライスは慌てた。
「えっ、あっ、うん、どうぞ!」
 なぜか腰かけていたベッドから立ち上がって迎える。
 もうバーカンティンは眠っていると思っていた。
「スプライス、話があるんだが…」
 バーカンティンは寝間着姿だった。
 これも神殿にあったものだ。
 スプライスは着替えていなかった。


 長い夜が始まる────



1001年目のシンメトリー 多分始まり。

2016-03-10 11:51:11 | 炎水/ゴウヤク


 長年片思いだった相手、しかも最近失恋したばかりの相手の家にそれでも通う自分を女々しいと思いつつもついドアを叩いてしまう。
 いつものことなのだけれども。

「いらっしゃい!」
 そう迎えてくれたシャクレンの表情を見て、いつもと違う様子を感じ取った。
 いつもより、楽しそうだ。
「クスリ持って来たんだけど…」
 それもいつものことで、ソレに対しては分かっているように、薬を持ってきたというだけの用件だが「さぁどうぞ」と通してくれる。
「トウゼ、ちょうどいいところに来た」
 最近ソウクの私室となりつつある一階の応接間から、そのソウクが姿をあらわす。
 応接室はもう一室あるからそこがソウク用になったところで問題は無い、程にこの家は大きい。
 昔はこの大きさにいつも緊張したがさすがに慣れてしまった。
「ちょうど?」
 ソウクに対しては演技かと思うほどはっきりと好意とは逆の表情を表す。
 炎の部族らしい顔立ちで外見的にはソウクよりも年上に見える…要するに大人びているから、その表情だけで厳しい空気が生まれそうなのだが、外見はどうあれずっと年上のソウクはそんな空気も発生させないほどあっさりと流す。
 故に最近はそれでもソウクに対する態度を変えてきてはいるのだが。
「前から言ってた俺の親戚が丁度来てるんだ」
「親戚…?」
「”風の部族”の」
 そんな話を聞いたような、と記憶を探り出したところでシャクレンが横から教えてくれる。
 確かにそんな話を聞いたことがあるような気がする。
 幾度かこの屋敷に来ているとのことだったが、なかなか会う機会も無くて縁が無いのだろうとあっさり忘れていた。

 
 その部屋の開け放たれたドアの前に立った時、明らかに空気が違うことを感じた。
 力も殆ど無い灯是(トウゼ)でも感じられるほどに。
「はじめまして」
 ソファから立ち上がってニッコリと笑いかけてくる見たことの無い人物。
「ソウクの…?」
 親戚というにはあまりにも共通点が無い。
「だから”風の”って言ってるじゃない」
 シャクレンが突っ込みを入れてきて、ソウクが言っていた言葉を少しずつ思い出す。
「”風の街”出身で、今は”炎の街”の”風の離宮”に仕官しているヒョウマツです」
 その笑顔が…かわいいと思ってしまった。
「こっちは外見どおりトウゼ。前話したかもしれないけどコウボウの主治医のサンウン先生の息子だ」
「…『コッチ』は無いだろ」
 ボンヤリと見ほれてしまいそうだったのをソウクの言葉に気持ちを引き戻される。
 しかし、かわいいと思ってしまった。
 一度かわいいと思うと、仕草もかわいく見えてしまって…『ヤバイ』と思った。

 失恋したばかりなのに。 


【2007/03/03 00:21 】

1001年目のシンメトリー ”風”

2016-03-10 11:48:08 | 炎水/ゴウヤク

 それは心地よい風の吹く日だった。
 荒れ始めていた庭もソウクの提案で庭師に整えてもらったし、ボンヤリしている屋敷の主人よりもいつの間にかソウクの方が屋敷の運営を考えて動き回っているような気がする。
 それも面白いからやっているだけなのだが。
 
 コンコンッ

 そんな時に、屋敷に結構大きな音が響く。
 この屋敷に来てから幾度か聞いた音だが、数日に一度聞けば多いような音。
「はーい!」
 シャクレンが玄関口へと向かう声が聞こえた。
 門から玄関まで距離は長くないのだが、それでも本来ならば門先に守衛をおくとか最新鋭の呼び鈴装置でも設置しておけば良いのだろう。
 が。
 守衛を雇うのも面倒だし、呼び鈴を押されてもそこまで行かなければならない苦労を考えると来客に玄関扉を叩いてもらう方が効率が良いと結果がでたのだった。
 コウボウは当然出ることが無いから、シャクレンの仕事になるわけだし、ソウクも結果として出ることがある。
「…ん?」
 シャクレンが玄関へ出たであろう気配を部屋の外に感じながら、庭が良く見えて気持ちが良いためにソウクが勝手にくつろぎの場として使用している応接室で新聞を広げていたところ、精霊の気配が変わったのが分かった。
 ソウクの要望で室内に置いてもらった観葉植物についている精霊がちょっと賑やいだ。
 此処に来てから無かった感覚だ。
 誰だろうと気になって扉の方を見ると、部屋の外にシャクレンの気配がやってきたところだった。
 精霊が騒いだ原因は一緒に居ないようだ。
「ソウクさんにお客様です」
 さっきお茶を運んだばかりでソウクがここに居ることを知っていたので、軽くノックすると直ぐにドアを開けて顔だけだしてきた。
 ちょっと懐かしい精霊の流れをその先に感じる。
 いや、しかし。
「俺に客?」
 王宮外で知り合いは居ないはずだが。
 この精霊の感覚からすると”炎の部族”のものではない。
 いや、懐かしい感覚、からどの部族かも分かるのだが…とりあえず悪い感じはしない。
「んー、通していいよ」




 そんな軽いソウクの言葉にシャクレンはちょっと驚きつつも、「ソウクには自分に無い力がある」と言い聞かせて玄関に待たせた人を呼び寄せる。
 そのあたりシャクレンも大雑把だ。
 ちなみにこの応接室は玄関から直ぐの場所にある。

 そうやって待っている数秒から数十秒のあいだにソウクは頭をひねっていた。
(この感覚は確かに懐かしいんだけど…)
(あれ、俺何か忘れてないか?)
 物忘れに関しては年齢のせいにしてみたり…

「お久しぶりです、ソウクさん」
 部屋の入り口に立った人物を見て全ての合点が行った。
「ヒョウマツ!」
 外見的にソウクより僅かに上だろうかといった感じの緑色の人。
 大きな帽子を胸に抱えて腕や腰から垂らしている様々な布がふわふわと浮いているように見える。
「あれ、何歳だっけ?大きくなったなぁ…!」
 ハハハと笑いながら近寄って、その腕をバンバンと叩く。
 背はソウクよりも高かった。
 そして、笑いながらソウクは内心(忘れてた…)と冷や汗をかいた。
「フフフ、僕も19歳になったんですよ。大きくもなりますよ」
 19歳というには幼い外見なのだが。
 フフフフフ
 大きな垂れ目を細めて笑う。
 笑う……
「ハハハハハ」
「フフフフフ」  
 傍で見ていたシャクレンは一瞬二人の間に不穏な気配が漂ったのを感じて…


「ソウクさん!!」
 ちょっとハスキーな女声といった声でヒョウマツが叫ぶ。
「うわーーー、ゴメン!マジ忘れてた!!」
 ソウクが顔を引きつらせて謝罪する。
 こんなソウクを始めてみたと、また驚いてみるシャクレン。
「酷いです、酷いです、酷いですよ!」
 腕の帽子を思い切り握ってひねる。
 硬質の装飾部さえひしゃげてしまいそうな。
「だから、ごめんって!」
 落ち着くようにヒョウマツの腕を掴んで見上げると、やはり釈然としなさそうに、激情によってなのか目に涙をたたえつつ睨み付けてくる。
 そんな様も可愛く見せてしまうような顔立ちなのだが。
「来たのなら真っ先に声だってかけて欲しかったですよ!お母さんからの手紙で知ったんですから!しかもコッチに来て結構経っているらしいじゃないですか!『来るらしい』っていうのは矢張りお母さんからの手紙で見ていましたけど、本気で僕のことを忘れていたなんて、もー悲しいやら悔しいやら…!」
 



【2007/02/27 00:05 】




「僕の居場所なんて僕のことを覚えていれば直ぐ分かるんですから来てくれてもいいのに来てくれないし!仕方ないから炎の王宮に問い合わせて此処を教えてもらって自分できちゃいましたよ!知ってますか、”風の離宮”は町の中では炎の王宮と対角位置にあって遠いんですから!さすがの僕だって人を使わずに自分で調べちゃいましたよ!」
 一気にまくし立てるヒョウマツに反応してか、部屋の精霊がざわめき始める。
 室内だから空気の流れなど無いはずなのに、揺れる空気が頬をかすめて髪を揺らす。
「悪かった、悪かったって!」
 といいつつシャクレンに視線を投げる。
「落ち着くようなお茶でも持ってきてくれないか?」
 シャクレンも、結って重たいはずの三つ編みまで風に揺れそうに感じて一つうなづくと慌てて部屋を出て行った。
「あんなに小さい頃慕って後をついて回ったのに、僕が”離宮”に行くことになったときトウシャさんたちと率先して壮行会開いてくれたのに、僕のこと忘れちゃったんですね?!」
 ギギッと睨み降ろすが、そういいたくもなるヒョウマツの気持ちも分かるから本当に謝るしかできない。
「5年くらい前のことなんてソウクさんにとってはホンのちょっと前のことだと思ったのに、逆に僕の面倒を見てくれた15年の方が短くて印象に残りませんでしたか?!それとも、僕が旅立ったのも最近すぎて合いに行くほどでもないと思いましたか~!」
「まぁ、アッチを出てから最近のことまで話してやるから落ち着けって」
 ソウクが困ったように笑いかけると、睨んでいた視線を拗ねたような光に変えてソウクを見てくる。
 ソウクを困らせるのは本望ではない。


 シャクレンが熱いお茶を持って部屋に戻ってくると、ヒョウマツという名の”風の部族”の少年はソウクの座っていた席の正面に座って、先ほどシャクレンがソウクの為に用意したお茶を飲み干したところだった。
 どうやら落ち着いたらしい。
「どうぞ」
 ちょっとホッとしながらカップを二人分テーブル上に並べる。お茶はポット…というには大きめの薬缶に入れてきた。量を気にせずどうぞ、ということらしい。キッチンまで遠いので往復が面倒だし、飲み大量だけ飲めないのはシャクレンとしてはまだるっこしい気分になるから。
「先ほどはゴメンナサイ」
 ちょっと恥ずかしそうにシャクレンに大きく頭を下げて謝る。
 空気の流れを感じそうなほどのオーバーなアクションは、やはり風の部族らしい動きだ。
「いえ、気にしないでください」
 といいつつ、シャクレンはヒョウマツが気になる。
 とりあえず”風の部族”という意外分からない。
 いや、それ以外何かが引っかかる。
「そうだな、コイツのこと紹介するからとりあえずこの屋敷の主人呼んで来て…」
 と、シャクレンに途中まで告げて視線を扉に向ける。
 扉は半開きだった。
 直ぐにシャクレンが退出しようと思っていたためなのだが、今はそこに人影があった。
「コウボウ煩かったよな?暇だったらコイツ紹介するから来ないか?」
 そのソウクの言葉にコウボウが目を細める。
「ソウク」
 声も静かで、視線も冷たく感じて知らぬ人ならば凄みさえ感じてしまうかもしれない状況。
 ソウクもシャクレンも慣れているから平気だった。
 ヒョウマツはちょっとポヘッと見てしまった。
(美人だな)
 と軽く思った程度で。
「……私が暇では無いことなんてそう無いぞ?」
 そんなことは二人とも分かっているから、思わず笑ってしまった。




【2007/02/27 23:18 】



 シャクレンも入れて新に茶碗の準備をしてから、改めてヒョウマツが名乗る。
 ちなみに座席はテーブルを挟んで奥側にソウク、その隣にコウボウ、ソウクの正面にヒョウマツ。シャクレンはテーブルから一歩下がった位置の椅子に腰掛けている。
「”風の街”出身の”風の部族”ヒョウマツです。王宮仕官なのですが、現在”離宮”に派遣されていまして、仕官長を務めています」
 最後の部分にはソウクも「え?」と声を上げた。
 シャクレンは「あ!」とソウクとは違った声を上げる。
「仕官長になってからまだ一年していませんけどね」
「アレ?仕官長って留学生もなれるのか?」
 正式にソコに所属しているものではない者がなれたのか、記憶が曖昧だ。なれたとしても、聞いたことが無い。
「正式には『留学生』としては不可能ですが、『監察官』としてなら可能なんですよ」
「あー…そっか・・・・・・」
 とうなづきつつも、矢張り聞いたことが無い。
 取り合えずソウクが”風の街”を出た時点では聞いてなかった。
 『えらくなった』とだけは聞いていたが…まさかソコまでとは。

 ちなみに離宮における『仕官長』は、その離宮において二位の位置につける権力者。

「外部から派遣されてきた者が成るってのも聞かないけれど、若いよな…」
 19歳はやはり若い。




「ソレで(炎の)王宮でも噂になりましたよ。”風の離宮”で面白いことが起こってるって。なんか、アノ噂全部本当だったんじゃないかって気もしてくるんですけど…」
 シャクレンが言いながらヒョウマツの顔を覗き込む。
 シャクレンのいれた、まだ熱いお茶をグイと飲んだところだった。
「どんな噂が流れたんですか?」
 鼻でクスリと笑ってから問いかけると、シャクレンも一瞬どうしようかと迷うがソウクとコウボウの視線も感じて告げることにする。
「物語みたいなお話ですけど、美少女と見まごう仕官の少年が上層部の不正を働いているような人をたらしこんで、相手が油断したところで不正を暴いて失脚させて自らが高位に付いた・・・とか。噂によると、仕官長にまで上り詰めとか…その人の名前がヒョウマツ……とか?」
 その話を聞いてソウクがヒョウマツを呆れたように睨むと、ペロッと舌を出して視線をそらした。
「お前、ソコまでして…」
「やだなぁ、ソウクさん。誑してはいませんよ。勝手に言い寄ってきただけです!丁度いいから利用させてもらったってだけですよ」
 ”炎の街”にある離宮だからなのか”風の離宮”にも凝り固まった一団が居たという。
 それを一掃(全てをなくしてはいないが)してしまった。
 そうしたら、仕官長だった。
 …というだけだ。
「まぁ、別の手段をとったところで20歳までにはコレくらいの地位には居たかったですけどね」
 フフフと笑う表情が、内容と裏腹にスッキリしていた。
「僕には夢があるんです。夢を実現させるためにはなんでもしますよ……」 


【2007/02/27 23:56 】



「で、僕とソウクさんの関係ですよね?」
「ヒョウマツも”炎の英雄”の子孫の一人だよ」
 ヒョウマツが告げるより先にソウクが告げてしまう。
 この言葉を先に告げてしまったほうが早いと思ったから。
 ヒョウマツもソウクが先に説明をしだす気配を感じたので、うなづくだけに止めた。
「”風”なのに…?」
 シャクレンが首をかしげると
「前ソウクから聞いたぞ?」
 コウボウに言われて、”炎の英雄”の子孫に関して聞いた話を思い出す。
 ”炎の英雄”には子供が二人居て、そのうち片方は風の部族と結婚したのだという。
「つまり、遠い親戚ってワケだな」
「でも、つながりとしては”英雄”までは遡らなくてもいいんですよね?」
 首を傾げつつヒョウマツが尋ねる。
「家系図書くの面倒だから省くけど、近親婚やそれに近い親戚同士で結婚ってのも多いからなぁ。呪われし血族は寿命の関係で特にそれがあるから、呪われし血族であるはずの”英雄”の血族は逆に親戚間の結婚が少ないほうかもな。他部族と婚姻多いしな」
 ハハハと笑う、そのソウク自身がまさにその両方の見本だった。
 両親ともに”英雄”の血族で、それぞれ先祖をたどってもそんなことが多々ある。
 なのに、間に他部族の血も入っていて大分両極端な婚姻を繰り返していることになる。
 そうやって、”英雄”の血は濃いのに他部族全ての血も継いでいるのソウクが出来上がったわけだ。
 


「でも、親戚と言っても遠いですよね?」
 一世代、二世代ではないと思うが繋がりがある、もしくはヒョウマツとソウクを見ていると大分親しいようだというのが気になる。
 年齢も大分違う。
「うーん、そうだね。これはちょっとじゃ分からないかも知れ無いけれど、家族と家族というまとまりの親戚関係ではなくて、もう連綿と続く血族と血族の親戚関係かな?ヒョウマツは”英雄”から数えて20代目前後くらいだけれども、俺は10代目くらいだし。そういう単位で昔から付き合いがあったってことだね」
「特にソウクさんは”風の街”に良く出てきていたらしいですね、昔から」
「…田舎で引きこもっているより、町中のほうが性にあうんだよな…」
 言いながら自分でも不思議そうに「どうしてかは知らないけれど」と続ける。
 ただ、ソウクのそんな感想はヒョウマツ以外の二人も納得行った。
 多分この中で一番田舎に引きこもりたいのはコウボウだろう。
「で、ソウクさんは僕の家の居候だったんですよ。」
「……お前『居候』するの好きか…?」
 現在も居候。
 家主の方から誘った、もしくは頼んだカタチだがやはり居候には変わりない。
「…しなれてはいるかも・・・」
 あっさりコウボウ宅に居候することにしたのはやはり慣れもあったのだろうと自分でも改めて思おう。 
「僕が物心付く頃には居ましたよねぇ?」
「うーん、どうだろうな?」
 コレには首をかしげる。
「お前の物心付いた時期にも寄るけれど、小さかった頃は近くに住んでいただけだったんだ。本読みに行ったり、仕事とか、あとお前の面倒みるのとかで入りびたりだったけど」
「あれ、そうだったんですか?一緒に寝てもらった記憶とかあるんですけど…」
「入り浸り状態で、そうやって泊まって行くこともあったり半分住み込んでいるも同じような状態にだったから、結局居候することになったんだ」
「へぇ…・・・」
 ヒョウマツ自身も初めて聞く話らしい。
「お仕事していたんですか?」
 シャクレンはソコが気になるらしい。
 現在のソウクを見ても『仕事』という言葉がしっくり来ない。
 現在だって一応は仕事をしているが、なんだかただの『物知りの人』としか見えないときもある。
 そんなソウクがヒョウマツの家で仕事をしていたとは何だろうか。
「医者の修行をね。医師免許持ってても使わなくちゃまさに錆びるだけだから、一応医者やってたんだよ。ちなみにヒョウマツの実家は医者だよ」
 ついでにこの家でも医者として働いてはいる。
 コウボウの主治医…まではまだ行かないが、担当医くらいには。
 どちらかといえば看護士に近いかもしれないが。
 時々街中で拾った病人やけが人を手当てしているのも見るが、金銭は一切もわらないようなので仕事では無いだろう。
 この家の中の場合は、それによって食住を貰っていると思えば仕事といえるかもしれない。
「代々医者の家系でしたが僕がねぇ…」
「お前のところで仕官者は珍しいな」
「ソウクさんの家系でお医者も珍しいらしいですけどね」
 珍しいコンビらしい。
「…とりあえず、僕は小さい頃からソウクさんに面倒見てもらって育ったんです。ソウクさんはこの町に”炎の英雄”について講義するために招かれたそうですけれど、僕はそんなソウクさんの”炎の英雄”に関する話を始めとした色々な話を聞いて育ちました。」
 と言葉を切ってから「あ」と付け足す。
「ちなみに、僕の母もソウクさんにそんな色々な話を聞いて育ったそうです。親子二代で同じ人からオハナシを聞いて育っているんですね。余談ですがソウクさんは僕の祖父と同じ歳です…よね?」
 それにはソウクもうなづいた。
 この外見でそれほど年齢差もあれば世代違いも当たり前だろうと感じられた。






【2007/03/01 00:26 】

1001年目のシンメトリー 設定

2016-03-09 22:54:23 | 炎水/ゴウヤク

(設定)1 登場人物

ぬあー
設定ばかり書いてなんも話をかけない!
ってわけで、設定を書いてしまいます。
本編中で本当にちゃんと話に絡めて書こうとする不要に長くなりそうなんで!
>『炎水水晶』のネタバレばかりです。


”炎の部族”呪われし血族 荘煦(ソウク)

大陸南部にある”風の街”より北西へ3日ほど行った場所にある”炎の部族”呪われし血族戦部の村出身。
72歳。外見年齢16歳ぐらい…だと思われるが元々幼い外見の一族なので通常の人間に当てはめて何歳ぐらいになるのか。
聖持力ももつ。
呪われし血族の血が薄まってきたといわれる昨今において血が濃い。(成長速度が遅い)
血が濃い割りに表情豊かで明るい性格。
”炎の英雄”の直系の子孫といわれえる一人。
実は世界でただ一人『全ての血を継ぐ』人間。
>炎の水、風と地は相反するために血を併せ持つことができないといわれている、
ソウクの場合『炎水』に関しては”英雄”の段階でクリア、風と地はそれぞれ別の時に得ている。もちろん森も無も入っている。
両親ともに”英雄”の血を引くのだが、母方がジンライの子孫、父方はゲンカ(もしくは両方)の子孫。
>この段階で炎水風クリア。
さらに母方にも風の血がはいってるし、父方の曽祖父母だか高祖父母だかに土がいて、父は炎と森の半部族らしい。
・・・・ということで。
ソウクは4分の1森の血がはいっている。
持っている力としては”炎”と”森”が出ているらしいが通常簡易名のときはハーフまでしか告げないので”炎”となっている。
>外見が通常の”炎”と違うので他の力を持っていることも直ぐに分かるのだが。
この森の力のお陰で全精霊と間接的に会話、もしくは精霊を感知することができる。
大分特殊なヒト。
>で、この能力を有効に利用できるのが『精霊医術』だったというのもある。
>ちなみに他の医療に関してもちゃんと勉強してあります(じゃないと免許取れないので)
>免許取った後『精霊医術』を専攻すると決めました。

(ソウクだけで続くなぁ…)
ソウクの生まれ故郷は”炎(の街)の英雄”(=炎の救世主)の生まれ故郷。
で、『本家』と呼ばれる家の人間です。のんびりまったり。
他に”風の街”にもその中心となる血族が居ますがこちらはゲンカ系の”風”の部族。
炎の属性を持っている程度・・・よりは濃いか?
時々”熱風”限定の力を持った者が生まれるとか。
その”風の街”の一族が代々医者なので、色々なモノに興味を持ったソウクが
「医術ってのも面白そうだな」
ってことで勉強して資格を取ったのでした。

”風の街”では医者は免許制。
他地域でもそんなことをするところはあるようですが、世界的に権威があるのは”風の街”の医師免許。
いわゆる”封玉”(えぇ色々名称あるんです…)の一種をアクセサリーとして身につけてます。
なくすと再発行だけれども手続きが大変。
免許を取得した本人がソレを擦ることによって認証マークが浮かび上がるようになっとります。
専門分野が特定されているヒトはその色や形のアクセサリーらしいです。
ソウクは指輪。
他に、ネックレスとかイヤリング(ピアス)とか髪飾り等々本人の好き好き。


医術に興味を持ったのと同じように、ソウクは各種知識を得ることがとてもすき。
昔から。
故に故郷の歴史なども詳しく、”炎の英雄”に関しても他のヒトと違い自ら調べて回ったりして知識が豊富。

興味を持ったことには片っ端から手を出してゆくので、サラっとさらったことのあるだけの分野も含めるなら本当に多くのことに手を出してきた。



で。
医者の免許を取ったからには医者として修行がしたいとのコトで、”風の街”の一族関連の家(医者宅)に居候したりしたこともある。
つか、昔から”風の街”にてうろうろしていたらしい。
>大きくて歴史があるから色々調べものにもよい
>あと世界的に見て色々なモノの中心地なので



力が強いので、昨今現れている『力に中って(あたって)しまう人』は通常状態のソウクがいるとそれだけでアウト。
そのため”玉”を身につけている。
一つでは足りないかな、体力的に大丈夫だな・・・とやっていたらいつの間にか大量になってしまったらしい。
ちなみに"玉"も何種類かあるのだが、そんな”玉”の特性のうちの一つを利用して作られたのがソウクのマント。
ソウクの身につけて(?)いるマントは実際に宙を浮いているのだが、あふれ出るソウクの力を両肩にある小さな”玉”に集めて、マント肩甲(仮名)部内側にある肩の”玉”と対になる”玉”へと流して浮かせている。
開閉時(これもファッションでしかないのだが)は柔らかそうに見えるのだが、金属でできているため硬くて重い。
こんなものを漏れ出る力だけで浮かせてしまうソウクは矢張りすごいのだ。


ソウクだけで長くなったがまだまだ沢山この人にはある。
だって主人公だし。


【2007/02/26 00:23 】



登場人物2



”(設定)1”にまとめる予定だったのに…


”炎の水の半部族”コウボウ

”炎の街”にいる”炎の英雄”直系血族といわれる青年。
呪われし血族なので寿命は通常より長い(成長速度が遅い)
現在45歳ほど。外見年齢16~7歳?
クールな無表情なので年齢が掴みづらい。

本来有り得ないはずの炎と水の半部族だが、”炎の英雄”の血族だけ可能。
そのあたりは…どうでもいい。ジンライの子孫。
実際は”炎の部族”英雄の血族直系といわれる母と、無族と水の部族の半部族な父の間に生まれた。
父は力としてはほぼ無族で殆ど水の部族の力は持っていなかったが、無族は半部族となった際の簡易名では略されることが多く(力”無い”のだから、力を現す名前にわざわざ入れる必要もない)、クォーターとなった際には『無族』は消えてしまう。

実際にコウボウは両方の力を有しているが、使用することは無い。
いくら”炎と水のハーフ”がありえる血族といえどもさすがに英雄の血も薄まってきている昨今、平常(健常)に居られるわけもなく、体内の微妙な精霊のバランスを保って何とかやっている状態。
力を使うことで精霊のバランスが崩れた時には体調を崩して仕方が無い・・・と思われる。
ただ、人(部族の者)の放つ力に中る(あたる)ことはない。
(本当は家政婦だって無族などが最適なのだろうが、炎の部族の者でも大丈夫なのはこのあたりの理由)
>故にソウクの気配も大丈夫。





どうでもいいんだが、体は柔らかい。

聖持力をもっているとかもっていないとか…うーん?

炎の王宮から嫌悪されているのも知っているから王宮に行ったこともないし、不必要に近づいたこともない。
というか、行動範囲は自宅付近やその街区内。
諸事情により”王宮”の放つ暗殺者から非難した”旧王宮”内で起こった出来事により、”王宮”でもコウボウをどう扱うか二分し論争になっているそうだ。
コウボウ自身には関係ない。

外見だけでなく中身も結構クールだがさっぱりしているというだけで冷たい性格ではない。
あまり動じない性格なのは過去の出来事もあるのだが、体内の精霊バランスの調和をとるために常に平常心で居ることを心がけているため。
あと”呪血”なので
周囲の人よりも成長が遅い=時間の流れ方が違う=親しい付き合いをすると寂しい思いをする
ということもあって不必要に人と交流はしない。
人との交流は平常心で居ることの妨げにもなりかねないので。

ちなみに収入源は色々。
土地持ちで貸していたりとか、株(!?)とかとかとか。
株式会社っぽいものはある。
普通に自分でも会社持っているとか…先祖からついで来たモノとかも大きい。
故に治療費にもこまっていない。


”王宮”がコウボウを抹殺しようとした時に支援者の中心となったのが、医師会と水の部族と無族。
後者は父の関連。
医師会はコウボウの病状をみていた医師などが中心になって。
このあたりも色々あったらしい。


約30年前の復活千年祭の時
パレードしていたソウクを遠目から見たとか見ないとか(母他界後?父存命時)。
その頃は体調が良かったらしい。
…本編に関係ないのでどうでもいいんですが。



容姿について書いてなかったけれど
水色~藤色な感じで髪は長い。
髪の毛はいざと言うとき(?)、外部(外気)から力を取り入れる部位の一つなので。
目は切れ長でまつげが長い。
女性的な顔立ちをしているような、単に少年期のような。
一人称は「わたし」



【2007/02/26 00:48 】



その他色々


色々。
やっぱり『炎水水晶』のネタバレ


”炎の街”

約千年前までは廃墟だった”四大都市”の一つ。炎の大聖地。
千年前に”炎の英雄”と呼ばれる人物により再興された。

世界は精霊のバランスをとって成り立っているのだが、千年前に炎の力が著しく小さくなってしまう状態にあった。それを大聖地である"炎の街"を興す(復活させる)ことによりバランスを取り戻させた、という功績も”炎の英雄”にはある。
…復活させるきっかけとなった出来事はそこまで大事じゃなかったのだけれど…ということを知るのは一部の人だけ。
『新王宮』(街南東方向)と『旧王宮』(街南西部、一部山の中に埋まっている)とある。
『新王宮』は”炎の街”ができてから作ったもの。さらに現在の建物は街が興った結構後に作られたらしい。
『旧王宮』は”炎の街”が廃墟となる遥か昔”火の街”と呼ばれていた頃の『王宮』。”街”の南部には火山があり、これが噴火し山の位置が移動したことにより現在は山に埋もれ、一体化したような感じになっている。
”火の部族”の王宮だったので熱にはつよかったんですね…街が廃墟となったあとも、細々と聖地として存在はしていたが人の踏み入れない地となっていた。



”炎の英雄”

『1001年目のシンメトリー』(本当はそんなタイトルなんですね、コレ)のキーワード。
”炎の街の英雄” ”炎の救世主”とかとも名称される。
安直にショウロウのこと。炎水水晶においてビョウトと出会った頃は既に作業済み。(20年くらい前に)
詳細についての伝承を知る人はあまりいないが、実は資料が膨大すぎるからだとかとも…(ソウクはソレについて詳しい)
つか…この時点でこの物語のネタもばれてんじゃん…ま、誰も見てないし良いか!
子供は二人。
”炎と水の半部族”ジンライ(男)と”炎の部族”ゲンカ(女)
ジンライは完全な半部族で”紫の”とも言われる。
それ以降の子孫に関係があるので記述すると、ジンライの伴侶は異世界(大陸)の女性。
ゲンカの相手は風の部族。
それぞれ複数人子供がおり、さらに枝分かれして~子孫の人数は多いのです。
ゲンカの子孫は水との半部族になれないらしい。(もしくは生まれても寿命が短かったり、障害があったり)



人種”部族”等

大別。
風の部族、地の部族、水の部族、炎の部族、森の部族、束縛なき民(無族)
というのがこの世界(大陸)に生きる人々の分け方。
前者5種を『部族の民』と呼び、『束縛なき民』と分ける。
人口比率は4:6くらい。
『束縛なき民』は精霊や大地との結びつきやしがらみの無い、という意味。
『部族の民』は別名『精霊の民』とか色々。



”街”

”四大都市”なのに”街”とは如何に。
世界規模からすれば小さいから。



”王宮” ”仕官”
この世界の支配者は”神”ではなく”精霊王”なので、それらを祭る施設は”王宮”。
司祭なんかも王に仕える仕官者ってことです。
ちなみに神様ってのはいない。
(正確には誰も知らない)



”玉”ギョク  ”封玉”フウギョク ”宝石”ホウセキ 等々

この場合は部族の者の力をじたり、抑えたりする特殊な力を持つモノのこと。
見た目は宝石のようだから。→ホウセキ
大体は丸いので。もしくは角の無い形が殆どなので→ギョク、フウギョク

生成方法や効果、使用方法などは様々。   


【2007/02/26 22:55 】

1001年目のシンメトリー "お屋敷"

2016-03-09 22:52:06 | 炎水/ゴウヤク

 ソウクがコウボウの家に帰ってきたのは翌夕方の事だった。
 なんだかんだと手続きがあるということでとどめられてしまったのだ。
 それくらいは覚悟していたので服などは準備していたが、客用宿泊施設はそれほど居心地の良いものでもなかった。
 精霊のバランスが悪い。
 無駄に炎の精霊の力が強いきがしたのだ。
 
 センキを連れてのんびり歩いて帰るとシャクレンがニコニコと迎えてくれた。
 こちらもソウクの帰宅時間を大体予想していたのだろう。

 シャクレンの身につけている服は”王宮”で良く見た下級女性仕官のものだ。
 シャクレンは”王宮”よりコウボウ宅へ派遣されており、本職は家政婦ではなく下士官。
 ”炎の部族”の女性らしい小柄でグラマーな体型をしており、元気。かすかに赤みがかった長い黒髪を二つの蜜編みにして振り回して大きなコウボウの屋敷を一人で切り盛りして全てをこなす。
 『切り盛り』といっても、家事ばかりだが。
 そして屋敷に部屋は有るが飽くまで仮眠部屋であって住み込みではなく通い。
 ソウクも連れて行かれる最中「部屋は沢山余っているから」とは言われたが、実際に行ってみると『あまっている』どころか殆どを使用していなかった。
 …ということで、シャクレンの『仮眠部屋』も家政婦(下働き)用の部屋ではなく正式な寝室を一部屋使用している。
 「実家の自室よりずっと広いんです!」
とのこと。
 そんな屋敷の住人は現在コウボウのみ。

 コウボウの屋敷は閑静な住宅街にあり、一帯は『屋敷』と呼べる類のものばかりなのだがその中でも目だって大きい方だった。
 建物は4階建てで、塀に囲まれていても関係ないほどよく見える。厩と物置小屋があり、庭も馬を放っておけるほど広い。
 建物はソウクが見た感じは少々古くも感じたが、幾度か改修が行われているようでパッと見では知識の無い者は古いとも感じないだろう。
 基本は”炎の部族”独特の工法である『溶石法』。読んで字のごとく石を溶かすのだがこれも二種有る。一度石を積み上げてそこに溶かした石を塗りつけて隙間を埋め外部を固める方法と、溶かした石を積み上げて行く工法だ。
 どうやらこの屋敷は後者らしい。
 ”炎の街”でも大きな建物でこの工法は最近殆ど取られないが、これほど大きな屋敷にこの工法が使われているのは昔も珍しいだろう。

 それだけでソウクの興味をかき立てたのだが。

 なんと言っても書籍が一番魅力的だった。
 一階に書庫があり多数収められていたが、他の階にもまだまだ有るという。
 貴重な文献ばかりだとは思わないが俗物的な書物だって面白い。
 ソウクの来た理由を考えれば『王宮』の書物は大体を見せてもらうことが可能だろうが、書籍の沢山ある家で過ごすことができるというのはとても魅力的なのだ。
 しかも、どうやら堅苦しさも無い。



【2007/02/23 14:00 】



 ソウクにこの屋敷にとどまるように言い出したのはシャクレンが先だった。
 コウボウも異論はないと言っていたが、どちらかといえばコウボウが言いたかったことをシャクレンが代弁したようにも見えた。
 コウボウの病状に適した治療を施せる医者というのもあるし、そのコウボウの病状の原因にソウクが興味を示したのも有る。コウボウの屋敷に有るものに興味を示したのも有る。
 コウボウとしては他に、それらを含めて礼もったのだろうが。
 シャクレンはソウクにこっそりと、すごい告白をしてきたのだ。
 ソウクが「自分に明かしていいのか?」と驚いてしまうほどの。
 

 最近の”炎の王宮”は『純血』や『力の強い者』を尊ぶ傾向に有るという。
 コウボウの母親はこの町における”炎の英雄”の直系の子孫だと認められていた炎の部族の女性だった。
 ”炎の英雄”はこの街において最も尊いものだから、それはそれは大切に扱われる血族で…ソレゆえの窮屈さだったのか、単なる運命だったのか、無族と水 水の部族のハーフの男と恋に落ちて周囲の反対も聞かずに結婚、出産をしてしまった。
 そしてコウボウが生まれたのだが。
 コウボウは生まれたが、母親は体調を崩し十数年で他界した。
 母親がいるうちは、まだその母親が『純血(直系)の英雄の子孫』ということで良かったのだが、コウボウは違う。
 コウボウは無族と水の部族の血が入っている。
 これを王宮側は嫌がった。
 コウボウ側がどんなに距離をとろうとしても、王宮側が「ソレが存在している」ということだけで生理的なまでに嫌悪してきた。
 そこで王宮の取った行動は、ちょっと信じられないことだった。
「コウボウを亡き者にしてしまおう」
 


 コウボウの元へは幾度か暗殺者が送られることがあった。
 父が生きている頃は父が必死にコウボウを守ったが、コウボウの看病と暗殺者からの守らなければならないという心労とが重なったのか亡くなった。
 一説にはコウボウの父も暗殺者の手にかかったのだといわれている。
 ただ、此処で幸運だったのはコウボウ側にも支援者がいたことだった。医師会と水の部族や無族の者達が中心で、暗殺者の入れない場所へと一時コウボウを移動することにした。
 そこは”旧王宮”で、ここで『或る事』が偶然にも起こったことによりコウボウへの暗殺は一応行われなくなった。
 ただ、現在”王宮”より家政婦が送られるのはコウボウの行動を観察するためで、いざという時には暗殺実行、もしくは暗殺者の手引きをするためだという。


 と、いうことは。
 シャクレンも『暗殺』という言葉と無縁ではない存在のはずだが、そこで付け加えて言ったことがあった。
「矛盾しているかもしれませんが、代々このお屋敷で”家政婦”をする者達はコウボウ様をお守りすることを誓っています。私も前任者から強く言い含められましたし、言われなくてもそうします。”王宮”のお偉いさん方を敵に回してもこのお屋敷で家政婦をした者の気持ちは常に一緒です」
「どうして?」とは聞かなかった。
 聞かずともおしゃべりなシャクレンがしゃべってくれらから。
「このお屋敷で”家政婦”として働いた人は必ず幸せになれるんですよ。前任者も、その前の人もその前の人も、皆結婚引退ですし、後に分殿を一つ任されちゃった人もいます。それにコウボウ様はいい人ですし、私たちはコウボウ様を慕ってますから」
 前半理由は、どこかで聞いたことが有ると故郷を懐かしく思ったりした。


【2007/02/25 01:01 】



 「今日は先日使っていただいた部屋を整えてありますからそちらをご使用ください。今後ご利用されたい部屋は明日にでも決めてくださいね」
 馬の世話の仕方は分からないということで自分でセンキを厩に連れて行ったソウクだが、飼葉などは確り準備されていた。
 一昨日は厩に何も無かった。
 コウボウが生まれてから一度も厩を使用したことが無いという。
 生まれる前もどれくらい使われていないのか謎だ。
 外壁は屋敷同様の工法でつくらられており頑丈なのだが、天井は抜けかけを感じる部分はあった。今度改修をお願いするか、自分で改修しようと思っている。
 そんなことを考えながら先日使用した部屋へ案内も無く一旦はいり、荷物を置いて外着を脱ぐと直ぐに一階の食堂へ向かった。
 大きな屋敷に対して家政婦が一人というのは矢張りバランスが悪い気がする。
「住人は一人だし、来客もないし、基本的にやることが少ない」
 とのことで、以前は2、3人いたこともあるが現在は一人に落ち着いているという。
 経費削減もある…というと、世界の”炎の部族”の中心である王宮がやっているとおもうと少し情けなく聞こえてしまう。
 ちなみに、ソウクの見立てではやることはそう少なくはない気がする。
 どうやら屋敷の主であるコウボウが、自分の目の届かないところで勝手なことをされるのを嫌がるのと、コウボウが急に体調を崩した際などに気づきにくいという点もあるらしい。
 

 簡単な屋敷の構成を述べると、一階には玄関ホール、応接室二つ、食堂、書籍室、色々な陳列室、使用人部屋などがある。勝手口、庭への出口もある。二階は玄関ホールが吹き抜けになっていて、部屋が複数個。どの部屋が何に使用されているのかは分からないが、コウボウの部屋もこの階にある。体調が悪い時などはこれ以上の階にはあがれないためらしい。ソウクの臨時部屋もこの階にある。三階は二階よりも部屋数が多い。コウボウの両親が生存していた頃この階を利用していたらしい。現在シャクレンの部屋がこの階にある。4階は3階と同様のつくりだが、昔はこの階を家主一家が使用していたようで、現在は物置なっているらしい。ちなみに屋根裏もある。
 追記として、屋外の物置小屋はほぼカラだとか。

 シャクレンの仕事は、屋敷の掃除、洗濯、食事の準備、コウボウが臥せった時には看病などが主だという。掃除に関しては一月かけて全室の清掃…の予定で実際は二~三ヵ月かけているとか。
 前述のように住み込みではなく通いで、毎日来ているわけでもないらしい。それでも一巡(六日)に三日で良いところを四~五日来る。気になると毎日来ていることもあるという。
「居心地良いんですよ」
 自炊だが三食昼寝つき。
 自炊だが食べてくれる人がいて、外見のクールなイメージとは違ってコウボウは調理者に対して食べることが上手いということだった。
 その他洗濯なのだが、気づくとコウボウがやっていることがあるらしい。
 看病も医者や看護士がきて泊り込みで見て行くこともあるらしい。


 話を聞いているに、どうやら人心掌握術というものをコウボウはつかんでいるようだ。
 それではわけの分からない指令を出してくる王宮上層部よりも、家政婦にとってはコウボウの方がいいと思えて当然。
 特に凝り固まった頭の集団なんて、上司として最悪以外なにものでもない。 




【2007/02/25 22:15 】

1001年目のシンメトリー 王宮

2016-03-09 00:54:25 | 炎水/ゴウヤク
(サルベージ)


コウボウの家で一泊して目的地へと向かおうとしたソウクだったが、コウボウの状態が医者として気になるのと、コウボウの家が思ったよりも歴史有る家で興味深い資料がありそうなこと、そして家政婦シャクレンの言葉によってもう一泊してから目的地へ向かった。
 ソウクの目的地は、ソウクをこの街(町)へと召喚した機関である『王宮』。
”炎の町”で王宮といえば”炎の王宮”のことでしかない。

 実のところはソウクを指名しての召喚ではなく、ソウクの故郷である村宛てにあった手紙だった。
「”炎の英雄”について詳しい人を招き勉強会を開催したい。ついては最も詳しい人物を”王宮”へ招きたい」
 というのが概略。
 これに打って付けなのがソウクを置いてほかにいないということだっただけだ。
 ”玉車”に乗っての移動が出来ないのと、道中様々なものを見たいために迎えは拒否して単独で旅をしてきた。
 道中得たものとして、今回招かれた所以に関係有りそうなものもあったしやはり一人で旅してきてよかったと思っている。
 もちろんコウボウとの出会いもそんなうちの一つだ。



 王宮は中心部には無い。
 街の南東の方角に位置していた。
 他の街の王宮と違うところは、敷地が狭いところ。
 他の町では街区の数個分の広さがあるのだが”炎の王宮”は一街区分しか広さが無かった。
 変わりに『旧王宮』と『新王宮』と存在する。
 ソレはこの街の歴史と深くかかわりが有るのだが、通常王宮というと『新王宮』を示した。
『旧王宮』は街の南西部にあり、半分ほどは街の南部にそびえる山と一体化している。
 ちょっとした物知りならば”炎の王宮”ではなく”火の王宮”と呼ぶこともあるが、インテリと茶化されるのがオチか。
 ”炎の部族”は、古く”火の部族”と呼ばれる部族だったが”炎”と呼ばれるようになった。それと密接に関係のある太古の出来事が原因だ。



 愛馬センキを駆って数時間で王宮に到着する。
 荷物の多くはコウボウの家に置いてきてしまった。
 

 王宮は広く開かれていて、入り口でセンキを預けると受付へ向かった。
 目立つ服装と容姿はいつもどおりだ。
 周囲の人が振り向くのを、当然ソウクは気にしない。
「『”風の街”より北東へ三。”炎の部族”呪われし血族 戦部』より招待に預かったソウクです」
 招待状と同封されていた平べったい変わった形の”玉”を見せる。
 ソウクが来る旨は連絡してあったが末端まで伝わっているとは考えづらい。
 ”玉”の表面をキュキュとこすると、ボワッと幻影の炎が立ち上がって赤から青へ、緑へ、そして赤へ色を変えて炎の王宮奥に有る祭壇を映し出した。
 ソウクは30年ほど前にもここへ来ているのでソレを見ているが、通常の者はそれを見たことも無いはずなのでこの幻影を作るトコも出来ないはずなのだ。
「あ、はい!少々お待ちください!」
 思ったよりは知れていたようだ。
 暫く慌しかった後、受付担当者よりも階級が上そうな者が迎えに来た。


【2007/02/18 22:03




 以前来た記憶が有るためか懐かしいと思いながら回廊を歩く。
 案内され行き着いた先も知った部屋だった。
 前回は幾人もの集団で招かれて、やはりこの部屋へ通された。
「遠路はるばる招待に応じていただきありがとうございます」
 ニコニコと笑う壮年の男は上級仕官者だという。
 この部屋は一定の階級より上の者が使用する応接室だ。

 実はソレさえも心に引っかかることは、言えない。

「いえ、私も色々勉強させていただきます」
 実はそちらの方が本心だ。
 ”炎の街”にしかない資料などを見せてもらえるとも聞いているので楽しみにしている。
「30年前に遣り残したことが沢山ありまして」
 あの時は忙しくてやりたいことなど殆ど出来なかった。
「30年前…”千年祭”ですか」
「”炎の英雄”の故郷からの一団として私も参りました。…その時お会いしていますよね?」
 ソウクの当時の外見年齢は通常で言えば10歳前後だろうか。
 一団の中で最も幼い外見だったが、実年齢は最年少でもなかった。
 あの時は”風の街”の医師免許試験を受けることを考えている最中だったから医学書を常に持ち歩いていた。
今思えば折角”炎の街”に来たのだからもっと此処でしか触れることの出来ない文化に触れて置けばよかったと後悔もする。
 余談だが、帰った後直ぐに医師免許を得ることが出来た。 (外見的に)子供だと騒がれたが、殆ど自己流の勉強だったために人の二倍ほどは試験勉強期間を使っていた。…つまり10年近く。
 更に余談だが、当時は”玉”を大量につければ”玉車”に乗ることが出来た。今は力が強くなってしまったし、”玉”をつけたまま幾日も、幾十日も過ごすのは辛かった記憶があって今回はのんびりと旅してきた。
「お分かりですか?あの時も”生誕地”からいらした方々に”炎の英雄”についてお話を伺いましたが、その時の方ですか」
 ソウクの記憶ではこの人物は当時二十を過ぎたくらいの青年だったはずだ。
 当時から幹部候補生扱いだったが、無事出世したらしい。



 まだ新しい情報よりも、懐かしさを多く感じる。
 何百年も変わっていないものは数十年では、やはり変わらない。
 
「早速ですがお部屋を準備しましたので…」
 旅で疲れたと思ったのだろう。
 挨拶を適度に済ませたところでそう切り出してきた。
「いえ、暫くは知り合いの家に厄介になることにしました」
 これはある意味待っていた会話だ。
「お知り合いですか?」
 ”風の街”(付近)からやってきたばかりで、知り合いがいるとも考えられないだろう。
 それもニコニコと答える。
「えぇ、”炎水半部族”のコウボウという人です」
 男がギクリと身を固くしたのがはっきりわかって、思わず笑いそうになった。
 あまりにも分かり易い。
 男としては思ってもみなかった名前だろうが。
「なかなか面白い人物ですよ」
 


 この男の反応と、コウボウ宅家政婦シャクレンの話を聞いてソウクが決意したことがある。
 併せてこの街に来て良かったと思った。


 この街は過去の過ちを犯しかけている。
 自分にはそれを修正する力があるのだ。
 それを、行うこと。
 それがソウクの決意。




【2007/02/20 23:37 】

1001年目のシンメトリー 到着。

2016-03-09 00:50:41 | 炎水/ゴウヤク
(引き続きサルベージ)


 道行く人の多くが彼を振り返る。
 馬を引き連れいてるというのもあるが、何よりその出で立ち。

 派手ともいえるし、大仰ともいえる。
 なんとも言えず変わった服装・・・服装というのかさえ怪しいのだが・・・目立つことこの上ない。

 肩の高さで周囲をぐるりと囲むように鎧の肩部のようなものが浮いている。
 傍から見るだけで道行くものは皆確かめたわけではないのだが、浮いているようにしか見えなかった。
 事実、浮いている。
 ソレによって彼のはっきりした体格はわからないが、本来の肩幅の二倍以上の幅を前後にとっているであろうコトは安易に見て取れた。
 さらにその金属のように見える肩部にはカーテンのようにマントがぐるりとぶら下がっていて内部が見えない。           
 長さは足首か地面まですっぽり首より下の全身を隠すほどで、それが地面についていないことが不思議だった。
 さらに彼の凄いところは頭部にも帽子のような冠のようなものを載せていて、デザインは肩部のものと基本は同じなのだが角がはえているように見えるのが特徴だった。
 他の装飾に関しては巨大なピアスをつけていることが見て取れることだろうか。

 そこまで見れば大体の人は或ることが分かる。
 彼は”風の街”からやってきたか、”風の街”かぶれの者なのだろう。

 ただ、ピアスまで見ると彼の容姿の更なる異様さに気づく。
 髪は朱色(ただし毛先に行くにつれて赤が深くなるグラデーション)、瞳は真紅。
 色は”炎の部族”であることを連想させるのだが、炎の部族の多くが細く『つり目』であるのにその特徴はもっていなかった。目はパッチリと大きめ。
 何より耳の形が”森の部族”のようでも”地の部族”のようでもあった。
”森の部族”は耳が横へ長く、殆どが尖っている。
”地の部族”は耳が上に長く大きさはそれほどではないがやはり先は尖っている。
 彼の耳は”森”のように横に伸び、"地"のように短かった。


 印象に残る外見の彼のことを人々が知るように成るまでそう時間はかからないだろう。



”炎の街”へは南西部の城門より入った。
入場時は夕暮れで城門近くに宿を取り、翌朝出発。
本来の目的地は南東部なのだが、彼にはまず行きたいところがあって、それは街の北東部にあるのだった。
宿を取ったところから本来の目的地までは、朝出発すれば夕方までには到着しただろう。しかし北東部にある或る場所へ到着した時点で夕刻迫る時間だった。
青空がかすかに赤味始めている。


そこは大きな公園の入り口、大きな道路が交差している巨大な広間だった。
地域の人の憩いの場であり、待ち合わせ場所であり、生活に密着した場所。
彼はその広間の中心にある像を見に来たのだった。
この街(都市)のシンボルともいえる像。
そしてこれの為にこの街に召喚された。




【2007/02/17 11:38 】




「センキ見てみろよ、あれが”炎の英雄”の像だぞ」
見上げるほどの高い台座の上に据え置かれている像を示す。
現在ここに置かれている像は四体目だったと記憶する。
風雨にさらされ削られて幾度か作り直され、30年ほど前に今のものになった。
センキと呼ばれたのは彼が連れている馬で、特別高度な知能が有る特殊な馬というわけでもないので彼の声に像を仰ぐことも無かった。
「”炎の英雄”・・・俺の先祖か・・・・・・」
感慨を込めて呟く。
「へぇ・・・」
「ん?」
傍で声がしてそちらを振り返ると、彼と同じように像を振り仰ぐ人影があった。
しかし随分位置が低い。
車椅子に乗っているから。
「”炎の英雄”の子孫か」
切れ長の目を細めて彼に笑いかける。
微笑むというわけでもなくて、どちらかといえば皮肉るという感じだった。
「まぁ・・・幾百人いるか分からないうちの一人だけど・・・・・・」
言いながら、声の主の気配が通常でないことに気づく。
彼だからわかるが、普通ではありえない・・・
「貴方もソウだね?」
”炎の英雄”の子孫でしかありえない気配を感じて、もやはそれは「問いかけ」でもなかった。
「あぁ」
空の色が変わり始めていてその人物のはっきりした色は分からなかったが、彼は好奇心が刺激されるのははっきりと分かった。
色は・・・紫だろう。
彼に声をかけてきた主は、彼と同年代ほどに見える少年で・・・『彼』も10代半ばほどに見える少年だ・・・華奢な腕で車椅子を動かしているが慣れている風ではなかった。
そんな様さえ興味を持つ。
「私の名前は”炎の部族”ソウク。正式名は長いから略させてもらうけれど”風の街”から一年ほどかけて丁度到着したところなんだよ」
”炎の英雄”の子孫であれば有名な話だが、”炎の英雄”の故郷自体は”風の街”の傍にあって、直系といわれる血筋はそちらになる。
「それは服装で分かるが・・・一年も?」
最近では”風”と”炎”を一年かけて旅するなんてめったに聞いたことが無い。
「”玉車”に乗れない体質で」
ソウクと名乗った少年は軽く笑って車椅子の少年に近づく。
「良かったら名前教えてくれない?」
そう言いながら、マント前面の切り替えより手を出すと、それらを跳ね上げるように腕を振り上げる。

バンッ!

勢いよく肩周囲の金属らしき浮遊部分が開かれて、前面だけ開かれた状態になった。
「・・・”炎と水の半部族”コウボウだ」
マントの内部も派手な服装だったが、それらと装飾をみてコウボウはソウクへ”玉車”へ乗れない理由を尋ねるのを止めた。
おびただしい”玉”がちりばめられているその服装で一目瞭然。
良く見れば周囲の金属部にも、頭部装飾品にもピアスにも通常では身につけることも出来ないであろう”玉”がある。


”玉(ギョク)”とは力を封じるための宝石だった。”宝石”とも呼ばれることが有る。
大きさは様々だが、大きさによってソレに封じることのできる力の大きさは異なる。
また、力の強く”部族の者”の気に『中(あた)ってしまう』者が最近は出てきたということでその対応策として、力有る”部族の者”はそれらを身につける。
力を封じた”玉”は様々な形で使用することが出来るのだが、その利用方法の一種が”玉車(ギョクシャ)”とよばれる乗り物だった。
”玉車”も大小様々あるが、一般的には大陸の主要都市を結ぶ鉄道のことだった。
力に中ってしまう体質の者と、力が大きすぎて”玉車”の原動力である”玉”に影響を及ぼしてしまう者は乗ることが出来ない。
装飾品として身につけて力を抑える”玉”を身につけていれば”玉車”の原動力に対しての影響は殆ど無いといわれているが『規定』と成っているので仕方が無い。
封じている力も元をたどれば精霊の力で、異質な力が傍にあると異常な活動をすることもあるのは否めない。


通常”玉”を身につけている者に対してはその大きさで力を判断する。

ソウクの身につけている玉はパッと見て取れる巨大サイズのものが二つ、それ以下でも大サイズが複数個、中サイズはそれ以下になるとどれが何なのか分からないほどだった。



【2007/02/17 16:37 】




「コウボウ、不調の原因は”炎”と”水”の精霊バランスの崩れのようだね。良かったら私に見せてくれないかな?」
巨大なグローブを嵌めていたが、右手だけはずしてコウボウへ手を差し出してきた。
体格に見合って大きくは無い、思ったよりも華奢な手だった。
”玉”を大量に身につけた人物に接近されるのは気持ちが良くないのだが、それゆえなのかソウクからはあまり精霊の気配を感じなかった。
「こう見えても私は”風の街”で医師免許を持っていて専攻は精霊医術なんだ」
「私と同じくらいの年齢に見えるのに?」
あくまで外見の話だ。
「それは”炎の英雄”の子孫だし、呪血だから」
ハハハと笑う。
呪血というのは”呪われし血族”のことで成長速度が通常の人間よりも遅く寿命も長い。
最近では大分薄まっており以前ほど成長速度が遅い者もあまり見られないと聞いている。
いや、呪血なのにこんなにニコニコとしているとはどういうことなのかとコウボウは聞きたい。
「実際、医師免許取得してから30年ほどしているからそこら辺の若いお医者さんよりは医師歴長いと思うよ?」
「さぁ」とソウクが差し出す手に、半信半疑ながらも手を出してみた。
コウボウの病状の原因を一目で言い当てたのは気になる。


コウボウは昔から病弱だった。
何所が酷く悪いということも無く、ただ体調がよくなかった。
医師も長いこと具体的な原因が分からず苦労していたようなのだが、数少ない精霊医術を学んでいた医師によりやっと原因が分かった・・・のは最近の話だ。
原因は”炎と水の半部族”で有るということ。
本来ならば炎と水、風と地は子が生まれることは無い。
しかし”炎の英雄”の持つ特殊な力によってこの血族にだけは”炎”と”水”の混血児が生まれることが可能だった。
その理由は略すが、とにかく炎と水のバランスが非常に上手くつりあっていなければ生きることも難しい。
”炎の英雄”の血も、その加護も薄まっている昨今それでも”炎と水の半部族”が生まれただけで奇跡に等しいのだ。
故に、気候を含めた周囲の精霊バランスの変化によって体調まで左右されてしまう。
本来コウボウだって歩いて生活しているのだが、今日はソレさえも出来ぬほど体調が悪かった。
ただ。
家政婦が「家の中より外の方がいい」と車椅子にコウボウを乗せて無理やり外出して現状に至るのだった。
確かに外の方が調子が良かった。
短時間なら歩けそうだと思った。
・・・・・・そしてこの広間にコウボウを置いて家政婦は食材の買い物に出かけて帰ってこないのだった。
一度飛び出すとなかなか帰ってこないのはいつものことだ。



「”水”の力が弱まっているようだね・・・」
コウボウの手をとって、良く見れば耳をピクピクと動かしていた。
耳に何の意味があるのかは分からないが、ソウクはコウボウの手を離すとベルトの装飾品として付いていた”玉”をグリグリと取り始める。
ポンと案外簡単に取れたソレを「はい」と差し出す。
透き通っていたが水色のようで、かすかに白がマーブル模様に混ざって見える”玉”だった。
コウボウは渡されるままソレを受け取る。
ヒンヤリとした感触が手を伝わって全身に駆け抜けた。
体の芯に残っていた熱がスっとひいて、気づくとホっと息をついてる。
「ソレは旅用に持ってたヤツ。水ってよりお湯の”玉”なんだけどね」
”水の精霊”の力がかかわっているのには違いないということだろう。
「ありがとう」
そういって返そうとしたが
「いいよ、暫く持ってて」
コウボウの顔色が良くなってほっとしたというより嬉しいのか、またニコニコと笑いながらコウボウから離れマントの位置を戻した。
やはり、奇妙ないでたちだ。
「・・・”炎の街”に来たばかりと言っていたな?宿泊先は?」
「そこらの宿屋か・・・ダメだったら街区守衛所にでも」
もともとこの像を見に来ることにした時点で街中でもう一泊してから目的地へ行くつもりだった。
「そうか・・・」
何気ない動作で車椅子から立ち上がってみると、思ったよりも体は軽く動いた。
ソウクを見ると視線の高さは同じくらい。
「良かったら私の家に来るか?私と家政婦しかいない寂しい家だが客を泊めるくらいの部屋は有るし馬もつなげる。簡単な礼だ」
唇の端を持ち上げる。
それがコウボウの精一杯の笑顔だった。
コウボウも”炎の英雄”の子孫であると分かった時点で”呪血”であることも分かっている。
その笑顔を受けて、思わぬ副産物の重なりにソウクは相変わらず”呪血”らしくなく満面の笑みで答える。
「お言葉に甘えさせてもらおうかな!」




それが共同生活の始まりだとは思いもしなかった。




【2007/02/18 00:12 】

炎水Ⅰ ”炎の乙女”

2016-03-09 00:49:01 | 炎水/ゴウヤク
(サルベージ)


 商隊が山脈へと進路を取って数日。
 夜は野宿となり、ショウロウは後備をまかされていた。
 つまり商隊の中心にいる雇い主らとは離れているということだ。
 そこでは思ったとおりショウロウに聞かれたくない話をしているようだった。

「ショウロウ、どうやら今回の計画はショウロウの思っている通りのようですよ」
 夜中にショウロウの元にやってきて、こっそりと告げる。
 ちなみにそれがばれないように、水でかたちどった人形を置いてきているという念の入れよう。
「その具体的なことも話しているようでした」
 ショウロウの思っていることとは『炎の部族のものを媒体として何かをなそうとしている』ということ。
 具体的には思いつかなかったが、炎の力は暴走させれば幾らでも悪用ができる。
 慈善にでも使用したいなら遠慮なく言ってくれれば協力するが、そんなわけはない。
「具体的に、か」
 それが分かれば対策も立てやすい。
「何のことなのか良く分からなかったのですが…」
 前置きをするビョウトにうなづいて促す。
 ビョウトもそんなことを言うよりも早く告げればショウロウが何か知っているかもしれないと思い至る。



「”炎の乙女”を作るとか」
「!!」
「?!」
 普段は冷静なショウロウが、大きく肩を跳ね上げた。
 思わずビョウトも驚くほどに。
「…あ…そうか、続きは?」
 冷静さを失いそうになりつつもさらに促す。
 ビョウトも意味も分からないがドキドキしつつ続ける。
「大丈夫ですか?…で、一度精霊のバランスの崩れた地で弱ったところを確保して”儀式の地”へ連れて行くといっていました。『男でも大丈夫』『適正がありそうだ』という言葉もありましたね…」
「……」
 ビョウトの言葉にショウロウは唇をキュッと結ぶ。
 見たことがないショウロウの様子にビョウトに不安がこみ上げる。それを見せてはいけないのではないかという気持ちも合わせて。
「シ、ショウロウ”炎の乙女”って何ですか?」
 ビョウト自身は”水の乙女”と呼ばれる存在だが、どうやらそれとは異なるようだということしか分からない。
 とりあえず湧き上がった緊張を隠すためとあわせて解(ほぐ)すために聞いてみる。
「”炎の乙女”というのは炎の部族に伝わる”破壊者”のことだ。過去に様々な時代に幾度も現れて何もかもを焼き払ったという伝説が各地に残っている。一人の人物だとも言うし、同じような行動を取った人々を総称したものだという説もある。多分お前もそのうちの一つくらいは聴いたことがあるはずだ」
「”炎の力を持った破壊者”ですか…」
「その姿が女であることから”炎の乙女”という……」
 そこまで言って一つ息をつく。
 まさかこんなところでそんな名前を聞くと思わなかったから、不意でショックも大きい。
 自分がそんなことに巻き込まれようとしているだなんて、やはり運命なのだろうか。
 思わず前髪をかきあげる。
 本当に、ショウロウらしくない仕草ばかりだ。
「…伝説のなかには女ではないものもあるらしいが、それでもそれらの伝説をまとめて言う時は”炎の乙女”の伝説という。そこまでは、一般的な話で本当に『伝説』として片付けられる。しかし今回は”炎の乙女”の他の伝承や正体を本当に知っているらしいな」
「『正体』?」
 こういう話をするとき、つくづくショウロウが外見どおりの少年の年齢ではないことを思い知る。
 昔話でもするかのように次から次に話がでてくる。
「一つ目の伝承として、”炎の乙女”は本当に女性で常に伴侶を求めているというもの。二つ目として”炎の乙女”に認められた人物はその恩恵を受けて力を得るというもの。この二つ目は一つ目の”伴侶”と通じているというな。ってことは男しか恩恵を受けられないってことになるが…それはどうでもいい。あとは殆ど知られていない『正体』……」
 ここまで言って、何かに気づいたように言いよどむ。
 ビョウトは黙ってショウロウの顔を見つめる。
「伝承は他にも多く存在するが、今回問題なのは『正体』か……」
 話しながら落としていた視線をビョウトに向ける。
 真っ直ぐな視線を向けられると怖いほどの鋭い視線に焦りが浮かんでいるのも分かった。
「”炎の乙女”は一人だが一人ではない。”炎の乙女”と呼ばれる憑依体がその時代その時代のある人物に乗り移ることで出来上がる存在なんだ。それは”儀式”で憑依させることが可能だという。ただ、極度に相性の良い肉体に憑依しない限り、その肉体の持ち主は死んでしまう…」
「っえ、えぇ?!」
 と声を上げたから慌ててトーンを落とす。
「…ってことは…」
 『もし儀式が行われるところまで行ったらショウロウの命も危ないのですか?』と口にしようとして咄嗟に止めた。
 縁起でもない。
 しかしそれを察したショウロウは首を振る。
「違う。もし、儀式が行われたら……詳しくはいえないが、俺はきっとこの世界で最も適正がある者だから……」
「!」
 『詳しくいえない』内容に色々あるのだろうが、ゆえに”炎の乙女”のことをよく知るのだろう。
「ビョウト、俺が何も出来なくなったら後を頼む」
 ビョウトはただ力強くうなづいた。



【2007/02/12 00:49 】