「家族シネマ」で芥川賞を受賞した柳美里(ゆ みり)氏の「フルハウス」を読みました.
家族との絆を求めながらも,その術を知らず,家族から見放された父親が,家を建てることで家族をつなぎとめようとする表題作と,不倫の代償として,少し頭のおかしな一家と付き合うことになった女性イラストレーターのドタバタを描く「もやし」の中篇2編.
私が小説に求めるものは,まあいろいろあるわけで,謎解きだったり,ハラハラドキドキだったり,切ない恋心だったり(似合わないけど),また哲学だったりする.
残念ながら,この小説は,そのいずれも満たしてくれませんでした.
だからといって,この小説が価値がないなんて,そんな不遜なことをいうつもりはありません.
人それぞれ,小説に求めるものは違います.
この小説が語る,家族に対する想いとか,諦めとか,悲惨さとかに共鳴する人は,世の中に確実にいるはずなので,自分がそうだと思う人は,読めばきっと,感銘を受けるはずです.
多分,私が育った家族環境が,きっと幸せなものだったのでしょう.
両親の愛情を感じつつ幸せな子供時代を送った人は,この小説に登場する女性主人公に共感することはないんじゃないかなあ.
逆にいろいろな意味で,家庭に不和や不幸を抱えつつ育った人は,なんらかの形で共感するものがあるかもしれませんね.
そういう意味では,この小説に共感できないバックグラウンドを授けてくれた私の両親や家族にすごく感謝したいと思います.