いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

日本、海外派兵す~その1

2008年11月30日 21時19分30秒 | 俺のそれ
(あくまで架空の話です、実在の人物、団体等には一切関係がありません)

20XX年、日本は安保理常任理事国入りを目指し、国内法を改正。米英仏露は日本の常任理事国入りを支持する条件として、自衛隊の海外派遣を義務付けた。中国は最後まで難色を示したものの、他の安保理国の説得を受け、ドイツと日本の加入を認めた。

日本は、陸上自衛隊の海外展開用の部隊を新設することとした。
その名は――― 「特機」




特機の試験運用は既に始まっていた。
ただ不十分な評価を受けていた部分は、これまで同様だった。どうしても人的能力に依存する部分というのがあり、その壁が超えられないでいた。統幕はその改善を急ぐように命じた。常任理事国入りまでには、準備を間に合わせなければならなかった。
解決策を出すように命じられたのは、田中1佐(56)だった。陸自一筋の、自称「オタク」だった。


実は、田中1佐には腹案があった。
かつての記憶が、いや、昔とった杵柄がきっと役立つに違いないと確信していたのだった。

オペレーターの能力開発手法は、既に米軍の蓄積などがあったが、それを利用しても結果が出せないでいた。どのようなシミュレーションを行っても、負け判定だった。これでは到底、海外派兵などできない。

田中はこの解決方法を探る上で、昔あった「ゲーム」の操作に長けた者を探せばよいのではないかと考えていた。田中自身、若い頃にプレイしたのだが、さほどの腕前ではなかった。にも関わらず、自衛隊内にいる連中の誰もが、田中1佐よりもヘタだった。ああいうゲームが廃れて長い時間が経っているから、そういう能力がないというのも仕方のないことではあったのだが。これではオペレーターの能力としては不十分なのだ。そこで、旧式ゲームの使い手を捜すことにしたのだった。

既に、アーケードゲームというのはすっかり姿を消していたが、一部のマニアの間では「レトロゲーム」というようなジャンルがあって、現在もごく少数のプレイヤーたちがいるという噂だった。そこで田中は、ネット上のマニアの溜まり場から情報をもらい、西新宿界隈に存在するという所謂「ゲーマー」に憧れる若者の巣窟に向かった。

聞いていた場所は小さな雑居ビルの地下にあり、なつかしい音を響かせていた。
若者が約10名ほど、そして驚くことに田中より年上と思われる老人が数人いたのだった。田中はしばらく彼らの様子を観察することにした。どうやら、老人の一人が若者の誰かと「賭け」をやっているらしかった。若者たちの想像以上にその老人は強く、若者たちが負けて金を巻き上げられているらしかった。老人は、お前らごときには、まだまだ負けん、秀太を呼んで来い、カッカッカッと高笑いした。田中もつい釣られて、クスリと笑ってしまった。

その場にいる若者たちは、全滅だった。たった1人の老人にさえ勝てないのだった。
田中はゲームの台に近づき、ひとつお手合わせ願えますか、と老人に問いかけた。老人は黙ってニヤリと笑い、自信ありげにレバーをカタカタと揺らした。結果は―田中の楽負けだった。田中は老人に礼を言い、最近の若いもんの中には腕の立つヤツはいないもんなんですかね、と言った。すると老人は、この辺りで「使い手」と呼ばれるのは秀太だけだな、といった。田中は秀太をスカウトしよう、と決めた。




田中は秀太を含む若者たちを、超難関のゲームがあって、その大会があるから出てみないか、といって誘い出すことに成功したのだった。参加者は合計20名。自衛隊の外郭団体に会場を用意させ、特機の初期養成プログラムのシミュレーションをやらせることにしたのだった。彼らは、レトロゲームの中でも所謂シューティング・ゲームや格闘ゲームなどを得意とするゲーマーで、仲間内では「超絶技巧」の持ち主などと称賛されていたのだった。
参加している若者たちは、こうした腕に覚えのある者だけだったので、練習をさせてみると僅か数回で直ぐに上達した。過去の自衛隊内部の人間が出したどの成績よりも、格段に良かった。さすがはゲーマーだ。

このテストを終えてから、田中は個別に一人一人と話した。
自衛隊の特殊業務に従事してみる気はないか、と誘ったのだった。各人の素行調査は既にやっておいたので、当然ながら勧誘するのは背景に問題のない人間だけだ。彼らのゲーマーとしての能力を思う存分に発揮できる、重要な仕事だ、と説得した。ただのゲーマーとして、場末の賭けゲームでくすぶっているより、はるかにマシなのではないかと、若者たちは思った。




秀太、ユキヒロ、イチロー、イケダの4名は田中1佐に呼び出されていた。どうやら、新たな任務の指示らしかった。


田中の見込んだ通り、若者たちはいくつもの訓練を受け、その能力を存分に発揮した。
これまで連戦連敗だったシミュレーションでも、ようやく人工知能チームに勝利したのだった。防衛省幹部たちも喜んだし、特機計画を進める政府も、後はゴーサインだけだと語気を強めていた。

そして、いよいよ極秘裏に実戦投入することが決まった。システム運用が無難にこなせるか、それを実戦で見極める、というものだった。部隊は小規模なものとし、各運用部門の問題点を探る、というものだった。陸上自衛隊では初の、戦争参加だった。この計画は国会承認を得ないで行われるものだったので、絶対の極秘任務であった。4名のゲーマーたちにも、本物であるとは言わずに、最終テスト段階、とだけ伝えた。

この実戦テストは、過去15年間に渡り紛争が継続してきたZ国での「対ゲリラ作戦」が選ばれた。ゲリラと言っても、装備はロシア製の正規軍と全く同じもので、Z国政府軍よりもはるかに強力だった。ロシア製の武器は、中央アジアの某国向けに売却されたもので、この国は「不正な収益」を目的として第三国のX国犯罪組織に売却、ここを経由してZ国の武装ゲリラたちの手に渡っていたのだった。どこの国も金が欲しいのと、複雑な事情を抱えるZ国の勢力に支援したいという思惑が絡み合っていた。実際、反米色の強いY国が武装ゲリラの資金の出し手、つまり実質的パトロンだと噂されていた。一方、政府軍に肩入れしているのは、主に中国と仏であると言われていた。

このZ国の戦闘地域には、主力が中国軍で約2万人、仏軍が2500人、インド軍が2000人、トルコ軍を主力とするEU諸国で1000人、米軍は僅かに500人、英軍に至っては20人だけだった。これら多国籍軍が政府軍側と協力して、反政府武装勢力であるゲリラとの戦いを続けていた。この地域で、日本の陸自戦力がテストされるということだ。

米軍は経費削減の為に、かつての規模からは大幅に縮小されており、海外展開する数そのものをかなり削っていた。英軍も同様で、自分の利益が小さい戦争には、できるだけ出さないという方針であった。カナダ軍、オランダ軍、スペイン軍、イタリア軍などは、早々に「不参加」表明をしていた。今では、中国軍がどこにでも出かけていくことが多くなり、他のOECD諸国からは「また、お得意の人海戦術か」と陰口を叩かれることが多かった。が、戦闘継続の資金力や兵士数が最も多いのが中国であるというのが現実であり、他の国々の実力低下の裏返しとも言えた。

4名の若者は、陸自の未来を左右する作戦を託されたのだった。




陸自の会議室の一つで、政府要人及び防衛省幹部への作戦説明が行われていた。

「特機」のシステムとは、次のようなものからなる。
・日本が有する衛星網、一部は米軍からの供用も含まれる
・「バード」と呼ばれる無音飛行可能な小型偵察機
・「凧」と呼ばれる小型リモコン機
・「蛇」と呼ばれるスネーク型ロボット
・「ガンタンク」と呼ばれる機関銃搭載車
・「サンゼロ」と呼ばれる30mm機関砲搭載車
・「ジュウハク」と呼ばれる160mm迫撃砲搭載車
・運搬トレーラー車その他バックアップ車両(有人)

全て無人の遠隔操作型で、操作する人間は日本にいる。
各車両や機械類を運搬、整備する部隊は現地で活動する。
戦闘地域には、無人車両しか進入しない。
これら無人車両を警護する為の部隊はつく。

①バード:
翼面上部は全て太陽光発電パネルになっており、超小型モーターでプロペラを回し無音飛行できる。下面からみると、やや透けて見えるので視認で発見されるのをかなり防いでいる。全幅2m、全長は僅か85cm、本体には光学式高性能小型カメラと赤外線カメラを搭載、カメラは操作でき、主に広い範囲の偵察を行う(一番広い範囲を担当するのは衛星である)。飛行時間は電池切れとなるまで可能。プロペラを回さない滑空も可能である。

②凧:
バードより小型のカメラ搭載型飛行機。目標地点に到達すると、壁面や構造物等に取り付き、翼を切り離して固定式として設置する。全周囲の監視が可能な光学+赤外線カメラを搭載している。

③蛇:
全長2mの自走式多関節のスネーク型ロボット。先端部分にはやはり光学+赤外線カメラを持つ。軸方向には、モーターによる圧搾空気で発射できるニードル弾を20発装備している。簡単に言えば、吹き矢と同じようなもの。発射音が小さく、ニードルの薬物によって敵を殺すことが可能。射程が短く、約40m程度しかない。関節部で姿勢制御が行える為、コブラのごとく立ち上がることも、真っ直ぐ真横になることも可能。狭いゾーンや建物内の偵察もできる。

④ガンタンク:
敵との交戦では主力となる車両。5.56mm機関銃を装備した装軌車。姿勢制御や高さ調節が可能、機関銃は砲塔台についているので全周囲に攻撃可能。光学+赤外線カメラと、レーザー照射機を装備。全長1m、全幅70cm、高さは50cm~80cm。

⑤サンゼロ:
大型装軌車で、通常の装甲車両より若干小さい。防弾性能は平凡。砲塔式30mm機関砲を装備、ガンタンクの火力支援を行う。

⑥ジュウハク:
最も大型装軌車で、全自動迫撃砲を内部に搭載。発射時には完全停車し、上部のハッチを開けて射撃を行う。後方支援火力として用いる。有効射程は15km。迫撃砲弾は誘導式。


今回陸自が投入される地域は、○○谷と呼ばれ、非常に狭い峡谷状の地域である。
過去に、誘導ミサイルや攻撃ヘリなどが投入されたが、いずれも失敗している。地形的に航空戦力やミサイルでは攻撃が難しい為である。細長い峡谷内に侵入し、横穴式に作られている敵拠点を攻撃するのが困難で、過去の地上戦は全て敗退した。米軍のリーパーで攻撃を試みたことがあるが、いくつかはミサイル攻撃に成功したものの、さしたる戦果とはならなかった。また一部は撃墜された。敵の戦力は約300~500人程度と予想されているが、定かではない。




○○谷周辺の監視衛星による偵察が集中的に行われた。谷に向かう地域は敵戦力はなく、到達には問題がなかった。
陸自の現地部隊は、特機の現地スタッフ及び移動用大型車両群と警護部隊であり、警護には2個中隊が投入された。この他にトルコ軍の1個大隊が随伴して警護してくれることとなっていた。これは陸自幹部の1人が、陸自の警護役をトルコ軍に申し入れるべきだと強く主張したためらしい、と田中は聞かされた。その陸自幹部のオヤジさんが、かつてのイラン革命の際にトルコに大変お世話になったからだ、ということらしかった。オヤジさん曰く、トルコ人が助けてくれなければ、多くの日本人がイランからは脱出できなかったかもしれない、ということだそうな。その恩義を忘れてはいけない、というオヤジさんの口癖だったようだ。


陸自とトルコ軍部隊は、峡谷の入り口手前約10km地点でベースとなる陣を張った。ジュウハクはここに待機。
バードを3機射出して、偵察飛行を開始。
敵の目立った動きがないことを確認した後、凧を飛ばした。凧は峡谷の壁面や木々にくっつける為だ。まず多くの凧を、目標地域に多数配置しなければならないというのが基本なのだ。

敵部隊の距離が十分あることを確認し、ベースからガンタンクとサンゼロを搭載した車両、通信支援車両、特機指揮車、更には警護部隊の装甲車両が峡谷入り口手前約2km地点に進出した。ここでガンタンクとサンゼロを降ろし、戦闘地域に侵入させるのである。敵からは見えていないが、こちらからは見える、というのが、この地上戦の基本的戦術なのである。


カメラ類の操作と切り替えは重要な役割で、戦闘車両を担当する人間たちがいかに戦いやすくなるか、敵を効率的に発見し射撃できるか、ということが求められるのである。ユキヒロ班がこの担当なのだった。ユキヒロは1人でバードと複数の凧を操作できたし、多数のモニターを同時に見ながら、必要に応じて蛇の指示を出したりできる能力を持つのだった。ユキヒロのサポートにはカメラ操作や切り替えを行う女性スタッフが20人、スネーク操作係の隊員が5名、バード操作係の隊員が3名つけられていた。

イケダは「ジュウハク」担当で、車両操作と射撃の操作を行うことになっていた。誘導はサポートの女性スタッフが1人付いていた。イチローは「サンゼロ」の操作が担当で、モニターと射撃のサポートスタッフが3名。

秀太はガンタンクの担当で、一応5台の投入ということになっていた。1人で5つとも操作する、と言っていたが、それは無理だろうということで、車両サポートの隊員が5名、モニターサポートの女性が3名付けられた。


カメラに捉えられた画像は瞬時にコンピュータ処理され、敵の車両・人物識別が自動で行われる。敵がモニター上に捉えられると、自動的に敵発見の情報が上がってくるという仕組みになっていた。これはサーチアラームと呼ばれていた。また、敵を射撃するにはモニター上で識別された目標をボタンで指定すると、後は全自動照準で射撃可能だった。例えば置き去りにされた車や戦闘で破壊された戦車なども自動識別されてしまう為、これらを射撃しない時にはキャンセルすれば識別解除することもできた。

彼らの任務は、この特機システム全体の運用がうまくできるか、実戦で本当に役立つのか、そうした試験をすることだった。いよいよ、陸上自衛隊史上初の、海外戦闘がはじまるのだった。

(つづく)




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