かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

15.奇跡 その7

2008-03-09 00:18:06 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
麗夢は戦慄に不安を募らせながら死夢羅に言った。
「何をしたの! まさか鳩を・・・」
「その通り! たった今、鳩共を空に開放した。一万羽の死の天使が、愚かな人間共に鉄槌を下すべく飛び立ったのだ。もうお前達はおしまいなのだよ」
「その勝利宣言はまだ早すぎるな、死夢羅」
 半壊した出入り口に、よれよれのレインコートにくわえ煙草から煙をたなびかせる、蘭や麗夢にはおなじみの姿が現れた。麗夢達の絶望にひずんだ顔が、その姿を見てわずかに生気を取り戻す。一方の死夢羅は、怒りも露わに呼びかけた。
「どう言うことだ! 榊」
「対夢見小僧用の「秘密兵器」を、このビルに仕掛けさせて貰った。鳩は一羽たりとも空には飛びたたせんよ」
「対夢見小僧用秘密兵器だと?」
「窓の外を見るといい。死夢羅」
 榊警部の言葉に、死夢羅だけでなく、麗夢、美奈、蘭、そしてハンスもゆがんだ窓枠しか残っていない壁を見た。
「何? あれ」
 蘭が一旦目をこすって外を見直した。どうも霞がかかったように外の様子が見えない。麗夢達も訝しげに見ていたが、ようやく階上から降りてきた円光と鬼童が、その仕掛けを麗夢達に披露した。
「網ですよ、麗夢さん」
「網?」
「強靱なナイロン性の目の細かいネットが、このビル全体を覆い尽くしているんです」
「な、何だと?」
 死夢羅はあ然としてもう一度ビルの外を見つめ直した。すると、靄のように見えていたそれが、白色の細かい網模様を見せながら、時折所々できらりと光を跳ねているのに気がついた。
「ば、馬鹿な・・・、そ、そんな事くらいで、こんな馬鹿げたやり方で、このわしの苦心の策が破れたというのか!」
 すると榊は、うんざりしたように死夢羅に言った。
「馬鹿げたなどと言って貰っては困る。これでも夢見小僧に備えて、警察としても必死に知恵を絞ったんだからな」
「榊警部が任せて、って言ったのは、この事だったのね」
 麗夢が感心したように言うと、隣で蘭が腕を組んで溜息をついた。
「私はこんなベタなやり方でつかまったりしないわよ」
 まあまあ、と美奈とハンスが蘭をなだめる中、麗夢は改めて死夢羅に振り向いた。
「今度こそ観念なさい。死夢羅!」
 すると死夢羅は、ようやく上体を起こすと、麗夢を見上げて笑いかけた。
「ふふふ・・・今回は確かにしてやられたわい。潔く我が敗北を認めるとしよう。だが、この次はこうはいかんぞ、麗夢」
「この次ってこの状況でよくもそんなこと・・・」
「麗夢殿危ない!」
 円光がすんでの所で麗夢と死夢羅の間に割って入った。一瞬遅れて、大きく開けた死夢羅の口から、大量の瘴気が噴出して辺りを一瞬だけ闇に眩ませた。
「しまった!」
 慌てて麗夢は瘴気の渦を振り払ったが、ようやくそれが晴れたとき、うずくまっていた死夢羅の姿は、跡形もなく消え失せていた。
「ええい! 取り逃がしたか!」
 円光が悔し紛れに錫杖の石突を、ついさっきまで死夢羅のいた床に叩き付けた。麗夢も千載一遇の好機を逸し、しばらく唇を噛んでいたが、直ぐに気を取り直して皆に振り向いた。
「こっちこそ、次はきっちり返り討ちにしてやるわよ! こんなに頼もしい味方も増えたんだし」
 美奈、蘭、ハンスが、照れくさそうに麗夢の差し出した手を握り返した。元の可愛らしい姿に戻ったアルファ、ベータが四人の組んだ手の上に飛び乗り、榊、円光、鬼童も、互いに一仕事終えた充実感を共有しながら、笑みをかわし合った。やがて白んできた東の空に明るい太陽が力強く姿を現し、射し込んだ朝日が、わずかに残っていた瘴気を完全にぬぐい去った。

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