小児アレルギー科医の視線

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新型コロナの取り扱い、2類→ 5類の議論について

2021年08月29日 15時37分11秒 | 予防接種
現在、新型コロナ感染症は、感染症法の中で「2類」相当の扱いになっています。
それを「5類」にすべきであるという意見があちこちで上がるようになりました。

どういうことなんだろう?
いくつか記事を読み比べてみました。

開業内科医によるこちらの記事では、開業医レベルでの影響は、

・2類は保健所が取り扱い、5類では保健所が介入しない
→ 中等症以上の入院先は医師が探さなくてはならない
→ 入院ベッドが足りない現状では司令塔役(=保健所)が必要

・2類では発熱外来の開設でき公費負担、5類では一般外来に発熱患者が来院し3割負担
→ PCR検査は3割負担でも5000円程度かかる

とあり、著者は「2類→ 5類への変更に反対」という立場でした。
流行を制圧する目的というより、
保健所がパンクしているのでその負担軽減という目的が見え隠れ・・・。

呼吸器専門医のこちらの記事では、まず感染症法の解説から始まります。

「感染症法」では、症状の重症度や病原微生物の感染力などから、感染症を「1類~5類感染症」の5段階と「新型インフルエンザ等感染症」「新感染症」「指定感染症」の3種類の合計8区分に分類しています(表)。


新型コロナは、症状がない陽性者を含めた入院勧告や就業制限、濃厚接触者や感染者の追跡などの対応が必要な、指定感染症の1~2類相当として扱われてきました。2021年2月から「新型インフルエンザ等感染症(※)」という枠組みに変更され、これは感染症法における「特例枠」です。

そして2類→ 5類へダウングレードすると医療現場で何が起こるか、については、

・入院勧告や感染者の追跡が不溶になり、保健所の負担が軽減する
・自宅待機要請と入院要請ができなくなる→ 感染者数増加?
・感染者数増加→ 重症患者増加→ 医療逼迫&崩壊
・医療費自己負担が発生する:検査費用、治療費(例:レムデシベルは5日間で38万円)などの3割負担

であり、現時点ですぐ変更するには無理があり段階を踏むべきであるという意見でした。
ここでもメリットは「保健所の負担軽減」のみですね。

看護師によるこちらの記事では、まず同じく感染症法の説明(わかりやすい!)があり、

感染症は、感染力の強さや症状の重さなどに応じて「1~5類」「新型インフルエンザ等感染症」「指定感染症」に分類されています(感染症法)。
新型コロナは「新型インフルエンザ等感染症」と位置づけられています。流行当初は「2類相当の指定感染症」でしたが、より長期的に柔軟な対策が取れるように2021年2月に見直されました。



そして5類に変更になると、

・外出の自粛要請
・感染者への入院勧告・入院措置
・就業制限
ができなくなり、
・指定医療機関以外の病院でも入院が可能になる
・全額公費負担だった医療費に自己負担が発生する
ことになります。

つまり「ふつうの感染症」扱いになるという印象です。
実際に5類に変更されたら新型コロナ流行がどう展開するかは、

・法律に基づいた行動の制限ができない→ 感染拡大が懸念される
・指定医療機関以外にも患者が分散する
→ 病床不足は解消(?)、しかしコロナ対応で混乱(クラスター発生増加?)
・通常診療への影響が大きくなる→ 通常診療制限が加速?

などを指摘しています。
「病床確保」という視点からは5類の方が有利かもしれませんが、
まだ感染を制御できていない今の状況では混乱必至であり、

「(重症者・発症者の減少が見込める)ワクチン接種が進んでいない中では、5類への見直しはまだ早い」

という慎重論で締めくくっています。
ここまで読んでくると、
「なるほど、まだ2類のままの方がいいのかな」
と感じますね。

一方の「5類への変更賛成派」の意見も聞いてみましょう。
開業内科医によるこちらの記事では視点が異なり、保健所の負担軽減ではありません。
本来は入院治療が必要なPCR陽性患者が入院できない現状を「これは医療じゃない。治療ネグレクトだ」と非難しています。

「それって言葉をかえると『重症化を待っている』ということなんです」
長尾和宏医師(兵庫県尼崎市の長尾クリニック院長)が言う。長尾クリニックではコロナ発生当初に発熱外来を立ち上げた。そこでコロナと診断した人はこれまでおよそ600人、入院できず在宅療養を24時間態勢でフォローしてきた患者は300人を超える。
「現状の体制ではコロナの感染判明から入院先が見つかるまで合計1週間もかかってしまう。その間にハイリスク者は死ぬし、重症化の可能性も高くなる。大切なのは治療までの時間。コロナは“時間との闘い”なんです。けれど今は診断された患者の多くが、入院先が見つかるまで“治療を受けられない”(=治療ネグレクト、放置)です」

2類の設定では良くも悪くも「保健所の管轄」になります。
前出では「入院を手配する司令塔」としてのメリットが強調されていましたが、
この記事では「患者が直接医療機関とつながることができない」弊害を指摘しています。

「保健所を介さず、地域の開業医がコロナ患者を請け負える5類にすれば、放置される患者がいなくなるのです。今は“コロナだけが通常医療を提供できない”状態です」

確かにこのような視点もありだとは思います。

しかし、現況では季節性インフルエンザのタミフルのように、
開業医が使える特効薬が新型コロナでは存在しません。
一部の開業医ではステロイド(デキサメタゾン)を処方しているようですが、
私の担当する小児では、保険適用のある量の設定があやふやで確立した治療法とは言えません。

つまり“対症療法”に終始し、重症化すれば病院にお願いすることになります。
ベッドが空いていない場合は、見つかるまでずっとベッド探しの電話をし続けることになりかねません。
現在、救急車の救急隊員がしていることが医師の仕事になり、一般診療がストップしてしまいます。

感染拡大の流れは、開業医も診療に参加せざるを得ない方向に向かっていることを実感しています。
しかし、上記のようにベッド探しに時間を費やすことは本末転倒、
ワクチン接種が進み、かつ私のような開業医が駆使できる治療薬が登場するまで、5類への完全移行は待つべきなのかもしれません。
もちろん、保健所の負担を軽減する方策は随時進めるべきだと思います。


<参考>
新型コロナ、僕が「5類格下げ」に反対する理由 
 谷口 恭(太融寺町谷口医院)
新型コロナを5類感染症にすると医療現場はどうなるか?
【新型コロナウイルス】「指定感染症」で医療の体制は?ポイントまとめ
新型コロナ「5類感染症」に変更するとかしないとか…どういうこと?
「在宅放置でコロナ死する人をもう増やしたくない」長尾医師が"5類引き下げ"を訴える本当の理由重症化する前に町医者に治療させよ
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