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B型肝炎訴訟最高裁判決について~集団予防接種は感染を拡大したか?

2007年10月22日 18時21分33秒 | 法関係
最高裁判決では、肝炎の感染原因として推定されるのは集団予防接種である、というものであった。いくつもの要因が考えられる中で、高度の蓋然性ということでこれが選択されたのである。この判決を評釈している人たちは複数おり、彼らもまたこの判決に疑問を感ずることなく受け入れているものと思われる。その他法曹や法学関係者たちにしても、この判決や評釈を読んだりしているはずなのだが、本当に誰も疑問に思ったりしなかったのであろうか?推定理由や過程において、「落とし穴があるのではないだろうか」というような疑問を生じたりはしないものなのであろうか?
もしもそうであるなら、「判決は評釈も受けているし、複数法曹や法学者などによって批判に晒されている」というのは、何の役にも立たないかもしれない、ということを意味するのではないだろうか。本当に最高裁の組み立てた論理が合理的で推定結果は蓋然性が高いと評価できると判断したのなら、その理由を示してもらいたい。


また仮定の話で申し訳ないが、簡単な例で考えてみることにする。
B型肝炎キャリア(持続感染者)は幼少期の感染で起こりやすい、母親がe抗原陽性であれば出産時に感染しキャリア化するものが殆どである(=母子感染、垂直感染)、血液を介する感染力が強い、といったような条件から多分推定したものだろうと思う。
ここで、話を単純化する為に、肝炎に感染する要因を2つだけしかないものとして考えてみよう。

①垂直感染=母子感染
②水平感染=集団予防接種

原因がこの2つしかないものとしましょう。そうであるなら、キャリア=①+②の合計ということになります。

原告らが生まれた後の86年以降に母子感染の予防策がとられて、それ以降では急速に垂直感染が減少した、というのは確かです。でも、今はそうした対策がないものとして考えてみましょう。母親が有していたウイルスによって出産した子どもに感染し、全員がキャリアとなってしまうものとしましょう。水平感染が全くなく垂直感染だけが一定に続いていくとすれば、各世代ではキャリアとなっている比率はあまり変動がなく、20歳時点でのキャリア率を検査すると、年齢層に関係なく大体同じ比率のキャリアが観察されるでしょう。母親世代が100万人いて2%に陽性であれば2万人のキャリア、その子ども世代についても100万人いれば2%にキャリアとなっている、ということ(①の発生確率は一定ということ)です。
しかし、②の水平感染というものが存在するので、もし集団予防接種で感染者が母子間だけでなく幼児間でも起こってしまうとすれば、同世代の人たちに感染が広がります。先の母親世代100万人中2万人がキャリアであっても、子ども世代100万人が誕生すれば2万人が①を原因としてキャリアとなり、この子どもから母親がキャリアではなかった子どもたちにも感染が拡大するということになります。これはどういうことかと言うと、①と②の合計が世代を経る毎にキャリアの世代内比率(存在確率)が上がっていく、ということになるでありましょう。幼児間で感染する人たちが出てくると、子ども世代が100万人いるなら2万人よりも多い数がキャリア化していくはずだろう、ということです。

垂直感染の発生比率が86年以前だと変わらなかったものと見なしますと、①を原因とするキャリア発生は世代内比率には影響を及ぼさないであろう、ということです。では、②はどうなのか考えましょう。判決文にもありましたように、昭和26年の結核予防法が出た当時は結核が大変多い時代でした。予防接種がそれ以後行われていくようになりましたし、他の感染症についても予防接種が行われていきました。風疹なんかもそうですね。昭和40年代以降に接種率は大幅に高くなっていきました。ですので、昭和20年代よりも、30年代とか40年代には予防接種の接種率は高かったであろう、ということです。つまり同じ年に生まれた子ども100万人いても、昔は予防接種に参加していたのが仮に20万人に過ぎなかったものが、次第に参加人数が増えて70万人とかになっていく、ということですね。すると、②を原因とするB型肝炎キャリアは増えるでしょうか、減るでしょうか?普通に考えれば、予防接種で感染が拡大するというのだから、参加人数が増えていけばキャリアは増加するものと思われますよね。となると、母親世代でのキャリア率と、予防接種がよく行われるようになっていた子ども世代のキャリア率では、子ども世代の方が高いものと考えてよいでしょう。

よって仮説として、
《集団予防接種によって感染が拡大するなら、集団予防接種によって、母子感染がなかった子どもであってもB型肝炎に感染すること(=②)により、世代内感染者の割合は増加するであろう。》
ということが考えられるでしょう。
最高裁は「集団予防接種で感染が拡大した説」を採用していると言っていいでしょう。
(集団予防接種の状況は、1951(昭和26)年以降85年までは年々接種率が上昇し接種参加者や接種機会は増加していたであろうという推定とする)


ここで、献血者におけるHBs抗原陽性者の比率の調査結果を見てみる。これは1995年時点での調査であった。
)50歳(1945年生まれ)以上~   1.23%
)40~49歳(1946~55年生)    1.46%
)30~39歳(1956~65年生)    0.84%
)20~29歳(1966~75年生)    0.61%
)16~19歳(1974~78年生)    0.44%

抗原陽性者はキャリアとも限っていないが、多くは該当しているであろう。どの世代においても、母子感染の予防策の取られる以前の生まれであるので、垂直感染に関しては特に条件に差は生じていないであろう。
終戦以前の生まれ年である世代(世代)は殆ど集団予防接種などは受けていないであろう(手術や輸血も子どもが生まれる前の時点では滅多にはなかったのではなかろうか?)。その子ども世代に該当するのは~世代くらいであり、予防接種を受ける割合が高くなっていったであろうと推測される世代である。従って、もしも上に挙げた仮説が当てはまるのであれば、母子感染はどの世代でも同じ条件なので、予防接種を多く受けた世代の方がB型肝炎キャリアの世代内存在は増加していると推測される。

しかし、現実には95年時点においては、抗原陽性者は大きく減少していた。世代に比べ世代では半分くらいに減っており、世代は世代よりも多くの集団予防接種を受けていたはずであろう。この結果から推測されるのは、恐らく母子感染の発生率は世代間で大きく変わっていなかったであろうが、水平感染の発生が減少していったのではないかということである。水平感染にも色々とあるので一概に減少要因は判らないが、普通に考えると戦後混乱期では低栄養による易感染性というのはあったろうし、世代くらいだと食べ物に困るという事態は現象していたであろう。また社会全体の衛生環境がよくなったとか、消毒技術の向上で院内感染が減ったのかもしれないし、答えは判らないけれども、水平感染は多分減ったであろう、ということは十分考えられるのである。

ところで、世代よりも戦後の世代の方が陽性者比率が高いが、これは戦中戦後の混乱期で感染症が海外引き上げ組とかが持ち込んでいたかもしれないし、団塊世代で出生数が爆発的に増加していた(性交渉もそれなりに…?というようなことか)とか、食糧事情の違いかもしれないし、何が理由なのかというのは判らない。両世代間では親子関係ということもあるし違う場合もあるので、何とも言えないけれども、戦後の一時期に恐らく「キャリア数は増加した」ということはあったかもしれない。世代が受けた幼児期の集団予防接種が増加の原因であったとは到底思えないわけですけどね。

全くの推測で言えば、母子感染の対策が取られる86年以前では、まず「水平感染」の機会とか絶対数が減っていったが、母子感染は防げなかったので多く残されていたのだろう。で、86年からは、これが予防されるようになると、母子感染が激減した為に、水平感染機会も同時に減ることになり、感染対策の実施効果が大きかったのであろうと思われる。アフリカなんかだと母親のe抗原陽性者比率は86年以前の日本より低く、多くはe抗体陽性化しているようだ。なので母子感染は割合がとても少なく、母子感染からキャリア化した子どもから別の子どもへの水平感染も少ないが、一般社会での水平感染が圧倒的に多いので、いくら母子感染を予防する措置をとってもキャリアの存在割合を大幅に減少させることができない。


いずれにしても、95年時点で検査した時の年齢層別のs抗原陽性者比率から見て、もし最高裁仮説の如く②が増加要因であったなら(集団予防接種をすればキャリアが減らせる、ということは有り得ないでしょう、笑)、①+②の合計が減少しているのであるから、②の増加を上回って①が減少したと考えるよりなく、それは母子感染発生率がや世代に比べて~世代で大きく減ったということを合理的に説明できなければならないでしょう。垂直感染の予防策が取られる以前(86年より前)だったのに、です。最高裁とかその他法曹や法学者などであれば、高度の蓋然性をもってこの説明ができうることでしょう。もしこれが「一般論、抽象論に過ぎない」と一蹴することで許されるなら、その主張はどんな裁判でも使えますね。


「高度の蓋然性」とは何か、合理的に推論を組み立てるにはどうしたらよいか、まず裁判官たちがそのことを理解しない限り、うまく事件に適用したりできないのではないでしょうか。裁判官たちが現実に用いるには、あまりに危険過ぎる、ということです。言うなれば、「やったこともない術式で、誰も見たことも訊いた事もないのに、一か八か」でやったのと同じようなものです。

裁判官においては9割の正確性でいいという理屈が通用するなら、全てに適用して下さいよ。

集団予防接種では、少なくとも98%以上が「B型肝炎キャリアにはならなかった」と考えられるでしょう。

そういう問題を取り扱っている、という認識もないままに、安易に判断を出すのは問題だ、ということを以前から何度も指摘しているのです。裁判所の精度が低すぎる、っていうことです。
それが自覚できない限り、無意味な一般論的理屈を付けられた挙句に、これが「高度の蓋然性」などという主張を裁判所がすることになってしまうのですよ。