書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「思考実験 科学が生まれるとき」榛葉豊(ブルーバックス)

2022年05月16日 09時08分58秒 | 読書
「思考実験 科学が生まれるとき」榛葉豊


思考実験といえば,「シュレディンガーの猫」や「マクスウエルの悪魔」等が有名ですが,実は思考実験が,学会における論争の論点を明確にし,難解な理論の理解を深めるという大きな役割を果たしてきたという事実はあまり知られていないということです.
なるほど,シュレディンガーの猫も,マクスウエルの悪魔も,一見,量子力学の不確定性原理や熱力学第2法則の「矛盾をつく」ような内容になっていますが,実はその矛盾から出発して,量子力学や熱力学の本質をより深く理解するための考察に導くような仕掛けが盛り込まれているのです.

思考実験にはいくつかのパターンがあり,この本ではそれぞれのパターンごとの過去の有名な思考実験が紹介されています.

IT系に興味がある私としては,「チューリング・テスト」の項が興味深かったのですね.
「チューリング・テスト」は知能とは何かを問う思考実験としての側面を持つのですが,それだけでなく,精神疾患患者とコンピュータを対話させることで,患者の多くが本物の人間(心理カウンセラー)だと思い込んだだけでなく,症状が軽減したものもいた,というエピソードが興味深かったですね.

また,思考実験の具体的な説明の前に,推論に関する興味深い説明がありました.そういえば確かにあるわと,私も膝を打ったしだいです.
推論には,「演繹法」と「帰納法」があることはよく知られていますが,第三の推論法というのがそれです.
実はこれらの推論のパターンがそのまま思考実験の分類につながり,どういう現象のどういう法則を説明する思考実験なのかが理解できるようになるという仕掛けです.

科学に興味がある方(自然科学だけでなく,心理学や社会学など人文系科学も含みます)には参考になる本かなと思いました.

「わたしが消える」佐野広実

2022年05月12日 11時41分18秒 | 読書
「わたしが消える」佐野広実


ある老人介護施設の門前に一人の認知症の高齢男性が置き去りにされる.
身元を示すものを何も身に付けておらず,介護施設としても,家族や親せきに連絡しようがない.
その介護施設にて研修中の長女から,老人の身元調査を依頼された藤巻がこの小説の主人公だ.

藤巻は,現在マンションの管理人をしているが,元刑事で,調査能力には長けているということで依頼が来たようだ.
調べていくと,置き去りにした元内縁の妻はすぐに見つけられたものの,警察らしき筋から,老人の調査をすぐに中止するように圧力がかかる.
さらに,身の危険を感じるような事故も頻繁に起きた結果,元刑事の本能に火が付き,知り合いの弁護士にも相談して調査を継続する.

認知症の高齢男性の身元調査という,割と”地味な”お話から始まるのだが,あれよあれよという間に,過去の巨悪の話に発展し,ページをめくる手が止まらなくなる.調べれば調べるほど,謎が深まる.
認知症の高齢男性はいったい何者だったのか?

令和2年の江戸川乱歩賞受賞作の社会派ミステリー.
これは面白かった.

「マスカレードナイト」東野圭吾

2022年04月18日 11時30分07秒 | 読書
「マスカレード・ナイト」東野圭吾


一流ホテルで催される年末恒例の仮装パーティ.
匿名の通報により,そのパーティーを利用して殺人を計画している者がいることがわかる.
仮装パーティなので誰が誰だかわからない状態での捜査を強いられる警察チームの苦悩.
一見殺人事件とは関係のなさそうな,人間模様のエピソードも多数織り込まれているが,果たして事件と無関係なのか.

誰が誰を騙しているんだ?
犯人の警察に対する挑戦と,作者の読者に対する挑戦のパラレルセッション.

ここまでストーリーが複雑なミステリーは初めてかな,と思ったら,種明かし後に流れを見直してみると,意外にシンプルであることに驚いた.

事件の舞台となる「ホテル・コルテシア東京」のモデルは「ロイヤルパークホテル東京」だそうです.ここは東野圭吾さんのお気に入りだそうで,以前から利用していたらしい.
木村拓哉さん主演で映画化された際のロケにもここが使われている.

マスカレード・ホテル → マスカレード・ナイト → マスカレード・イブ → マスカレード・ゲーム
の連作となっている.

「白鳥とコウモリ」東野圭吾

2022年04月03日 00時08分28秒 | 読書
「白鳥とコウモリ」東野圭吾


元の職場の先輩から紹介いただいて手にした1冊.

1984年と2017年,33年を隔てた2つの殺人事件.
犯人の自供により,一気に解決したと思われた2つの事件だった.
捜査本部の見解としては,動機,凶器,状況証拠すべて揃っていて裁判的には全く矛盾がない.

しかし,2人の関係者だけが,納得していなかった.
2人の関係者とは,加害者の息子・和真と後ろの事件の被害者の娘・美令だ.
逆の立場ではあるが,言っていることは驚くほど似ている.
「私の父はそんなことをする人ではない.」と.

自白を重視して事件を解決済みにしてしまいたい,検察官と弁護士に対して,和真と美令の訴えをきっかけに,自身も違和感を感じて,独自の地道な検証を進める捜査官,五代の苦悩.
和真,美令,五代はそれぞれの立場で,一つずつ過去のエピソードを訪ね,一歩ずつ,いや半歩ずつ,気が遠くなるような調査を重ねていく.

この小説のすごいところは,ミステリーながら,3者(和真,美令,五代)の想いがそれぞれのエピソードの中で痛烈に読者に伝わってくる心理描写だろう.
520ページの大作であり,物語は多層的に入り組んでいるので,さっと読んで,ああ面白かった!という読み方はできない.
途中,何度も登場人物の名前を確認したり,前に出てきたストーリーを確認しながら読まなければ,筋がわからなくなるという恐れもある.しかし,そういう努力をすること自体が楽しいものに思えるところが,凄いと思う.

物理学者ガリレオシリーズや加賀恭一郎シリーズ等,数々のヒット作をものにしてきた東野圭吾だが,今回,またまた新たな金字塔を打ち立てました.



「恋のゴンドラ」東野圭吾

2022年03月20日 08時08分52秒 | 読書
「恋のゴンドラ」東野圭吾


東野圭吾が恋愛小説?って思いますよね.
僕もクエスチョンマークを頭に浮かべながら読みましたよ.
しかし,ご心配なく,やはり東野圭吾は東野圭吾でした.

確かに大筋では恋愛小説です.
スキー場を舞台とした恋の駆け引きなんだから間違いない.
しかし,しかし,です.
恋のアバンチュールのつもりが,ちょっとしたアクシデントのために地獄図のようになったり,「ごめんなさい」された相手が意外な出来事から自分を好きになってくれたり,最初のエピソードが最後のエピソードで形を変えて再現されたり,ミステリー作家としての東野圭吾ならではのトリックがあちこちにしかけてあって,楽しいこと楽しいこと.
恋愛のとらえ方は,各人各様ですので,こうやれば必ずうまくいくという正解はないですね.
ただ,相手の心理を冷静に分析して,慎重にしかも誠意をもって当たれば成功の確率はぐっと上がるのです.(上から目線!)
そういう意味では,恋愛は,完全犯罪ではないですが,知能犯のような頭脳を必要とするようです.ただ,完全犯罪はたいてい刑事コロンボや古畑任三郎から見破られてしまいますけどね.すべての女性の頭脳には古畑コロンボが潜んでいることを思い知りましょう.
何を言いたいかというと,この「恋愛小説」は下手な推理小説よりはるかに「ミステリー」なんです.
今恋愛してる方,今はしてないけどこれからする方はもちろん,恋愛は卒業しちゃったという方も,十分昔を思い出しつつ楽しめるミステリー小説になっておりますぞ.

「密室蒐集家」大山誠一郎

2022年03月13日 14時41分46秒 | 読書
「密室蒐集家」大山誠一郎


こんなタイトルはないよね,って思わせるのも作者の思惑かな.
いわゆる本格密室ものです.
いずれも単純な密室ではない.三重くらいにヒネってある.
密室のアイデアは過去に出し尽くされていると思っていたが,なんのなんの,出てくる出てくる.
泉の湧くごとく密室のアイデアが披露される.
お話によっては,第2第3の別解までご披露される.
この作者,密室のアイデアは相当ストックを持ってますね.

もうひとつ,一つ前に紹介した「アリバイ崩し承ります」では次のように書きました.
『どの推理小説とは言いませんが,犯人がわかっても,「まだそれを明らかにする時ではない」だの「完全な証拠が得られるまでは明かせない」だの読者を弄ぶような下品な言動がないのが,潔くてすごく好感が持てます.』
この本の主人公も,ひと通り状況を聞いた後,犯人が分かった時点で,すぐに読者に推理結果を公表してくれる.
この手順が大変爽やかなんです.犯人を指摘できない警察官を愚弄するような言動がないのが大いに好感が持てる.

しばらく本格推理ものに復帰してみようかなという気になりました.



「アリバイ崩し承ります」大山誠一郎

2022年03月04日 11時50分40秒 | 読書
「アリバイ崩し承ります」大山誠一郎


この時計店には「時計修理承ります」という張り紙の他,「アリバイ崩し承ります」という張り紙もある.
店主の美谷時乃は祖父譲りの推理好きが嵩じて,アリバイ崩しの相談にも乗るという.
1件5000円だそうだ.
そんな商売が成り立つはずがないと思って読むのをやめるような人は,読まなければよい.
へえ,面白いじゃんと思う人がこの本を読む.それでよいのです.

ジャンルとしては倒叙ものですが,犯人のアリバイ崩しを成し遂げるのは刑事さんではなく,刑事さんから相談を受けた時乃さん.
しかも,警察が必死で捜査しても出来なかったアリバイ崩しをほとんど所要時間ゼロで解いて見せるわけです.

ただ,この時乃さん,どの推理小説とは言いませんが,犯人がわかっても,「まだそれを明らかにする時ではない」だの「完全な証拠が得られるまでは明かせない」だの読者を弄ぶような下品な言動がないのが,潔くてすごく好感が持てます.

解けた謎は,即座に明かしてくれる.これは気持ちいいです.

名探偵達の「どや顔」に食傷気味のあなた.一服の清涼剤のような時乃ワールドはいかがでしょうか?

あ,ドラマ化もされたみたいね.
全然知らなかった.残念.

「病弱探偵」岡崎琢磨

2022年02月17日 15時44分10秒 | 読書
「病弱探偵」岡崎琢磨


病気がちでベッドから離れられない女子高生マイが名探偵役を務める推理小説.
ワトソン役は彼女の幼馴染で同級生のゲンキ.
学校で起きたちょっと不思議な出来事や,友達から受けた相談事を,見舞いのついでにマイに話して聞かせると,マイがベッドの上で見事に解決して見せるという仕掛けね.
ベッド・ディテクティヴ (bed detective)とかいうジャンルであり,広義の安楽椅子探偵ものというわけだ.
マイは,ゲンキが見舞いに来ると,のどが痛い,頭が痛い,お腹がいたいと訴え,ゲンキが「大丈夫だよ.のどが痛くて死んだ人はいない」などと慰めようものなら,「あなたに夏風邪の何がわかるの?熱が出るわのどが痛いわ視野はかすむわで最悪よ.この辛さを知らないやつから『死なない』なんて言われても楽にはならないの.」と食って掛かる.まあ,八つ当たりに間違いないのだが,ゲンキが「実は今日学校で不思議なことがあってね」と話を持ち掛けると,マイは目の色を変えて「それを先に言いなさい」とくる.
6つの短編からなる連作だが,お話の舞台は夏祭りだったり,体育祭だったり,クリスマスパーティだったりするが,いずれもクラスメートたちの恋愛事情がベースにあり,その発展形として起きた事件なので,殺人事件や傷害事件は出てこない.
ある意味安心して入っていけるお話になっているのがありがたい.

近頃は年のせいか,人を殺したり傷つけたりする場面や,精神的に追い詰めるようなお話は受け付けない体質になってきているようだ.
ゲンキとマイの恋の行方も,もどかしくも微笑ましい.

「通夜女(つやめ)」大山淳子

2022年02月01日 13時54分55秒 | 読書
「通夜女(つやめ)」大山淳子


女子大生の小夜子は就職活動にことごとく失敗し,心が折れてしまう.
そんな時,ふらりと訪れた通夜の会場で,線香の香りとお経のリズムに心が癒されることに衝撃を受ける.

それ以後,見ず知らずの人の通夜を渡り歩くことが生きがいとなってしまった小夜子.
肝心の就職活動はどうなるのか.
それよりも,何事にも自信が持てない彼女に未来はあるのか.
遠回りしたのちに小夜子が見つけたもう一つの人生とは.

なかなか深いテーマのお話でした.
「君の夢は何?」
と聞かれて,滔々と未来を語れることが素晴らしいとされる現代社会.
「夢」,「自己実現」,「目標」この3語を使って,800字以内であなたの未来を語りなさい.

そんな社会に息苦しさを感じている若者は多いんじゃないかな.

取り立てて,やりたいことなんてないし,命令された仕事だけ手を抜かずに一生懸命やり,夜になったらビールとおいしい料理を食べて,風呂に入って寝る.そんな生活ができれば幸せです.

もし面接でそんなことを言ったら,採用してくれる企業は1社もないだろうな.

人の生き方に関する指南書はいろいろと出版されているけれど,それらはいずれも,「こうしなさい」という内容だろう.
「こんな考え方もある」という本はなかなか無いよね.
そんな立場で書かれた(作者が意図したとは思わないけど)人生の指南書ともなりうる小説でした.

「獣たちのコロシアム」石田衣良

2022年01月06日 12時34分18秒 | 読書
「獣たちのコロシアム」石田衣良


おなじみの池袋ウエストゲートパークシリーズの第16作目
第1作目が出版されたのが1998年だから,24年続いている長寿シリーズだ.
池袋西口近くの果物屋を営むマコトと,池袋Gボーイズという自警団(?)のキングを務めるタカシを主人公とするドラマだ.
マコトもタカシも20代ということで,小説の中では歳を取らない.
永遠の20代だなんて羨ましい.

池袋という,東京いや日本の縮図のような街で起きる様々なトラブルを,マコトの知恵とタカシの組織力を総動員して解決していく痛快物語.

特殊詐欺やDV等,社会が抱える様々な問題を題材としているだけでなく,テレビやネットのニュースだけからは伝わってこない,悪事の詳細に触れることができる点で,社会勉強にもなると思う.

実は,10作目を超えたあたりから,悪い奴らを懲らしめるマコトの計画が,途中で邪魔が入ったり,危機に瀕したりすることなく順調に進んじゃうので,若干物足りない思いもあった.
でも,水戸黄門と同じで,予定調和も含めて人気があるのかもしれないと思い直してみると,不満を感じることなく読み進めている自分に気が付いたのだった.

第17作目が出たので,近いうちに読むだろうな.

「花が咲くとき」乾ルカ

2021年12月04日 14時03分16秒 | 読書
「花が咲くとき」乾ルカ


日常的なイジメにあっている小学生の大介.
イジメのうっ憤を晴らすため,彼は密かないたずらを続けていた.
隣の家に住む老人が育てている庭隅の「くちなしの木」の芽を,それが芽生えるたびにそぎ落とすことだ.
大介がそれを続ける限り,決して花は咲かないことになる.
しかし一方で,老人は,もしくちなしの花が咲いたら,「あること」をする,という賭けをしていたのだ.
そして,いくつかの偶然が重なって,くちなしの花が咲いてしまう.

心の奥深くにじんわりと染み込んでくる小説だ.
戦争という異常事態が人間性を踏みにじる悲劇を縦糸に,老人と子供のロードムービーを横糸に,旅の途中で出会った人々の人間性に触れることで,少年が少しずつ成長していく記録でもある.
そして最後に老人が下した決断とは...
そこは読んでお確かめください.
「人生の闇」と「微かに見える光」とを感じる小説です.

「物件探偵」乾くるみ

2021年11月05日 20時48分53秒 | 読書
「物件探偵」乾くるみ


「イニシエーションラブ」で話題を呼んだ乾くるみさんの短編集です.
マンションやアパートの不動産広告に秘められた謎と,購入を決めた人に降りかかる災難のお話.
こんなはずじゃなかったという登場人物を,あわやのところで助けるヒロイン「不動尊子」(ふどうたかこ)
尊子にはその部屋の声が聞こえるという.

乾くるみさんは,何をしでかすか予測不能の作家ですな.
でも,読んでいていやな気分になることはない.
ミステリだけど,人は死なないし,ケガすらしない.
ひどい悪人も出てこない.
根底に人間愛というか,おだやかな人生を望む人特有のやさしさみたいなものを感じる.

まだデビュー作「Jの神話」を読んでいないので,次はこれだな.

「札幌アンダーソング ラストソング」小路幸也

2021年10月22日 21時38分28秒 | 読書
「札幌アンダーソング ラストソング」小路幸也


「札幌アンダーソング」3部作の最終章.解決編.
主人公の警察官仲野久と同僚の根来は美貌の天才少年・春(しゅん)の助けを借りて,第1作目,第2作目で北海道を揺るがした犯人との最後の対決を迎える.
ミステリーなので内容の解説は控えるが,今回は,前2作ほど,ハードボイルド的なシーンは少なくて,推理の過程と状況の展開が慌ただしいストーリーだった.

物語は相変わらず面白いが,春の鋭い推理だけで犯行を見破られると,犯人が天才であるという設定が逆に足かせになって,読者をがっかりさせる可能性がある.
おそらく作者が一番苦労したのが,この落としどころというか,着地点なんだろうね.
そうか,うまくまとめたな,というのが私の印象だ.

3冊,たっぷり楽しませてもらいました.

「札幌アンダーソング 間奏曲」小路幸也

2021年10月08日 11時14分34秒 | 読書
「札幌アンダーソング 間奏曲」小路幸也


前回記事に書いた「札幌アンダーソング」の続編.
前作で,仮の決着を付けたが,逮捕までには至らなかった犯人・山森が,今作でも事件を起こす.
ただし,その事件は奇妙な事件であり,その事件を起こす事が山森にとって何の利益をもたらすのかが全く分からないというもの.
いろいろと調べていくと,前回同様,「変態」というキーワードで事件が見えてくる.
面白いのは間違いないんだけど.第1作が面白かったので,期待が大きすぎたかもしれない.
う~ん.続編(第2作)というのは,スターウオーズにしても,バックツーザフューチャーにしても,今一なんだな.
私的には,ターミネーター2やインディージョーンズ2(魔球の伝説)のような盛り上がりを期待したのだけど,ちょっと残念.
三部作なので,第3作に期待しよう.

「札幌アンダーソング」小路幸也

2021年09月26日 14時02分48秒 | 読書
「札幌アンダーソング」小路幸也


主人公は若手の刑事・仲野久.
ある猟奇的な殺人事件の捜査を進めるために,専門家の意見を聞くことになるのだが,その専門家というのが,天使のような美貌を持ち,かつ「変態の専門家」という触れ込みの春(しゅん)少年.
春は4世代前までの先祖の記憶を持つという.100年前のある出来事と,この事件が関係あるらしい...
というオープニングで始まる.
久にしても,春にしても,犯人と思われる青年も,また久の家族や刑事たちも,一人一人のキャラクターが個性的にしかも魅力的に描かれていて,読んでいくのが実に楽しい小説だ.
エンタテーメントとして本当に良くできた作品だと思う.
300ページ近い長編だが,飽きることがない.ほとんど一気読みだった.

小路幸也作品は,「猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷」に続いて2冊目だが,一番有名な「東京バンドワゴン」が未読なのだ.