書く仕事

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「幸福な生活」百田尚樹

2011年08月31日 10時49分17秒 | 読書
「幸福な生活」百田尚樹




え?本当に「永遠の0」と同じ作者なの?

信じられないです.
作風というより,ジャンルがまるで違う.

クラシック音楽専門のバイオリニストと,アフリカ民族音楽の太鼓奏者くらい違う.
(どんな違いじゃ?)

「永遠の0」では,愛する妻のために,戦友からはたとえ卑怯者の謗りを受けても生き抜こうとしたパイロットを描きました.
友人には戦争の愚かさを説き,上官に昇進してからは,部下の命を必至で守ろうとした真の英雄を描いた作品でした.
言葉の端々にヒューマニズムがあふれ,妻との会話の回想シーンには還暦前の私が涙してしまったのです.

ところがですよ.

この「幸福な生活」では...

「皮肉」,「意外性」,「ブラックユーモア」
等が溢れる短編集になっています.
1編が概ね15ページくらいだから,ショートショートに近い.

ショートショートと言えば,故・星新一さんが有名ですが,この百田さんは星さんの落ちのすばらしさと,そうですね,筒井康隆さんの「毒」を一緒にしたようなという言い方が当たっているかな?

タイトルとは裏腹に,どの物語も,表面的な幸福さの陰に隠された,闇の世界が描かれます.
殺人,浮気,隠し子,精神の病気,婦女暴行等が,主人公かその連れ合いの秘密の過去として隠されているが,ふとしたきっかけで...

っていうお話なんです.

いずれも落ちが素晴らしいのと,ページ内の文字数をうまく調節して,最後の落ちとなるワンセンテンスがちょうど最終ページをめくったところでドンと出てくるようになっている.

この辺はテレビ界の仕事を長くやっていた人らしい,演出効果ですね
今までの小説では,ありそうでなかったですね,この手法.

よくぞこれだけの落ちを考えたものだということに感心しますが,同時に,やっぱり,「永遠の0」と同じ作者が書いたことが,まだ信じられない.