小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「ワクチンで困るケースをみんなで話してみました」(竹下 望、他)

2014-07-01 20:02:55 | 予防接種
南山堂、2014年発行
副題:ケースで学ぶ予防接種の実際
編集:竹下望、山元佳、氏家無限、金川修造、大曲貴夫

医師が子ども相手に予防接種をする際に参考にするタネ本は「予防接種ガイドライン」という小冊子です。
2014年版がこちらから購入可能です。
しかし現実には、これだけ読んでもなかなかスムースに接種できません。
ふと疑問が沸いてきても答えがないことがしばしば。
この本の内容は、そんなネタを集めて第一線の専門家が議論した感じですね。

当然、参考になる情報が満載で、非常に勉強になりました。
わからないことがこんなにあるんだな、というのが正直な感想です。

目次の一部を書き連ねてみます。
みんな「ウ~ン」と唸ってしまう題目;

Part1 :小児へのワクチン接種をめぐって
□ 保育園に行くことになりましたが、集団生活を始めるにあたって何かワクチン接種を追加した方がいいでしょうか?
□ 途中までは日本脳炎ワクチンを接種したのですが、その後「接種しなくてもよい」と言われ、やめてしまいました。最近新しいワクチンが出たので「また接種したほうがよい」と言われました。どうしたらよいでしょうか?
□ 産後に里帰りしてきたのですが、定期予防接種はどのように行えばよいでしょうか?
□ 生ポリオ・ワクチンで1回目の接種を受けたのですが、2回目はどうしたらよいですか?
□ 定期接種以外の予防接種はこれからどのようにしていけばよいですか?
□ 毎年ワクチンを接種していますが、いつもインフルエンザに罹ってしまいます。今年も接種した方がいいでしょうか?
□ うちの子は卵アレルギーがあるのですが、ワクチン接種は避けた方がいいですよね?


等々。以降のテーマは、
Part2:成人へのワクチン接種をめぐって
Part3:トラベラーズワクチンをめぐって

と続きます。

特に「トラベラーズワクチン」は小児科医の不得意分野。
というより圧倒的に情報が少ないのです。

最近困った実例を挙げますと、中国で里帰り出産した中国人夫婦の赤ちゃん。
かの国で予防接種をいくつか済ませた後、日本に帰国しました。
さて、接種記録表を見ても接種期日の記載しかありません。ワクチンの製造元やロット番号がわからない状態です。
ここで問題になるのが、外国で接種したワクチンと日本で使用しているワクチンと互換性の有無。
つまり、中国で接種済みのワクチンを数に入れて続きを日本でしてよいのか、あるいは最初からやり直す必要があるのか、判断する必要が出てきます。
しかしネットで調べてもなかなか正しい情報が手に入らず、途方に暮れてしまうのです。
※ ちなみに日本脳炎ワクチンは互換性がないので、中国で接種したものは無視して、日本のスケジュールで最初からやり直すのが一般的です。

まあ、こんな感じです。
困っちゃいますよね。
国民の健康を預かる厚生労働省には、グローバル化した現代社会に対応した情報提供を強く希望します。


メモ
 自分自身のための備忘録。

PCVとPPVの違い
 Pneumococcal Polysaccharide vaccine(PPV)は、肺炎球菌の莢膜上に存在する多糖体を抗原として認識させ、免疫獲得を促す。特徴としては、T細胞を介さず免疫獲得がなされるため、免疫記憶が得られずブースト効果が得られないという特徴がある。また、抗体が得られにくい集団があり、特に2歳以下の小児に接種をしても有効性に乏しいとされる。
 Pneumococcal conjugate vaccine(PCV)は、先述の多糖体に蛋白を結合させ、T細胞を介した免疫獲得を促す。PPVと比べて得られる抗莢膜多糖体抗原の価数は少ないが、良好な抗体獲得を示し、小児においても生後2ヶ月から接種が可能である。

Primary vaccine failure と breakthrough varicella
 ワクチン接種により抗体が獲得できずに疾患に罹患する場合を Primary vaccine failure(PVF)と称し、時間経過により抗体が減衰し疾患に罹患する場合を Secondary vaccine failure と称する。PVFについて、水痘は7-8%、麻疹は0-2%、風疹は2%とワクチンによっても差がある。また抗体獲得が得られても水痘ウイルスへの暴露により水痘を発症することがあり、breakthrough varicella と称される。症状としては軽症であることが多いが、1回接種より2回接種の方が breakthrough は生じにくいという報告があり、2回接種を勧める根拠の一つとなっている。またワクチン接種直後の発症の場合は、ワクチン株による感染と区別する必要もある。

おたふくかぜワクチンのウイルス株による副反応と予防効果の違い
 現在日本に流通しているワクチンにはTorii株とHoshino株であり、海外で主に用いられている株は Jeryl Lynn株である。副反応の頻度や免疫原性に差があるとされ、
<無菌性髄膜炎の発生頻度>
 Urabe株:1例/2000接種
 Jeryl Lynn株:1例/600,000接種
 Hoshino株:1例/120,000接種
 Torii株:1例/30,000接種
※ 自然感染の場合は1~15%に発生。

<抗体陽転率>
 Urabe株:84~97%
 Jeryl Lynn株:63~96%

HBVジェノタイプについて
 HBVには遺伝子型が存在し、日本に多く存在していた遺伝子型はC型であり、成人における急性肝炎に進展した後の慢性化率は約10%とされていた。一方で欧米で主体になっているのはA型であり、急性肝炎に進展した後の慢性化率は20~30%と、高いと言われている。思春期以降の感染を中心にA型の感染が拡大しており注意が必要である。

2つの日本脳炎ワクチン:マウス脳培養型とVero細胞培養型
 1954年の実用化以降、日本ではマウス脳において培養したウイルスを用いたマウス脳培養型ワクチンを用いてきた。1991年以降に日本脳炎ワクチン接種との因果関係を否定できない、または因果関係が疑わしい急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が相次いで報告された。2005年に15例目のADEM症例をもって積極的勧奨を中断し、マウス脳成分混入が神経系疾患へ関与していることが否定できないとして、新たなウイルス培養法によるワクチンの開発を行った。一方で、新規のVero細胞培養型ワクチンにおいても、接種後のADEMは報告されていることや、差し控えを行った期間とそれ以前で全国的なADEMの発生頻度は変わらなかった点など、その因果関係については未だ結論が出ていない。

根拠のない不活化ワクチンの接種間隔
 不活化ワクチンや経口生ワクチン接種と、すべての種類のワクチンの接種間隔を置かなければならない科学的根拠はない。諸外国では接種間隔は、異なる注射生ワクチン同士の接種間隔意外については定められておらず、またそれによる副反応などの報告はない。日本小児科学会からも2012年9月にその接種間隔設定の変更についての提言が行われている。

保険診療となるワクチン接種は3つのみ
・海外の動物咬傷における狂犬病ワクチンの曝露後予防投与
・外傷後の破傷風トキソイド接種
・2歳以上の脾摘患者における23価肺炎球菌ワクチン接種

日本の予防接種行政システム
2009年12月:厚労省健康局の“予防接種に関する検討会”から昇格する形で厚労省健康局結核感染症課内に予防接種部会が設立され、第一回会議が行われた。
2013年4月:予防接種・ワクチン分科会に昇格した。3つの部会(予防接種基本方針部会、副反応検討部会、研究会初男予備生産・流通部会)が開催されている。委員は行政関係者だけではなく、有識者、自治体代表、メディア関係者などで構成される。米国におけるACIPのような役割を担うことを目的としているが、組織としては厚労省内の組織であることや方針決定における権限の強さなどの相違点がある。

インフルエンザ経鼻生ワクチンの光と影
米国では2003年に認可され、2-49歳を適応とする弱毒経鼻生ワクチン(Flumist®)が使用できる。予防効果は小児におけては77%とされ不活化ワクチンと比べても高く、交叉免疫や接種地域の集団免疫効果についても認められている。一方で、成人での予防効果については不活化ワクチンと比べて優位性に乏しいとされ、期待される効果のうち判明していないものも多い。また、最もインフルエンザにおいて問題となる乳幼児、高齢者において適応が通っていないことや、妊婦をはじめ生ワクチンを接種できない対象には使用できないという問題点がある。

水痘の primary viremia と secondary viremia
水痘ウイルスは上気道粘膜や結膜より所属リンパ節に移行し、T細胞に感染をきたす。感染から4-6日後に感染T細胞が血中に拡散し、primary viremia という状態になり、各臓器(肝・脾など)でウイルス増殖が進む。いわゆる潜伏期である。14-21日経過すると各臓器で増殖したウイルスと感染細胞は再度血行性に全身散布され、secondary viremia という状態に至り、感染した皮膚指向性T細胞により皮膚での感染巣(水疱)を形成する。ヒトへの感染性を示すとされるのは、この secondary viremia の時期であるとされ、皮膚病変の1-2日前からとされる。
       
水痘ワクチン2回接種の意義
 1回の接種で予防効果は6割、2回やって初めて8-9割になり流行が収束したという経緯が米国であり、2回接種が標準となっている。2回接種を定期化している国においても、その接種間隔にはある程度幅がある。減衰した免疫を立ち上がらせるため接種間隔をおく国と、早期に二回接種を行い若年齢での接種後水痘を減らすことを狙う国に分けられ、流行国で特に若年者の罹患が多い日本では後者が望まれる。

未承認(輸入)ワクチン例
<腸チフスワクチン
・不活化ワクチン(Typhim Vi®)は2歳以上に1回0.5mlを筋注
・生ワクチン(Vivotif®)は6歳以上に確実で4回の経口内服
髄膜炎菌ワクチン
・多糖体ワクチン(Mencevax®)は2歳以上に1回0.5mlを皮下注
・蛋白結合ワクチン(Menactra®)は、
 生後9ヶ月以上2歳未満には3ヶ月以上の間隔で2回0.5mlを筋注
 2歳以上には1回0.5mlを筋注
コレラワクチン
・1価ワクチン(Dukoral®)は、
 2歳以上6歳未満に1-6週間間隔で3回の経口内服
 6歳以上に1-6週間間隔で2回の経口内服
・2価ワクチン(Shanchol®)は1歳以上に2週間間隔で2回の経口内服

留学とワクチン
 日本国内のワクチン事情を考慮して注意することは、
① Tdap(成人用DPT)、Td(成人用DT)が国内で認可されていないことによる点
② 現段階では多くの人がポリオは経口生ワクチンで2回しか接種していない点
③ 麻疹、風疹、おたふくかぜの定期接種ワクチンの回数が異なる点
④ 結核の中等度蔓延国であり、BCGを接種していることによるツベルクリン反応試験の要求になる
→ ツ反陽性時の対応として、BCGを接種しているから陽性であること、QFT®は陰性だから感染ではないことを書いておくと混乱がない。書類によっては胸部X-rayで問題ないことまで要求しているものもある。

留学の際の感染症既往歴の確認
 まず、オリジナルの書式を確認することが大切。
 診断した年月日がはっきりしない場合は、抗体検査の結果を書くことになる。ある書類では、水痘は既往歴はよいが抗体検査は認めず、一方、麻疹、風疹、おたふくかぜに関しては検査で抗体確認できれば既往ありとする、というものも存在する。

狂犬病罹患リスクのカテゴリ分類(WHO)
カテゴリⅠ(危険性なし):動物に触れたり、餌を与えた、動物に傷のない皮膚を舐められた。
カテゴリⅡ(低い危険性):動物に直接皮膚をかじられた、出血を伴わない引っ掻き傷や擦り傷ができた。
カテゴリⅢ(高い危険性):1ヶ所以上の咬傷や引っ掻き傷ができた、動物に粘膜を舐められた、動物に傷のある皮膚を舐められた、コウモリと接触した。

狂犬病ワクチン
<暴露前予防>
日本:4週開けて2回、2回目から6-12ヶ月開けて1ml皮下注の合計3回。
米国CDCの推奨:0日、7日、21-28日+1年後追加接種の合計4回(国際的な標準法)
<曝露後予防>
日本:0日、3日(暴露前予防済みはここで終了)、7日、14日、30日、90日の合計6回
※ 国内ワクチンでも5回までの接種で十分である可能性が高いが、添付文書上は6回を推奨している。
WHOの推奨:カテゴリⅡ以上の暴露を受けたものに0、3,7,14,28日の合計5回接種
CDCの推奨:4回接種

※ 日本では狂犬病ワクチンは慢性的な供給不足で、医療機関によっては暴露前免疫の狂犬病の国産ワクチンが入手できないところの方が多い。
※ カテゴリⅢ以上の暴露については抗狂犬病免疫グロブリンの投与が推奨されるが、日本では入手不可能。

日本脳炎ワクチンをめぐる世界の事情
 日本で承認されているワクチンはVero細胞培養型の不活化ワクチンのみであるが、他国では以前日本でも使用されていたマウス脳培養型不活化ワクチンが広く使用されている。さらに中国のある地域では弱毒生ワクチンが流通している。
 中国で日本脳炎ワクチンを接種した方が相談に見えますが、生ワクチンと不活化ワクチンまた不活化ワクチンでも日本で2社が作っているワクチンと海外の不活化日本脳炎ワクチンは異なる製剤です。また、日本のワクチンは北京株であうが、日本から日本脳炎ワクチンを導入した海外諸国では、北京株の前に使われていた中山株を用いる国も多いです。互換性に関してはいろいろな考え方があります。
 ブースター接種についてはCDCなども、同じ株を接種できれば一番それが望ましいが、同じ株が無い場合は前のものと違う株を接種することは制限されるものではないと書いています。
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