書く仕事

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「町長選挙」奥田英朗

2008年03月10日 21時52分28秒 | 読書


読書好きな人って,何のために読書するんでしょう?
「読書好き」っていうくらいだから,「好きだから読むんだよ.理由なんかあるか!」
そりゃそうなんですけどね.

でも,好きっていっても,もう少し具体的な何かがあると思うんですよ.
例えば,どMな人は,主人公がいじめられる物語が好きとか...
いや,そういうことじゃなくって!

で,何が言いたいかというと,ですね.
いきなり私の意見になっちゃいますが,その物語に「共感」したくて読んでるんですよ.
そして,そのような共感は,実生活や実社会でめったに得られないものほど,うれしいわけです.

奥田さんの本も今回始めて読んだのですが,この小説に出てくる,主人公,一風変わった精神科医「伊良部一郎」センセ.
彼が治療する様々な患者達と伊良部とのカラミ.
これが,共感というか,私の心の琴線をかき鳴らしてくれます.

彼の患者達は,一見成功者だったり,平凡な公務員だったりするんですが,共通しているのは,「一生懸命に生きている人たち」なんです.
でも,一生懸命に生きると,つらいこともある.
そして,これが一番大事なことですが,『つらいことの原因は自分の一生懸命さが作っている』ということなんですね.
もちろん,そんなセリフは出てきませんが,それを伊良部センセが教えてくれる.
この先生,超変人で,「だよ~ん」とか「えへへ」とかアホな言葉を連発するし,精神科なのにすぐ注射したがるし.変態っぽいことも言う.
でも,しばらくすると結局相手を伊良部先生のペースに巻き込んじゃっている.
結果として,一生懸命さがもたらす弊害がくっきりと浮き出てくるようになっているんです.
これって,結構すごいと思う.
もちろん,これは作者の奥田さんがすごいわけで,現代人の一生懸命さのマイナス面をこれほど上手に茶化し,なおかつひとつひとつのケースにそれなりの解決法を示していることには,感心せざるを得ないです.

茶化すことならできても,じゃあ,こんなまじめな人を救うにはどうすればいいの?ということになると,答えはなかなか見つからない.

でもでも,奥田さんは,ケースバイケースの「まじめ病」に各々ユニークな「治療法」を示してくれちゃってるんですよ.

結構爽快な方法でね.

やるなあ.
読後感は非常に爽やか.
心が軽くなる感じです.

4つのお話,つまり4人の患者と伊良部先生による「治療」のお話.
短編集といえるのかな?

最初の2つが痛快.
あとの2つが爽快.

気分がいいです.