小児アレルギー科医の視線

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ダニが原因のアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法

2015年12月30日 08時44分00秒 | アレルギー性鼻炎
 昨今、アレルギー疾患に対する「免疫療法」という単語をよく耳にするようになりました。
 従来の抗アレルギー薬は、体内で起こっているアレルギー性炎症を制圧する、あるいはブロックする治療ですが、免疫療法は、敢えてアレルゲンを体内に入れて慣れさせよう(耐性獲得)という真逆の考え方です。

 舌下免疫療法薬は、昨年(2014年)秋にスギ花粉症に対するシダトレン®が発売されていますが、これは液体で冷所保存という手間がありました。
 2015年、アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法薬(錠剤)が2つ認可&発売されました。今回発売された2剤は液体ではなく錠剤ですので、常温で保管が可能であり、出先でも管理が簡単になりました。

ミティキュア®ダニ舌下錠(鳥居薬品)
アシテア®ダニ舌下錠(シオノギ製薬)

 「ダニが原因」というと、まず気管支喘息が連想されますが、残念ながら喘息の適応はありません。
 アレルギー性鼻炎でもダニが原因であると血液検査あるいは皮膚テストで証明されている患者さんのみが対象になります。

 一般に、ダニが原因のアレルギー性鼻炎は一年中くしゃみ・鼻水・鼻づまりや目のかゆみに悩まさせて抗アレルギー薬他の治療が欠かせません。
 抗アレルギー薬の内服&局所療法で症状がコントロールされていれば、この舌下免疫療法は考慮しなくてよいと思われますが、治療を尽くしても症状がつらい重症例や、将来妊娠・出産を控えている女性で薬をやめたい患者さんでは検討すべきだと思います。

 対象年齢は12歳以上(現在5~11才の小児を対象とした臨床治験が進行中)、65歳未満。
 治療期間は3年以上(WHO推奨は3~5年)と長期戦です。その間、ひと月に1回(発売後1年間は2週間に1回)の通院が必要です。
 即効性はなく、1年治療して有効かどうかを患者・医師が判断し継続するかどうかを考える、というスタンス。
 というわけで、1ヶ月服用すれば治るという即効性はなく、強い意志と根気の要る治療法なのです。

 気になる有効性は・・・

□ ミティキュア®:総合鼻症状薬物スコア(症状と治療薬をスコア化したもの)が統計学的に有意に低下
□ アシテア®:調整鼻症状スコア(症状をスコア化したもの)が統計学的に有意に低下


 と添付文書を読んでもわかりづらい数字しか記載されておらず、ストレートに「有効率○○%」という書き方はされていません。
 ネットで検索すると、以下のような数字が目に留まりました;

 著効:20%
 有効:30%
 やや有効:30%
 無効:20%程度

 ミティキュア:3ヶ月後より症状軽減、1年後に有意な症状軽減。
 アシテア:1年後に有意な鼻症状軽減、総合評価で著明改善22%、軽度以上改善58%


 さて、冒頭に記したように、この治療法はアレルゲンを体内に入れるという、ある意味ラジカルな治療法であり、副作用としてアレルギー反応を起こす可能性があります。
 ですので、治療対象も自ずと限定されます;

 妊婦、授乳婦、重症の気管支喘息、悪性腫瘍、免疫系に影響を及ぼす全身性疾患(自己免疫疾患、免疫複合体疾患、または免疫不全症等)の患者には行なわない。

<禁忌>
1.本剤の投与によりショックを起こしたことのある患者
2.重症の気管支喘息患者〔本剤の投与により喘息発作を誘発するおそれがある。〕
<慎重投与>
・非選択的β遮断薬服用の患者への注意
・三環系抗うつ薬及びモノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI)服用の患者への注意
・重症の心疾患、肺疾患及び高血圧症の患者への注意
・全身性ステロイド薬投与の患者への注意
・全身性ステロイド薬の長期投与により、免疫系が抑制され本剤の効果が得られない可能性がある。
・65歳以上の高齢者、妊婦、授乳婦


 当然、処方する医師にも専門知識が要求され、処方可能になるまでの研修コースが用意されています。
 学会主催のレクチャーを聴講し修了番号を入手後、製薬会社が用意したネット上の「eラーニング」を視聴し、ミニテストに合格して2つめの修了番号を入手後、登録してようやく処方できるようになります。

 2015年12月30日、私は上記をクリアし、晴れてアシテア®/ミティキュア®を処方できる医師になりました。
 どちらの薬剤を採用するかは検討中です。
 アシテア®は漸増期が3日間で口内で錠剤が溶けるまで飲み込まない時間が2分間。
 ミティキュア®は漸増期が1週間で、錠剤が溶けるまで1分間(つまり溶けやすい)。
 迷います・・・(^^;)。 

 ただ、いくつが疑問があり、製薬会社に問い合わせ中。

(例)喘息を合併している患者さんが風邪を引いた時にどうするのか。
 喘息の原因としてダニは最重要ですから、発作が心配な状態にダニを体内に取り込むのは躊躇されます。
 この際は「服用を中止するかどうか医師に相談」することになっていますが、具体的にどのような場合に中止し、どのような場合に継続可能なのか、情報が皆無なので医師は困ってしまいます(まあ、風邪が治るまでやめてくださいというのは簡単ですが)。

(例)一旦中止して再開する際、維持量で再開するのか、初期量からやり直すのかも悩ましい。
 2週間あいたら仕切り直し? それとも1ヶ月までは維持量で再開可能?
 製薬会社は「データがありませんので医師の判断でお願いします」と逃げ腰で「何かあったら判断した医師の責任」と現場に責任転嫁する始末。
 これだよ・・・まったく困ったもんだ。
 ちなみに、既に発売して使用されているシダトレン®では「1ヶ月開いたらはじめからやり直し」という暗黙の了解があるようです(あくまでも現場責任ですが)。

(例)小児(12歳以上なので現実的には中高生)が使用する場合、いつ内服するかの時間設定が悩ましい。
 その理由は、

1.服用前後2時間は激しい運動、アルコール摂取、入浴を控えること。
2.家族のいる場所や日中の服用が望ましい。


 という条件があるのです。
 体育・部活動・入浴前後2時間はダメとすると、はたしていつ内服すればよいのやら悩んでしまいます。
 さらに2の条件を考慮すると学校で体育と部活動から2時間開けられるときに内服することになりますが、日々スケジュールが異なるので気を遣いそう。
 なんだか、小児科では勧めにくい治療法ですね。

 なお、先日シダトレン®発売元の鳥居薬品はスギ花粉症に対する免疫療法の舌下錠(つまりシダトレン®の錠剤版)も認可申請したそうです。

■ スギ花粉症に対する減感作療法薬TO-206の国内製造販売承認を申請
2015.12.28:Kabtan
 鳥居薬品は25日、スギ花粉症に対する減感作療法(アレルゲン免疫療法)薬TO-206(舌下錠)について、厚生労働省に製造販売承認申請したことを発表した。
 同社では、14年10月よりスギ花粉症に対する減感作療法薬として、「シダトレンスギ花粉舌下液」を販売しているが、冷所での保存が必要であることなどの課題があった。今回申請したTO-206については、保存上の課題を含め、利便性などを高めた舌下錠として開発、舌下投与によるスギ花粉症症状の軽減が確認されており、TO-206がスギ花粉症の治療の選択肢を広げることが期待される。
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