小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

たくさん登場した新型コロナの検査を、どう使いこなすか?

2020年11月22日 08時55分33秒 | 予防接種
前回の記事で「現在行われている新型コロナ検査はすべて不完全である」と書きました。
しかし、医療現場では手持ちの駒で診療をしなければなりません。
これらの検査をどう使いこなすか、が問われています。

2020年10月に公表された「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針:第1版」の図表を参考に考えてみます。



PCR検査は毎日陽性者が報告されているおなじみの検査ですね。
検査には数時間かかり、基本的に検査の翌日に結果が報告されます。
LAMP法は短時間で結果が出ますが、専用の機械(高価!)が必要ですので大病院レベルでないと用意できません。
これから期待できるのは抗原検査で、1時間以内に結果が判明する迅速診断キット(抗原定性)が数種類登場していますが、前記事で記したように感度が低いのが難点です。



次は検査検体の種類です。
すべて上気道から採取しますが、表の3種類が認められています。

鼻咽頭ぬぐい液」は「上咽頭ぬぐい液」とも呼ばれているもので、鼻から綿棒を水平に入れて喉上部の壁に達したらそこをグリグリ拭う、インフルエンザでおなじみの検査です。大人では10cmくらい進めないと到達しません。当然、子どもは嫌がって泣き叫びますし、大人でもむせて咳き込むことが多いので、飛沫感染対策・エアロゾル感染対策が必要です(⇩表5)。これが開業医レベルで検査をしにくい大きなハードルになってきました。

その後登場した「鼻腔ぬぐい液」(専門用語では「鼻前庭ぬぐい液」)。
これは綿棒を鼻の奥まで進めず、入り口付近の2cm奥をグルグル拭うだけでOK。
簡単なので、医療者の監督下に患者さん自身に行ってもらうことも可能です。
この点がすごく大きい。
患者さんにやってもらえるので、医療者は鼻咽頭ぬぐい液の時のように防護具を患者ごとにフル装備する必要がなくなります。
小児科ではどうでしょうか。
お母さんが嫌がる我が子を固定して鼻の入り口を拭う動作はちょっと危険です。
一人、あるいは二人がかりで子どもを動かないようにしっかり抑える必要があります。
当然、子どもは嫌がって泣き叫びますから、飛沫・エアロゾル感染対策が必要になり、その医療スタッフにはフル装備の防護具が必要になります。
「鼻腔ぬぐい液」検査は、内科にとっては福音ですが、残念ながら小児科では有用とはいえません。

他に「唾液」検査も登場しました。
唾液を1〜2ml、吐き出して容器に収める方法です。
患者さん自身にやってもらうので、医療者の防護具は軽装で済みます。
ただ、こちらも上手にできるのは小学生以上でしょう。
幼児には無理そうです。

なお、インフルエンザ迅速診断で行われている「鼻かみ検体」は新型コロナでは認可されていません。

というわけで複数種類の検体が使えるようになり、成人対象の内科では簡便に検査できるようになりましたが、小児科は恩恵に預かれない、フル装備の感染防護具が必要なまま、というのが実情です。






次に検査の流れを見てみましょう。
現在、新型コロナウイルス感染症は「指定感染症」扱いなので、診療内で行う分は保険適応かつ政府の補助金があるため無料です。
ただし、濃厚接触者でも無く症状もないけど心配だからどうしてもやりたい、という場合は自費になります。


11月から発熱患者の診療、検査をスムーズに行う目的で「診療・検査医療機関」という仕組みが作られ、稼働をはじめました。
しかし私が初めてこのシステムを知ったとき「???」という印象でした。

「発熱患者を診療する医療機関には補助金が支給される」
「補助金は上限20人とし、発熱患者を1人診療するたびに減額される」

エッ? と耳を疑いました。
「発熱患者を診ると増額される」のではなく「減額される」のです。

「どういうことですか?」
と質問すると、
「PCR検査陽性者のベッド確保と同じ考え方」
「発熱患者を診療すると公表すると、かかりつけ患者の受診抑制の可能性が出てくるので、そこを補填する」
という考えなんだそうです。

なるほど、極めて“内科的”な考え方なのですね。
実際に内科開業医では「発熱患者は診ない」ところも出ているそうですから、そこに「発熱患者を診てください」という依頼する代わりにアメを与える、という図式。

しかし、小児科開業医にはこの仕組み、まったく役に立ちません。
小児科開業医は、新型コロナ騒ぎ後も、感染対策を取りながら以前のように発熱患者の診療を続けているところがほとんどです。

11月現在、毎日発熱患者は10人以上来院しています。
「上限20人」は一日中発熱外来を開いて他の患者さんを診療しない設定の場合です。
発熱患者も一般患者も診ている時間帯は数に入りません。
すると、一般小児科が行っている診療では、補助金は限りなくゼロに近くなります。

腹が立つと言うより、あきれてものが言えません。
まあ、少数派の小児科がないがしろにされるのは今に限ったことではありませんので、
「ヤレヤレ・・・」
という感想しか出てきませんね。

というわけで、このヘンな「診療・検査医療機関」に手を挙げる医療機関は1/3程度しかいない、という情報があります。
絵に描いた餅ですね。
もっと現場が協力しやすいシステムに改変していただきたい。

次は症状のある患者さんが来院したときに、どの検査を選択するか、という問題です。



上の表を理解して使いこなすことが現場に要求されています。
複雑なので、この表を横目で見ながら診療することになりそうです。

当院のような小児科開業医を想定して考えてみます。

まず、抗原定量検査は高価な器械を用意する必要があり、抗原定性検査(=迅速検査)は感度が低いので採用は現実的ではありません。
よって、一番一般的なPCR(拡散検出)検査が優先されます。

PCR検査では、検体は「①鼻咽頭ぬぐい液」「②鼻腔ぬぐい液」「③唾液」が選択可能です。
すべて可能なのは小学生中学年以上でしょう。
残念ながら簡便な検査方法は小児科になじみません。
乳児〜未就学児では①が選択されることになり、フル装備の感染防護具が必要。

結局「鼻咽腔ぬぐい液を用いたPCR検査」という当初からの検査方法を選択することになりそうです。
時間と手間がかかるため、PCRセンターが稼働していれば、そちらにお願いする方がスムーズに運ぶと思われます。

最後に、様々な状況により選択すべき検査のフローを提示しておきます。
キーワード「有症状者」「濃厚接触者」「症状出現9日以内か10日以降か」で仕分けが行われます。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« たくさん登場した新型コロナ... | トップ | 「標準予防策」って何? »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

予防接種」カテゴリの最新記事