かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

15. 旧暦2月14日未明  決戦 その2

2008-03-20 08:33:42 | 麗夢小説『悪夢の純情』
「貴様は鬼童君と別れた後に、アメリカで今ここでやろうとしているのと同じような実験をした。はるかに小規模な霊子衝突実験だ。ところが衝突時に発生した膨大なエネルギーに実験施設そのものが耐えきれず、大爆発を起こした。鬼童君はこの間、夢見人形を使った実験で部屋一つをめちゃくちゃにしたが、貴様のはそんなちゃちなもんじゃない。鉄筋コンクリートの実験施設を建物ごと吹き飛ばしたんだからな。貴様はそれで即死し、既に墓地に葬られている。その無念の余り化けて出たばかりか、今度は死夢羅と平将門を使い、鬼童君まで地獄に引きずり込もうと言う魂胆だろう!」
 榊は、書類の束をルミ子に投げつけた。榊がアメリカから取り寄せた、桜乃宮ルミ子の検死結果、墓の写真、当時の大惨事を記した新聞記事のコピーなどが、鬼童とルミ子の間に散らばった。ルミ子は目に冷たい光をたたえてその書類を見たが、すぐにおどけた表情に戻って榊に言った。
「よくお調べになった事。榊警部、でしたっけ? 私の分身、都をやられたときはまさかと思っていたけれど、成る程、死夢羅博士があなたを甘く見るなっておっしゃってた訳が今やっと理解できたわ」
 警部がやっつけたの?! 驚く麗夢達にはにかんだ榊だったが、すぐに死神に『ほめられた』と聞いて顔をしかめた。が、それには構わずルミ子は言った。
「でも榊警部、あなたの言う事は事実かも知れないけれど、真実ではないのよ」
「何?」
「私の肉体は確かに消し飛んだ。でも、精神はこうして活動を続けている。我思う、故に我ありなんて陳腐な言葉だけれど、正にその通り、私はこうして存在を続けているのよ! かつて、肉体に縛り付けられていた頃よりもはるかに強く、しかも永遠に朽ち果てる事もなくね!」
 ルミ子は右手を軽く差し出すと、手の平を上に向けて手を開いた。その上に八面体にカットされた青い水晶体が浮かび上がった。ゆっくりと独楽のように回るそれをルミ子はうっとりとして眺め、再び榊に振り返って言った。
「それもこれも、みんなこのルミノタイト・ベータのおかげ。これは、ただの精神感応超伝導体じゃないの。いわば永久磁石のように、精神エネルギーに反応して、永久にそれを保持する霊石なのよ。昔からあった、人間の首、髪の毛、人形、水晶、宝石、写真、その他数え上げればきりがない位の数ある呪的道具の中で、このルミノタイトは最も鋭敏に人の精神に反応し、最も強力にそれを保持する能力があるの。超伝導現象はその副産物に過ぎないのよ」
 ルミ子は淡い光を放つルミノタイトを握りしめた。
「でも、永久保持にはそれなりのエネルギーで文字どおり焼き付ける必要があるの。実験施設を吹き飛ばす位の爆発的なエネルギーがね」
 ルミ子の頬が異様にひきつった。にやりと嗤ったのだ。それを見た途端、二人のやりとりをまだ信じられない気持ちで聞いていた鬼童の全身に、鋭い悪寒が走り抜けた。鬼童はようやく榊の言うところを理解したのだ。しかし、鬼童の反応は明らかに一歩遅かった。鬼童の脳から全身に『逃げろ!』という指令が伝達されるよりも早く、ルミ子は白衣のポケットから一つのリモコンを取り出してスイッチを押したのである。
(一体何のスイッチなんだ)
と考える暇もなかった。突然鬼童の足下の床を割って現れた巨大な繭のようなガラスの容器が、鬼童をすっぽりと包み込んだのである。
「鬼童さん!」
 麗夢の悲痛な叫びが実験室にこだましたが、分厚いガラスで外界から遮断された鬼童には、蚊の鳴くほどにしか届かなかった。
「な、何をするんだ! ルミ子!」
 鬼童は思いきりガラス壁を殴りつけたが、その衝撃さえもほとんど届かない。その内にも鬼童を収めたガラスの繭は、クレーンに吊り上げられて実験室を横断し、ルミノタイトサイクロトロン近くに控えた半球状の金属器に据え付けられた。
 ほーっほっほっほっ・・・。鬼童を完全に実験施設に取り込んだルミ子は、得意の高笑いを奏でると、呆然とする麗夢に右手人差し指を真っ直ぐに突きつけた。
「海丸は渡さない! たとえ今の海丸の心があなたに向いていたとしても、百年と待たずにあなたは息絶えるわ。でも海丸は、私とともに未来永劫、愛と研究に生き続けるのよ!」
「鬼童君を離せ、この亡霊め!」
 榊がルミ子に吼え立てた。
「麗夢さん、円光さん、アルファ、ベータ! 目の前のサイクロトロンを壊すんだ!」
「無駄よ!」
 駆け出そうとした麗夢達の足を、ルミ子はぴしゃりと抑え込んだ。
「既に実験はスタートしているわ。一時間も前に将門の怨霊は首塚を離れ、ゆっくりこちらに向けて動き出しているのよ」
 これに一番驚いたのは、一人真実に近いところにいた榊だった。
「ば、馬鹿な。将門の死んだのは今日の夕方なんだぞ!」
 将門の命日を狙うからには、時間も当然合わせてくる。榊はそう決めつけていたのである。対するルミ子は、すました顔で榊に言った。
「本当に何でも良くご存じなのね。そう、時間は確かに早過ぎるけど、霊子を観測するにはこれで十分なのよ。榊警部、あなた、将門のフルパワーがどれくらい凄いかご存じ? とてもこんなちゃちな装置じゃ制御しきれない程とてつもないパワーなのよ。まだピークに達していない今の状態だって、わずか秒速一〇メートルで移動する将門に対して、死夢羅博士の方はほとんど光の速さまで加速しないと、同じ強さに達しないんだから。大体考えてもご覧なさい。私はこの実験規模の千分の一で今の力を得たのよ? 幾ら不確定要素を考慮に入れて計算したって、海丸を私と同じにするのにこれ以上の余裕は必要ないわ」

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