櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー◉メンバー募集中◉新作ダンス公演=2021年7月17〜18東京

断片01/19(ドナースマルクの映画)

2021-01-19 | アート・音楽・その他

すこし前に、劇場なるものについてちょっと書きましたが、去年からコロナ禍のせいで劇場や映画館に行く回数が非常に減ってしまいました。今年はどうなることかと、気持ちがざわざわしております。

コロナ禍が始まって以来、仕事で劇場に行く回数が激減したこと以上に、観客として劇場に行ってナマのダンスや演劇や音楽を味わう機会そのものが非常に少なくなったのは精神的に打撃でした。

その反動なのか、さまざまな方法で、まるで学生時代のように、観れるだけの映画を観ました。が、観るたびに少し空虚を感じもしました。

モニター画面の向こうで大きな音と眩しい光による世界が展開すればするほど、かえって、いま目の前にも隣にも「誰もいない」ということを感じてしまい、この現在の状態、人と人の関わりに制限がかかってしまった現実を、かえって思い直してしまうのでした。

映画を観たと言っても、配信のものを自宅受像機で眺めるのと、映画館に行って観るのでは「場」がちがいます。

昨夏あたりはひととき少し映画館も行きやすくなり、大きなスクリーンや良い音響のせいもありますが、それ以上に、やはり、見知らぬ他人同士が同じ空間で同じものを観ている、という共有感や温度から生まれて来る「場の力」が、作品と絡まりながら心に働きかけてくるのを実感しました。

ところで、映像は「不在」と隣り合わせなのではないかということを、虚しさではなく非常に深い感動に結びつけたのは、フランスのマルグリット・デュラスとポーランドのイエジー・ハスではないかと僕は思っているのですが、近年では、そのような方向を感じる経験には、まだ恵まれません。

それでも、胸に迫る経験を与えてくれたのが、現代美術家のゲアハルト・リヒターがモデルと言われる『Werk ohne Autor ある画家の数奇な運命』という映画でした。昨秋に銀座で鑑賞しました。傑作と思います。

この作品の監督はフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクという人で、東独のシュタージを巡って展開された『善き人のソナタ』で有名になった人ですが、この作品では、ものすごく心理的で繊細なセンスが全カットで感じられ、美しい映像の向こう側からは常に死者の声が聞こえてくるようでした。

人間の暗く切実なものが映し出され、ひりひりするような緊張感と危機感が発され続けるのでした。重厚な、3時間を超える映画でした。

ナチスによる退廃芸術展の再現に始まる冒頭シーンは強烈なインパクトで、それを観た幼い子どもが成長して世界的な美術家に成長してゆく物語がシナリオなのですが、その描かれ方が非常にラジカルで、シナリオの根底に横たわっているであろう語り尽くせない恐ろしい人類の悲劇と不安と怒りが深く深く轟いていて、ものすごい重圧で迫ってきました。

ホロコーストに関わるシーンでは、子どもには見せられない、心に穴があくほど凄惨な描写もありますが、それを超えるドラマが、ひたひたと波打ち続ける時の流れは圧巻で、生命の問題と愛の問題と社会の問題が、怖いほどリアルに混在して迫ってくる感じがあり、観ながら、そして、観終えて、この現代に生きるということの意味深さについて、重く重く考えさせられました。

リヒターとヨーゼフ・ボイスとの関係の描写は本当に感動的で、僕自身がボイスの芸術に出会った衝撃や、リヒターの実物を初めて見た日の衝撃を、あらためて思い出しました。

たとえば、新宿のワコー画廊で紹介されたリヒターの作品を目の当たりにして、あらがえぬ引力により、その場を立ち去りがたくなってしまった経験を、たとえば、青山の草月会館でのボイスの姿と声と存在感と会場の異様なざわめきを、思い出しました。

ある芸術作品に初めて出会う、その時の引力の、その時の衝撃が、この映画をみていると、蘇り、同時に、腑に落ちました。

芸術、と呼ばざるを得ないもの(あーと、とか、ひょうげん、と言い換えるのではなく)が生まれてくることへの畏敬と、現代的なメッセージが見事に重なって響き合う映画ではないかと思います。先に上げた『善き人のソナタ』の印象とも合わせて、ドナースマルク監督という人に興味を抱きました。

 

 

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