大好きな社長が異動で社内から居なくなった。
最後の日、出先から会社に戻らずに直帰した。その日、夕礼に出席しないのがわざとだということも、そしてそれがバイバイなんて聞いてやるものですかというひねくれた私の愛情表現であることも、十中八九伝わってくれるだろうと思っていた。
すでに「元」社長になった人は、「人事発令の伝達をしたらさ、みるみる顔がひきつって僕のほうを睨んでくるんだよこれが。」と云って笑った。私は事実確認の瞬間に悲しい顔ができるほどは理解力に優れていないし、器用でもない。よっぽど素直な反応じゃないかと自負している。
「元」社長たちとの会食を終えて自宅に戻る際、タクシーの窓から車内に流れ込む風がいつもと違うことに気付いた。生臭くてじっとりと重い匂いが鼻をつく。ああ今年も隅田川に夏が流れてきた、と思った。
梅雨も明けきらず、木々のみどりもまだまだ重厚感に欠け、夏の虫の声も聞こえない。そんな中途半端な時期のあるひとつの夜になると、こうして夏がひそかにどこからか流れてくる。
隅田川を渡って裏道に入り、タクシーを降りてもなお、生臭い匂いが膝から下の高さに漂っている。夏はこうしてある一晩のうちにじわじわと私の住む街を覆う。
社長が居なくなって、同時に夏が流れ込んできた。
夏よりもむしろ冬や春が似合う人だったけれど、今年の夏は一緒に夕涼みをしてみたいと思っている。
最後の日、出先から会社に戻らずに直帰した。その日、夕礼に出席しないのがわざとだということも、そしてそれがバイバイなんて聞いてやるものですかというひねくれた私の愛情表現であることも、十中八九伝わってくれるだろうと思っていた。
すでに「元」社長になった人は、「人事発令の伝達をしたらさ、みるみる顔がひきつって僕のほうを睨んでくるんだよこれが。」と云って笑った。私は事実確認の瞬間に悲しい顔ができるほどは理解力に優れていないし、器用でもない。よっぽど素直な反応じゃないかと自負している。
「元」社長たちとの会食を終えて自宅に戻る際、タクシーの窓から車内に流れ込む風がいつもと違うことに気付いた。生臭くてじっとりと重い匂いが鼻をつく。ああ今年も隅田川に夏が流れてきた、と思った。
梅雨も明けきらず、木々のみどりもまだまだ重厚感に欠け、夏の虫の声も聞こえない。そんな中途半端な時期のあるひとつの夜になると、こうして夏がひそかにどこからか流れてくる。
隅田川を渡って裏道に入り、タクシーを降りてもなお、生臭い匂いが膝から下の高さに漂っている。夏はこうしてある一晩のうちにじわじわと私の住む街を覆う。
社長が居なくなって、同時に夏が流れ込んできた。
夏よりもむしろ冬や春が似合う人だったけれど、今年の夏は一緒に夕涼みをしてみたいと思っている。
来月の花火大会の煙の臭いをピークに、
膨れ上がる夏から、ただの蒸し暑さだけが
永遠に続くかに思える毎日があり、
いつのまにか秋の香りと音が訪れる。
そうそう。海に近い川の夏。
海そのものとも違うし、山に近い川とも全く違う。
今まで棲んだ土地には訪れることのなかった夏。
この土地に棲んで、夏のやって来るそのカタチの新しいひとつを知りました。
季節はいつも、音や匂いと一緒にやってきて、それに慌てて目を上げると、視覚でもそれと気付くのだ。
視覚って、なんてのろまなんだろうね。
前社長が大好きな場所でお会いしてきました。
前社長はもう既に、
次の世界への準備に入られていて
さばさばとされていましたが、
我々が一緒に過ごしたひとときは、
あの夏のにおいのように、
また何かあれば思い出して頂きたいなと
強く思いました。