書く仕事

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卒業していく君たちへ

2012年02月11日 22時15分39秒 | 日記
卒業研究の発表会が終わり,後は卒業式を待つばかりの君たちへ.

今は就職先でうまくやっていけるかという不安と,ようやく親元を離れて独り立ちできるという期待で一杯だろうね.

そんな君たちへ,何か少しでも役に立つ言葉を送りたいのだけど,なかなかうまくまとまらない.

では,他力本願だけど,僕が尊敬する内田樹先生が,「困難な時代を生きる君たちへ」という短文を書いておられるので,これを送ることにしよう.

この不確実な時代に,後悔のない晴々とした人生を送るためのワンポイントアドバイスが書いてあります.

と,ここまで書いてから気づいた.というか,思い出した.

僕も似た意味のことを書いたなあって.

で,過去の日記を読み直してみると...あったあった.やっぱり書いている

かなりニュアンスが違うし,もちろん内田先生の方が名文だけど,気持ちは近いものがあるので,こちらの方も読んでくれるとうれしい.

幸せは歩いてこないよ.自分から歩き始める人にしか,幸せはつかまえられないよ.
そして,歩くこと自体が,楽しいと思える人生が最高なんだ,ということだね.

ついでに言うなら,他人を批判することからは幸福は生まれないよ.
人さまには人さまの事情があって,皆一所懸命に生きている.
その事情を知らずに批判するのはよくない.
それは道徳的な意味ではなくて,批判すること自体が,君を不幸にするのです.

人間って不思議なもので,いったん批判を始めると,批判している自分を正当化するために,もっと批判をするようになる.
批判を繰り返すことは君の心に傷を作り,やがて膿をためることになる.
そんなことのために,貴重な時間を費やしてはもったいない.

批判する時間があったら,自分が楽しいと思うことをしなさい.
そして,日記にも書いたように,それが自分を高めるようなことであれば最高なのです.

「プラナリア」山本文緒

2012年02月11日 11時35分01秒 | 読書




「プラナリア」山本文緒

愛されたいのか.ほっておいてほしいのか.

寂しいのか一人になりたいのか?

自分の心が原因であることはわかっているくせに,他人を責めることでしか自分をとり戻せない.

どうしようもない女達のどうしようもない日常.

こんな女が職場にいたら絶対職場が崩壊し,家庭にいたら家庭崩壊だ.

というような,女性達が主人公となっている4作からなる短編集.

山本文緒さんの小説は初読だが,描写の大胆さというか,人の気持ちにぐさりと突き刺さるセリフ回しは男性的でもある.

表題作の「プラナリア」が,「どうしようもなさ」という点で最高ランクの女性が描かれる.

24歳で乳がんを患い,手術によって一応回復した26歳の女性,春香.

春香は乳がんである(あった)ことを自虐ネタにして,周りの雰囲気をつねにぶち壊す.

恋人の豹介はとてもやさしく,春香の苦悩をある程度理解しているが,周りに全く気を使わず,乳がん話で友達をシラケさせる春香に切れることもある.

春香にしてみれば,一応直ったものの,再発の恐怖は常にあるし,再発を防止するための薬の副作用がきつく,吐き気やめまいには常に悩まされる.
しかし,周囲はもう病気は治ったのだから,ちゃんと社会復帰してまじめに働かなくてはいけないというプレッシャーをかけてくるわけね.
誰も私の苦しみを分かっていないくせに...っていう感じ.

確かに病気の苦しみはわかるが,そこまで周りをズタズタにするようなことはしちゃいけない,っていうのが大人の理性だね.
でも,春香の苦しみも同時に理解できる.ことは命にかかわる話なのだからね.

読者としても,どちらの言い分もわかるだけに,「やるせなさ」と「どうしようもなさ」だけがつのるスト-リーです.

ただ,この春香さん,たとえ乳がんにならずとも,かなり波乱万丈な青春(悪い意味でね)を過ごしていたような性格であることには違いない.

2作目は夫に逃げられた36歳の失業中の女性,3作目は夫と2人の子供がいる主婦だが,夫がリストラされて薄給になったためパートで働き始めた中年女性が主人公.

いずれも大人の女性ながら,人生の最も重要な部分が欠落しているのに,そのことに気付かず,周りと摩擦を起こしてばかりの人生を送っている.

そして,人生がうまく行かないのは,運が悪いせいか,あるいは他の人のせいだと思っている.

しかし,1,2,3と作が進むにつれて,「どうしようもなさ」が薄れていき,ほのかな陽射しのようなものが感じられるようになる.

最後の4作目が,この短編集の頂点.「あいあるあした」

この「あいあるあした」はすばらしい.

主人公は一転して焼き鳥屋さんをいとなむ男性,真島が主人公.

彼の店にやってくる手相見の女性「すみ江」が「どうしようもない女」という立場で登場する.

しかし,このすみ江さん,ただものではない.

主人公の真島や他の店の客たちを手玉に取り,器用に人生を渡り歩いていく.

実は,すみ江は真島と同棲しているのだが,店の客や従業員には秘密にしている.

真島はひやひやハラハラしながらもすみ江を愛しており,彼女との結婚を決意するのだが...
短編らしく物語の展開が速くて,興味が尽きないうちに次のエピソードが来るって感じですが,すみ江さんのキャラクターがすばらしい.


この短編集,全体的に言えることだけど,人生に力が抜けている,というか,もともと人生って力を入れるものなんかじゃないよ,いうような人生観が垣間見える.

もちろん,今の世の中,それじゃ安心な老後は迎えられないことはわかっているけど,でも,それでもいいじゃない,と思ってしまうのね.

分別ある(?)58歳の男にそう思わせるだけの力がこの短編集にはある.

第24回直木賞受賞作.