小児アレルギー科医の視線

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アトピー性皮膚炎治療のエビデンス 〜プロアクティブ療法〜

2018年10月21日 10時55分20秒 | アトピー性皮膚炎
 アトピー性皮膚炎治療では現在、「プロアクティブ療法」が主流になりつつあります。
 「え、プロアクティブってあのCMの?」と驚かれる方がいるかもしれませんが、CMのニキビ治療のプロアクティブとは全く別物です。

 簡単に言うと「アトピー性皮膚炎の予防治療・維持治療」ということになりますか。
 アトピー性皮膚炎にはステロイド軟膏を用いますが、今までとは違う、その特徴的な使用法を意味します。

 従来は「湿疹が悪化したら塗る」方法でした(これを「リアクティブ療法」と呼びます)。
 新しい方法は「湿疹が悪化しないように塗る」のです。

(リアクティブ療法)湿疹が悪化したら軟膏を塗る
(プロアクティブ療法)湿疹が悪化しないように軟膏を塗る

 一度集中的に治療して「湿疹ゼロ状態」に治し、その後塗る間隔を空けていき、どこまで減らしても大丈夫かを見極める方法とも言えます。
 そして「3日に1回ペース(=週2回)まで塗布間隔が空けられると、ある程度長期(4〜6ヶ月)に使用していてもステロイド軟膏の副作用を心配しなくて良い」ことがわかってきたため、近年普及してきました。

 私は小児アレルギー疾患に関わって四半世紀が経ちますが、乳児のアトピー性皮膚炎患者さんに従来のリアクティブ療法を行っても、改善と悪化を繰り返し、正直言って埒があきませんでした。
 そして離乳食開始頃に「現在続いている湿疹の悪化因子を調べましょう」と食物アレルギーのチェックをすると、卵が陽性に出ることが多く、「1歳までは卵を控えましょう」と指導するのが常でした。

 数年前にプロアクティブ療法を導入したところ、手応えを感じました。
 湿疹のない状態が維持できるので患者さんは喜んでくれます。
 そして、ずっと皮膚の状態が良いので「悪化因子としての食物アレルギーチェック」が必要なくなることに気づきました。
 しかし中には、離乳食を勧める段階で「卵を食べたら顔が赤くなりました/蕁麻疹が出ました」という患者さんも出てきます。
 さらに気づいたのは、このような患者さんは湿疹が良くならなくてドクターショッピングの末、生後6ヶ月以降に当院にたどり着いた赤ちゃんだったのです。
 最初(生後1〜2ヶ月頃)から当院に通院して皮膚をよい状態に保ってきた赤ちゃんには食物アレルギーがほとんどいません(ゼロではありません)。
 というわけで、当院では乳児湿疹/乳児アトピー性皮膚炎の診療に力を入れています。

 さて、第52回日本小児アレルギー学会(2015年)の講演がWEB配信されており(学会員でないと閲覧できません)、その中のアトピー性皮膚炎関連のものを再度視聴し、気になる箇所をメモしてみました。
 本物の学会ではどんどんスライドが変わるのでメモを取る暇がありませんが、WEB配信ではPAUSEボタンがあるので便利ですね。

■ 「プロアクティブ療法」を日常診療にどのように取り入れていくか?(二村 昌樹先生)

 プロアクティブ療法の最初の報告は1999年だそうです(⇩)。

<原著>
・Br J Dermatol. 1999 Jun;140(6):1114-21. The management of moderate to severe atopic dermatitis in adults with topical fluticasone propionate. The Netherlands Adult Atopic DermatitisStudy Group.
 FP(Fluticason Propionate)というストロングクラス(※)のステロイド軟膏を、まず連日2週間塗布(initial treatment phase)して湿疹をキレイにし、その後2週間は週4日、その後16週間は週末2日だけ塗布(long-term treatment phase)するというスケジュールを組み、偽薬(ステロイドが入っていない軟膏)と比較したもの。すると、偽薬では75%が再燃したが、FPを使用した人では再燃は半分以下に抑えられたという結果が得られた。
※ リンデロンV軟膏レベル


 以下に小児対象のステロイド軟膏によるプロアクティブ療法のエビデンスを提示します。発表だけでは?の箇所は、原著をみて修正しました。

①(2002年)Hanifin;
対象:0.3-65歳の348例
期間:湿疹沈静化(Stabilization Phase、連日2回塗布を上限4週)→ (Maintenance Phase)週4日1回塗布を4週+週2日16週
使用軟膏:FP(前述)
結果:再発率0.38倍(15歳以下では偽薬で66%、FPで26%が再発)
有害事象:毛嚢炎(acne)1例、副腎機能は問題なし
※ 湿疹がなくなるまで連日2回塗布(最長4週まで)、週4日塗布を4週

<原著>
・Br J Dermatol. 2002 Sep;147(3):528-37. Intermittent dosing of fluticasone propionate cream for reducing the risk of relapse in atopic dermatitis patients.


②(2003年)Berth-Jones;
対象:12-65歳の295例
期間:湿疹沈静化(連日1-2回塗布4週)→ 週末2日塗布16週
使用軟膏:FP
結果:再発までの期間が0.29-0.71倍
有害事象:なし

<原著>
・BMJ 2003;326:1367. Twice weekly fluticasone propionate added to emollient maintenance treatment to reduce risk of relapse in atopic dermatitis: randomised, double blind, parallel group study.


③(2009年)Glanzenburg;
対象:4-10歳の75例
期間:湿疹沈静化(毎日2回塗布4週)→ 週末2日塗布16週
使用軟膏:FP
結果:重症度が0.54倍
有害事象:毛細血管拡張1例、ただしプラセボ群でも毛細血管拡張1例

<原著>
・Pediatr Allergy Immunol. 2009 Feb;20(1):59-66. Efficacy and safety of fluticasone propionate 0.005% ointment in the long-term maintenance treatment of children with atopic dermatitis: differences between boys and girls?



④(2008年)Peserico;
対象:12歳以上の221例
期間:(湿疹沈静化後)16週、週末2日塗布
使用軟膏:MA(methylprednisolone aceponate、ストロングクラス)
結果:再発までの期間が0.36倍(再発率はMA群12.9%、偽薬群34.2%)
有害事象:なし

<原著>
・Br J Dermatol. 2008 Apr;158(4):801-7. Reduction of relapses of atopic dermatitis with methylprednisolone aceponate cream twice weekly in addition to maintenance treatment with emollient: a multicentre, randomized, double-blind, controlled study.



 これら4つの報告を読んでまず気がついたのは、

・再燃を反復する中等症から重症例が対象。
・湿疹をストロングクラスのステロイド軟膏を1日2回4週間使用(Stabilization Phase)して略治・沈静化できた例をエントリーしている。
・連日塗布からゆっくり塗布間隔を空けていくのではなく、いきなり週2回塗布(Maintenance Phase)に落としているスケジュールが多い。


 ということ。
 乳児を扱っているのは①のみでした。そのAbstractを読むと、

・最初(Stabilization Phase)にエントリーしたのが372例で湿疹が沈静化して維持期(Maintenance Phase)にたどり着いたのは348例、つまり24例はこの時点で脱落している。
→ (疑問)脱落例はFPを1日2回4週間塗布しても沈静化しなかったのか?
・小児例の再発率は、FP群が偽薬群の8分の1に減り、20週の観察期間内でほとんど再発例がいない。一方の偽薬群では約1ヶ月後(中央値5.1ヶ月)に再発している。
・非再発例では安全性確認目的で24週まで観察したが、毛嚢炎1例のみで、皮膚の菲薄化や萎縮はゼロだった。


 と記されています。
 当院では乳児対象にマイルドクラスのステロイド軟膏(ロコイド®)をメインに使用していますので、この報告よりさらに安全と考えられます。
 今後も自信を持って乳児アトピー性皮膚炎の診療を続けたいと思います。
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