書く仕事

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「臨死体験の不思議」(ブルーバックス)高田明和

2007年03月16日 22時52分42秒 | 読書
まじめな本です。
決してきわものではないです。
著者の高田さんは、浜松医科大学の名誉教授、ストレスと身体的反応の関係をずっと研究してきた医学者で、関連の著作がたくさんあります。
そんな、心と体の関係を極めた学者先生が書いた臨死体験の本です。
ところで、臨死体験といえば、なんといっても、立花隆さんの著作と彼の監修によるNHKのドキュメンタリーが有名です。
私もあの番組を見て、ショックを受けました。
ショックといっても、悪い意味ではなくて、目からうろこというか、人生観を揺さぶられるような感動がありました。
立花さんの場合、自身が学者ではないせいもあり、逆に科学的な立場を貫こうとする姿勢が強く、そこまでロジックにこだわらなくてもいいのになあ、という感想を持ちました。
いえ、決してけなしている訳ではないんです。
すばらしい著作であることは間違いないです。
一方、この高田さんの本は、科学者としての自信というか、自分が常に論理的な、実証的な仕事をしてきた自負心があるせいだと思いますが、記述内容は意外に科学的な検証にはこだわりません。
例えば、身体離脱現象の説明に関していうと、立花さんの場合は、身体離脱して上から見た場合しか、わかりえないような事実を徹底的に探そうとする姿勢を貫いています。
つまり、身体離脱という現象が、実際に物理的な現象として存在しているのか否かを追及するのです。
それはそれで、科学的な立場としてすばらしいです。
でも、高田さんの場合は、物理現象としての真偽というか、要はインチキじゃあないかどうかということは余り気にしていない。
つまり、高田さん自身が禅における悟りとか、キリスト教の神秘的体験とかに非常に興味を持っていて、それらを心理学とか、精神医学の立場で研究してきているから、物理現象としての身体離脱は、早い話、どうでもいいんですね。
大事なことは、そういう現象とか、経験が、その人の心の中にどういう影響をあたえるか?もっとわかり易く言えば、その人を結果的に幸せにするかどうかに興味の中心があるわけです。
この考え方は、私にとって、とても良く理解できます。
極端な話で恐縮ですが、いわゆる「うそ話」でも、その「うそ話」を聴いた人が幸せな気持ちになれるなら、その「うそ話」は「うそ」でもいいでしょ?っていうことですよ。
だって、すばらしい文学作品も、話自体はみな作り話です。フィクションなんですから。
「罪と罰」も「戦争と平和も」も「伊豆の踊り子」もみな「うそ」です。
そのうその中に、人生の真実が塗り込められているわけですものね。
ちょっと、詭弁のようですが、「自己」とか「自意識」なんてものが実は幻想で、宇宙にはたった一つの共通の意識しかないという立場に立てば(なんだかこの辺はあやしいんですけどね!)物理現象を科学的に実証することの空しさだけはなんとなくわかるんですよ。
臨死体験といってもあくまで臨死であって、本当に死んじゃってから生き返ったわけではないので、人間が死ねばどうなるかなんて、実際は誰にもわからないんですよ。
でも、いろいろな臨死体験の報告の中にある、何がしかの共通点、例えば、トンネルの中をすごい勢いで通り抜けて光り輝くところにたどり着くとか、身体離脱現象とかが、死後の世界への何かを暗示していると考えることは、少なくとも、死を恐れる我々人間として、ある種の「救い」とか「安堵感」のような「something new」を与えてくれることは間違いないようです。