Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

嘘泣きの約束。

2008-03-04 | 徒然雑記
 10ヶ月ぶりの友人に逢った。
1年を置かず逢っているというのに、毎回その身辺に起こる出来事には驚かされる。まるで三流ドラマのように次から次へと新しい災厄に見舞われるから面白い。面白い、と云えるのは、友人がいつもそれを笑って話すからだ。
戦地のアフガンに取材にいっただの、部下に数千万の横領をされただの、大忙しだ。
「全財産の4万円で競馬に行ったら、数百万に化けんねん。なかなか楽にさせて貰えへんで。」
横領した元部下を庇いながら、友はそう云ってわははと笑った。

心斎橋のそごうに現れた友人は一回り半ほど縮んでいて、すぐ間近まで来られてはじめて彼に気付いた。
「どうしたの。しぼんだね。」
「癌切ったねん。食道癌。」
「いつ。」
「こないだ君が来てから2ヶ月後くらいかな。それから検査でちょいちょい東京行ってるねんで。」
「なんで連絡してくれなかったの。格好悪いから厭だったんでしょ。」
「あたり。見舞いこられたらかなわんで。」

ばっかだねぇと大笑いしたところへ、私が姫と呼ぶところの奥方が
「そうやねん。とうとう死んでまうかと思たんやけど、これがまだ生きとんねん。」
わざと残念そうな顔をしながら、これもまたケラケラと笑った。
ほんとねぇと私は相槌を打ち、
「死んじゃったらちゃんとあたしにも教えるのよ。」と友に云うと
「俺は死んじゃったら教えられへんねん。おい、ユカリ、頼むで。」と姫に云う。
「ほな、あんたが死んだらあたしとマユちゃんでちゃんと嘘泣きしたるわ。」
 嘘泣きなんかできっこないくせに、姫はそう確約した。


「戦地で死ぬときは、後ろ向きに倒れて死んだらあかんで。せめて前向きに倒れや。」
 姫が云う。
「畳の上で死んだらあかんのか。」
 友が苦笑する。
 なんと羨ましいふたりだろう。