小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

水痘ワクチン2回接種の意義と効果

2017年03月19日 15時38分23秒 | 予防接種
 2014年10月に水痘ワクチンが定期接種化されました。
 それもいきなり「2回接種」です。

 従来、水痘(=みずぼうそう)は軽い病気と考えられ、子どもの友達が罹ったらうつしてもらうと考えるお母さんまでいました。
 しかし、発症すると1週間は集団生活をできなくなり、その間親も仕事を休まなければなりません。
 まれながら重い合併症も報告されています。
 さらに、歳を取ると帯状疱疹という痛い病気が待っています。

 それとは別に、重い病気(白血病やネフローゼ症候群、免疫不全状態)で闘病中の子どもが罹ると命に関わることがあります。
 もし、そのような病気の子どもたちが入院治療している病院で水痘が発生した場合、病棟が閉鎖され病院機能が停止してしまう弊害が報告されています。
 罹って軽く済む健康な子どもからお友達にうつった水痘が軽く済むとは限らないのです。

 以上の事柄を解決するために開発されたのが水痘ワクチンです。
 なんと、日本生まれ。
 諸外国は早くから定期接種を開始し、効果不十分なため2回接種と進んで来ました。
 開発国の日本は遅ればせながら2016年に追いついたところです。

■ 既に出てきた水痘ワクチン定期接種の効果
小児保健研究 第74巻 第4号、595-596、2015
・外国の水痘ワクチン接種スケジュール;

米国)1996年に定期接種開始(生後12-15ヶ月対象に1回接種)、水痘患者数は減少したが2004年頃から水痘ワクチン接種後に慧王を発症する子どもが増加したため、2006年から4-6歳を対象に2回目の接種が始まる。
ドイツ)2004年に精気接種を開始(11-14ヶ月を対象に1回接種)、しかし水痘患者数の減少が鈍いため、2009年から15-23ヶ月を対象に2回目の接種が始まる(最小接種間隔は4-6週間)。
・日本が2回接種を導入するにあたり、2回目を米国方式で行うかドイツ式で行うか問題になった。その際、三重県の保育園で水痘が流行し、ワクチンを受けていた園児の40-50%が軽症ながら水痘を発症するという事例があり、ドイツ方式を選択するに至る。
・すでにワクチンの効果が現れ、2015年の患者数はワクチン導入前の1/4に減少している;

・今後起きると予想される問題2つ;
①ワクチンを受けていない子どもがワクチン済みの水痘患者に接触しても発症しない。
 これは自然感染と比べて周囲への感染力が低いため。大人になってから罹ると重症化するため、3歳過ぎても未罹患の子どもには水痘ワクチンを接種すべし。
②高齢者の帯状疱疹増加;
 水痘ワクチン接種により水痘の流行規模が小さくなると、自然ブースターの機会が減少し、高齢者の帯状疱疹の発症頻度が増加する。水痘ワクチンは抗体を誘導・上昇させるだけではなく、帯状疱疹発症予防に関係する特異的細胞性免疫も強化する、高齢者へも推奨すべし。


 水痘患者が減ると帯状疱疹が増えるという減少が世界中から報告されています。
 帯状疱疹の対策もワクチンです。
 ワクチンの底なし沼にはまっていくような・・・。
 次の記事はカラフルでわかりやすいので引用しました;

■ 水痘ワクチンの2回接種スケジュール
ビケンワクチンニュース、2013年12月
・ 米国とドイツの2回接種スケジュール


 次の記事は米国の事情を少し詳しく記述;

■ 水痘ワクチン2回接種の開始で患者85%減〜米CDC
HealthDay News 2016年9月16日:m3.com
 米国では、水痘ワクチンの2回接種が推奨されるようになった2006年以降、水痘帯状疱疹ウイルスを原因とする水痘(水ぼうそう)の減少が続いていると、米国疾病管理予防センター(CDC)が報告している。2005~2006年から2013~2014年までの間に水痘は85%減少しており、特にワクチンの2回接種を受けている比率の高い5~14歳の小児に大幅な減少が認められているという。
 CDCによると、水痘の症状はかゆみ、水疱状の発疹、倦怠感、発熱など。乳児、成人、免疫系の低下している人では重症になる傾向がある。予防接種が始まる前は、水痘はよくみられる疾患であり、1990年代はじめには米国で年間平均400万人が水痘に罹患し、1万3,500人が入院、100~150人が死亡していた。予防接種の実施により年間350万人以上の水痘を予防し、入院9,000件、死亡100件を阻止できるようになったと、CDCは報告している。
 ワクチンによってすべての人の水痘を予防できるわけではないが、予防接種を受けた人が水痘に罹った場合、通常は予防接種をしていない人よりも水疱の数が少ないなど、軽症ですむ傾向があるという。監視すべき症例数が減少した現在、州の保健当局は新たな流行の特徴(症状の重症度、入院件数、予防接種の有無など)を十分に調査できるようになったと、CDCは指摘する。
 今後は、依然として重症例が発生している理由と、予防接種を受けた人にも重症例がみられるのか否かを解明することが不可欠だという。研究責任著者のAdriana Lopez氏らは、「水痘の症例数をさらに減らすことにより、各州が水痘に関する調査を強化し、予防接種プログラムの効果を監視するための報告の完全性を高められる可能性がある」と話している。
 米国では1996年に水痘ワクチンの1回接種が開始され、症例数が10年間で90%減少した。しかし、流行は引き続き発生していたため、2006年に2回接種スケジュールが開始された。CDCは、生後12~15カ月に1回目、4~6歳で2回目の接種を受けるよう勧告している。2014年までに40州が水痘に関するデータを報告しているが、予防接種プログラムの開始以来、毎年データを提出しているのはイリノイ州、ミシガン州、テキサス州、ウェストバージニア州の4州のみである。
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米国における成人のワクチン接種率は高くない。

2017年03月18日 16時01分28秒 | 予防接種
 最近、大人に必要なワクチンについて興味を持ち、資料を集めて読んでいる最中です。

 さて、日本がお手本にしている米国の予防接種行政。
 近年は大人のワクチンにも目を向け、必要な予防接種を推奨しています。

 ではその実施率は?
 目にとまった下記記事を読むと、実態は、決して満足できる状況ではなさそう。
 数字を抜き出してみると、

・19歳以上の人々のうちインフルエンザ予防接種を受けた人は43.2%
・19歳~64歳の高リスク成人のうち肺炎球菌ワクチンを接種した人は20.3%(それに対し65歳以上の人々においては61.3%)
・19歳以上の人々のうち破傷風・ジフテリア・百日咳に対するTdapワクチンを接種した人は20.1%
・60歳以上の人々のうち帯状疱疹ワクチンを接種した人は27.0%


 私が気になったのは「医療保険に加入している成人は、適切にワクチン接種する確率が2倍~5倍高い」「無保険の人々は二重に辛い。彼らは病気になっても保険の対象とならず、健康維持の一助となり得る予防接種も保険でカバーされない」という記述です。
 米国ではACIPが推奨してCDCが採用すると、その時点で「定期接種」として扱われますが、日本の定期接種と費用負担が異なります。
 米国での予防接種は、公費負担ではなく保険診療らしいのです。ご存じのように米国では国民皆保険ではなく民間保険です(オバマケアは国民皆保険を目指しましたが、完成前にトランプにつぶされそう)から、自分で保険料を払い、それが間接的にワクチン代になると捉えることができます。
 日本の専門家は、この辺をはっきり伝えていません・・・それで「日本は米国より遅れていて“ワクチンギャップ”が存在する」と主張するのは、ちょっとずるいと思います(^^;)。

■ 成人は新予防接種スケジュールを遵守するよう強く求められる
2017-02-07 :Reuters Health:アステラス)
 予防接種実施諮問委員会(ACIP)のメンバーらによると、大多数の米国人成人は予防接種を受けていないため、発症リスク、身体障害リスク、そしてワクチンで予防可能な疾患による死亡リスクが高まっている恐れがあるとのことである。
 「成人のワクチン接種率は非常に低い」と、ACIPの渉外役であるSandra Fryhofer先生はReuters Healthへ伝えた。
 2月6日付けのオンライン版Annals of Internal Medicineに公表されたACIPの予防接種データと勧告によると、全体として19歳以上の人々のうちインフルエンザ予防接種を受けた人は43.2%19歳~64歳の高リスク成人のうち肺炎球菌ワクチンを接種した人は20.3%(それに対し65歳以上の人々においては61.3%)19歳以上の人々のうち破傷風・ジフテリア・百日咳に対するTdapワクチンを接種した人は20.1%60歳以上の人々のうち帯状疱疹ワクチンを接種した人は27.0%であったとのことである。
 Fryhofer先生は人種的および民族的格差を指摘し、「一般に、白人のワクチン接種率は、黒人、ヒスパニック系、アジア人よりも高い」と述べた。また彼女は、医療保険に加入している成人は、適切にワクチン接種する確率が2倍~5倍高いとも述べた。
 「無保険の人々は二重に辛い。彼らは病気になっても保険の対象とならず、健康維持の一助となり得る予防接種も保険でカバーされない」と、彼女はeメールで述べた。
 「現在は医療費負担適正化法(ACA)があるため、新しい全ての保険プランが、ACIP予防接種勧告のAとBの全カテゴリーをカバーしていなくてはならない。ワシントンでACAに何が起こっているのかが懸念される。あらゆる混乱の中でワクチンの補償範囲がごまかされ狭くならないことを願う」と、彼女は付け加えた。
 ジョージア州アトランタにあるEmory Vaccine CenterのAssociate DirectorであるWalter Orenstein先生は、「年少の小児に推奨されているワクチンを見ると、ほとんどのワクチンについて90%の接種率が達成されている。それと比較して成人の予防接種率は大幅に低いことが浮き彫りとなっており、失望させられる結果である」と述べた。
 Orenstein先生はReuters Health へ次のように述べた。「全ての成人が1年に1回インフルエンザワクチンを接種すべきである。また、10年毎に破傷風ワクチンの追加接種を受け、65歳になったら2つの異なる種類の肺炎球菌ワクチン、60歳になったら帯状疱疹ワクチンを接種すべきである。」
 子供の時に予防接種を受けなかった人々もしくは特定の健康状態にある人々には、追加ワクチンが推奨される、と彼はeメールで述べた。「全ての妊婦が、自分自身と自分の子供を守るためのインフルエンザワクチンと百日咳(ゼイゼイいう咳)から新生児を守るためのワクチンを接種すべきである」と、彼は述べた。
 Fryhofer先生とOrenstein先生によると、2017年の重要な変更には以下の事項が含まれるとのことである。

-生後6か月以上の全ての人々に、依然としてインフルエンザワクチン接種が推奨される(CDCによると、今のようにシーズンの終わり頃になっても)が、経鼻ワクチンは推奨されない(http://bit.ly/2hr9YbP)。

- 15歳未満でHPVワクチンを接種する場合には、現在、3回ではなく2回接種が必要とされる。しかし5か月間以上の間隔を空けること。15歳以上になってから接種し始める場合には、依然として3回接種が必要である。

-これまでにB型肝炎ワクチンを受けたことがない成人の慢性肝疾患患者には、肝がんの予防にもなるB型肝炎ワクチンの接種が推奨される。接種の新しい適応は、脂肪肝とALTまたはASTの値が正常値の2倍以上の全ての人である。これによって「今よりもかなり多くの成人に、B型肝炎ワクチンが必要となる可能性がある」とFryhofer先生は述べた。

- HIV感染成人には、髄膜炎菌ワクチンの2回接種が推奨される。利用可能な2種類の髄膜炎菌ワクチンには互換性がないため、全ての投与において同じワクチンを使用しなくてはならない。

「現在利用できる唯一の帯状疱疹ワクチン(商品名はゾスタバックス)は生ウイルスワクチンであるため、免疫機能に問題のある人々には投与できない」と、Fryhofer先生は付け加えた。

 現在、新しいアジュバント添加帯状疱疹サブユニットワクチン(HZ/su)が臨床試験中であるが、2015年の試験では、このワクチンによって帯状疱疹リスクが97%以上低下することが示されている(それに比し、現在のワクチンでは50%)、と彼女は述べた。試験中のワクチンに関してはガイドラインの中では述べられていないが、「この新ワクチンが食品医薬品局から承認されたら、帯状疱疹ワクチンに関する勧告は変更される可能性がある」と、彼女は結論付けた。
 成人のワクチン接種に関するガイドラインは全て「AdultVaxView」に掲示されている。
 ACIPによると、誰が何のワクチンを、いつ、どの用量で必要としているのかは脚注で明らかとされているため、医師は脚注に記されている情報をよく注意して見なくてはならないとのことである。


<原著>
Ann Intern Med 2017.


■ 帯状疱疹ワクチンは米国の高齢者の目標レベルに達していない
2016-11-24 Reuters Health:アステラス
(ロイターヘルス) - 米国の60歳以上の人で、水痘ウィルス(herpes zoster)による痛い発疹(帯状疱疹)に対するワクチン接種を受けている人は、全員受けるよう勧告されているにもかかわらず、わずか5人に1人である。
 50歳以上では3人に1人が帯状疱疹を発症すると推定されている。80歳以上では、成人の半数が帯状疱疹を経験している。「発疹は通常2週間~4週間で治る。しかし中には神経痛が残る人があり、数か月から数年続くこともある」と述べるのは、筆頭著者である帯状疱疹ワクチンを製造するニュージャージーの製薬会社Merck and Co., Inc.のDongmu Zhang氏である。
 「適合する成人に対するワクチン接種は帯状疱疹の予防または症状軽減に有効だと思われる」と、Zhang氏はeメールでこう述べ、CDCは60歳以上の成人全員への接種を勧告していると付け加えた。
 ワクチンは50歳~59歳の人にも承認されているが、ガイドラインではこのグループへのワクチン接種の勧告にまでは至っていない。Zhang氏のチームは、10月26日付けのオンライン版American Journal of Preventive Medicine(アメリカ予防医学ジャーナル)において、連邦政府の「ヘルシーピープル2020」イニシアティブは、2020年までに60歳以上の30%へのワクチン接種を目標として定めていると記述している。
 どのくらいの高齢者がワクチン接種を受けているかを調べるため、研究チームは2つの医療データベースからのデータを使用した。1つは60歳以上の成人約700万人、もう1つは50歳から60歳までの700万人のものである。研究者らは、2007年から2013年までの間に、この内の何人が帯状疱疹ワクチン接種を受けたかを調べた。
 また彼らは、年齢、性別、地理的地域、健康保険の種類、また免疫系の欠陥の有無など、ワクチン接種を受けるかどうかに影響を与える可能性のある因子についても調べた。
 その結果、2013年までに帯状疱疹ワクチン接種を受けていたのは、50歳~60歳では2%未満、60~64歳で24%、65歳以上では15%であることがわかった。
 ワクチンは2006年に初めて承認され2007年から2013年にかけて、ワクチン接種を受ける人の数は毎年増加したと研究者らは述べた。
 女性および正常な免疫系を持つ人はワクチン接種を受ける割合が高く、定期的な医療ケアを受けるため頻繁に医院や薬局に行く人も同様であった。しかし救急治療を受けた人と入院した人はワクチン接種を受ける割合が低かった。
 インフルエンザワクチンを受けた人は、受けない人に比べて帯状疱疹ワクチンも受ける割合が高かった。
 Zhang氏のチームは医師に対し、インフルエンザワクチン接種などで患者と接する機会を利用して帯状疱疹ワクチンについて指導し、ワクチン接種を受けるよう勧めることを奨励している。
 「帯状疱疹による痛みは体力を消耗させ、治療は簡単ではない」。ミネアポリスのミネソタ大学教授であるBarbara Yawn先生はReuters Healthにeメールでこう述べた。
 帯状疱疹の痛みと痒みは、日常活動ができなくなるほどひどくなることがあると述べた。Yawn先生は、今回の研究には参加していない。
 「最も年齢が高いグループでは、障害があまりにひどいため、身の回りのことができなく、脱水症状になり入院に至ることもある。痛みのせいで自分で水を飲みに行くことさえできなくなるからだ」と、Yawn先生は述べた。
 「帯状疱疹は予防できる病気であり、QOLに悪影響を与える病気である。帯状疱疹が起きてから治療しようとするより、予防するほうが良い」と、同先生は述べた。
 Zhang氏は次のように述べている。「帯状疱疹はワクチン接種が予防に役立つ病気だが、ワクチン接種率は上がっていない。医師や薬剤師に相談し、自分が帯状疱疹ワクチン接種を受けるべきかどうかを判断することが絶対に必要である。」

<原著>
Am J Prev Med 2016.

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百日咳の追加免疫は「Tdap」がいい? いや「DTaP」、いやいや「DTwP」ですってば。

2017年03月18日 08時21分09秒 | 予防接種
 と、記号で書かれてもわかりませんね(^^;)。
 百日咳含有ワクチンのことを書いていて、混乱しやすいと思われますのでこの辺で用語の整理を。

 両方ともにワクチンの名前で、Dはジフテリア(Diphteria)、Tは破傷風(Tetanus)、Pは百日咳(Pertussis)という意味です。
 されにDTaPの a は無細胞(acellular)を意味し、Tdapの d や p は抗原量を減らしたD、Pを意味します。
 そしてDTwPの w は全細胞(whole cell)を意味します。

 ややこしや〜。

 昨今、成人の百日咳が問題視されています。
 といっても典型的な咳嗽発作はみられず「頑固な咳が続く風邪」程度で終わるので、罹っても自覚はありません。
 何が問題かというと、百日咳に罹った大人から赤ちゃんがもらって重症化するのです(生後3ヶ月以内では命に関わります)。

 欧米では既に、成人対象に百日咳ワクチンの追加接種が始まっています。そこで採用されたのがTdapです。
 しかしこのTdap、百日咳ワクチンの抗原量を減らしたため、免疫が長続きせず2年くらいで消えてしまうことが判明しました。
 この失敗に気づいた米国は、コクーン戦略(赤ちゃんの周囲の人がワクチンを接種する)を啓蒙しましたが、赤ちゃんの感染源は周囲の家族以外が50%以上を占めるため有効な方策になり得ず、現在は妊婦さんにTdapを接種することにより赤ちゃんを守ろうという方法を選択するに至りました。

 さて、日本ではこの対策が遅れに遅れています。
 まず、年長児以降で定期接種として百日咳ワクチンを接種する機会がありません。
 11-12歳で行う追加接種はDTのままで、百日咳が抜けたまま。

 小児科学会は2008年から年長児の追加接種に百日咳ワクチンを入れるように厚労省に要望してきましたが、なしのつぶて。
 近年、ようやく対策が協議されるようになりました。

 行われた治験で生き残ったのは、トリビック®(阪大微研)のみ。
 欧米で実績のあるTdap(Adacel®、サノフィ)や、他の国内メーカーによるDTaPは、ブースター反応率が不十分という理由で開発が頓挫しました。

 実は、2000年代にDTをDTaPへ変更した治験が日本で行われていました。
 この結果を基にDTaPへ変更していれば、百日咳問題の状況が大きく変わったはずなのに、と思うと残念でなりません。

 と、ここで話は終わりません。
 日本がまごまごしている間に、米国は一歩も二歩も先を進んでいます。
 Tdapのみならず、DTaPの効果の限界をも見破り、昔の全細胞ワクチンに戻した方がよいという意見が出てきたのです。

■ 百日咳:米国に戻ってきた理由と可能な解決策
2016-03-28 Reuters Health、アステラス

 百日咳に対する全細胞ワクチンの副反応を減らす目的で開発した無細胞ワクチンは効果も減っていた。
 これはインフルエンザワクチンにも言えることです。
 昔の全粒子ワクチンの副反応を減らす目的で開発したスプリットHAワクチンは、効果も減っていた。
 
 副反応ゼロのワクチンは存在しません。
 副反応をどこまで受け入れることができるか、それはその感染症のインパクト、そしてその時代・地域の医療レベルも関係してくるでしょう。

 なお、引用記事中の「全細胞性百日咳ワクチンに伴う、希ではあるが重篤な副作用」とは「百日咳ワクチン接種後脳症」を指していると思われます。
 しかしこの副反応は濡れ衣だったことが後年判明しています(↓)。CDCの専門家が知らないはずがないと思うのですが・・・?

百日咳ワクチン接種後脳症は Dravet症候群(ドラベ症候群=乳児重症ミオクロニーてんかん)だった。(当院ブログ)
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米国では赤ちゃんを百日咳から守るために妊婦にワクチンを接種する方法を選んだ。

2017年03月17日 08時22分58秒 | 予防接種
 百日咳・・・私には縁がない、と考えているそこのあなた。
 他人事ではありません。
 大人は百日咳に罹っても典型的な咳嗽発作はみられず、「咳の頑固な風邪」程度で終わってしまうことが多いのです。
 つまり、診断されていない大人の百日咳がたくさんいる、という事実が最近わかってきました。
 いや、三種混合/四種混合を済ませているお兄ちゃん、お姉ちゃんも危ない危ない。

 そして、生まれたばかりの赤ちゃんが百日咳に罹ると、命に関わるほど重症化します。
 米国ではその対策に苦心し、現在は妊婦さんに百日咳含有ワクチンを接種するという方法にたどり着きました。

■ 乳児の百日咳の主な感染源が「きょうだい」に変化 その理由とは?
HealthDay News2015年9月24日 :m3.com
 乳児が百日咳に罹った場合、感染源はそのきょうだいである可能性が高いことが、新たな研究で明らかにされた。数年前までは母親が感染源であることが最も多かったが、この変化は驚くにはあたらないと研究著者である米国疾病管理予防センター(CDC)のTami Skoff氏は話す。
 米国ではこの数年で明らかに百日咳の発生件数が増加しており、比較的年長の小児やティーンエイジャーの占める割合が増えている。その主な理由は、1990年代に米国保健当局が百日咳ワクチンをDTaPと呼ばれる新ワクチンに切り替えたことである。従来のワクチンにはまれな神経障害の懸念があったためだが、DTaPは持続期間が短く、短期的には極めて効果が高いものの、5歳前後の最終接種以降は年々効果が衰えていくという。
 ワクチンを接種した小児は百日咳に罹っても軽くすむが、重症化しやすい年少の乳児にうつしてしまう可能性がある。百日咳に感染した1歳未満の乳児の半数が入院を要するという。
 新生児は免疫系が未熟なため、DTaPワクチンは生後2カ月になってから初回接種を行い、以降は4、6、15~18カ月、4~6歳に接種する。Skoff氏によると、母親が妊娠第3期(28~40週)にTdapと呼ばれるワクチンの追加接種を受けると、生まれてくる乳児に対する短期的な防御効果が得られるという。
 米モンテフィオーレ医療センター(ニューヨーク市)のSiobhan Dolan氏によると、10年前には、乳児を守る措置として家族や保育者のTdap追加接種を徹底する「コクーニング」が推奨されていたが、効果は十分とはいえなかった。今回の研究で乳児の感染源を特定できたのは全体の44%にとどまるとSkoff氏は指摘し、だからこそ妊娠中に毎回ワクチンを追加接種するのがベストだと述べている。
 「Pediatrics」オンライン版に9月7日掲載された今回の知見は、米国7州の保健当局に報告された1,300件を超える乳児の百日咳の症例に基づくもの。特定できた感染源の多くは近親者であり、きょうだいが約36%、母親が約21%、父親が約10%だった。
 CDCは現在、11歳以上で1回Tdapの追加接種を受けることを推奨しており、それ以降は妊婦に限り追加接種が推奨されるとSkoff氏は説明している。抗体は次の妊娠までは持続しないため、妊娠のたびに接種が必要となる。百日咳ワクチンは妊娠中に受けても安全であることが明らかにされているという。


■ 妊婦のTdap接種、推奨資料を発表【米国家庭医学会】 〜AAFPが家庭医による啓発のための包括資料を作成
米国学会短信2015年5月19日:m3.com
 米国家庭医学会(AAFP)は4月29日、妊婦への破傷風・弱毒化ジフテリア・無菌体百日咳3種混合ワクチン(Tdap)の妊娠27~36週の間に接種を推奨することの重要性を家庭医に伝える資材を作成し、紹介した。AAFPは「家庭医はこの資料を活用し、情報を妊婦と共有して、ワクチン接種推奨を強化して欲しい」と述べている。
 同資料は、妊婦のTdap接種率の向上を目的に作成。Tdapワクチン接種について認識が不足している妊婦に対し、米国疾病管理予防センター(CDC)による「SHARE」の利用を推奨している。SHAREは
(1)妊娠毎のTdapワクチン接種が重要である理由を共有する(Share)
(2)Tdapワクチンの効果を裏付ける成功体験を強調する(Highlight)
(3)妊婦の質問や不安を平易な言葉で解消する(Address)
(4)ワクチンは妊婦自身とその家族を重病から守るものだということを繰り返し伝える(Remind)
(5)特に乳児期に百日咳に罹患した場合の影響について説明する(Explain)
 の頭文字を取ったもの。
 AAFPによると、百日咳の発生率は上昇。特に乳児は月齢2カ月までワクチン接種ができないため新生児の罹患リスクは高く、百日咳による死亡の大部分が月齢の低い乳児が占めている。こうした状況の中で、「このワクチンが安全であり、胎児を守るものであるということを妊婦が知ることが重要。妊婦に信頼されている家庭医からのワクチンの推奨は、生まれてくる子どもたちの百日咳予防に効果的だと考えられる」と述べている。


■ 妊婦の百日咳接種、有効率9割超
Lancet 2014年7月23日:m3.com
 英国で2012年10月に導入された妊婦への百日咳ワクチン投与プログラムの有効性を観察研究で検証。感染確定乳児数は2012年10月をピークに低下した。2012年と2013年の比較で感染者/入院者数低下率が最も高かったのは3歳児未満群だった。プログラム導入後に出生し、3カ月未満で感染した乳児数に基づく有効率は91%だった。


■ 妊婦の三種混合接種、早産増えず
JAMA 2014年11月20日: m3.com
 単胎妊娠・出産した女性12万3494人を対象に、百日咳予防の三種混合ワクチン(Tdap)の妊娠中接種と有害転帰の関連を後ろ向き観察研究で検討。未接種女性に比べ接種女性で、妊娠時高血圧病態、早産、在胎期間軽小児(SGA)の出産リスク増加はなかったが、絨毛膜羊膜炎の診断がわずかながら統計的有意に増加した(調整後相対リスク1.19)。


■ 妊婦の百日咳接種で死産増えず
BMJ 2014年7月22日:m3.com
 英国で百日咳ワクチン接種を受けた妊娠女性2万74人を対象に、ワクチン接種の安全性を観察コホート研究で調査。ワクチン未接種の歴史的対照群と比較して、ワクチン接種14日後または妊娠後期での死産リスク増加のエビデンスはなかった(発生率比0.69、0.85)。妊婦や新生児の死亡、子癇前症などの重篤イベント増加のエビデンスも認めなかった。


■ 妊娠中のTdapワクチン接種の安全性が新たな論文レビューで確認される
2017-02-09:Reuters Health:アステラス
・妊婦における破傷風、ジフテリア、無細胞百日咳(Tdap)ワクチン接種の安全性に関して安心できるデータが文献レビューをした結果得られた。
・「妊娠第2三半期または第3三半期に行うTdap混合ワクチン産前接種は、胎児および新生児にとって臨床的に意義のある害を及ばすことはない、ということがエビデンスから示唆される」と、オーストラリア、アデレード大学Mark McMillan氏らが2月6日付Obstetrics and Gynecologyオンライン版で報告した。
・米国、英国、オーストラリアを含む多くの国では、現在第3三半期以前の妊婦に対して、3か月未満の幼児を守るため、百日咳を含むワクチン接種を勧めている。しかし、産前ワクチン接種の母親、胎児、新生児に対する安全性に関する情報は限られている。これを調べるため、McMillan氏らは、百日咳抗原、ジフテリア毒素、破傷風毒素を含む混合ワクチン、あるいは不活性化ポリオ抗原ワクチンの産前接種後の妊婦、胎児、幼児における有害事象を報告した21試験の体系的レビューを行った。
・早産、SGA性低身長症、死産、出生時低体重、先天異常等の出生時有害事象を評価したところ、「妊娠後期第2三半期または第3三半期でのTdapまたはTdap-IPVの産前接種後にリスクが上昇することは示唆されなかった」と報告されている。
・高血圧性障害や早期陣痛の統計学的または臨床的に有意なリスクはない。研究者らによると、ある大規模レトロスペクティブ試験において絨毛膜羊膜炎リスクに関して小さいながらも統計学に有意な上昇が認められたが、早産、絨毛膜羊膜炎の目立った続発症リスクの上昇はなかった、統計的検出力を適切化した上でTdapワクチンの産前接種と絨毛膜羊膜炎の関連を検討した研究が求められる。
・「破傷風毒素ワクチン産前接種後の全異常に対する推定値は1.20から1.60であり、95%信頼区間はゼロと交差した」と、研究者らは報告している。「第1三半期ワクチン接種後の個々の先天異常転帰について報告した同種の研究も有益であろう。」
・また、レビューした試験には、ワクチン接種後の重度の反応を報告したものはほとんどなかった。最もよく認められた有害事象は局部反応であった。「発熱の客観的な発現率はわずか3%以下であり、全身事象としてもっと頻度が高かったのは頭痛、不快感、筋肉痛だった」と、報告には記述されている。
・研究者らは、多くの国で妊娠中のTdapワクチン接種の推奨変更があったことから、近い将来Tdapワクチン産前接種の安全性を検討した研究が増えるだろうと指摘している。
・「現在進行中の研究結果が今回のエビデンスにまもなく加わる予定である。Tdapワクチン産前接種実施国の市販後調査データから価値あるエビデンスが得られるだろう」と、研究者らは述べている。

<原著>
Obstet Gynecol 2017.
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現行の百日咳含有ワクチンの効果の限界

2017年03月17日 07時34分39秒 | 予防接種
 百日咳対策は、ワクチンを接種しておけば大丈夫、という単純なことでは済まない様子。

 まずは衝撃的な記事を紹介します。
 百日咳ワクチンは、昔は「全粒子ワクチン(wP)」を使用していました。しかし副反応が強いため(発熱率60-70%)、PT/FHA抗原を精製した「無細胞ワクチン(aP)」が開発され、1981年に切り替えられて現在に至ります。
 しかし、よかれと思って開発・変更したこの無細胞ワクチンが、なんと流行の遠因になっているというのです。

■ 百日咳の流行は無症候感染が原因【米国呼吸器学会】
 〜無細胞ワクチン接種は伝播を予防せず
米国学会短信2015年7月22日:m3.com
・全菌体ワクチンから無細胞ワクチンに切り替えた後の英国の百日咳発症率は、ワクチン接種を行っていなかった時代と同様の4年周期パターンに戻っていることが明らかになった。
・無細胞性ワクチンの接種割合が上昇するにつれて無症候性の百日咳感染症例が増大していることも分かった。
・英米では百日咳予防接種率が高いにもかかわらず、百日咳発生率はむしろ増加している。研究者によると、これは百日咳菌の進化や免疫力の減衰では完全に説明できず、無細胞ワクチンの接種を受けて症状が発現しなくなった感染者が菌を伝播している結果である可能性が高いという。
 研究者らは「無細胞ワクチンは無症候性感染患者による伝播を予防せず、それが百日咳発症率を増加させていることが示唆された。また、ワクチン未接種の乳児に対するコクーニングは有効ではないことも、これらのモデルが実証している」と結論している。


 次は百日咳含有ワクチンの効果持続期間について。
 現行のスケジュールでは、乳幼児期に4-5回接種しますが、獲得した免疫は小学校入学前にすでに減衰・消失してしまうと云う現実が明るみに。

■ 百日咳増、DPT接種の効果減弱が原因【米国小児科学会】
 〜小児期の接種の効果は青年期では減弱する
米国学会短信2015年5月14日:m3.com
 小児期に無細胞ワクチン接種のスケジュールを完遂した被験者の免疫獲得率は平均73%、接種後2-4年目には34%にまで低下していた。


 そこで米国では、追加接種用のワクチンを開発しました。その名はTdap(T:破傷風トキソイドの量はそのままに、d:ジフテリアの国減量は減量、ap:無細胞百日咳ワクチンの抗原量も減量)。
 これで解決と思いきや、やはり抗原量を減らした百日咳ワクチンの効果はそれなりなのでした。

■ Tdap効果、2年目から漸減で感染増【米国小児科学会】
2016.2.18:m3.com
 2010年と2014年にカリフォルニアで大流行した百日咳の発生実態を調べたところ、百日咳を発症した1207人ではTdap の定期ワクチン接種で百日咳を防ぐことができなかった。
 Tdap接種後1年は効果は得られるが長続きせず、2年目には効果が弱まり、2-3年経つとほとんど効果がないことが明らかとなった。


 そこで米国では、予防接種前の赤ちゃんを守るために、妊婦にTdapワクチンを接種することを推奨しています(それも妊娠するたびに)。

 さて日本では幼児期以降は百日咳ワクチンの接種機会が用意されていません。米国のようにTdap導入が要望されてきましたが、導入前にTdapの効果が不十分であることが判明してしまい、困っています。
 検討の結果、日本の追加接種では百日咳ワクチンの抗原量を維持したDTaP(トリビック®)が認可されるに至りました。
 治験ではTdapは効果が証明されずに脱落したらしい。
 しかししかし、このトリビック®、現在は生産中止状態で手に入りません。
 メーカーは「定期接種化したら生産する」とコメント。

■ 「百日咳追加接種は5歳それとも11歳?」
 〜厚生科学審議会小委員会で取りまとめ開始
2017.2.15:m3.com
・日本では海外で使用されているTdapではなくDTaPが承認された。その背景として「Tdap導入国では、効果の持続性がよくないとの報告が出ている。今の日本では百日咳抗原を減らさないワクチンを青年・成人期に追加接種する戦略は理にかなっている」(岡田賢司Dr.)。
・日本のワクチンスケジュールでは、3歳以降に百日咳含有ワクチン接種を受ける機会がなく、このため百日咳予防に必要なレベルの抗体保有率が5歳で20%台に低下している。現在DTaPの接種年齢とされている11-13歳よりも、最初に抗体保有率が下がる5-6歳が年齢設定として適当ではないか。さらに11-13歳での接種を十分な説明なく実施した場合、HPVワクチンの二の舞になるのではないかという懸念がある。


<資料>「百日せきワクチン ファクトシート 平成29 (2017)年2月10日」(厚生労働省)

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百日咳&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月16日 13時58分11秒 | 予防接種
 私が知らないこと/気になることを中心にメモってますので、基本を知りたい方は他のHPをお読みください

■ 「百日咳」
CDC Watch 16, 2009/4
・百日咳ワクチンは接種後5-10年で免疫が弱まる。
臨床所見
・乳幼児では重症化しやすく、生後1歳未満の小児の半数以上は入院が必要になり、とくに4ヶ月未満では重症かつ致死的な合併症を呈することがある。米国では毎年10-20人が死亡している。
・小児の合併症:
 肺炎・・・10人に1人
 痙攣・・・50人に1人
 脳障害・・・250人に1人
・成人では咳が長期持続するが、典型的な発作性咳嗽を示すことはなく、診断されにくい。しかし菌の排出があるため、ワクチン未接種の新生児/乳児への感染源となる。
感染経路と感染性
・百日咳菌は乾燥した粘液でも最大3日間は生き残ることができる。
・曝露した免疫の内家族内接触者での感染率は80-90%にのぼる。
・未治療の患者(特に幼児)は感染性を6週間以上保っている。ワクチンの摂取既往や感染既往のある年長小児や成人では感染正帰還は21日以下であるのが一般的。
曝露後予防
・マクロライド系抗菌薬が使用されるが、エリスロマイシン(念のためクラリスロマイシンも)は新生児での肥厚性幽門狭窄の危険があるので避ける。アジスロマイシンは関連がなく、推奨抗菌薬である。
治療
・早期(カタル期)に抗菌薬治療をすると症状の重症度を軽減できるが、形成期以降は抗菌薬は症状の軽減を期待できず、百日ぜき菌を駆逐して伝播を抑えることが目的となる。

■ 「病原微生物検出情報 <特集>百日咳」
Vol.38 No.2(No.444)、2017年2月発行、IASR
・1回の百日咳含有ワクチン接種で乳児の重症か百日咳を50%、2回以上であれば80%予防できる。
・日本では2012年11月にDPT→ DPT-IPVへ変更された。
・百日せきワクチンの免疫効果は4-12年で減弱するため、先進国では青年・成人の百日咳患者の増加や、同世代の不顕性感染者が感染源と成、ワクチン未接種児が感染し重症化することが問題となっている。欧米を含む諸外国では、青年や妊婦を含む成人へのTdapの接種が推奨、実施されている。
・ワクチン定期接種終了後4年で約半数が、8年後には90%程がワクチンによる防御効果が消失する。
・外国における予防接種スケジュールでは、多くの国で生後2ヶ月から接種が開始され、4-7歳に5回目、10代で6回目(Tdap)の追加が行われている。米国では妊婦にTdapワクチンを接種し、乳児への移行抗体を高めることでワクチン接種前の生後2ヶ月未満の乳児を百日咳から守ろうとする試みも行われている。ちなみに日本では7歳半以降に百日咳含有ワクチンの接種機会はない。

・百日咳抗体保有状況:


 月齢6-11ヶ月は90%に達し(ワクチン接種による免疫獲得)、年齢が上がるに津入れて抗体保有率は低下し、5-6歳が30%以下と最も低く(ワクチン免疫の減衰)、それ以降は年齢とともに上昇している(自然感染による)。
・実験室診断:
菌培養)検出率は低く、菌分離成功率は乳児患者で60%、ワクチン既接種者や菌量の少ない青年・成人患者(乳児の1/3400量、年長児の1/65量)ではより低率になる。
抗百日咳毒素抗体:抗PTIgG)免疫系が十分に発達していない乳児、ワクチン接種後1年未満の患者には適用できない(WHO)。
抗百日咳IgM/IgA抗体)日本では2016年に承認/健康保険適用された。このIgM/IgA抗体はワクチン接種の影響を受けない。IgM抗体は病日15日、IgA抗体は病日21日をピークに誘導され、IgA抗体はIgM抗体よりも持続することが確認されている。・・・以上のように有用であるが、2016年12月時点では、民間検査会社でも受託検査は開始されていない(T_T)。
百日咳菌LAMP法 loop-mediated isothermal amplification)リアルタイムPCR法よりも簡便・迅速な診断が可能。2016年11月に健康保険適用。

 CDCでは患者の病日により検査法の使い分けを提唱している。
 菌培養検査・・・咳嗽出現から2週間以内(既に抗菌薬投与された患者には適用できない)
 遺伝子検査・・・咳嗽出現から3週間以内、乳児やワクチン未接種者では4週間以内まで使用可能
 抗PTIgG抗体・・・咳嗽出現後2週間以降、8-12週まで使用可能

 

米国の百日咳事情と対策
・1996年頃にDTaP導入
・2000年頃より百日咳患者報告数増加。理由として、成人患者への医師の関心、PCRなどの検査法発達、そしてなによりも、自然感染やワクチン接種により獲得された百日咳に癡する免疫力が年月の経過に伴い減弱し、再び感受性者となること。
・2005年に青年・成人に対してTdap導入・・・しかしこれも不活化ワクチンであり、効果減衰が予想されるため、妊娠ごとに妊婦へのTdap接種や乳児の世話をする機会がある成人、医療従事者へのTdap 接種が推奨され、実施されている。

■ 「新検査法の登場で百日咳の診断が変わる」
2017.1.5:日経メディカル
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水痘・帯状疱疹&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月14日 13時50分14秒 | 予防接種
 小児科医の私は、「帯状疱疹は水痘のように空気感染しないので、播種性帯状疱疹を除いて病室隔離の必要はない」と本で読んで覚えてきました。
 しかし実際には、同居の祖父母から孫が感染する事例を結構見かけます。
 「接触感染以上に感染力がありそう」というのが率直な印象。
 一般人の約15-30%が障害に帯状疱疹を経験する、とのことですから無視できない問題です。

 「ほんとに帯状疱疹は空気感染しないの?」

 という疑問に直球で答えてくれたのがこの記事。
 結論から申し上げると、空気感染します!

■ 帯状疱疹と空気感染
CDC Watch No.14, 2009年2月
 記事の筆者は矢野邦夫Dr.(浜松医療センター)

・水痘及び帯状疱疹の患者の病室の空気中のVZV DNAの検出を試みた研究(Sawyer MH, et al. Detection of varicella-zoster virus DNA in air samples from hospital rooms. J Infect Dis 1994;169:91-94)によると、水痘患者の病室の空気検体の82%(64/78検体)にVZV DNAが検出され、帯状疱疹の患者病室からは70%(9/13検体)で検出されたという。研究者はVZVのエアロゾルは気道からではなく、皮膚病変からの排出の結果であろうと推測している。

・帯状疱疹の患者の同居家族が高値を保持していないと15.5%が水痘を発症する(水痘の患者の同居家族では71.5%)。
 そのためCDCは帯状疱疹の患者について、「播種性病変が見られる場合」と「免疫不全患者にて限局性病変が見られる場合」には空気感染予防策と接触感染予防策を実施するように勧告している。

・水痘ワクチンを接種して水痘感染を回避すれば帯状疱疹にならないかというと、そうではない。ワクチン接種にて弱毒化ワクチンウイルスが知覚神経神経節に潜伏感染し、それが再活性化すればやはり帯状疱疹を引き起こす。
 すなわち、水痘ウイルスに自然感染しても、水痘ワクチンを接種しても、前者では野生株VZVが、後者では弱毒化ワクチンウイルスによる帯状疱疹を経験することになる。ただし、弱毒化ワクチンウイルスの方が自然感染よりも帯状疱疹を発症する可能性は小さい。


 もう一つ。
 日本の医療機関では、帯状疱疹の患者への対応としての医療従事者へのワクチン接種が遅れいていることを感じさせる、米国の指針を紹介した記事です;

■ 帯状疱疹患者への対応は万全か?
CDC Watch No.48,2012年1月
※ 2011年11月:CDCが公開した「医療従事者の免疫化:予防接種諮問委員会の勧告」(Immunization of health-care personnel: Recommendations of theAdvisory Committee on Immunization Practices, ACIP)より
 以下の水痘免疫の根拠がない医療従事者は水痘ワクチンを4-8週間あけて2回接種すべきである。
 免疫の根拠のない職員にワクチン接種前の血清スクリーニングは経済的に有効であるが、ワクチン2回接種後の水痘免疫検査は推奨しない。
 水痘ワクチンの2回接種の文書による確認は、接種後の血清学的検査の結果よりも優先される。

水痘免疫の根拠
・2回の水痘ワクチン接種の文書記録
・検査による免疫の根拠または検査による疾患の確認
・医療従事者による水痘の既往の診断又は確認
・医療従事者による帯状疱疹の既往又は確認

水痘*帯状疱疹ウイルスへの曝露対策
 「水痘患者への曝露」のみではなく「水痘、播種性帯状疱疹、局所帯状疱疹で病変がカバーされていない患者」への曝露を意味する。それぞれの対処法は、
1.水痘ワクチン2回接種既往あり→ 暴露後8-21日間、症状の有無を確認し、症状が出現したら業務から外す。
2.水痘ワクチン1回接種既往あり→ 暴露後3-5日以内に2回目を接種する。この期間に接種できない場合は、暴露後8-21日間業務から外す。
3.水痘ワクチン未接種または水度免疫の根拠なし→ 暴露後8-21日は業務から外す。かつ、暴露後に水痘ワクチンを接種する:3-5日以内であれば発症予防/軽症化が期待でき、5日以降では次の曝露に対しての防御を誘導する。
4.ハイリスク(水痘ワクチンが接種できない妊婦・免疫不全者など)の場合→ 水痘-帯状疱疹免疫グロブリンを暴露後に投与する。投与により潜伏期を1週間遅らせる可能性があるので、その医療従事者の業務制限の期間を21から28日に延長しなければならない。
5.病変がカバーされている局所帯状疱疹への曝露→ 過去に少なくとも1回水痘ワクチンを接種していれば業務制限せず、症状出現の有無を毎日確認し、出現時は業務から外す。1回も接種していないなら、患者接触を制限する。

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(新型)インフルエンザと学級閉鎖(CDC Watch No.22, 2009年より)

2017年03月14日 07時53分27秒 | 感染症
 2009年に新型インフルエンザが流行した際、学級閉鎖・学校閉鎖が相次ぎました。
 その基準については「生徒の約10%が休んだとき」(季節性インフルエンザでは20%?)というのが一般的で、決めるのは学校長、学校医は相談に乗るというスタンスです(現在は「学校の設置者」として教育委員会も関与するようです)。
 ただし、学級閉鎖の基準は明確には存在しません。

「感染症流行時の臨時休業の決め方」(日本学校保健会HP)
■ 「学校感染症による出席停止について」(同じ内容です)
■ 「学校において予防すべき感染症の解説」(文部科学省)・・・p15に記載がありますが、概念だけで具体的な数字は皆無。
■ 「学級閉鎖・学校閉鎖|どのようなときに閉鎖になるのか」(ブログ:学校管理職試験研修所)
■ 「インフルエンザ学級閉鎖の基準まとめ!文部科学省の見解は?」(ブログ:季節お役立ち情報局)・・・ここには都道府県の情報がありました。東京都では10%(これは新型の場合で季節性では20%という情報もありました)、大阪府では15-20%、北海道では20%を目安としているようですね。

■ 新型インフルエンザと学級閉鎖CDC Watch No.22, 2009
 米国ではCDCが指針(Questions and answers about CDC guidance for state and local public health officials and schoo administrators for school(K-12) responses to influenza during the 2009-2010 school year.)を出しています。
 その中で、いくつかに分類しています。

school closure」・・・学校を閉鎖して全ての生徒と職員を帰宅させる。学校の機能は停止。
school dismissal」・・・生徒は家に留まるが、職員は出勤してもよい。さらに3つに再分類される;
1.選択的学校閉鎖:すべての、もしくはほとんどの学生が「インフルエンザに感染すると合併症を呈する危険性が高い生徒」である場合に実施される。
(例)医学的に脆弱な小児の学校、マタニティースクールなど
2.反応的学校閉鎖:多くの生徒及び職員が病気となって、学校に来ることができない場合に実施される。
3.先制攻撃的学校閉鎖:多くの生徒や職員が感染する前に、インフルエンザの拡大を減らす目的として流行早期に実施される。早期というのは「人口の1%が感染する前」ということである。インフルエンザ流行のピークの低減および医療システムへの負荷の軽減に大変有効である。この学校閉鎖は重篤なインフルエンザが流行するような場合に実施されるが、そうでなければ実施されることはない。

 日本で行われている学級閉鎖を、上記米国のシステムと比較するとどうでしょうか。
 著者(矢野邦夫Dr. 浜松医療センター)による分析・解説は以下の通り;

 学級生徒の10%が休んだ場合に閉鎖される→ 「先制攻撃的学級閉鎖」ではない。「反応的学校閉鎖」でもない。「選択的学校閉鎖」でもない。
 現在実施されている学級閉鎖は「10%に到達した」というだけの「数字的学級閉鎖」である。
 学級閉鎖は抗ウイルス薬やワクチンを用いた介入よりも14倍、21倍のコストがかかる。そして医療システムに破壊をもたらす。医療従事者も親であり、学校に子どもを送り出しているため、学級閉鎖されると出勤できなくなるからである。さらに、子どもたちのケアに動員された高齢者が感染し、その死亡率が上がることになる。
 学級閉鎖を実施するときは、経済的及び社会的ダメージについて十分に考慮しなければならない。決して、数字が10%に到達したからという根拠であってはならない。


<参考>
「インフルエンザ流行期の学級閉鎖」考(2011年12月23日:当院ブログ)
■ 「新型インフルエンザ流行時における学校閉鎖に関する基本的考え方」東北大学医学系研究科微生物学分野 神垣太郎・押谷仁(平成 21 年度厚生労働科学研究)
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医療従事者における麻疹・水痘・風疹・ムンプスの就業制限(CDC Watchより)

2017年03月14日 06時45分41秒 | 感染症
 医療従事者は件名の感染症に対する免疫が要求されます。
 その理由は、本人が感染した場合、患者さんにうつす可能性があるからです。
 患者さんの中には、病気や治療のために免疫抑制状態にある人もいます。そのような患者さんにうつると命に関わるのです(特に麻疹や水痘)。
 そして医療機関は、感染症患者が集まる場所ですから、そのリスクが一般の職場よりも高い傾向があります。
 もちろん、本人自身が罹らない目的もありますし、罹った場合に一定期間仕事に穴をあける(就業制限)ことも問題です。

 しかし、日本には「就業制限期間」のルールがありません。
 米国ではCDCが1998年にガイドライン(Guideline for infection control in health care personnel)を出しています。
 下記はその紹介記事です;CDC Watch(メディコン)No.17, 2009年5月






 筆者(矢野邦夫Dr.、浜松医療センター)は「常にマンパワーが不足している日本の医療機関では、CDCの推奨通りの暴露後就業制限はできない。従って、ワクチンを接種して就業制限をしなくても住むようにするのが望ましい。」と結んでいます。
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HBV&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月13日 08時27分51秒 | 予防接種
 HBVワクチンが2015年10月に定期接種化されました。
 しかし、医療関係者の間では昔から感染予防対策としてワクチンの接種が行われてきたことは、あまり一般的に知られていません。
 HBVは針刺し事故で感染する可能性の高い疾患(感染率30%!)であり、一度感染すると体から消えることがありませんので、深刻で切実な問題なのです。
 しかし、HBVに感染した医療従事者のほとんどは針刺しを経験しておらず、感染した医療従事者の2/3がHBs抗原陽性患者をケアしたことさえ思い出せない、という報告があり、つまりHBVは感染者への曝露がないにもかかわらず、感染する危険性があるのです。それは、HBVは室温にて環境表面の乾燥血液の中で少なくとも1週間あ生き続け、そのウイルスが皮膚のひっかき傷、擦り傷、火傷、粘膜表面から体内に入り込むから。
 上記の理由から、すべての医療従事者は針刺し事故のみならず、無自覚のHBV曝露から身を守るために、HBVワクチンを接種することによりHBs抗体を獲得しておく必要があります。

 さらに、医療従事者や実習学生がHBV感染者である場合にどうしたらよいかも悩ましい問題です。きちんとルールを決めておかないと、HBV感染していることを理由に業務から外されたり、学生が学習の機会を奪われる可能性があるからです。

■ HBVワクチンでHBs抗体を獲得できない医療従事者はどうするか?
CDC Watch 2012年2月
(CDCが2011年11月に公開した「医療従事者の免疫化:予防接種諮問委員会の勧告」の解説)
・HBVワクチンを1コース3回接種してHBs抗体を獲得できる比率は、40歳以下であれば90%以上、40歳以上では90%未満、60歳まででは75%まで低下する。
・HBVワクチン接種にもかかわらず、HBs抗体が陽性化しない医療従事者がHBVに曝露した場合には適切な対応が必要となる。
・1コース(3回接種)に反応しない人のうち、25-50%の人が1回の追加接種により抗体を獲得できる。
・通常量(もしくは高用量)のワクチンを用いた3回の再接種をすれば、44-100%の人がHBs抗体を獲得する。
・再接種後1-2ヶ月してから実施したHBs抗体検査が陰性の人はprimary nonresponder と考えられる(遺伝的要因が関連しているかもしれない)。

<non responder への対処法2コース>
(その1)
1コース(3回接種)でHBs抗体を獲得できなかった医療従事者がHBs抗原陽性の人や肝炎である可能性が高い人に曝露した場合
 ↓
B型肝炎用免疫グロブリン(HBIG)を1回投与し、2コース目のHBVワクチン(3回接種)を開始する.
曝露源の人がHBs抗原陰性であることが確認されたならば、2コース目を完了させ、HBs抗体が獲得できたか否かを確認するための検査を実施する(HBIGが投与された人での接種後検査はHBIGによるHBs抗体が検出されなくなってから実施する・・・投与後4-6ヶ月後)

(その2)
2コース(6回接種)でHBs抗体を獲得できなかった医療従事者がHBs抗原陽性の人や肝炎である可能性が高い人に曝露した場合
 ↓
HBIGを1ヶ月の間隔を開けて2回接種する。この場合は追加のワクチン接種の必要はない。曝露源の人がHBs抗原陰性であることが確認されたならば、追加の検査も治療も必要ない。



■ B型肝炎ウイルスに感染している医療従事者および学生のためのCDC勧告
CDC Watch 2012年9月

・医療行為をカテゴリー分類:
【カテゴリーⅠ】医療従事者の経皮損傷の危険性を増加させる可能性があり、医療従事者から患者へのHBVの伝播を引き起こしたことのある処置。
 患者の体腔内で針の先端を指で触れる可能性がある医療行為、「医療従事者の指」と「鍼又はその他の鋭利器具や鋭利物(骨片など)」が解剖学的に狭小な部位または視野の狭い部位で同時に存在する医療行為。
(具体例)腹部大手術、心臓胸部手術、整形外科手術、大きな外傷修復、子宮摘出術、帝王切開、経腟分娩、口腔の耐手術や卾顔面手術に限定される。
【カテゴリーII】非侵襲的処置またはカテゴリーⅠには含まれない侵襲的処置。
 医療従事者への経皮損傷の危険性が低いか危険性の内緒値、もしくは経皮損傷が発生したとしても、それは患者の体の外部で発生するのが通常であり、従って医療従事者から患者への血液曝露の危険性が見られない。
(具体例)カテゴリーⅠに記載されていない外科処置や産婦人科処置、医療従事者の手が患者の体腔の外にあるときに、針やその他の鋭利器具を使用する処置(瀉血、末梢あよび中心静脈カテーテルの留置及び管理、注射による薬剤投与、針生検、腰椎穿刺など)、歯科処置(口腔の大手術や卾顔面手術以外)、チューブ(鼻胃、気管内、直腸内、尿路カテーテルなど)の挿入、内視鏡又は気管支鏡、手袋し立てによる内診(膣、口、直腸・・・ただし鋭利器具を用いない)、身体表面に接触する処置(一派案的な身体診察、目の診察、血圧測定など)となっている。

医療従事者/学生がHBVに慢性感染しているという理由だけで、
→ カテゴリーII:何ら制限を受けることはない。
→ カテゴリーⅠ:HBVウイルス量が低値(1000IU/mLあるいは5000GE/mL以下)または検出感度以下であることが少なくとも6ヶ月毎の定期検査で示されるならば、実施することができる。

・患者が「HBVに感染している医療従事者の血液」に曝露した場合は、それがいかなる処置であっても、曝露後予防および患者の検査を実施することを推奨。


■ B型肝炎ワクチンCDC Watch 2011年9月

・接種前にB型肝炎の免疫検査を実施すべきか?
→ ルーチンに実施することは推奨されていないが、下記の人々を対象に、ワクチン接種前のHBs抗原/抗体検査を推奨している。
 血液透析患者
 妊婦
 HBVに曝露したことが判明しているか疑われる人(HBV感染の母親から生まれた幼児、HBV感染者の家庭内接触者、感染性血液や体液に職業上曝露またはその他の曝露をした人)
 HBV感染者の多い国で生まれた外国人
 HIV患者

・接種シリーズ完了後にはHBs抗体検査を実施する必要があるか?
→ ルーチンには必要ないが、下記の人々(免疫状態を知ることが引き続く臨床的行為に関連する人)には推奨される。抗体検査のタイミングは、接種シリーズが完了してから1-2ヶ月後に実施するのが一般的である。
 HBs抗原用性の母親から生まれた幼児
 血液・体液による針刺しや粘膜曝露の危険性が高い医療従事者や保健所職員
 血液透析患者
 HIV感染者
 その他の免疫不全患者
 慢性B型肝炎ウイルス感染者の性的パートナー


■ HBVの針刺しの暴露後対策CDC Watch No.35, 2010年12月
<感染リスク評価>
 当事者(針を刺した医療従事者)がHBs抗体を保持(>10mIU/ml )していれば、感染の危険性はない。
 HBs抗体を持っていなければ、感染する可能性がある;
  曝露源がHBs抗原陽性/HBe抗原陽性→ 肝炎発症リスクは22-31%(HBV感染の血清学的エビデンスがみられる危険性は37-62%)
  曝露源がHBs抗原陽性/HBe抗原陰性→ 肝炎発症リスクは1-6%(HBV感染の血清学的エビデンスがみられる危険性は23-37%)
<曝露後対策>
 当事者にHBVワクチンの接種既往が無い場合→ 受傷後24時間以内にHBIG(B型肝炎免疫グロブリン)を注射し、同時にHBVワクチンコース(3回接種)を開始する。
 当事者がHBVワクチン接種既往があってもHBs抗体を獲得できなかった場合→ 「受傷後24時間以内と1ヶ月後にHBIGを注射する」、もしくは「受傷後24時間以内にHBIGを注射して、同時にHBVワクチンコールを開始する」のどちらかを選択する。


■ HBVに感染している母親が出産後に母乳を子どもに与えても安全か?
(CDC Watch No,62 2013/3)
A. 安全である。
 HBVワクチンが利用できるようになる前でさえも、授乳によるHBV伝播の報告はなかった。
 母子感染予防が完了し子どもが十分に免疫化されるまで、授乳を遅らせる必要はない。
 授乳している全ての母親は乳首が避けたり出血したりしないように適切にケアする必要がある。
※ HCV感染母もほぼ同じ内容で、乳首に傷があったり出血が見られるときは一時的に授乳を止めるとある。ただし、HIV感染母の場合は「母乳を与えてはならない」。
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