書く仕事

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「片思い」東野圭吾

2007年02月20日 22時48分03秒 | 読書

東野圭吾さんの小説は、「わたしが彼を殺した」に続いて2冊目ですが、「わたしが...」よりも、はるかに深く、重く、そしてなによりも面白かったです。
文庫本で600ページにも及ぶ大作ですから、途中で1度や2度退屈なシーンがあっても不思議じゃないですが、全く緊張感が途切れることがないです。
主人公は、大学ではアメフトのクオーターバックをやった後、今はフリーのライターをしている西脇哲郎。
毎年恒例のアメフト部の同窓会の帰り、哲郎はアメフト部のマネージャーをしていた美月(みづき)と再会します。
美月は同窓会には出ず、哲郎が店から出てくるのを待ち伏せしていたらしい。
大事な話があるといって、告白されたのは、人を殺してきた、という事実。
哲郎は美月をかくまい、警察に捕まらぬよう腐心しますが、事件の陰には暴いてはならない驚愕の事実が隠されていました。
実はこの美月、性同一性障害であり、本当は男の心を持っていたというのです。
しかし、哲郎は学生時代に、美月と一度寝たことがあり、複雑な思いに苦しみます。
この奇妙な出だしから始まり、気が付くとジェンダー問題に関して、私が知らなかった性に関する様々な苦しみを抱える人々の存在と、それを何とかして救ってあげようとする人々の存在が明らかになることで物語が進んでいきます。
性の問題は、ともすれば、目をそらされ、不純なものとして、蓋をされてしまうことが多いわけですが、人間にとっては、根源的な問題です。
特に愛する人と、より深く結ばれたいと望むならば、性は避けて通ることはできない道ですね。
しかし、そこに社会通念上のイレギュラーな問題があるとしたら、当人の苦悩は押して知るべしでしょう。
仮に、その障害を乗り越え、ようやく幸せをつかみ掛けても、世の中で生きていくための障害が出てきます。
例えば、手術等で性転換しても、戸籍は変えられませんから、正社員としてまっとうな仕事に就くことは極めて難しくなるのです。
これ以上はネタばれになるので控えますが、心の問題としての性をこれほどわかりやすく、かつ深刻なテーマとして取り上げた小説は初めてですし、金八先生が放映されるずいぶん前に、体の性と心の性を社会問題として提示して見せた点でも先見性溢れる傑作だと思います。
さらに、哲郎を探偵役とした推理小説としても、とても面白くできていて、一気に読ませるストーリー展開には恐れ入りました。
伏線もあちこちに張り巡らされていて、後でなるほどお、と納得する場面も多々あります。
読んだ人しかわからないと思いますが、自分は「メビウスの帯」のどの辺にいるのだろうと思ってしまいました。